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Tracking the trends 2015抄訳版
デロイトカナダマイニング部門より毎年発刊されるTracking the trends2015年度版の重要なポイントを取りあげ分かりやすく日本語で取り纏めました。
鉱山会社が対処しなければならない多岐にわたる業界固有の問題を考えると、鉱山業界のトレンドがここ数年停滞している状況に、ある意味では納得せざるを得ない。ここでいう問題とは、価格変動、地政学的混乱、コスト高騰、品質下落といったことから、資金調達機会の欠如、ますます高まる利害関係者からの要求、政府の政策変更、継続的な人材不足といったことまで様々である。
しかしながら、これら諸問題が繰り返し発生してきた中で、鉱山業界は根本的かつ著しい変化を遂げようとしている。これは、新しい技術によるものであり、ナノ材料、3D印刷、モジュール設計、ロボット工学といった新技術によって、オートメーション化が促進されるとともに、鉱山災害の減少も期待されている。また、情報技術の急速な進歩は、予測、シナリオ立案、データ分析、リスク管理における各種能力の強化に役立つものと見込まれている。イノベーションによる再生可能エネルギーの導入は、鉱山業界のエネルギーコスト方程式に変化をもたらすことになる。そして、こうした全ての動きによって、新しい時代のリーダー、すなわち、新しいイノベーションの時代を舵取りするのみならず、従業員、株主、顧客、政府、非営利団体などといった会社を取り巻く全ての利害関係者との間で、共通した将来ビジョンを作り上げる能力を持ったリーダーの必要性が高まっている。
このような新たに生まれたトレンドにより、様々な意味において鉱山会社は長期の戦略的な見通しを求められている。多くの会社は、既に資本配分プロセスの改善、バックエンドシステムの合理化、コアとなる地域や鉱物資源への再集中、ノンコア資産の売却による対応を進めているが、こうした経営努力も完成にはまだ程遠い。古くからある問題に対して新しい解決策を見い出すため、これまでとは異なる意思決定のアプローチを採り、現状の市場環境に捉われることなく、投資家の短期的な期待と経営上の長期的な課題とのバランスを上手に取ることが求められている。
主要メッセージ
- 継続的な価格変動は、石炭会社、探鉱会社、探鉱ジュニア企業、サービスプロバイダーを含む特定の鉱山セクター関係者に偏った影響を及ぼしている。生き残りを図る企業には、あらゆる選択肢を考慮することが求められ、それには事業売却、パートナーシップの組成、事業の合弁や統合などが含まれる。
- その一方で、メジャー鉱山会社にとっては、コスト削減への取組みを超えて、変化する未来における立ち位置を決める時期に来ている。ここでは、オペレーショナル・エクセレンス(現状業務の卓越した遂行)を目指して重点的に取組むことに留まらず、イノベーションを行い、新しいエネルギーパラダイムを受け入れることにより生じる長所及び短所のすべてを分析することが重要となる。
課題
1. 基本に帰る:オペレーショナル・エクセレンスの追求
- 近年、鉱山会社は歴史的な低生産性に対応するために、大幅なコスト削減と投資方針を厳格に適用する取組みを進めてきた。
- 鉱山会社は、コスト構造の大幅な合理化を実現したことを受けて、オペレーショナル・エクセレンスの高度化によって生まれる組織力を利用し、さらなる生産性の向上に取り組んでいる。
- この目標を達成するため、鉱山会社はデータ分析により本格的に取り組むこと、イノベーションをさらに取り入れること、本社と鉱山との間における情報の流れを透明化すること、会社の風土がオペレーショナル・エクセレンスのビジョンを後押ししていることを確かめること、バランスシートを強化すること、マネジメントやガバナンス構造を合理化すること、シナリオ・プランニングに対してさらに洗練されたアプローチを採用することが求められる。
2. イノベーションが生き抜く新たな手掛かり:単なるコストコントロールに留まらない
- 大手鉱山会社は遠隔操作や自律装置といった技術を取り入れることにより、すでにコスト優位性を実現しているが、イノベーションによりコスト削減以上の効果を享受する時期にある。
- 新たなイノベーションを取り入れ、戦略的にアプローチすることにより、生産性が向上する一方、人員とエネルギー消費を減少させる効果が得られる。
- これらを実現させるため、鉱山会社はイノベーションを会社のDNAに組み込むことによって、伝統的に保守的な傾向を打破する必要がある。そのためには、大きな視点、綿密な調査、素早い判断、新技術の活用、イノベーション・エコシステムへの参入、新たな事業環境への準備が必要になる。
3. 新たなエネルギー・パラダイム:プロジェクト動力費の削減
- 現状、鉱山操業コストのおよそ30%がエネルギーに使用されている。それと同時に、伝統的なエネルギー資源に依存することに伴い、環境破壊から健康被害までその危険性も増している。
- 幸い、再生可能エネルギーへ切り替えるケースは増加している。再生可能エネルギーを導入するための資本コストを含む全体のコストは低下しており、懸念される持続的なエネルギー供給の問題にも対処しつつある。
- こうしたトレンドを受けて、鉱山会社はエネルギーに対する新しいアプローチを検討している。例えば、エネルギーをポートフォリオとして管理する、様々な再生可能エネルギー選択の実行可能性を評価する、非在来型化石燃料の使用を模索する、再生可能エネルギー施設に関して利害関係者から賛同を得る、再生可能エネルギー施設建設に伴う資金負担のための資金調達オプションを模索する、などが挙げられる。
4. 縮小するプロジェクト・パイプライン:需給綱渡り
- 株主価値の上昇、高騰するコストの管理、生産性の回復に取り組む中で、鉱山会社は利益がほとんど見込まれないプロジェクトの中断、ポートフォリオの合理化、低収益資産の売却を進めている。
- 同時に、大手鉱山会社の中でも、ビジネスの範囲を極めて限られたコモディティに縮小する動きが生じており、また多くのオペレーターが未開発地域の開発から撤退している。この結果、プロジェクト・パイプラインの減少が始まっている。
- 将来の供給不足を回避するため、鉱山会社には短期の投資家およびアナリストの期待に応えると同時に、プロジェクト・パイプラインを維持するより良いバランスを見つけることが求められる。そのため、他の鉱山会社との提携、現地生産化へのさらなるシフト、大手鉱山会社による未開発地域の開発継続などに取り組むことが考えられる。
5. 限られる資金調達手段:影響はマーケットに蔓延
- 自己資金の調達手段が限られていることは、継続的な課題である債務の増加と相俟って、多くの探鉱ジュニア企業やサービス・プロバイダーにとって致命傷になっている。
- 企業倒産の流れはマーケットを合理化させる役割を担うが、探鉱ジュニア企業を失うことは、鉱山業界における生産見通しを大きく変えてしまい兼ねず、最終的にはマーケットに存在するプレーヤー全体に影響が及ぶこととなる。
- 探鉱ジュニア企業にとって打開策は限られているものの、国外投資家と協力して資源をプールする、代替的な資金調達手段を模索する、プライベート・エクイティを形成するといった方法により、難局を回避することが考えられる。
6. 探鉱ジュニア企業の存続:混乱状態の中で求められる舵取
- 探鉱ジュニア企業は企業存続の危機に立たされるにつれ、新たな資金源を探し出すことに必死になっている。しかし、資産売却によって資金を得ようとする試みは、残念ながら十分な評価を得ることはないだろう。
- こうしたマイナス局面を反転させるとすれば、それは恐らく、探鉱ジュニア企業が抱えている資産に利益を見い出すことができる、資金力のある極僅かな中間層やプライベート・エクイティ投資家次第であろう。
- こうしたオーナーシップの変更を活用するためには、探鉱ジュニア企業は、適切に資産を整理し、パートナーシップや合弁事業から事業売却や経営統合に至るまで様々な選択肢を検討し、向う1年から1年半にかけて見込まれる市場変化に対する準備を始めることが必要である。
7. 新たな人材の確保:鉱山業界を取り巻く現実の変化が求める新世代のタレント
- 市場環境の変化にかかわらず、専門スキルを持つ人材に対する需要は依然として高く、その輩出が追い付いていない。取締役会は、大局的かつ戦略的な働きができる人材発掘にますます力を入れている。幹部役員は、経営管理システムをより一層重視し、また多くの人材を受け入れるチームを作り上げることに力を注いでいる。そして現場レベルに目を向けると、急務となるイノベーションを実行している企業は、これまで鉱山業界よりも多くの人材を引き付けてきた業界との間で、技術力を持つ希少な人材の獲得競争を繰り広げている。
- 鉱山業界が新しいスキルを持つ人材を引き付けるためには、企業は多様化に力を注ぎ、新たな人材管理システムを模索し、引手数多の人材に対するリクルートを適切に実施し、より的確な研修体制へ投資を行うことが必要である。
8. 地政学的に不確実な時代を乗り切る:不確実性を受け入れ最善の推測に基づきプランニング
- 将来のグローバル需要を予測するため、鉱山業界はこれまでも長年にわたり、地政学的な変化に注視してきた。しかしながら、変化のペースが速くなるにつれ、これらのトレンド影響を予測することがますます困難になっている。
- 規制、地政学、経済、テクノロジーの不安定性が増しているため、予測、シナリオプランニング、リスクマネジメントの能力を高めることが求められている。
- こうした状況に対応するため、政策をより明確にするためのロビー活動、政府の政策に影響を及ぼすための業界団体の活用、リスクの予見能力の向上、多種多様なシナリオを想定したプランニングなどに取り組むことが考えられる。
9. 利害関係者との関わりをさらに深める: 競合する利害のバランスを図ることに懸命な企業
- 鉱山会社と地域社会との関わり方は大きな進歩を遂げてきたが、効果的な関与の在り方から見れば、まだ十分でないといえる。
- この点を改善するため、鉱山会社はWin-Winの関係を構築すること、新たなコミュニケーション手段を活用すること、ソーシャルメディアの力を活用すること、寄付行為の慣行を見直すこと、鉱山閉鎖計画から影響を受けるコミュニティの利害関係者と協議を重ねることが必要である。
10. 政府との関わり:コミュニケーションと連携のための新たな手段を見いだす
- 鉱山投資を維持するため、多くの政府は以前のような強硬な規制を敷くスタンスからは後退している。しかしながら、それは一律ではない。ここ数年の事例にあるように、鉱山会社が採算性を確保してビジネスを行うことが困難となるような規制を引き続き設けている政府もある。
- 鉱山会社は、究極的には最良の鉱物資源を発見できる場所を探すことになるが、不透明な規制環境に対応するため、政府とのより良い関係を構築するよう働き掛けること、鉱山会社が求められている地域を見つけること、業界団体内やソーシャルメディアを通してはっきりと主張すること、社会的な影響を見極めること、政策目標の設定に助言を与えること、モバイルテクノロジーを効果的に活用することなどへの取組みが考えられる。
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