Posted: 25 Nov. 2020 3 min. read

第16回 グローバル内部通報制度の整備・運用

連載:内部通報制度の有効性を高めるために

多くの日本企業が海外に進出し、海外の企業を買収しています。それらの海外グループ企業を統治するためにグローバル内部通報制度の整備・運用が必要となる企業は多くなっています。グローバル内部通報制度を検討するうえで、対象通報をいかにして絞りこむかという点は非常に重要になると考えます。今回はそういった点についてお話しします。


グローバル内部通報窓口と現地法人内部通報窓口の共存

たとえば買収した海外企業にすでに内部通報制度が存在している場合、その制度をそのまま残すのか、既存のグローバル内部通報制度に吸収するのか、という選択に関する相談を受けるケースがあります。その場合筆者は買収先企業の内部通報制度をそのまま残存させることを推奨しています。理由は、受信する通報のほとんどが現地の風土や文化に根差した事案であり、日本本社から適切に対応することが困難だからです。

日本の本社が運営するグローバル統合の窓口と、その統合窓口では解決が困難な案件に対応する現地法人が運営する窓口を併存させ、たとえば各地域の経営職層の不正行為や、談合、贈賄、粉飾決算等の被害者が組織外に発生する事案の通報のみをグローバル統合窓口で受け付け、経営職層より下位の要員による不正行為や現地法人で発生する労務問題などは、現地法人で運営する窓口で受け付ける、といった2種類の窓口を共存させる制度が合理的ではないでしょうか。そうすれば本社で受け付け対応すべき案件はおのずと少量となり、それらの全件を、外部取締役を含む委員会組織等に共有することも実務上可能となります。また、現地法人トップの不正行為を直接本社に通報することができる経路の確保は、グループ経営のガバナンスの外見的な有効性という観点でも重要となりますが、この共存方式であれば、その点についても満たされています。


それぞれの国における法規制対応

これまでの連載で何度も引用したデロイト調査[1]において、海外から受信する内部通報の対応体制を構築するうえで、回答者の関心が高かった事項の増減を表したものが図表15です。

 

[1] デロイトトーマツリスクサービス株式会社 内部通報制度の整備状況に関する調査2019年版
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/news-releases/nr20200217.html

 

図表15:海外通報対応における関心の増減

※画像をクリックすると拡大表示します

 

図表15から以下のような状況がうかがえます。

  • 海外通報については、情報の安全性や組織からの独立性・客観性に対する関心が高まっている(情報セキュリティ約6ポイント増、組織からの独立性・客観性約7ポイント増)
  • より多く受信するための言語数や翻訳機能に対する関心は薄れてきている(対応言語数約7ポイント減、中継・翻訳約8ポイント減)
  • 一方で、受信する案件の多くが人事労務問題であり海外拠点で起こるそれらへの本社での対応に苦慮している(人事労務問題支援11ポイント増)
  • 通報以前の問題として研修やアンケートなどのコンプライアンスの基本的な活動に対する支援に関心が高まっている(サーベイ・研修約10ポイント増)
  • EU-GDPR対応を筆頭とした個人情報の越境問題には一定の解を見出しつつあるため関心は薄れてきている(個人情報国外移転約7ポイント減)
  • 反則金が高額になる可能性の高い贈収賄禁止に関する通報を受信した場合の法規制対応に対する関心が高まっている(贈収賄禁止法令対応約7ポイント増)
  • EU加盟国の一部に見られるような内部通報制度の敷設自体に制約がある場合の支援に関心が高まっている(内部通報制度の届出約7ポイント増)

内部通報制度に関連する法規制は様々な分野に及ぶため、本社に設置するグローバル内部通窓口で海外各国からの内部通報を受信する場合は、導入国数に比例した法規制対応が必要となります。負荷もそれだけ大きくなるため、そういった負荷をできるかぎり合理的な分量にするという観点からも、内部通報窓口は、対象通報を絞り込んだグローバル統合窓口と対象通報にあまり制限を加えない現地法人運営窓口を共存させる方法が有利ではないかと考えます。


次回は、今回に引き続いて、グローバル内部通報制度に関係する法規制の類別や社外基準の活用についてお話しします。

 

関連するリンク

デロイト トーマツ リスクサービスでは、グローバルホットライン(内部通報中継サービス)をご提供しています。

従業員、家族、取引先などからの内部通報を適切にお客様企業の担当部門へ中継し、お客様の回答を通報者へ伝達します。

本稿に関するお問い合わせ

本連載記事に関するお問合せは、以下のお問合せよりご連絡ください。

お問い合わせ

執筆者

亀井 将博/Masahiro Kamei
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー株式会社

内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事。
ISO/TC309 37002(Whistleblowing)日本代表兼国内委員会委員、元内閣府消費者委員会公益通報者保護専門調査会委員。
金融機関、自動車関連、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業など業種業態規模を問わず内部通報の外部窓口サービスの提供、および内部通報制度構築を支援。
その他、リスクマネジメント体制構築支援、J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験。
外部セミナー、インハウスセミナー講師を始め内部通法制度に関する寄稿記事の執筆多数。

 

和田 皇輝/Koki Wada
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー株式会社

J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験。
2010年より内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事。
金融機関、自動車関連、建設業、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業、ITなど業種業態規模を問わず企業の対応を支援。
現在インハウスセミナー講師を始め内部通法制度構築助言や通報対応業務、ソーシャルメディア関連助言業務を担当。

 

※所属などの情報は執筆当時のものです。