Posted: 22 Jun. 2023 3 min. read

理念やビジョンを考えるサポートの必要性

【シリーズ】経営力再構築伴走支援の現場実践 第2回

国内市場経済の健全な発展には、日本の企業の99.7%を占める中小企業、小規模事業者の成長が重要である。経営環境の変化が激しい時代においては、経営支援の在り方も、従来の補助金をはじめとする政府等の支援ツールを提供する課題解決型支援からの転換が必要となる。中小企業庁では、傾聴と対話による伴走支援で、経営者の自走化のための内発的動機付けを行い、潜在力を引き出す「経営力再構築伴走支援モデル」が検討されてきた。

当シリーズでは、経営力再構築伴走支援モデルを全国の中小企業の現場で実践する際のポイントを解説していく。

 

前捌きとして理念やビジョンを考えるサポートの必要性

 

経営力再構築伴走支援モデルでは、対話と傾聴によって、本質的課題について事業者に「気づき」を得てもらうことで自己変革力を養う。中小企業庁の「令和3年度事業環境変化対応型支援事業(経営力再構築伴走支援員派遣等事業)」※1で派遣した企業の中には、これまでに理念やビジョンについて考えたことがない方や具体的なイメージが持てていない経営者も見受けられた。特に、「規模中小×多様な局面」への支援では、傾聴と対話によって支援を進める中で、経営者の理念やビジョンについて考えが整理されておらず、経営者自身で本質的課題に到達することが難しいケースが発生した。

 

現場における実践の類型では、図1に示した線①のような、【「理念」について考えたことがあるか】の軸を追加し、支援アプローチを柔軟に変化させる必要があると考えられた。線①よりも左側に位置する企業では、経営力再構築伴走支援モデルを適用する前に、傾聴と対話により経営者自身が気づきを得る拠り所となる理念やビジョンを、伴走支援者が経営者自身に考えてもらうことをサポートすることで、より支援効果を高めることができる。

 

図1 「規模×局面」による類型。
出所:「伴走支援の在り方検討会報告書※2

 

 

現経営者の59.8%が理念やビジョンの策定に関与していない

 

中小企業における理念やビジョンの策定状況については、中小企業白書2022年版※3にて紹介されている、株式会社東京商工リサーチが中小企業・小規模事業者20,000社を対象として実施したアンケート調査(2021年11月から12月にかけて実施、回収5,318社、回収率26.6%)が具体的な数を示している。これによると、中小企業のうち87.1%の企業が、「経営理念・ビジョンを明文化している」と回答した(図2左)。また、「経営理念・ビジョンを明文化している」と回答した企業のうち、現在の経営理念・ビジョンを策定した主体は、46.1%が「現経営者」、36.6%が「創業者」、17.3%が「創業者以外の歴代経営者」であると回答した。したがって、アンケートに回答した全企業の中では、40.1%は「現経営者」、31.9%は「創業者」、15.0%は「創業者以外の歴代経営者」が経営理念・ビジョンを策定したということになる。(図2中)。

以上から、経営理念・ビジョンを明文化している企業87.1%の中で、現経営者が自ら経営理念・ビジョンの策定を行っていない企業は46.9%と計算される。この現経営者がビジョン策定を行っていない46.9%に、経営理念やビジョンを明文化していない企業12.9%を加えた、59.8%の企業において現経営者が経営理念やビジョンの策定に関与していないことが分かる(図2右)。

経営力再構築伴走支援員派遣等事業において、現経営者が自分自身で経営理念やビジョンを策定していない支援先では、策定されている経営理念・ビジョンと、現経営者の考えや経営の状況に乖離が生じているケースが散見された。そうした中小企業も含めて経営力再構築伴走支援モデルを展開していく場合、支援の在り方にも一定の工夫が必要となる。具体的には、現経営者が自分自身で経営理念やビジョンを策定していない企業に対して支援を行う場合、経営理念・ビジョンを明文化しているかどうかにかかわらず、まずは傾聴と対話の拠り所になる経営者の思いや考えを整理しつつ、理念やビジョンについて考えるサポートをすることが必要になる。

 

図2 自分自身で現在の経営理念やビジョンを策定した経営者の割合。
出所:「中小企業白書※3

 

※1  2022年6月~2023年3月実施。有限責任監査法人トーマツが派遣事務局として関与

※2  中小企業伴走支援モデルの再構築について ~新型コロナ・脱炭素・DX など環境激変下における経営者の潜在力引き出しに向けて~(伴走支援の在り方検討会)2022年3月 中小企業庁公表https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220315002/20220315002-1.pdf(外部サイト、2023年4月27日最終閲覧)

※3  2022年版 中小企業白書 中小企業庁公表https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2022/PDF/chusho.html(外部サイト、2023年4月27日最終閲覧)

 

執筆者

鈴木 初/Hajime Suzuki
有限責任監査法人トーマツ社

国内シンクタンク、コンサルティングファーム、デロイト トーマツ コンサルティングを経て現職。ネットワークインフラ整備計画、地域経済・産業振興計画、中小企業の知財普及支援、経営革新計画企業支援、日本企業の新興国の進出サポート、新興国市場基礎調査などを実施後、東日本大震災被災地の産業復興支援(地域事業者再興支援)に従事。
 

大草 駿/Shun Okusa
有限責任監査法人トーマツ
 

佐藤 慶太/Keita Sato
有限責任監査法人トーマツ

※所属などの情報は執筆当時のものです。

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