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サステナブルな社会を実現するブロックチェーン

金融エコシステムの未来 第3回

SDGs、カーボンニュートラル等サステナブルな社会の実現に向けては、サプライチェーン全体の可視化が求められる。そのためのインフラ(データ共有基盤)としてのブロックチェーン活用について考察する。

1. はじめに SDGs達成に不可欠な視点

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の考え方が普及していくに伴って、ブロックチェーンを活用したサステナブルな取り組みへの関心が高まりつつある。国連においても、SDGs達成に向けてブロックチェーンの活用を推進している。

UNDP(United Nations Development Programme:国連開発計画)公式サイトの「Beyond Bitcoin」では、6つのカテゴリに分けて、国連関連組織が関与した事例を紹介している。

図1: ブロックチェーン活用カテゴリと事例(出所:UNDP)
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国連関連組織だけでなく、企業経営にも重要な影響を及ぼしている。社会課題に対する企業の経営姿勢への鋭い消費者目線は、安全で安心して使える消費を保証することを前提としている。

ブロックチェーンはこの様な時代背景を踏まえて、将来インフラになり得ると考えられる。

2. 活用事例 – サプライチェーントレーサビリティ

JICA(Japan International Cooperation Agency:国際協力機構)が、2021年3月に「コートジボワール国ブロックチェーン技術を活用した児童労働の防止に係る情報収集・確認調査」 として一般公示された件につき、当社が受託したプロジェクトを紹介する。

アパレル製品などに使われるコットンやチョコレートの原料になるカカオの生産現場など、アフリカやアジアなどを中心に劣悪な環境や低賃金で労働に従事させられる子どもの問題が深刻である。児童労働による製品を購入するということは、この問題に知らず知らずのうちに加担していることになる。

国際社会からの児童労働に対する問題意識の高まりに対して、欧州の企業の一部ではサプライチェーンの透明性を高めるためにブロックチェーン技術を活用し、トレーサビリティを担保するプラットフォーム(下図参照)の検討が進んでおり、このグローバルバリューチェーンからもたらされる利益を適切に還元する仕組みの構築が求められている。

図2: サプライチェーントレーサビリティプラットフォーム
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JICAとの取り組みは、農家コミュニティに着目したうえで周囲のエコシステムと協調し、児童労働の抑止(児童を学校に通わせる活動)に係る活動に自ら取り組むよう、適切なインセンティブを提供し、かつ関連事業者はその活動に賛同し協力し得るかどうかを検証するとともに、継続的な仕組みになる様、その簡易アプリを構築することとした。

コミュニティ内で自主的に活動が続く様、学校に協力を得て児童の出席率を確認、近隣のNGOや地域リーダーに協力を得てコミュニティへの啓蒙活動を促進させる取り組みを進めている。

将来的には、ここで一定期間蓄積された情報から農家コミュニティのクレジットスコアにより、農機具のリースや調達コストを融資する等、ファイナンス機能を備えたトークンエコノミーの構築も検討し得るであろう。

※参照資料:コートジボワールにおけるブロックチェーンを活用した児童労働の防止に係る調査
 開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム 第1回児童労働分科会

2. 活用事例 – グリーンファイナンス

第2回の連載でDeFi(Decentralized Finance:分散型金融)について、クリプトを活用した金融・Web3.0を解説したが、ここに環境保護の視点を加えた、ReFi(Regenerative Finance:再生金融)というコンセプトで整理されつつある。

代表的な取り組みがKlimaDAOである。KlimaDAOはカーボンクレジット(炭素クレジットまたは排出枠)をトークン化したアセットであるToucan carbon tokens(TCO2)、あるいはBase Carbon Tonnes (BCTs)で表現・取引される。

また、KlimaDAOエコシステムの貢献に応じた報酬としてガバナンストークンであるKLIMAトークン付与される。

これらの仕組みにより、カーボンクレジット取引の参加者を誘引、流動性を確保することにより、取引市場の効率化を目指している。

※参照 KlimaDAO HP

また、ブロックチェーン技術を活用した新たな資金調達手法であるデジタル証券の活用も注目されている。

STO(Security Token Offering)は、株式や債券などの上場取引、クラウドファンディングに次ぐ新たな資金調達手法として、事業主および新たな投資機会を探る投資家の双方から期待されている。

グリーンファイナンスでは、投資家が投資した内容をトレースし可視化する機能が期待される。今後、STOがグリーンファイナンスの用途として活用される可能性も出てくるであろう。

※参照 STO - ブロックチェーン技術を活用した新たな資金調達手法が金融業界にもたらす可能性
※参照 日本の不動産市場におけるセキュリティトークンの有用性に関してまとめた調査レポートを公表

3. なぜブロックチェーンか?

なぜSDGsの様な社会課題の解決にブロックチェーン技術が採用されるのであろうか。活用事例で見てきたように、ある組織や地域/国に閉じない複数のステークホルダーでデータ共有が求められ、一般的に以下の様な論点が挙げられる。

  • 秘匿性が高い情報(児童労働・金融/取引情報など)の共有
  • 業界/国、横断で協力体制を構築
  • トレーサビリティ(監査/第三者保証など)の確保
  • Think Big, Start Small, Scale Fast

ブロックチェーンはビットコイン等の仮想通貨(暗号資産)で使われている技術であり、電子署名・データ共有(P2P)・分散型台帳の仕組みにより、不正な書き換え(改ざん)がないことをオープンに、効率的に(コスト低く)構築することができる点が利点である。

図3: 従来型システムとブロックチェーンの比較
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また、トークン(経済的メリット)を発行する仕組みも比較的簡易に実装できるため、社会課題解決に向けた貢献活動へインセンティブを付与する等(貢献ポイント、融資金支援等)、求められるサステナブルな取り組みにも活用しやすい。また、消費者を巻き込んだ資金調達にも活用できる。

まとめると、サステナブルな社会を実現するブロックチェーントレーサビリティのメリットは下図の通り整理できる。

図4:ブロックチェーンを活用したトレーサビリティの考え方
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当然ながら、ブロックチェーンの仕組みだけでは実現できない点もある。代表的な例が、初期入力情報の正しさの証明をどうするかという点である。

一度入力されたデータは、改ざんなく、“Single South of Truth(唯一の情報源)“として信頼することができるが、特に上流工程で入力された情報が正しく入力されたかを確認することは難しい。

先述した事例①JICAとのプロジェクトでは、農村児童の労働情報に対して学校の出席情報と突合させることで、入力情報の正確性を一次チェックし、加えてその情報を現地監査人と共有することでデータの正確性を担保する仕組みを取り入れた(結果、本機能は一定の成果を得た)。

ブロックチェーンは、既に多くの企業で実証実験が行われ、いくつもの実用化事例が出ている。当社が毎年経営陣に実施しているグローバルブロックチェーンサーベイにおいては、半数がトップ5投資領域に指定し、8割以上が今後メインストリームでブロックチェーンを採用していくと回答している。

既にブロックチェーン技術はレディー状態にある。ブロックチェーン参加者および関係者(ステークホルダー)をいかに巻き込み賛同を得て、これを機能させていくかに論点は移っている。

4. おわりに 企業が備えるべきこと

サステナブルな社会を実現する取り組みは、個社だけではなく、グローバル規制や業界ルール/ガイドラインなど要件を見据えて業界横断的に取り組んでいく必要がある可能性が高い。

今後は、ブロックチェーンのような関係者協創型で信頼できるデータ共有基盤の上で取り組みが進む可能性が高い一方で、取り組みの均質化を促すことにもなり得る。

企業は協創領域と競争領域を見極めて戦略を検討する必要があることに加えて、協創領域においても他国/他社が先行して作るルールの下での参加と、ルールを推進するのでは見える景色も異なり、取り組み姿勢の積極化も検討が必要である。

前述のJICAより受託したプロジェクトにおいて、当社がチョコレート購入者にアンケートを行ったところ、10代の方に限定すると、エシカルなチョコレートの購入経験率は35%を超える。

また、50代~60代の方は、購入経験が10代と比較して購入経験率は低いが、自身の活動が本当に寄付されていることがわかれば購入をしたいと考えている方が一定数いるという結果が出ている。

今後は、ひと・社会から求められる取り組みとして、関係者協創型で信頼できるデータ基盤の上で、競争領域を訴求することが重要である。

 

執筆者紹介
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
プロフェッショナル 赤星弘樹
シニアコンサルタント 矢田貝諒

※ 本記事にてご紹介致しましたサービスはあくまで事例であり、当社が推薦する意図はございません。

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