最新動向/市場予測

国内主要都市宿泊市場動向シリーズ 第四回 福岡

水際対策の緩和と全国旅行支援に期待を寄せるホテル業界。コロナ前から2022年10月までの福岡の市場動向を振り返る

コロナ前から2022年10月までの福岡市のコロナ禍における客室稼働率やADRの動向を振り返りつつ、水際対策の緩和や全国旅行支援に対する期待と今後の課題について探った。

2019年から2022年10月までの福岡市におけるホテル市況

福岡市は九州経済の中心地であり、かつ九州の玄関口として国内外を問わずビジネス客と観光客が混在する。新型コロナウイルス感染拡大前はそのどちらも賑わっていた。福岡市観光統計「『福岡市の観光・MICE』2022年版」によると、福岡市の延べ宿泊客数は2016年から増加の一途をたどり2019年には978万人と、1,000万人を目前に控えていた。同年の稼働率は84.4%と全国平均の82.4%を上回った一方で、ADR(1室あたりの単価)は14,004円と全国15,372円を下回っている(宿泊施設専門の調査会社調べ)。福岡市の宿泊需要は増加傾向にあったものの、インバウンド需要を見込んだホテル開発ラッシュによって供給客室数が過多となり、稼働率を優先した結果ADRは減少した様子が窺える。

全国及び福岡市のADRとOCCの月次推移
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2020年以降のパンデミック下でも福岡市における開発ラッシュに歯止めが掛かかることはなく、2022年8月末時点では577軒数と2017年の215軒と比較して2倍以上に増えていることは驚くべきことである。もう1つ注目すべき点は、2020年から2022年8月時点にかけて施設数が伸びていないのに対し、客室数が3,780室増加している点にある。これは中小規模のホテルがパンデミックによる不況に耐えきれず撤退し、かつ大規模ホテルの開発が増加したことによって、1施設あたりの客室数が増加したために起きたと推察される。  その結果、2020年、2021年の稼働率・ADRは、新型コロナウイルス  感染拡大により大幅に減少した宿泊需要とそれを大きく上回り増加する供給客室数が影響しともに全国平均を下回る結果となった。

福岡市の宿泊施設数推移
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2022年秋以降の開発は少しずつ緩やかになることが予想されるが、2022年秋から2028年までにおよそ10軒以上ものホテルの開業が発表されており、約半数は100~200室近い大規模ホテルである。内訳をみると、外資・内資問わず大手ホテルチェーンが参入予定であり、ラグジュアリータイプのブランド参入も注目される。2022年6月25日から東海道・山陽新幹線のネット予約サービスである「スマートEX」が九州新幹線の鹿児島中央まで利用可能になったことや、西九州新幹線の開業、全国旅行支援の開始によって、需要回復が期待されており、ここ数年間で供給客室数が急拡大をしている福岡市の需給バランスがどのように変化していくのか注視が必要である。

福岡市の宿泊施設開発動向
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全国旅行支援の開始、水際対策の緩和による需要回復への期待と課題

2022年10月11日から46道府県(東京都は10月20日)に「全国旅行支援」がスタートした。時を同じくして水際対策も大幅に緩和され、入国者数の上限が撤廃されるとともに、ツアー旅行のみならず個人旅行の入国も解禁された。これらの需要喚起策によって、福岡市でも新型コロナ感染拡大以前まで回復することが大いに期待されるが、一方で懸念すべき課題もある。

その課題の1つが「人手不足」である。パンデミック下で宿泊業界では人材流出が加速し、総務省「労働力調査」によると、宿泊業の雇用者数は2019年から2021年にかけておよそ15%減少しているとのデータもある。その結果、需要回復の兆しが見え始めた今では全国的に人手不足が叫ばれており、フロント・清掃・レストランスタッフの不足から空室があっても売り止めをせざるを得ない状況も見受けられる。特に福岡市では、ホテルの供給室数が2020年から2022年8月において3,780室増加していることから、各施設の人手不足が懸念される。宿泊業界は以前から慢性的な人手不足に陥っており、その労働生産性の低さが度々メディアでも取り沙汰されている。IT導入補助金や事業再構築補助金など国によるサポートもあるものの、未だその解決は程遠いと言わざるを得ない。過去には東京都・大阪府・京都府においても開業ラッシュにより人手不足を招いた経験があるため、これに学び福岡市のホテルはできるだけ早く手を打つ必要がある。

その一方で、福岡市ではその解決の糸口ともいえるサービスを確立した大手チェーンのホテルブランドが新規開業した。このホテルは、AI技術やICTを活用し予約からチェックアウトまでをスマートフォン1台で完結する宿泊特化型のスマートホテルであり、スマートフォンで予約ができることはもちろんであるが、それ以外に様々な工夫が凝らされている。例えば、チェックイン前に荷物をフロントに預ける際、ロビーに設置されたロッカーにて二次元バーコードをかざして預けることができることや、チェックイン時には顔認証で手続きができるようになっておりホテルスタッフとの対面が必要ないこと。加えて、滞在中は公式アプリがスマホキーに対応しているため鍵の受け渡しも不要であることや、チェックアウト時には、アプリで事前決済を済ませることでフロントでの手続きも必要なくなっていることなどがある。これらの技術は、顧客とホテル側の双方にメリットがあり、顧客にとってはチェックイン・チェックアウトの混雑を回避してスムーズな宿泊体験ができ、スマートフォンによる電子キーで入室できることから利便性だけでなく感染症対策としても有用である。  一方、ホテル側にとっては、チェックイン・チェックアウト対応、荷物や鍵の受け渡しや顧客情報の入力、精算等に必要な工数を省力化することで効率的に運営でき、人件費抑制に繋げることが可能である。供給過多となったマーケットでは、価格競争が激化する傾向にあるためこういったIT技術の積極的な導入により人件費等のコストを引き下げることで、コストリーダーシップを取り競争優位を確立することが重要である。

福岡市は、過去にインバウンド市場の拡大も  期待されホテル開発ラッシュを迎えたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、急激に宿泊需要が減少したことにより供給過多に陥ることとなった。以降も感染拡大以前から計画されていたホテル開発は続けられたことで、今日に至るまで供給客室数は拡大傾向にあり、供給過多の状況が続いている。全国旅行支援や西九州新幹線の開業等の交通インフラの拡充、入国規制の緩和によって宿泊需要の回復が期待されているものの、急激な回復によって働き手の不足という新たな問題が浮上する可能性がある。宿泊需要が回復したとしてもなお、一度傷んだ宿泊業が新型コロナウイルス感染拡大前の状態まで戻るには、時間を要することが予想される。

【執筆者】
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
不動産アドバイザリー ホテルチーム
シニアアナリスト 水野 駿也

執筆協力者
シニアアナリスト 大沢 祐子
アナリスト 渡辺 彩未
アナリスト 三橋 彩子

※上記の社名・役職・内容等は、掲載時点のものです。

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