テクノロジー・環境法専門の
両教授と考える
サーキュラーエコノミーと
「脱炭素経営」実装のための視点
COP26後の今、Globalの最新動向を踏まえ日本の勝ち筋を探る
有限責任監査法人トーマツ 山口匡マネージングディレクター(以下、山口):本セッションは「カーボンニュートラル実現に向けたトランスフォーメンションへのヒント COP26後の今、Globalの最新動向を踏まえ日本の勝ち筋を探る」と題して進めていきます。私は、有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部の山口匡と申します。進行役を務めさせて頂きます。ゲストは東京大学未来ビジョン研究センター教授の高村ゆかり教授(以下、高村教授)です。高村教授は、国際環境条約に関する法的問題、気候変動とエネルギーに関する法政策をご専門としておられ、先日イギリスで開催されたCOP26にも参加、今回はお帰り後間もない大変お忙しいところ、お出で下さいました。高村先生、どうぞよろしくお願いいたします。そして対談のお相手はデロイト トーマツ グループ クライアント&インダストリーリーダーの木村研一(以下、木村)です。2021年5月までリスクアドバイザリービジネスリーダー、デロイト トーマツ サイバー合同会社代表執行者を歴任し、会計監査、金融、コーポレートガバナンスなど多岐にわたるサービスに従事しております。では、木村さん、よろしくお願いします。
木村:よろしくお願いします。さっそくですが先生は、先日までCOP26に参加されておられたとのことで、まずはCOP26のお話から、お聞かせいただけませんか。私も先生のお姿をテレビニュースなどで拝見していたのですが、実際、現地はどのような様子、雰囲気でしたか。
高村教授:今回のCOP26は新型コロナウイルス感染拡大の影響で1年遅れの開催となりました。公式の参加者は約4万人です。Withコロナの今、これだけ多くの方が集まり対面で会議が行われたのは初めてだったのではないでしょうか。11月6日には、開催地グラスゴーで10万人規模のデモも行われました。
木村:なるほど。そんな中で、COP26では以下のような合意がなされました。先生が注目されている成果は何になりますか?
・1.5℃目標に向けた各国の取組の強化(石炭火力削減努力の加速化含む)、
・先進国の資金拠出目標(年間1000億ドル目標)の議論の継続
・市場メカニズムのルール(CDMクレジットの取扱い、パリ協定6条ルールブック)の決定
高村教授:やはり木村さんも冒頭に掲げた1.5℃目標に向けた各国取組強化です。科学知見に基づいて算出された目標を、この10年で足下から削減していくことを各国が合意したことは大きいでしょう。
木村:先生は、COP26でも海外のいろいろな方とお話をされてこられたと思いますが、その中で感じられたことはありますか?
高村教授:COP26には政府の代表団に加え企業の代表もいて、196の国と地域が交渉をし、どのように合意をしていくのかが見られました。それぞれの国が特定の問題に対して高い目標を掲げ、その部分は自分たちがリードしていくことをコミットしていきます。例えば「国際メタン誓約」は2030年までに全世界で排出されるメタンの量を2020年対比で少なくとも30%削減するという内容ですが、日本も含め同意できる国が参加しています。
同じように2030年までに森林破壊を終わらせると約束をする文書に、日本を含む世界100カ国超の首脳が署名しました。この取り組みには、公的資金だけでなく民間の資金も盛り込まれています。
また、新しい取り組みや技術は、賛同してくれる人や買ってくれる人がいないと飛躍しない。新しい脱炭素の技術があれば買いますよという政府や企業の話がでてきたのも、今回のトピックでしょう。
日本企業に求められるスピード感と対応
木村:そうした動きの中で、日本企業は、どのようなスピード感で、どのような対応が必要になるとお考えですか。
高村教授:日本に限らず、企業にとっては大変な時代です。1.5℃目標は、2050年にカーボンニュートラル、すなわちネットゼロにする相場観で設定されています。しかし、この目標を達成するためには2030年までにかなりの排出を減らさなくてはいけない。企業は足下で排出の削減を求められ、かつ2050年までの中長期のスパンでビジネスのありかたを脱炭素社会に向けてフィットさせていく必要があります。二足のわらじではありませんが、短期の脱炭素へ向けた実行と、中長期のビジネスポートフォリオの転換戦略が同時に必要となります。大変難しい経営かと思います。
木村:2030年までと2050年、区別して同時に推進していく必要があり、その手法も異なるわけですね。日本企業が短期目標で注目すべきポイントはありますか?
高村教授:日本の温室効果ガスは85%がエネルギー使用からの排出量です。つまり、事業者はエネルギーを使って事業を推進している。このエネルギーをどのように低炭素化、脱炭素化していくかが重要になると思います。
木村:製造業を中心に考えますと、非常に幅広いサプライ・チェーンをお持ちなのですが、この部分についてはどのようにお考えでしょうか。
高村教授:いま、企業は自社の排出量を減らすことはもちろん、自社のサプライ・チェーンやバリュー・チェーンの排出量をどうやって減らしていくのかという課題があります。足下でできることではありませんが、中長期に排出量を把握しながら、管理し、サプライ・チェーンやバリュー・チェーンの低炭素化、脱炭素化を実現する必要はある。これを推進するにあたって、企業間連携は必須。その点、日本は古くから企業間の連携はありましたから、強みになると捉えています。
木村:確かに企業間連携は、日本にとっては製造業のみならず、業種を越えた日本企業全体の強みといえるかもしれません。日本企業の強み、他にはありますでしょうか?
高村教授:脱炭素社会文脈で日本企業の強みというと、技術開発力でしょう。クリーンエネルギーや再生可能エネルギー、燃料電池など関連技術をパテント数で見ますと、この10年間で日本が一番です。これは日本企業の技術開発力がクリーンエネルギーの分野で強いことを示します。一方で、課題としてあるのは開発された技術を市場に出していくという部分がうまくできていない。日本企業の強みである高い技術力をどのように商品化・市場化につなげていくかは、日本企業の課題でもあり、政策の課題でもあります。
自然資本の使いこなし力の重要性
木村:先生の著作を拝見していると「自然資本」というお話がでてきますが、企業と自然資本の関係はどのようなものになるでしょうか。
高村教授:今回のCOP26で1.5℃目標を大きなものとしてご説明しましたが、もう一つの大きなものが「自然資本」と言えるでしょう。いま、企業の皆さんもTCFDに取り組まれていると思いますが、COP26では2023年頃に自然資本の情報開示の指針を作っていこうという議論、お披露目もありました。
脱炭素社会実現の1つの要素として、まずは資源投入を少なくして効率化するというサーキュラーエコノミーの考え方があります。このサーキュラーエコノミーを実現しようとするなら、自然資本をいかにうまく使うのかという課題が現れます。脱炭素社会、サーキュラーエコノミー、そして自然資本の3つは相互に連環しており、企業はこれを経営にどう取り込んでいくかという時代です。
木村:最後の質問になりますが、日本がGX(グリーントラスフォーメーション)を推進し、経済と環境で持続的な状況とするために、どのような政策が求められているのでしょうか。
高村教授:重要な質問をいただいていると思います。まず、企業が開発した技術をしっかり支える政策が必要です。技術の例であれば、企業が技術開発をしていくことへのインセンティブがつく。そのようなイノベーション環境をどう作るのか。また、いまある技術を広く展開することで排出量を削減できるのであれば、それは新しいマーケットを生み出すことにもなりますが、普及には支えるインフラがないといけません。これは1社だけ、1業界だけではできません。民間だけでできないところもあるでしょう。そこに政策と財源を投入していくことが必要ではないでしょうか。
山口:高村先生ありがとうございました。最後に、この対談を通じて5つの重要な視点があったと思います。
1.2050年に向けた2030年までが重要
2030年までの排出削減を実施しながら、一方で2050年を見据えた事業ポートフォリオのあり方を含めた戦略構築を行う必要がある。つまり企業は2つの時間軸に対し両輪で推進しなければならない。
2.サプライチェーンの排出削減では企業間連携が重要
2030年までの排出削減では自社だけでなくサプライチェーンの削減も求められ、そのためには企業間連携が強く求められる。
3.自然資本を視野に入れた戦略が必要
森や土地などの使い方を含めた「自然資本」は、金融セクターでは情報開示の基準が定められる動きもある。脱炭素社会実現の1つの要素としてあるサーキュラーエコノミーを実現するなら、自然資本の使いこなし力が不可欠になる。
4.日本企業の強みは大きく2つ「企業間連携」「技術力」
一つはものづくりを中心に、企業間連携が積極的に行われてきたことが強み。金融も製造業と歩み寄りながら発展させてきた背景もあり、業種を超えた連携を実現してきた。もう一つは技術力。ただし、技術力はあるが市場化する仕組みが足りない。
5.政策
大きな仕事を日本全体で為すためには、新しいインフラ、ないしアップデートが求められる。このためにも企業だけではなく、官民が一体となって連携していく必要がある。
この5つの視点を企業は意識し、戦略を練る必要があるかと思います。本日はありがとうございました。
デロイト トーマツの考えるグリーン・トランスフォーメーション(GX)
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