Posted: 13 Jul. 2023 3 min. read

本質的課題設定支援と短期的課題解決支援のバランス

【シリーズ】経営力再構築伴走支援の現場実践 第3回

国内市場経済の健全な発展には、日本の企業の99.7%を占める中小企業、小規模事業者の成長が重要である。経営環境の変化が激しい時代においては、経営支援の在り方も、従来の補助金をはじめとする政府等の支援ツールを提供する課題解決型支援からの転換が必要となる。中小企業庁では、傾聴と対話による伴走支援で、経営者の自走化のための内発的動機付けを行い、潜在力を引き出す「経営力再構築伴走支援モデル」が検討されてきた。

当シリーズでは、経営力再構築伴走支援モデルを全国の中小企業の現場で実践する際のポイントを解説していく。

 

短期的課題の解決支援を並行して進めることの重要性

 

前回の記事では、「経営力再構築伴走支援モデル」を展開していくにあたり、経営理念・ビジョンの策定に関与していない経営者に対しては、理念やビジョンについて考えるサポートを実施していく必要がある旨を述べた。このほかにも、「規模中小×多様な局面」の支援先に対して「経営力再構築伴走支援モデル」を展開していくにあたっては留意すべき点がある。今回は、その中で本質的課題設定支援と短期的課題解決支援のバランスについて紹介する。

「経営力再構築伴走支援モデル」は、経営者の抱える本質的課題の設定に力点を置くことに特徴があるが、設定した本質的課題の解決アプローチの検討やその解決アプローチの実行についても、重要な支援プロセスとして位置づけている。また、課題設定から課題解決へと向かうプロセスは必ずしも一方向に流れるものではなく、本質的課題の設定とその課題解決の双方を行き来する必要があるとされる※1。これは経営力再構築伴走支援ガイドライン※2でも、差し迫った課題解決を事業者から求められた際は、経営力再構築伴走支援との時間軸が異なるため、課題解決支援を先に行うことが信頼関係の構築につながると示されている。

実際の中小企業支援の現場においては、中長期的な対応となる本質的課題設定・解決の支援に加え、短期的課題の解決支援が必要になることが多い。喫緊の短期的課題を多く抱え、それらが本質的課題への対応を阻害したり、経営状況の悪化を招いたりしているケースが散見される。しかし、経営力再構築伴走支援を進める中では、傾聴と対話により本質的課題の深堀を進める中で、本質的ではない短期的課題については対応が劣後になってしまうことがある。

支援先の中長期的な成長、その前提となる本質的課題設定のサポートを実効的なものにするためにも、経営力再構築伴走支援においては、これらの短期的課題への対応を支援プロセスの中で進める必要があると考えられた。短期的課題の解決は即効性が期待されるため、事業者満足につながり信頼関係構築や支援に向き合う意欲を向上させるばかりでなく、本質的課題や対話に事業者が取り組むためのリソースを確保し、ひいては支援全体の実効性を向上させることにもつながる。

 

短期的課題解決支援の手法

 

地方経済産業局や各都道府県のよろず支援拠点等の支援機関においても、短期的課題へ対応するための体制を構築している例として、本質的課題設定を支援するチームと、短期的課題解決を支援するチームをそれぞれ分けて設け、前者の支援で特定された短期的課題を速やかに後者へ連携するといった体制を整備している組織がある。

中小企業診断士等が個人で伴走支援を実施する際も同様であると考えられる。支援中に短期的な課題が特定された場合は、本質的課題以外の課題は放置するのではなく、本質的課題設定と同時進行で対応するか、もしくはそれらの課題解決に特化した専門家等に適切につなぐことの検討が望まれる。

このような短期的課題の解決支援の重要性は、「規模中小×多様な局面」の支援先に限った話ではない。しかし、喫緊の課題対応に追われがちな「規模中小×多様な局面」の企業へ支援を行う場合は、支援プロセス全体における短期的課題対応の比重が大きくなることが多い。そういった支援先で「経営力再構築伴走支援モデル」を実践する場合は、課題特定支援と課題解決支援のバランスにつき、特に留意する必要があると考えられる。

 

※1    中小企業伴走支援モデルの再構築について ~新型コロナ・脱炭素・DX など環境激変下における経営者の潜在力引き出しに向けて~(伴走支援の在り方検討会)2022年3月 中小企業庁公表https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220315002/20220315002-1.pdf(外部サイト、2023年6月23日最終閲覧)

※2     経営力再構築伴走支援ガイドライン(中小企業庁、独立行政法人中小企業基盤整備機構、経営力再構築伴走支援推進協議会)2023年6月https://www.smrj.go.jp/news/2023/ool3bn000000cl9g-att/guideline.pdf(外部サイト、2023年6月23日最終閲覧)

 

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