最新動向/市場予測

国内主要都市宿泊市場動向シリーズ 第二回 大阪

コロナ禍の影響が長期化する宿泊・観光業界。大阪市場の動向を振り返りながら今後の見通しを考察する

大阪では、2025年の万国博覧会開催決定や統合型リゾート(IR)の候補地として名乗りを上げ、インバウト需要の増加を当て込んだ形で宿泊施設開発が活発化のさなかに新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大が直撃。宿泊市場の需要はことごとく消滅した。そこから2022年6月までを振り返りながら今後の需要動向と宿泊業がとるべき施策を探った。

2019年1月から2022年6月までの大阪市場概況

コロナ前 インバウンドブームに沸いていた大阪市場

宿泊施設専門の調査会社によると、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年、大阪府内の宿泊施設の年間平均稼働率は東京都に次いで全国で2番目に高い数値であった。宿泊施設開発に関しては、前年の2018年に2025年の万国博覧会開催が決定したことや統合型リゾート(以下、IR)の候補地として名乗りを上げたことを受け、インバウト需要の増加を当て込んだ形で活発化のさなかであり、新規施設開業軒数も上昇基調だった。

コロナによる需要蒸発は甚大な影響をもたらした

宿泊需要が最も冷え込んだ2020年4月、大阪府内の宿泊施設の平均稼働率は10%台を記録、宿泊事業者は2021年にかけて規模の大小・業態を問わず塗炭の苦しみを味わうこととなった。府内では、宿泊・旅行関連会社の大型倒産や、関西を地盤とし複数のブランドで多角的な展開をする有名ホテルグループが、経年施設を中心にフルサービスホテルやビジネスホテル等の一部施設を順次営業終了すると発表して話題を集めた。2022年に入ると稼働率は緩やかに回復傾向だったが、全国平均の約60%には及ばず、平均値以下の状況が続いている。

高付加価値・高単価化する宿泊プラン

高単価なプランが続々と誕生

各施設では客室を稼働させるために様々な工夫をこらした。コロナ禍1年目の2020年と比較し、2022年に顕著な特徴としては、「プランの高付加価値・高単価化」が挙げられる。

宿泊プランに関しては、これまでより値ごろ感のある割安プランか高価格・高級路線に二極化する傾向があったと言えるが、2022年に入ってからは中価格帯のホテルでも高付加価値・高単価化プランの造成ならびに販売が目立つ。府内では、ラウンジでの軽食やプール、サウナ利用付きでチェックアウトが翌日21時になる30時間滞在プランを販売するホテルのほか、テーマパーク周辺のとあるホテルでは通常であれば1室あたり2万円前後で販売するところ、2名3食付きで20万円を超える高単価プランが登場している。

同テーマパークのオフィシャルホテル関係者によると、割引キャンペーンを利用する場合、最大で半額近く値下げになる入場パス付プランの人気が圧倒的に高いそうだが、最近ではそのような割安プランにあわせ、マーケティング・キャンペーンによる「お得感」を訴求することで比較的高額な商品販売に力を入れるホテルの存在が際立っている。

フルサービスホテルでは、エグゼクティブラウンジを新設する施設も出始めている。これらは将来的な訪日富裕層の取り込み強化を意識した積極投資であると同時に、短期的には国内富裕層の消費動向が海外旅行から高額消費市場へとシフトしている影響があると考えられる。

世界最大手のクレジットカード発行会社が発表した「2021年新富裕層の消費動向」によると、調査対象の全カテゴリーが前年比より利用金額を伸ばしている中、唯一減ったのは「旅行代理店・ツアー」10%減、「エアライン」43%減の2カテゴリーであった。国内における宿泊、鉄道の利用額については、それぞれ17%増、 21%増と上昇しており、旅行先を海外から国内にシフトして継続していると推察できる結果が出ている。
 

ニッチなニーズ掴む生き残り戦略

ターゲット層を細かく絞り込んだプランの多様化も2022年に入り顕著な特色のひとつである。たとえば、これまで単なる長期滞在プランを販売していたフルサ―ビスホテルでは、1室あたり月額196万円からの「高齢者向けリハビリ付き長期滞在プラン」を投入しているほか、難波の宿泊特化型ホテルでは地元レストランとタイアップし韓国旅行したような気分になれることを謳う「渡韓ごっこプラン」など多種多様な商品が誕生している。

比較的小規模な施設では1棟貸しを開始するところもあり、難波にある宿泊特化型ホテルでは社員研修のほか、修学旅行や、甲子園出場校の応援団が連泊で利用するなど一定の需要があるという。宿泊客のニッチな需要をきめ細やかに捉える顧客分析力の高さは過去2年に渡る生き残りをかけた試行錯誤の結果と推察する。

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大阪府内の開発状況

コロナ禍でも宿泊主体型を中心に宿泊供給数と開発計画は増加

2019年~2022年6月までに開業したホテル群は下記の通りである。

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2020年の大阪府内の開業軒数は28軒と、全国比8%(前年比マイナス6%)に留まったが、2021年は26軒、全国比9%、2022年上半期は15軒、全国比10%まで回復しており、3年間の総開業軒数は112軒で全国比11%となっている。

客室増数は2020年に6,078室、2021年に5,689室、2022年は2,669室となっており、2020年は全国比11%(前年比マイナス5%)まで下落したものの、2021年、2022年上半期は13%を保っている。総客室増数は23,170室で、100室以上400室以下の中規模施設が80%を占め、そのほとんどが宿泊主体型のホテルであった。これからのことから、府内では依然として中規模施設の開発が活発化していると考えてよいだろう。

今後の開発動向では、中規模施設のみならず大規模施設の開業計画も発表されている。全国に宿泊主体型施設を展開する有名チェーンホテルグループは、2023年初頭、梅田に1,700室超、2024年秋には難波に西日本最大級2,000室超の施設を開業予定で、同じく難波駅周辺では2023年にタイのリゾートホテル事業者が500室を超える規模のホテルを開業する予定だ。インバウンド客が依然として少ない現状の稼働率を鑑みると、これらの大型施設が国内のビジネス客や旅行客需要だけで埋まることは考えにくい。特に難波周辺の利用層はこれまでインバウンドの団体客が主であったことからも、これらの計画により開業するホテルはコロナ後の旺盛な需要の受け皿となることが見込まれる。
 

「うめきた」ではラグジュアリー路線の開発が進む

一方、国内外の富裕層客に狙いを定めているのは、大阪最後の一等地と言われる大阪市北区梅田(いわゆる「うめきた」エリア)のホテル群である。「うめきた」では2013年に開業を迎えた「グランフロント大阪」を皮切りに大規模開発がスタートしており、その第2弾開発プロジェクトが2024年のまちびらきと、2027年度の全体開業を目指して進行している。

再開発区域では今年3月に複合ビルの「大阪梅田ツインタワーズ」が開業、今後はアメリカに本社を置き国際的に展開するホテルグループの最上級ラグジュアリーホテルや若者世代を意識したライフスタイルホテルのほか、鉄道会社を母体をとするホテル運営会社によるアップスケールホテルの出店が決まっている。さらに、梅田駅南部では堂島に世界有数のラグジュアリーホテルである「フォーシーズンズホテル」が入居予定の超高層複合ビルと平均分譲価格が1億円を超える高級マンションが一体化した施設が開業を控えるなど、建設ラッシュが続いている。

「うめきた」の新規開業軒数と宿泊室増数を見ると、2010年からコロナ禍前の2019年にかけては10年間で22軒・4,928室であったが、2020年から2025年にかけては6年間で14軒・5,593室となっている。ほぼ同数の宿泊室増数に対して開業ペースがスピードアップしており、1軒あたりの客室数も224室から400室とスケールアップしていることが分かる。今最も注目されているエリアであることを踏まえると、周辺では今後も新規開業計画が継続すると考えられるだろう。

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今後の需要について

ポストコロナを見据えた動き鮮明に…しかし観光コンテンツの薄さは課題

府内では、テーマパークの運営会社を中心に民間企業や観光関係団体が官民一体で連携し、関西観光の情報を一元化する観光アプリを開発するというニュースや、テーマパークと大阪城を結ぶ遊覧船の定期運航の開通が発表される等、観光の利便性を高める施策が次々と登場しており、国内外の観光客獲得に向けた再始動が鮮明になりつつある。

しかしながら、府内全体の観光コンテンツ量は未だ不十分であると言わざるを得ない。2020年3月に府が公開した来阪インバウンドの位置情報分析結果によると、大阪市内中心部の主要観光施設間や、市内中心部と関西空港との動線は多いものの、関西空港と大阪市中心部を結ぶ動線上の自治体は通過されている状況であり、30 分以上の立ち寄り率は、通過者全体の3~5%程度となっている。万国博覧会やIRと言った起爆剤だけでなく、継続的な観光コンテンツ開発によって連泊を誘発する仕組み作りは急務であり、各ホテル群は大阪周辺観光競合地域、特に京都府や奈良県への宿泊客流出を食い止める施策が必須であろう。
 

しばらくは国内客獲得に向けプランの深堀りが必要

大阪市場ではワクチン接種の普及とペントアップ需要による消費行動の高まりにあわせ、ブロック割や自治体独自の割引キャンペーンが始まっており、起爆剤効果によるV字回復を期待する声は大きい。一方で、「GoToトラベル」の代替版事業である「全国旅行支援」に関しては、新規感染者数が都市部を中心に全国で増加傾向であることから様子見の状況であると思われる。インバウンド需要については6月に渡航制限が緩和されたとは言え、これまでの損失を取り戻すには一定の時間を要すると考えられることから、しばらくは国内客、とくに近畿圏からの集客に焦点を当てた宿泊プランの造成が欠かせないだろう。

各宿泊施設においては、需要の回帰と顕在化のタイミングをいち早く掴み、変化するマーケットに対応する柔軟かつ積極的な姿勢が求められている。参議院選挙後の政府の経済対策動向を踏まえつつ、大阪や自社施設の独自性を見出す模索が重要であることは間違いない。

【執筆者】
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
不動産アドバイザリー ホテルチーム
アナリスト 三橋 彩子

執筆協力者
シニアアナリスト 大沢 祐子
シニアアナリスト 水野 駿也
アナリスト 渡辺 彩未

※上記の社名・役職・内容等は、掲載時点のものです。

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