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金融機関による事業用不動産の担保評価における留意点

収益還元法を適用した担保評価

近年、ホテル、ゴルフ場、老人ホームなどの事業用不動産(オペレーショナルアセット)に対する投資拡大により、金融機関の事業用不動産への融資も増加傾向となっています。事業用不動産の評価では、これらの不動産の収益性が事業の経営の動向に強く影響を受けることから、事業収支の分析が必要となり、事務所や共同住宅などの一般的な収益物件とは評価方法が異なるため、注意が必要です。本稿では、事業用不動産の評価上のポイントについてご紹介致します。

金融機関による事業用不動産の担保評価のポイント

1. 事業用不動産の種類と評価の考え方

平成26年5月の不動産鑑定評価基準の改正で、事業用不動産の評価の考え方や評価手法について、以前よりも明確な記載がなされました。当該基準によれば、事業用不動産とは「賃貸用不動産または賃貸以外の事業の用に供する不動産のうち、その収益性が当該事業(賃貸用不動産にあっては賃借人による事業)の経営の動向に強く影響を受けるもの」と定義しており、「ホテル等の宿泊施設、ゴルフ場等のレジャー施設、病院、有料老人ホーム等の医療・福祉施設、百貨店や多数の店舗により構成されるショッピングセンター等の商業施設」が例示として挙げられています。

また、これらの例示の他にも、レジャー施設としては、スキー場やパチンコ店舗、遊園地等が事業用不動産に含まれるほか、太陽光発電施設や立体駐車場等も事業用不動産に含まれると解釈されます。
これらの事業用不動産は、事務所ビルや共同住宅等の典型的な賃貸用不動産と比較して、賃貸借の市場が相対的に成熟しておらず、またその収益性は、当該不動産を利用して行われる事業の経営の動向に強く影響を受ける傾向があります。したがって、事業用不動産の評価では事業の採算性の観点から収益性の分析を行う必要があります。

しかし事業用不動産の担保評価については難易度が高いため、金融機関が自社で簡易的に担保評価を行うことは困難なケースがあります。したがって、金額的重要性の高い事業用不動産については、蓄積されたノウハウと評価能力、評価実績を持つ不動産鑑定業者を選定した上で、評価を依頼するのが望ましいと考えられます。
 

2. 事業用不動産における収益還元法の適用

公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会では、銀行等の金融機関の適正な資産査定に資するべく、担保不動産の鑑定評価に当たって留意すべき事項として、「金融検査マニュアルの改訂に係る担保不動産の鑑定評価のあり方について」を取りまとめており、「市場性の劣ると判断される不動産(ゴルフ場、大工場、リゾート施設等)については、処分可能性について、より慎重な検討が必要であり、安易に積算価格中心で求めるべきでない。最有効使用の観点から転用の可能性が低い事業用の不動産の場合には、収益価格を重視して正常価格を求めるべき」と記載しています。

しかしながら、事業継続を前提とした評価の場合においても、収益還元法自体を適用していないケースや、たとえ適用していても原価法による積算価格の水準で評価額を決定しているといったケースも散見されるため、収益還元法を適用しているかどうかについては注意が必要です。

特に収益力が下がっている不動産の場合、収益価格が積算価格を大幅に下回る可能性も高く、積算価格の水準で評価している場合には、適切な市場価値が把握出来ていない可能性があります。

3. 収益還元法における事業収支分析と賃料負担能力の検証

賃貸以外の事業用不動産について、収益還元法を適用する場合には、総収益を算定する方法として、売上高から求める方法や、売上高のうち不動産に帰属する部分をもとに支払賃料等相当額を求める方法等があります。

一般に、売上高より支払賃料等相当額を求める場合には、過年度実績値および計画値や、同業者の事業収支等に係る統計値等を参考に、中長期的な観点から当該事業に基づく収支を査定し、これをもとに不動産関連経費を控除する前の営業利益「GOP」を求めます。そしてGOPから、事業経営者として想定する賃借人の利益相当額、マネジメントフィー、什器・備品等不動産以外の資産への帰属分(更新積立金)を控除して負担可能賃料を査定します。

当該負担可能賃料は、前提とする事業収支が十分に安定的と認められる場合には、支払賃料等相当額として採用し得ると言えますが、賃貸事業に比べて事業収支の変動リスクが高いと認められる事業については、GOPの下ぶれによる賃料負担力の低下に備えるための余裕分を考慮することが必要になります。

以上、事業用不動産の評価上のポイントについてご紹介させて頂きましたが、事業用不動産の担保評価を鑑定会社に依頼する場合においては、可能な限り対象不動産の事業の状況に関する情報を収集し、共有していくことや、必要に応じて鑑定会社と事業収支の見立てに関する意見交換を行うなど、鑑定会社と協力し、評価額の精度をより高めていくことが、結果として金融機関にとっての適切な資産査定につながるものと考えられます。

有限責任監査法人トーマツ 金融インダストリーグループ(FSI)においては、多数の不動産鑑定士や不動産ファイナンス経験者に加えて、金融機関の監査に精通した公認会計士や、アナリティクス、リスク管理の専門家を擁しており、金融機関を始めたとしたクライアントから、不動産担保評価関連コンサル業務や、不動産業向け貸出リスク管理の助言業務を受注しております。トーマツは金融と不動産の専門家の視点から、豊富な知見と実績を活かし、クライアント金融機関の不動産融資リスク管理や不動産担保評価の高度化を助言します。
 

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