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CFO Insights 2022 January

グローバル・ビジネス・サービス(GBS)によるEnd to End組織変革の実現に向けて

CFO InsightsではCFOが直面する課題に関する最新情報や知見を毎月発信しています。今月は、ビジネスソリューションのために必要なベスト・プラクティスを集約し、フロント業務からミドルオフィスまでの高付加価値サービスを提供するグローバル・ビジネス・サービス (Global Business Service, GBS)についてご紹介します。

イントロダクション - GBSとは

企業内部の多くの制約は、組織構造や縦割りを基本とした社員の行動基準、文化の違い、コミュニケーションの欠如、さらには全体的な非効率性など多岐に関連します。これらは、社内コラボレーションを非効率にすることに加え、ビジネスの全体像が把握しづらくなり業務の進行を阻害する可能性があります。

こうした状況を受け、近年、下記を目的とした業務の起点から終わりまでを一気通貫で変革するという“End to End(E2E)での変革”が重要視され、多くの企業が取り組みを開始しています。

  • 大幅な業務効率の向上
  • 重複するタスクの排除
  • 高付加価値サービスを提供するための継続的な改善
  • ビジネスニーズに対する的確な対応
  • コスト削減や投資に向けた手段の特定
  • 取引・報告プロセスへのRPAなどの自動化導入の促進

改革を進めている多くの企業は、シェアードサービスセンター(Shared Sevice Center, SSC)を導入し、複数の部門で共通に実施されている業務を集約・統合しています。そのため、各部門は自部門のコア・コンピタンス(Core competence)を伸ばすことに集中でき、企業全体としても主要なサポート機能のサービス効率を高め、スケールメリットを生み出すことが可能です。

先駆的な取り組みを進める企業は、統合型ビジネスサービス(Integrated Business Services, IBS)への移行を行っています。これは、シェアードサービスセンターを活用しながら、複数の部門や地域または他社へ一定のガイドラインを課してアウトソーシングすることで、従来のサービスは元より、E2Eに必要なビジネスソリューションのためのフロントからミドルオフィスまでの革新的サービスを提供するものです。この運用モデルは、グローバル・ビジネス・サービス (Global Business Service, GBS) と呼ばれます。

GBSは共通のツールやプロセス、ベスト・プラクティスなどを集約し、オペレーション業務の効率化を図り、さらに高付加価値な業務を提供するために発展したビジネスユニットです。GBSはスペシャリストセンターやキャプティブ型のシェアードサービス、アウトソーシングを利用して、国内に限定することなくグローバルで行われているすべての機能の規模とケイパビリティを最適化しています。特に複数の国にビジネスを展開している多国籍企業にとっては、日常的に様々な機能の有効化・効率化を模索していることが多く、GBSは最適なソリューションと捉えています。

GBSの主な特徴は以下の通りです。

  • 多機能性:複数機能(IT、人事、経理財務、購買、カスタマーサービス)の統合
  • プロセス管理:パフォーマンス向上のためのE2Eプロセス管理
  • マルチソース:オペレーティング業務はアウトソーシングし、重要度が高く/判断を伴う業務は自社センターより提供
  • マルチロケーション:拠点の集約(地域デリバリー型とハブ・アンド・スポーク方式の比較)
     

GBSへの検討アプローチ:GBSに必要なTOMの定義

まず、E2E変革は、従来の組織構造を解体して安易に協働機会を増やすことから始めるべきではありません。機能横断的なE2Eビジネスプロセス/デジタルドリブンの組織を構築し、経営サポートを担うビジネスパートナーになるためには、作業工程の見直しや協働作業の割り振りを再検討する必要があります。また、クロスサイロデリバリーモデル(Cross-silo Delivery Model)と呼ばれる、従来の組織構造を取り払ったサービス提供を行うことで、GBSは知見と分析力を備え、さらなる高付加価値業務の提供を可能にします。

スケールメリットを生み出し、業務のオペレーショナル・エクセレンスを実現するために、機能毎にSSCモデルを構築し、すべてのE2Eバックオフィス・プロセスを主導するGBSとして再構築する必要があります。その際、個社に沿った課題や優先事項に基づいたターゲットオペレーティングモデル(Target Operating Model ,TOM)を定義することが重要です。私たちはクライアント毎の課題や優先事項に応じたターゲットオペレーティングモデルを定義し、構築にかかる支援を行っています。

ターゲットオペレーティングモデルの定義に必要な検討アプローチ:

1.既存プロセス、組織、IT環境を理解する

  • 実現可能性の評価-移行可能なトランザクション業務や効率的なプロセスを特定し、プロセスを分割し、自社で実施する業務とアウトソースする業務を決定する。

2.顧客のE2E業務を設計する(デロイトの方法論を利用

  • 設計-オペレーションモデルの特定と組織構造の再設計を行う。社内GBSとアウトソーシングサービスプロバイダーで構成されるハイブリッド型が推奨される。詳細なオペレーションモデル、組織構造を設計し、必要な人材の採用計画や立地選択、採用プロセスを進める。また、ガバナンス体制のSOP(Standard Operation Process, 標準作業順書)やSLA(Service Level Agreement, サービス品質保証)などを準備し、移行期間の評価、戦略、企画などを行う。

3.部門横断的なターゲットオペレーティングモデルを定義し実行する

  • 実行- パイロット期間にGBSの設計、実施とアウトソーシング業務の選定を行う。その他、人材採用、移行管理、ファシリティ、ITインフラの完備などを通して、E2Eで管理するセンターを設置し、移管サポートを行う。

企業で一般的に見られる販売活動から入金/債権管理領域(Order to Cash, O2C)、購買活動から支払/債務管理領域(Procure to Pay, P2P)、決算・連結・報告領域(Close, Consolidate & Report, CCR)財務計画・分析(Financial Planning&Analysis, FP&A)、採用活動から退職手続領域(Hire to Retire, H2R)といったビジネスプロセスは、RPA/デジタルを優先して活用するケースが多くみられます。通常、各プロセスのトップにビジネスプロセスオーナー(Business Process Owners ,BPO)とよばれるリーダーを設置し、BPOは各E2Eバリューチェーン全体を監督し、CxOに直接レポートします。

 

GBS導入メリット

オペレーティングモデルとしてのGBSは、オペレーション業務の自動化や精度の高いデータ分析・インサイト提供が可能となり、経営や戦略策定に寄与することができるようになります。

サービスデリバリーとしてのGBSは、SSCのコアとなる機能を持ち、以下の項目において組織に有益であると考えられています。

  • 企業組織の包括化:企業組織を単一化し協業を推進することで業務の効率性、有効性、ビジネスの成果を向上させる。
  • 拠点のグローバル化:インフラの共通化とガバナンス体制を整えることで、地域、部門、機能、プロセスの枠を超えてビジネスをサポートすることができる。
  • 部門の横断:部門横断的な組織を形成することで、リーダーシップ、方法、文化、価値観を共有し、複数のデリバリーモデルに備えることができる。
     

最後に、GBS構築時においては、E2Eプロセス志向の組織内で“戦略パートナー”としての特徴を兼ね備えることが最も重要となります。

戦略パートナーとしてのGBS:

  • ミッション:業務効率の改善と高付加価値サービスの提供(ナレッジベース)
  • オペレーション:E2Eプロセス実行
  • サービス提供:高付加価値サービスの継続的改善とサービス全般に関するマネジメント業務
  • 人材育成:能力開発と従業員の雇用機会の拡大

 

おわりに

残念ながら、現状では依然多くの企業において、組織の“サイロ化”により、部門間の連携が分断されているようです。今日の予測しづらいデジタル・経済環境下において、企業は新しいビジネスニーズに対応するために、テクノロジーを統合し、機敏性を備えた効率的なオペレーティングモデルを再構築することが求められています。その実現のために、経営陣は、現在の機能中心の組織からプロセス中心の組織へと組織変革していく必要があります。そうすることで、企業は信頼されるビジネスパートナーとなり、プロセス/デジタルドリブンの組織へと変革を遂げることが期待されます。

 

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