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空飛ぶクルマの実装に向けて

イベント「Lead the Way Forum -未来に誇れ DTC Celebration of the 30th anniversary」(2023年5月22~26日)

デロイト トーマツ サイバー パートナー桐原 祐一郎、同パートナー林 浩史は「Lead the Way Forum -未来に誇れ DTC Celebration of the 30th anniversary」に登壇し、「空飛ぶクルマの社会実装に向けて」をテーマに、日本航空株式会社 デジタルイノベーション本部 エアモビリティ創造部 部長 村越 仁氏とディスカッションを行いました。本ページでは開催レポートとして講演内容をご紹介します。

空飛ぶクルマとは

空飛ぶクルマは、「電動」「自動(操縦)」「垂直離着陸」という3つの特徴を備えた、次世代の新たな空のモビリティである。2050年にはグローバルでの市場規模が約900兆円*1 にまで拡大する可能性を秘めており、単なる移動手段という位置づけを超えて、あらゆるサービスの創出やまちづくりを生み出すきっかけになると考えられている。空飛ぶクルマの実現に向けて、現在世界中で実証実験が行われており、日本では大阪・関西万博における運航の実施に向けて準備が進められている。

*1 データソース:eVTOL/Urban Air MobilityTAM Update: A Slow Take-Off,But Sky's the Limit
人の輸送、モノの輸送、及び防衛用途等を含む数値

空飛ぶクルマの実現により新たに生まれるビジネス
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社会課題の解決と、心はずむ社会・未来の実現

空飛ぶクルマの実現は、社会課題の解決という大きな意義を持つ。多くの人を・空港間で・定期的に運ぶことが従来の飛行機の役割である一方、空飛ぶクルマは、少人数を・必要な場所に・必要なタイミングで運ぶことができる。これは、災害時の物資・人員輸送や救急医療・救助の確保、離島や地方都市における移動格差の解消、都市部の渋滞や環境負荷の低減ほか、様々な方面での活躍が期待されていることを意味する。

また、娯楽施設や観光地での周遊飛行など、エンターテイメントとしての期待も大きい。空を飛ぶという非日常の体験そのものが多くの人にとっての価値となる、夢のある事業であると考えられている。

 

空飛ぶクルマの実現に向けた課題

空飛ぶクルマの実現に向けて最も重要な課題は、安全性の確保である。飛行機は通常高度1万メートル前後を飛行するが、空飛ぶクルマは航空法に定める最低安全高度を考慮し、数百メートル(地上高150m以上)を移動する想定であり、そこは時にドローンやヘリコプターも飛行する可能性のある低空域である。その中で、飛行機やヘリコプターよりも高密度で運航するため、非常に高い安全性の確保が求められる。高密度・高頻度運航に必要な機能を具備した運航管理技術を開発する必要があるほか、バッテリーの高容量化・軽量化や、不測の事態に安全に着陸する技術など、機体そのものの技術開発も必要である。そして、新しい技術の開発と並行して、その技術に適合する基準や規制の整備もまた重要である。

加えて、社会受容性の向上も大きな課題である。例えば高度300メートル前後という高さは、超高層建築物と同等でもあり、騒音、圧迫感、心理的な安心・安全、プライバシーの対策など、上空を見上げた時にどう見えるのか?という観点で、慎重に検討していく必要がある。

 

サイバーセキュリティの観点で捉える、安全性確保におけるリスク

サイバーセキュリティの観点で、空飛ぶクルマがどのような脅威にさらされているのか。今回、空飛ぶクルマが走るクルマの延長線上にあるとの仮説に基づき、サイバーセキュリティ上の脅威分析を行った。空飛ぶクルマが完全自動運転で、ロボタクシーのようなイメージだとすると、通信の信頼性・安定性が非常に重要であると考えられる。例えば、GPSなどの位置情報や気象情報が改ざんされると、事故の誘発リスクが高まるであろう。また、空中道路におけるトラフィック情報の改ざんリスクや、キャビン内部からのサイバー攻撃や物理攻撃の可能性も考えられるため、多様なサイバーアタックに対する対策が必要である。特に空飛ぶクルマは、走るクルマと違い、路側に停車して安全を確保するといった対応が難しいため、サイバー攻撃によるインシデントを未然に防止することが重要になる。そのため、V-SOC(Vehicle Security Operation Center)のように、クルマを常にモニタリングすることで、攻撃を早期に検知し、安全を保つことがさらに重要になる。

 

新たな社会の実現に向けて

Deloitteが主要国を対象に行った調査において、空飛ぶクルマの安全性に対する懸念が世界で最も高い国が日本であった。我々はこの結果を、社会受容性の向上における障壁と捉えるのではなく、安心・安全を実現するための強みと捉えるべきだと考えている。例えば、日本の航空機や鉄道をはじめとしたモビリティの安全性・利便性は、世界でもトップレベルであり、それは日本が安全性を強く意識する傾向が強いからこそであると考えている。世界一目の肥えたユーザーがいることを強みに変え、約900兆円規模の成長が見込めるビジネスにおいて、日本がプレゼンスを発揮し、重要なポジションを確立していく未来を実現したい。

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