経営力再構築伴走支援の全国展開に向けて ブックマークが追加されました
国内市場経済の健全な発展には、日本の企業の99.7%を占める中小企業、小規模事業者の成長が重要である。経営環境の変化が激しい時代においては、経営支援の在り方も、従来の補助金をはじめとする政府等の支援ツールを提供する課題解決型支援からの転換が必要となる。中小企業庁では、傾聴と対話による伴走支援で、経営者の自走化のための内発的動機付けを行い、潜在力を引き出す「経営力再構築伴走支援モデル」が検討されてきた。
当シリーズでは、経営力再構築伴走支援モデルを全国の中小企業の現場で実践する際のポイントを解説していく。
昨今、経営環境が激変する中で、中小企業は厳しい状況に直面している。中小企業庁は、このような情勢下における中小企業への伴走支援の在り方を「経営力再構築伴走支援モデル」にまとめた※1。この経営力再構築伴走支援モデルは、組織開発の研究者である米国のエドガー・シャイン氏が提唱している「プロセス・コンサルテーション」の考え方※2をベースとし、傾聴を基軸とした対話を通じて経営者に本質的課題への「気づき」を得てもらうことを基本姿勢とする。
中小企業庁は、経済産業局、中小企業基盤整備機構、よろず支援拠点等の支援機関と連携しつつ、地方経済産業局で実施された課題設定型の伴走支援のモデルを広く展開するための取組を実施している。特に、関東経済産業局では経営力再構築伴走支援モデルについて、現場で得た知見を踏まえた課題設定型の伴走支援の在り方の検討や、支援のポイントをまとめたマニュアル・知見の整備が進められてきた。
経営力再構築伴走支援モデルの検討や、関東経済産業局によるマニュアル・知見の整備の基になった事例は、経済産業局やよろず支援拠点による支援の対象企業であり、比較的規模が大きく成長局面にある企業である場合が多い(図)。そのため、経営力再構築伴走支援モデルの全国展開に向けては、我が国の企業数の84.9%を占める小規模事業者への普及をはじめとした、多様な局面にある規模中小の企業に対しても、経営力再構築伴走支援モデルを適用できるのかを検討する必要がある。
図 「規模×局面」による類型。「伴走支援の在り方検討会報告書※1」より引用
このような問題意識のもと、中小企業庁では「令和3年度事業環境変化対応型支援事業(経営力再構築伴走支援員派遣等事業)」※3において、全国の様々な企業に、経営力再構築伴走支援員を派遣しその支援アプローチを観察することで、経営力再構築伴走支援モデルの更なる拡充を図った。
当該事業において支援対象となった企業を「規模×局面」という切り口で類型化した(図)。そして、図において右上の「規模大×成長局面」に位置する企業への支援アプローチと、それ以外の「規模中小×多様な局面」に位置する企業への支援アプローチを比較することで、類型別で異なる要素について検討した。なお、当該事業において派遣した企業では、「規模大×成長局面以外」の企業は該当しなかったため考察の対象から除外した。
当該事業においては、類型によらず支援の中で企業の本質的課題の特定に至ることができ、経営力再構築伴走支援モデルの有用性が示された。しかし、現場派遣での支援アプローチでは類型により異なっていた点がみられた。当シリーズでは、抽出された類型ごとに異なる要素を基に、多様な局面にある規模中小の企業に対して、経営力再構築伴走支援モデルを広く展開する際のポイントについて検討する。その中でも、次回は「規模中小×多様な局面」企業への支援において重要となる、前捌きとして理念やビジョンを考えるサポートについて解説していく。
※1 中小企業伴走支援モデルの再構築について ~新型コロナ・脱炭素・DX など環境激変下における経営者の潜在力引き出しに向けて~(伴走支援の在り方検討会)2022年3月 中小企業庁公表https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220315002/20220315002-1.pdf(2023年4月27日最終閲覧)
※2 謙虚なコンサルティングークライアントにとって「本当の支援」とは何か(エドガー・H・シャイン)2017年5月 英治出版
※3 2022年6月~2023年3月実施。有限責任監査法人トーマツが派遣事務局として関与
鈴木 初/Hajime Suzuki
有限責任監査法人トーマツ社
国内シンクタンク、コンサルティングファーム、デロイト トーマツ コンサルティングを経て現職。ネットワークインフラ整備計画、地域経済・産業振興計画、中小企業の知財普及支援、経営革新計画企業支援、日本企業の新興国の進出サポート、新興国市場基礎調査などを実施後、東日本大震災被災地の産業復興支援(地域事業者再興支援)に従事。
大草 駿/Shun Okusa
有限責任監査法人トーマツ
佐藤 慶太/Keita Sato
有限責任監査法人トーマツ
※所属などの情報は執筆当時のものです。