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【保険ERM】保険における2017年の規制動向

1年先を見据えて("Navigatig the year ahead - Insurance regulatory outlook 2017")(2017.05)

2017年は、金融危機を取り巻く状況の開始後ほぼ10年目に当たります。この間、業界が直面してきた問題の多くは、今や周期的というより構造的な様相を呈し始めています。金融サービス業は、この現在の困難な時期が過ぎるのをじっと待つことはできないということです。

米国の視点から見た重要な規制動向

昨年のレポートと比較をすると下表のとおりとなる。

詳細は、レポートを参照ください。

原題 : Navigating the year ahead - Insurance regulatory outlook 2017 (PDF)

【補足説明】
上位6項目までは、昨年と同様である。規制対応については、グローバル、ローカル共に呼応しており、規制改革がすすんでいるため、引き続き効果的な規制対応が重要な課題となる。ただし、米国の保険会社は、州、連邦およびグローバルレベルの規制動向を積極的に注視する必要があり、必要に応じて規制当局と接触しながらそうした動向の形勢に関与する姿勢が重要となってくる。

2016年のレポートについては、こちら

ORSA

全米保険監督官協会(NAIC)は、リスク管理並びにリスクおよびソルベンシーの自己評価に関するモデル法(Risk Management and Own Risk and Solvency Assessment Model Act : RMORSA)を2015年1月1日から施行している。各州の議会の採択時期が異なっていた実態はあるものの、今では、多くの州が採択しており、規制当局はORSAの提出書類についてフィードバックを企業に提供し始めている。

今日の低金利環境の中で、企業は懸命にコストを管理し、基礎となる収益性を改善しようと努力している。ORSAプロセスが、自己のリスク管理と資本の枠組みのどこに弱みがあるか、どの点を改善できるかを理解し、また、価値創造および損失回避のために、直面するリスクを管理する最善の方法について、さらに深く理解する助けとなることが期待されている。

受託者責任基準

2016年6月に発効した労働者(DOL)の「利益相反」規則への対応の中で、保険仲介業者の手数料やコストパフォーマンス、サービスに対する検証が想定される。


サイバー技術

規制当局が、業界および規制当局に利用可能なツールやイノベーションに併せて保険規制の見直しを図ろうとしていることから、サイバー技術は規制当局が取り組む主要問題の1つとなっている。現在の最大の問題は、サイバーセキュリティ、ビックデータ、およびプライバシーである。


コーポレート・ガバナンス

NAICは強化されたコーポレート・ガバナンス・モデル法および規則を採用し、各州はそれを2016年に制定し始めた。これまでのところ、このモデル法を正式に制定したのは、5州にとどまっている。今後、報酬、資格、リスク監視構造の検証が及ぶものと考えられる。特にリスク監視構造については、自己評価のために外部評価が重視されるだろう。

重要度が上昇した項目としては、以下の2つである。


プリンシプル・ベースの準備金積立

PBRが2017年1月1日から発効されることになった。多くの米国の規制当局や国際的な規制当局が、生命保険会社による系列キャプティブを活用した固定的フォーミュラ(算式)に基づく法定準備金と経済価値ベースの準備金(PBR)のチェリーピッキングを懸念している。今後、PBRは、規制当局がキャプティブに更に厳格な精査を正当化する根拠とする可能性がある。

デジタル技術

デジタル・イノベーションは、保険会社と規制当局のいずれにとっても、新たな予測不能な機会と課題を生み出しつつある。デロイトUSは、次の点を指摘している。保険会社にとって二重の必須事項がある。1つは取り残されないようにする必要性。バックミラーでデータを注意深く評価することに慣れた保険のような業種には、急速に変化するこの新たな環境にあって、考え方を改め、不確実性を受け入れることが必要となると思われる。もう1つの必須事項は、技術主導の変革に順応しようとする規制当局との接触や影響力を持ち続ける必要性である。

新たに登場した項目は、以下の2つである。


マーケット・コンダクト

NAICの様々なタスク・フォースやワーキンググループは、消費者保護を中心とする主要分野、特に米国の人口高齢化を背景とする高齢者保護の必要性に改めて注目している。2016年には、NAICおよび様々な州保険規制当局は、市場行為検査(Market Conduct Examination:MCE)について正式な規制上の認証/認定の提案を策定する作業をすすめた。

1980年代後半から1990年代前半にかけて確立された、NAICの現行の財務ソルベンシー認証プログラムとは異なり、提案されている市場規制認定プログラムは、その開始後数年は、各州が「自己認定」することを認めている。したがって、基準や検査実務に統一性が生まれることはまずないと思われた。

NAICは現在、サイバーセキュリティ、データ保護、販売実務(特に、高齢者層に的を絞った販売実務)等の主要領域における消費者保護に集中的に取り組んでいる。その結果として、米国の保険会社、生産会社、第三者およびその他のサービス提供業者の規制負担が重くなる可能性がある。


グループ規制資本

3つの別個のイニシアティブが現在進行中であり、それぞれの動きに注目する必要がある。

国際レベル : 金融安全理事会の指揮の下、IAISは基礎的資本要件(basic capital requirement : BCR)の策定を終え、現在は保険資本基準(insurance capital standard : ICS)を策定中。2017年中にはICSバージョン1.0が合意される予定。おそらく最も先に進んでおり、下記を含む様々な分野で変化の引き金となる可能性がある。
・評価手法 : 市場価値調整評価(market adjusted valuation : MAV)ベースおよび「一般に公正妥当と認められた会計原則」(GAAP)プラス調整ベースが検討されている。
・ 所要資本 : 所要資本を定めるためのストレス・テストや資本基準が策定されつつある。
・適格資本 : 企業が適格資本に含められる項目について検討が進められている。

連邦レベル : 2016年初頭、FRBは提案中の資本基準に関するコメントを募集する「規則案制定に係る事前公示」(ANPR)を承認した。FRBは、銀行または貯蓄金融機関を所有する米国の国内保険会社についてはビルディング・ブロック・アプローチを用いて、また金融安定監視評議会(FSOC)によってSIFIに指定された保険会社については連結アプローチを用いてグループ資本基準を策定することを目指している。
州レベル : 2016年に州保険規制当局は、NAICと強調し、PBC合算(PBC aggregation)手法を使用する保険会社を対象とする米国グループ資本算定方法の構築に着手した。
 

倫理・コンプライアンス・リスクをERM体系の中に明確に位置付け、戦略推進とリスク管理の統合的管理の枠組みとの連動を図りうるか否かは、規制が量的に拡大し質的に変革する今後の環境変化の中で極めて大きな差異をもたらす。ERMの実効性は、組織構成員の行動に依存している。
リスクカルチャーの醸成」も参照ください。

保険ERM態勢の高度化支援サービス

デロイト トーマツ グループでは、保険ERM態勢に関し、基礎的な情報提供から、各社固有の問題解決まで幅広く関わり、Deloitte Touche Tohmatsu Limited(DTTL)のグローバルネットワークを駆使し、最新の情報と豊富なアドバイザリーサービスを提供します。

保険ERM態勢高度化支援サービス
(ブロシュア、PDF、384KB)

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保険セクター関連サービス
(ブロシュア、PDF、316KB)

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