Posted: 03 Jun. 2021 5 min. read

AIとブロックチェーンのシナジーで、安全と信頼を生み出す

シリーズ:デジタルトラストについて考える

AI とブロックチェーンは、イノベーションの担い手たる二つの技術トレンドです。各々が強力に進化を遂げている一方で、両者を組み合わせて新たな価値を実現しようとする試みも見られるようになりました。本記事では、AIとブロックチェーンを組み合わせてシナジーを生み出すシナリオについて考えてみたいと思います。

 

ブロックチェーンを用いた自律システムのトラッキングと監査

AIは医療から交通、電力供給まで幅広い領域で使われており、AIによって支えられた企業の基幹システムも数多く存在しています。今後、企業のシステムはAIで実現される認識や予測によって多くのタスクが自動化されます。自動化されたシステムはAPIを介して別の自動化システムと接続し、より大きな自律システムを形成することになります。全体の自動化は非常に複雑かつ高速で、一連の処理を人が追跡することは困難になっていくかもしれません。しかし、税務や財務、管理会計のような企業活動の根幹となる領域、さらには医療・ヘルスケア等の社会インフラに関わる領域ではシステムが適切に処理しているか、そのプロセスを監査する必要があり、透明性の確保が重要です。ここでブロックチェーンを使って自律システムにおける処理を段階的にチェック・記録することで、システム全体の監査や検証を効果的に行うことが可能になります。

AIを用いた暗号資産のセキュリティ強化

暗号資産(仮想通貨)は、ブロックチェーンが実現する代表的な分散アプリケーションです。AIはこのセキュリティを強化するのに役立ちます。暗号資産では取引や送金における新規のブロックが正しいものであることを承認する必要があります。例えばビットコインでは、そのネットワーク全体の過半以上のコンピューターリソースを持って計算することで承認するプルーフ・オブ・ワーク方式を採用しています。また暗号資産等のトークンの保有量や保有期間、承認経験等によりブロック承認者が選択されるプルーフ・オブ・ステークという方式もあります。しかし、どれも完全に安全な仕組みであるとは言い切れません。そこでAIを活用します。不正検知はAIが得意な領域の一つです。そして不正なユーザーを検知するだけでなく、信用度や信頼度に基づき、ブロック承認者の分散化も助けます。これにより、乗っ取りや独占のリスクを取り除くことができます。

ブロックチェーンによるAIリソース管理

ブロックチェーンでAI開発に使うデータやソースコード、学習結果であるモデル等のリソースを管理し、トレーサビリティを確保するという活用があります。現代の機械学習や深層学習によるAIでは、時に膨大な量の学習データを必要とします。この学習データに例えば、ジェンダーや人種的に偏ったデータが使われ、それにより社会上、重要な判断をAIが行った場合は、公平性の観点から大きな問題になりえます。このことは、以前の説明可能なAI(XAI)の記事においても言及しました。

 

AIの高度な応用においては、企業や国をまたいだ無数のソースからのビッグデータを用いるケースもあります。しかし、そのようなデータは、ノイズやバイアス、誤ったデータや改ざんされたデータに汚染されるリスクがあります。ブロックチェーンは、AIが学習で使うためのデータを管理し、トレーサビリティを担保することで、データの信頼性を確保することができます。加えて、ブロックチェーンはオープンに分散可能なレジストリでもあるため、ネットワーク上の管理された学習データに誰もがアクセスできるようにもなります。これは、AIの適切な活用にも大きく貢献するでしょう。

 

また、データだけでなく、前回の記事で紹介した、分散型機械学習であるFederated Learning(連合学習)の学習モデルを管理する等の応用もありえ、プライバシーを保護しつつ、AIを大規模に適用するようなケースにも貢献します。

 

 

AI、ブロックチェーンはそれぞれ幅広い領域で活用されており、ビジネスや社会を支えるコア技術です。その2つが組み合わさることによってセキュリティを強化し、データの信頼性を高め、プライバシーを保護する、新しいシステムを構築する道を拓きます。このシナジーが普及していくには、多くの挑戦がまだ必要かもしれません。しかし、それ以上に魅力的なポテンシャルがあることも否めません。今後の展開に期待です。

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森 正弥/Masaya Mori

森 正弥/Masaya Mori

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デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 外資系コンサルティング会社、グローバルインターネット企業を経て現職。 ECや金融における先端技術を活用した新規事業創出、大規模組織マネジメントに従事。世界各国の研究開発を指揮していた経験からDX立案・遂行、ビッグデータ、AI、IoT、5Gのビジネス活用に強みを持つ。CDO直下の1200人規模のDX組織構築・推進の実績を有する。2019年に翻訳AI の開発で日経ディープラーニングビジネス活用アワード 優秀賞を受賞。 東北大学 特任教授。日本ディープラーニング協会 顧問、企業情報化協会 AI&ロボティクス研究会委員長。過去に、情報処理学会アドバイザリーボード、経済産業省技術開発プロジェクト評価委員、CIO育成委員会委員等を歴任。 著書に『クラウド大全』(共著:日経BP社)、『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社)、『大前研一 AI&フィンテック大全』(共著:プレジデント社)がある。 記事:デロイトデジタル「新しい世界へのマーケティングは、人とAIのコラボレーションによりもたらされる」 関連サービス ・ カスタマー・マーケティング(ナレッジ・サービス一覧はこちら) >> オンラインフォームよりお問い合わせ