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Closing out 2019

IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2020年2月号

本IFRS in Focusの特別版では、規制当局の焦点の分野、現在の経済環境又は会計基準の変更を受けた、2019年12月31日に終了する年度に関連する財務報告の論点を記載している。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

注:本資料はDeloitteのIFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。

1.IFRS第16号「リース」

多くの企業にとって、当年度の財務報告における最大の影響は、IFRS第16号「リース」の適用である。このリースでは、以前、オペレーティング・リースだったリースの大部分を貸借対照表に取り込むことを借手に要求している。

デロイトの「リース-IFRS第16号ガイド」1は、この基準の重要な要求事項を理解するための関連性のある情報である。このガイドの情報は、DARTにおける本基準の適用に関する追加のガイダンス2と共に考慮する必要がある。

デロイトのIFRS適用企業のための2019年度IFRSモデル財務諸表3は、全面遡及適用アプローチを用いたIFRS第16号の適用開始を説明している。また、モデル財務諸表の付録4において、我々は、累積的キャッチアップ法を用いてIFRS第16号の適用開始した場合における要求される変更点について説明している。

(1) 移行

開示は、IFRS第16号への移行時に報告される金額と修正を投資家が理解することに役立つために、企業特有のものである必要がある。

開示される情報には、新たな会計方針の意味のある説明を含めなければならない。会計方針の説明は、関連する会計基準の要求事項を単に繰り返してはならず、これらの要求事項が企業の特定の事実と状況にどのように適用されたかを説明しなければならない。それには、IFRS第16号の要求事項を適用する際に行われた主要な判断と仮定に関する情報を含める必要がある。


移行へのアプローチ(遡及的又は累積的キャッチアップ法)は、企業がIFRS第16号の適用開始に関して提供することを要求される開示を決定する。特に累積的キャッチアップ法を適用する借手は、次を開示することが要求される。

  • 適用開始日現在の財政状態計算書に認識されているリース負債に適用している借手の追加借入利子率の加重平均
  • 次の両者の差額の説明
    -適用開始日の直前の事業年度の末日現在でIAS第17号「リース」を適用して開示したオペレーティング・リース・コミットメント(適用開始日現在の追加借入利子率で割引後)
    -適用開始日現在の財政状態計算書に認識したリース負債

また借手は、累積的キャッチアップ法の下で移行時に認められる特定の実務上の便法のうち1つ又は複数を使用する場合には、その旨を開示することが要求される。

IFRS第16号の適用は、リース負債の元本の支払いは財務活動の一部として表示され、リース負債の利息に関するキャッシュ・フローは、借手の会計方針(関連する金額に重要性があれば開示)に従って、営業活動又は財務活動として表示されるので、借手のキャッシュ・フロー計算書に重大な影響を与える。短期リース及び少額リース、又は変動リース料の支払いのような使用権資産の認識につながらない支払いはリース負債の測定に含まれず、営業活動に表示される。

IFRS第16号の適用の影響は、多くの企業にとって潜在的に重要である。つまり、多くの主要業績評価指標(KPI)が影響を受ける可能性がある。例えば、より高いEBITとEBITDAが予想される。債務純額及びフリー・キャッシュ・フローのKPIも、重大な影響を受ける可能性がある。企業は、移行時の修正によってKPIがどのように影響を受けるかを説明しなければならない。同様に、新しい会計上の要求事項に照らして、企業がKPIの構成を変更する場合は、開示によってコミュニケーションしなければならない。

(2) リース期間

リース期間の決定は、何がリースの強制可能な期間であるか、及び延長オプションを行使すること(もしくは、解約オプションの場合は行使しないこと)が合理的に確実であるかどうかを評価する必要がある、多くの借手及び貸手にとって重要な判断となる可能性がある。これに該当する企業は、リース期間の決定に際して行われた判断について十分な開示を行う必要があり、IAS第1号「財務諸表の表示」122項及び125項の要求事項に従わなければならない。

リース期間の決定は、IFRS第16号の適用時、特に強制可能な期間の評価において困難であることがわかっている。2019年11月にIFRS解釈指針委員会は、リース期間に関するIFRS第16号の要求事項が、更新可能なリース契約及び解約可能なリース契約(それぞれ、契約の当事者のいずれかが解約しない限りは当初の期間の終了時に無期限で更新される契約、及びいずれかの当事者が解約の通知をするまで無期限に継続する契約)にどのように適用されるかを検討したアジェンダ決定を最終化することを決定した。この論点の分析の一環として、委員会は、借手と貸手のそれぞれがリースを他方の承諾なしに多額ではないペナルティで解約する権利を有している場合には、リースにはもはや強制力がないことを示すIFRS第16号B34項の要求事項をどのように適用するべきかを検討した。

委員会は、IFRS第16号B34項を適用し、上記のリースの強制可能な期間を決定する際に、企業が以下を考慮することに着目した。

  • 契約上の解約支払いだけではなく、契約のより幅広い経済実態。例えば、いずれかの当事者がリースを解約しない経済的インセンティブを有していて、解約時に僅少とは言えないペナルティが発生するような場合には、当該契約は契約を解約できる日の後も強制可能である。
  • 当事者のそれぞれが、他方の承諾なしに多額ではないペナルティでリースを解約する権利を有するのかどうか。IFRS第16号B34項を適用すると、リースが強制可能ではなくなるのは、両方の当事者がそのような権利を有する場合のみである。したがって、一方の当事者のみがリースを他方の承諾なしに多額ではないペナルティで解約する権利を有している場合には、契約はその当事者によって契約を解約できる日の後も強制可能である。

企業が、解約可能なリースの通知期間(又は更新可能なリースの当初の期間)の後も契約が強制可能であると結論付けた場合には、IFRS第16号19項及びB37項からB40項を適用して、借手がリースを解約するオプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかを評価する。

借手が除去不能な賃借設備改良を契約が解約できる日の後も使用すると見込んでいる場合には、当該賃借設備改良の存在は、借手がリースを解約する場合に僅少とはいえないペナルティが借手に生じる可能性があることを示している。これは、少なくとも賃借設備改良の期待効用の期間について、契約が強制可能であることを示している場合がある。

(3) 割引率

割引率の決定も重要な判断となる。IFRS第16号は、リースの計算利子率が容易に算定できる場合には、当該利子率を用いて割り引くことにより、リース料の現在価値でリース負債を測定することを要求する。

一般に、リースの計算利子率は、利子率を計算するために貸手によって用いられるすべての重要なインプットが容易に算定できる場合にのみ考慮される。(すなわち、以下のそれぞれが利子率に重要な影響を与える限りにおいて、借手は原資産の公正価値、貸手がリース期間の終了時に原資産から生じると見込まれる金額及び貸手の当初直接コストを容易に算定できる。)

多くの場合が予想されるが、リースの計算利子率が容易に算定できない場合、借手は、その借手の追加借入利子率を用いてリース料を割り引かなければならない。これはリースの契約条件を考慮して特定のリースの追加借入利子率を算定することを借手に要求する。それには、以下の借り入れるために支払うであろう利子率を反映する。

  • リースから生じる使用権資産と同様の価値の資産を取得するために必要な金額
  • リース期間と同様の期間
  • リースの保証(担保)と同様の保証
  • リースの経済環境と同様の経済環境

2019年9月、IFRS解釈指針委員会は、借手の追加借入利子率の定義について、アジェンダ決定を公表した。追加借入利子率を算定するために判断を適用するにあたり、借手が出発点としてリースと同様の支払いプロファイルを有する借入金(すなわち、ほとんどのリースの場合、満期日に単一の支払いを通じてではなく、定期的な支払いを通じて元本が返済される借入金)に対して、容易に観察可能な利率を参照することは、IASBが借手の追加借入利子率の定義を開発した際の目的と整合することに留意した。

追加借入利子率の決定が重要な会計上の判断である場合、基礎となる期間がリース負債の満期であるかどうか、又はその支払いプロファイルに従うかを含む、利子率がどのように決定されるかを説明することに目的適合性がある可能性があります。

(4) 表示及び開示

継続的に、借手は、リースが財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローに及ぼす影響を財務諸表の利用者が評価することを可能にするために、企業固有の開示(定量情報及び定性情報)を提供する必要がある。

これには、IFRS第16号の適用時の選択に関する情報、特に短期リースと少額資産のリースに関する情報が含まれる。これらの選択のいずれかが使用される場合、リースに関連する費用の特定の情報を提供する必要がある。

企業は、IFRS第16号の要求事項を適用する際に行われた重要な判断と仮定を開示する必要がある。リース期間や割引率の決定に加えて、リースを含むか否かの判断も、特定の状況において重要な判断となる場合がある。

(5) 減損

IFRS第16号の適用開始日に、累積的キャッチアップ法を適用する借手は、使用権資産が減損していたかどうかを評価するための基礎として、オペレーティング・リースが不利な契約であったかどうかのこれまでの評価を使用することができる。ただし、その日の後はIAS第36号「資産の減損」の通常の要求事項が適用される。

一般に、(例えば、サブリースにより)独立したキャッシュ・インフローを生成しない使用権資産は、資金生成単位の一部として減損テストを行う。したがって、企業は、使用権資産から構成される資金生成単位の減損テストを実行する際に、回収可能価額の計算を修正する必要がある。通常の状況では、リース負債は資金生成単位から除外しなければならない。リース負債に関連付けられたキャッシュ・アウトフローも、使用価値の計算から除外される。ただし、指数又はレートに基づかない変動リース料、指数又はレートの将来の変化の影響、及び短期及び少額資産のリースについて実務上の便法を使用する場合は、リース負債に含まれていないとして使用価値の計算に織り込む必要がある。同様に、資金生成単位に、リース期間よりも耐用年数が長い不可欠な資産が含まれている場合、使用権資産の置換えに係るキャッシュ・フロー(例えば、リース期間を超える期間の定額リース料又は購入する置換え資産は、企業の意図した行動の過程に応じて)キャッシュ・フローの見積りに含める必要がある。回収可能価額の決定に使用される割引率は、キャッシュ・フロー及びテスト対象の資金生成単位と整合するように修正する必要がある。

減損テストの際に企業が重要な判断を行った場合、又は減損テストの計算が、翌事業年度中に使用権資産(又は使用権資産を含む資金生成単位)の帳簿価額へ重要性のある修正を生じる重要なリスクがある仮定及び見積りを含む場合、企業は、IAS第1号122項及び125項に従ってそれらを開示する必要がある。

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2.最近適用された会計基準

企業は、2つの重要な会計基準を2018年度に適用した。IFRS第9号「金融商品」及びIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」である。提供された情報は、新基準を適用することの影響を利用者が理解するのに十分であるかもしれないが、規制当局は、提供された開示は改善及び改良の余地がかなりあることに着目した。以下のとおり、我々はいくつかの主要な発見事項を強調する。

(1) IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」

①会計方針

企業は、IFRS第15号によって導入された新しい用語について、更新された収益認識の会計方針、及び置き換えられた会計処理への参照が削除されていることを確認する必要がある。

収益認識の会計方針には、単に基準を複製すること以上のものを含める必要がある。例えば、収益認識の5ステップモデルを説明する場合、企業は特定の状況に合わせて説明をする必要がある。次の点を考慮する必要がある。

  • 履行義務は、企業が移転することを約束した財及びサービスの具体的な性質を含め、明確に記述しなければならない。
  • 会計方針の開示は、事業セグメントで提供される情報と、財務諸表外の他の箇所で提供される企業の事業モデルに関する情報にリンクさせなければならない。
  • 会計方針は、収益が認識される時点(すなわち、支配が顧客に移転する時点)、及び記載されている履行義務について、一時点で収益が認識されるか又は一定の期間にわたり認識されるかを明確に説明する必要がある。収益が一定の期間にわたり認識される場合、会計方針は、履行義務の充足に関する企業の進捗度を測定するために使用された方法として、インプット法なのかアウトプット法なのかを、使用した方法が財又はサービスの移転に関して忠実な描写を提供している理由を含めて説明しなければならない。
  • 重要な支払条件(変動対価又は重大な金融要素など)を記述し、会計に与える影響について説明しなければならない。
②重要な判断及び見積り

IAS第1号は、認識された収益の金額及び時期に関して、判断が重要な影響を与える場合、IFRS第15号の要求事項に関して、企業が行った特定の判断の開示を要求している。一例として、財又はサービスの顧客への提供において、第三者が関与する収益取引があげられる。その場合、企業は、顧客に対する約束の性質が、基礎となる財又はサービスを自ら提供するのか(すなわち、企業が取引において本人である)、又は第三者のために、顧客に直接基礎となる財又はサービスが提供されるように手配するのか(すなわち、企業は取引において代理人である)を決定しなければならない。

デロイトのニュースレター「A Closer Look:収益認識:企業が本人として行動しているか代理人として行動しているかの評価」5では、企業が本人として行動しているか代理人として行動しているかの評価についてより詳しく提供している。


③収益の分解

顧客との契約から認識される収益は、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期、及び不確実性がどのように経済的要因の影響を受けるかを描写する区分に分解しなければならない。この分解は、企業の活動や環境、及びIFRS第15号の目的と整合している必要がある。適切と考えられる区分の例は次のとおりである。

  • 財又はサービスの種類(例えば、主要な製品ライン)
  • 地理的地域(例えば、国又は地域)
  • 市場又は顧客の種類(例えば、政府及び政府以外の顧客)
  • 財又はサービスの移転時期(例えば、一時点で顧客に移転される財又はサービスからの収益と一定の期間にわたり移転される財又はサービスからの収益)

開示を強化するために、企業は、各報告セグメントに収益を分解するマトリックスに情報を表示することを検討し得る。これにより、利用者はIFRS第15号の下で開示された情報と、IFRS第15号ではない原則を適用して決定された可能性があるIFRS第8号「事業セグメント」の下で開示された情報との関係を明確に理解できる。

④契約残高

IFRS第15号は、区分して表示又は開示されない場合、顧客との契約から生じた債権、契約資産及び契約負債の期首残高と期末残高を開示することを要求している。企業は、また、当報告期間に認識した収益のうち、報告期間の期首時点の契約負債残高に含まれていたもの、及び過去の期間に充足(又は部分的に充足)した履行義務から当期に認識した収益を開示しなければならない。
過去の期間の履行義務から生じた収益の決定に重要な判断が必要な場合は、これらも開示しなければならない。

契約残高に関連する会計方針の一部として、契約資産と営業債権の違いを記述して、各残高に関連する異なるリスクを説明することが有用な場合がある。さらに、企業は、収益認識の時期が契約残高に与える影響を説明しなければならない。

(2) IFRS第9号「金融商品」

①分類及び測定

IFRS第15号と同様に、企業は金融商品に関する会計方針を慎重に見直す必要がある。IFRS第9号では、新しい分類と測定の区分が導入され、その結果新しい用語が導入された。したがって、会計方針は新しい分類区分を適切に記述する必要があり、特に、「満期保有」商品や「貸付金及び債権」のような、IAS第39号「金融商品:認識及び測定」から置き換えられた言葉を使用しないようにしなければならない。

会計方針は、明確で簡潔で関連性が高くなければならない。会計方針は、事業モデルと「元本及び利息のみの支払い」のテストを説明する際には、基準から取られた定型的(ボイラープレート)な記載を避けなければならない。代わりに、会計方針は企業固有になるように作成し、企業が保有する商品にのみ関連付けなければならない。

次の重要なポイントも考慮しなければならない。

  • 金融商品に関する企業の事業モデルは、財務諸表で説明しなければならない。
  • 企業が金融負債を、純損益を通じて公正価値で測定する金融負債に指定し、企業自身の信用リスクの変動をOCIに認識する場合、会計方針は、企業自身の信用リスクの変動に起因する利得又は損失の処理について説明しなければならない。
  • 同様に、企業は、純損益を通じて公正価値で測定するものとしての指定、又はその他の包括利益を通じて公正価値で測定するものとしての指定に関して、金融商品がどのように要件を満たしているのかについて説明しなければならない。
②減損(金融機関以外の企業)

IFRS第9号では、予想信用損失(ECL)に基づく新しい減損モデルが導入された。次の点を考慮しなければならない。

  • 新しい減損モデルは、IFRS第9号の範囲外の特定の資産、特にIFRS第15号で認識される契約資産、及びIFRS第16号のリース債権に適用される。
  • 減損モデルのグループ会社間貸付への適用は、グループの連結財務諸表では消去されるため、簡単に忘れる可能性がある。ただし、企業の個別財務諸表では重要性がある可能性がある。
  • 金融商品が報告日において信用リスクが低いと判断された場合、企業は、金融商品の信用リスクが当初認識以降に著しく増大していないと仮定することができ、したがって、損失評価引当金を12か月のECLに等しい金額で測定する。企業は、その便法を適用するかどうか、及びその使用の範囲を明確にする必要がある。
  • 企業は、金融資産の総額での帳簿価額と信用リスク格付けごとの信用リスクに対するエクスポージャーの分析を提供しなければならない。営業債権、契約資産、及びリース債権について、単純化した減損アプローチに従う場合、これは引当マトリクス又は期日経過日数に基づく場合がある。当該分析は開示されなければならない。
  • ECLの算定は、不確実性の見積もりの主要な源泉である場合がある。この場合、企業は主要な仮定、及び変化する経済変数に応じてECLがどのように変動するかを示す感応度分析を開示しなければならない。

デロイトのニュースレター「A Closer Look:引当マトリクスを使用した営業債権への予想信用損失モデルの適用」6は、金融資産の減損に関する新しい会計上の要求事項を検討し、引当マトリクス・アプローチの適用に有用な実用上のポイントが含まれている。

別のデロイトのニュースレター「A Closer Look:Measurement of expected credit losses for intercompany loan assets with no documented contractual term」7では、契約条件が文書化されていないグループ会社間貸付に対する資産の予想信用損失の測定に関する詳細が記載されている。


③非金融項目を購入又は売却する契約の決済

2019年3月、IFRS解釈指針委員会は、企業が将来において固定価格で非金融商品項目を購入又は売却する特定の契約にIFRS第9号をどのように適用するのかに関して検討するアジェンダ決定を公表した。当該契約は、ヘッジ関係として指定されず、自己使用の例外を満たさない。したがって、IFRS第9号が適用され、純損益を通じて公正価値で測定するデリバティブとして会計処理される。

決済日に、企業は非金融項目の引渡し又は受取りを行う。購入契約なのか販売契約なのかにより、支払った又は受取った現金にデリバティブの認識の中止に関する純損益(すなわち、決済日におけるデリバティブの公正価値)を加えたものとして測定された棚卸資産又は収益を当該日に認識する。

委員会は、IFRS第9号の要求事項は、デリバティブについて過去に純損益に認識した利得又は損失の累計額を戻入れ、対応する修正を収益又は棚卸資産のいずれかで認識する追加の仕訳を許容又は要求していないということに着目した。当該アジェンダ決定は、デリバティブにかかる利得及び損失に適用するIAS第1号及びIFRS第7号「金融商品:開示」における表示及び開示の要求事項についても説明した。委員会は、これらの要求事項の目的において、検討された事実パターンでは、決済によって生じたデリバティブに係る利得又は損失はないことに着目した。

3.企業の財務活動に関する情報

(1) サプライヤー・ファイナンスに関する取決め

サプライヤー・ファイナンスに関する取決め(「リバース・ファクタリング」とも呼ばれる)は、購入者と供給者の双方の流動性に関し便益をもたらすように設計されることが多い。いくつかの法域では、供給者への迅速な支払いを奨励する公共政策のイニシアティブに対応して、それらは一般的になっている。

「サプライヤー・ファイナンス」に関する取決めの条件は様々であるが、通常、供給者は、第三者の金融機関から請求書の条件に沿って又はその前に支払われ、後日、第三者の金融機関は購入者から、請求書の条件に沿って又はその後に返済を受ける。

このタイプの取決めでは、財務報告に関して次の重要な論点が生じる。

  • 仕入債務(財又はサービスの購入から生じた当初の義務として)又は借入金(おそらく著しく延長したベースで、最終的な支払いが金融機関に対して行われる)としての負債の分類。
  • 当該負債が借入金として分類される場合のキャッシュ・フロー計算書における支払及び入金の表示。(取引形態に従い、金融機関への最終支払時に財務活動によるキャッシュ・アウトフローのみが生じるのか、又は供給者に対する営業キャッシュ・アウトフローを表示し、同時に金融機関から財務活動によるキャッシュ・インフローを表示させるために取引を「グロスアップ」すべきなのか)。

これらの論点は、取決めの事実及び状況(著しく異なる可能性がある)に基づいて慎重に検討しなければならない。特に、以下の事項については、十分かつ明確な開示を提供しなければならない。

  • 重要なサプライヤー・ファイナンスに関する取決めの性質と条件。
  • 重要なサプライヤー・ファイナンスに関する取決めの表示方法と、当該方針を適用する際に行われた判断(IAS第1号122項に従う)。
  • 当該論点における負債の帳簿価額及びそれらが表示されている表示項目。
  • サプライヤー・ファイナンス取引が企業のキャッシュ・フロー計算書にどのように反映されているか(借入金に分類された負債に対して適用される「グロスアップ」の金額を含む)。財務活動として表示されるいかなるキャッシュ・フローについても、金融負債の変動の開示に関するIAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」の改訂された要求事項を、見過ごすべきではない。
  • サプライヤー・ファイナンスに関する取決めを流動性リスクを管理するために利用している場合には、IFRS第7号第39項(c)で要求されている開示。

供給者はまた、会計処理と開示の両方の観点から、そのような取決めに参加した場合の影響を検討する必要がある。「伝統的な」ファクタリング契約と同様に、これには、顧客からの債権が消滅し、金融機関に対する別個の負債が現在存在しているかどうかのような、当該契約が「リコース」か「ノンリコース」に基づいて行われているかに関する検討を含む。

(2) 財務活動による負債の変動の開示

2017年に、財務活動から生じる負債の変動に関する開示を要求するIAS第7号の修正が発効した(「総債務の調整表(gross debt reconciliation)」と呼ばれる場合もある)。2019年9月、IFRS解釈指針委員会は、企業に開示目的について念を押し、調整表のみでは十分ではない可能性があることを明確にするアジェンダ決定を公表した。

IAS第7号で提案された調整表は、純負債残高の変動ではなく、財務活動から生じた負債の変動のみを表示するものであるため、過去に一部の法域で表示されていたような純債務の調整表(現金及び財務活動によるキャッシュ・フローを生じさせない他の資産を含むことがある)とは異なる。要約すると、IAS第7号で要求される調整表は次のようにしなければならない。

  • 現金又は現金同等物残高を含めない。
  • キャッシュ・フロー計算書で財務活動として分類されるキャッシュ・フローを生じさせる全ての負債(例えば、借入金又はリース負債、及びそれらが企業の財務活動の一部を形成する場合のサプライヤーへの債務)を含む。
  • たとえば財務キャッシュ・フローを生み出す負債のヘッジ手段であることにより、キャッシュ・フロー計算書に財務活動として分類されるキャッシュ・フローを生じるすべてのデリバティブを含む。
  • キャッシュ・フローから生じる変動及び非現金の変動の両方を含める。
  • キャッシュ・フロー計算書と調整する。

4.法人所得税の影響の報告

法人所得税の報告は、引き続き規制当局及び投資家が注目する分野である。

財務諸表に関しては、IAS第12号「法人所得税」で要求される実際負担税率の調整は、企業の実際負担税率の持続可能性及びそれに影響を与える要因に関する重要な情報源である。調整項目の性質及びその項目が生じた理由を明確に説明し、重要な1回限りの又は通常でない項目と反復が期待される項目とを明確に区別すべきである。

法人所得税は、特に不確実な税務ポジションに関して、IAS第1号に従って開示される見積りの不確実性の一般的な発生要因である。翌事業年度に重要性のある修正を生じる重要なリスクは、感応度又は生じ得る結果の範囲等の定量的情報を含めて開示すべきである。その後の期間における重要性のある修正の可能性もまた、例えば、税金の注記に含まれ得る有用な情報である。

法人所得税の影響は、代替的業績指標に適切に反映されるべきである。例えば、「調整後」又は「基礎的」利益の表示に関する方針は、1回限りの税額控除のような項目の報告について対象とすべきである。

(1) 繰延税金資産の認識

2019年7月に、欧州証券市場監督局(ESMA)は、税務上の繰越欠損金から生じる繰延税金資産(DTA)の認識、測定及び開示に関するIAS第12号の要求事項の適用について期待を示す公表文書を発表した。

公表文書は、様々な法域の規制当局によって提起された課題を繰り返し(echoes)、税務上の繰越欠損金から生じる繰延税金資産の認識に対処する一方で、他の将来減算一時差異の評価にも同様の考慮事項が適用される場合がある。

将来の課税所得が利用可能になる可能性を考慮する際、発行者には次のことを気づかせる。

  • IAS第12号には、課税所得が利用可能かどうかを決定するために使用する「将来予測(look-forward)」の長さについての具体的な期間制限はない。
  • 使用する期間の長さは、企業の過去の収益性、予算管理の正確性及び将来の予想される活動を含む、多くの企業固有の要因に左右される。
  • 十分な課税所得が利用可能かどうかを決定するために使用する計画期間が、企業の通常の計画サイクルを超える場合は、注意が必要である。
  • 見積期間が長いほど信頼性は低下するが、一般的に、企業が、見積りの主観的性質のみに基づいて、将来の課税所得を見積るために使用する年数を制限することは、適切ではない。過去の業績に基づいて十分な信頼性を持つ課税所得の追加年数を予測することが可能な場合がある。
  • 状況によっては、ビジネスにおいて重要な変更が予想されるため、将来の課税所得を見積ることができる年数に制限をかける可能性もある(例えば、将来当該法域から撤退する可能性)。このような状況では、使用されるタイムフレーム(time frame)は限られており、事実と状況の変更により修正が必要となるまで変更すべきではない。

将来の利益の企業の見積りの信頼性は、次のような要因を考慮することによって評価することができる。

  • 経営者のビジネス・プランとその将来の課税所得への影響の合理性(経営者が表明した計画を実行した実績及び当該計画を実行する能力(契約上のコミットメント、利用可能な資金調達又は借入コベナンツ(debt covenants)を前提として)を含む);
  • 関連する業界データとの整合性(業界の短期的及び長期的な傾向を含む)
  • 過去の業績に基づいた財務予測の合理性
  • 現在の経済状況を考慮した時の財務予測の合理性
  • 当該仮定が、過去の期間に使用された仮定や他の財務諸表の見積りに使用された予測(例えば、のれんの減損分析)が整合的かどうか。主要な差異が、他の財務諸表の見積りの目的及び要求事項における差異を反映している場合、当該差異が正当化され予測することができる点に留意する。
  • タックス・プラニング戦略及び機会の説得力(コミュニケーションされているビジネス戦略との整合性を含む)
  • 企業の過去の業績の変動性(volatility)(又は変動性がないこと)

(2) 法人所得税の税務処理に関する不確実性

2019年12月期末は、IFRIC第23号「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(IAS第12号の解釈指針)を適用して、企業が不確実な税務ポジションを会計処理しなければならない最初の年となる。この解釈指針は、法人所得税の税務処理に関する不確実性がある場合に、どのように会計上の税務ポジションを決定するかについて定めている。それが達する結論は、以前から実際に使われている会計と整合している。

簡単に言うと、結論は以下の通りである。

  • 法人所得税負債又は資産に関する不確実性は、納付又は還付の可能性が高い(probable)場合にのみ、税金負債又は資産の認識に反映すべきである。
  • 納付又は還付の可能性を評価する際に適用される会計単位を識別する際に判断が要求される(すなわち、単一の税務上の不確実性か、又は関連する不確実性のグループなのか)。
  • それらの判断を行う際には、完全な「発見リスク」(すなわち、すべての関連性のある情報は税務当局が利用可能であること)を仮定する。

デロイトのニュースレター「IFRS in Focus:IASBが、IFRIC第23号『法人所得税務処理に関する不確実性』を公表」8は、IFRIC第23号の要求事項の詳細を提供している。

不確実な税金負債及び資産の表示

2019年9月に、IFRS解釈指針委員会(委員会)は、企業が不確実な税金負債(又は資産)を表示することを要求されるのは、当期税金負債又は繰延税金負債(又は資産)としてなのか、それとも引当金などの他の表示科目の負債(又は資産)なのかを明確化するアジェンダ決定を公表した。

委員会は、IFRIC第23号を適用して認識される不確実な税金負債又は資産は、IAS第12号で定義している当期税金に係る負債又は資産、又はIAS第12号で定義している繰延税金負債又は資産であると考えた。

IAS第12号もIFRIC第23号も、不確実な税金負債(又は資産)の表示に関する要求事項を含んでいないため、IAS第1号における表示の要求事項が適用される。IAS第12号で定義している当期税金負債及び資産及び繰延税金資産及び負債は、IAS第1号の最低限の表示項目として列挙されており、IAS第1号では、これらの最低限の表示項目は、性質又は機能の違いが十分に大きいことにより財政状態計算書の本体上で区分表示することが必要となることを説明している。

したがって、委員会は、IAS第1号を適用する際に、不確実な税金負債を当期税金負債又は繰延税金負債として、不確実な税金資産を当期税金資産又は繰延税金資産として表示することを企業は要求されると結論を下した。

5.減損レビュー

多くの法域における困難な経済環境と知名度の高い企業の失敗により、減損レビューは引き続き注目を浴びている。さらに、減損レビューは、依然として規制当局が目を光らせている領域である。IFRS第16号の適用開始(上記参照)により、IAS第36号の減損の要求事項に該当する資産の母集団が増加する。

IAS第36号を適用する際に、使用価値の算定に含まれるすべてのインプット(キャッシュ・フロー予測とそれに適用される割引率の両方)を慎重に考慮することが重要である。また、のれんの減損テストの目的で、資金生成単位の識別及び資金生成単位の集約に注意を払うことも重要である。企業全体に自動的に適用される割引率ではなく、各資金生成単位(又は資金生成単位のグループ)に適切な割引率が適用されるべきである。

開示に関して、企業に以下のことが期待されている。

  • 成長率や割引率だけでなく、回収可能価額の見積りに使用される収益成長率、利益率及び営業コストなど、その他の重要な仮定を開示する。
  • 複数の資金生成単位をカバーする仮定の平均値又は範囲のみを開示するのではなく、重要性がある場合は、個々の資金生成単位に固有の仮定を識別する。
  • 主要な仮定の合理的に可能な変更が、個別に、あるいは組み合わせて、減損となるかどうかを明確に説明する。
  • 成長率が適用される期間、特定の成長率が使用された理由及び成長率又は割引率の著しい変動を説明する。
  • 純資産が市場価値を上回っている親会社が、子会社、関連会社及び共同支配企業の減損をどのように検討したかを明示する。

(1) 企業のビジネス・モデルに対する政治的、経済的及び社会的要求の影響

地域及び業界を超えて、多くのビジネスが、環境・社会・ガバナンス(ESG)の懸念及び様々な政治的・経済的事象(例えば、Brexit又は国際貿易紛争)に対応して、ビジネス・モデルを適応させるというプレッシャーに直面している。このような論点の影響を受ける可能性のある企業は、利用者がどのように企業の財務状態と業績に影響を与えるのかを理解するのに役立つ十分な情報を提供する必要がある。これは、どのようにこれらの要因が、例えば、資金生成単位の使用価値の決定などの、見積りに関するビジネスモデルに影響を与えるかについての仮定の影響に対する感応度分析を、企業が提供することを要求する可能性がある。

減損レビューにおける使用価値の決定に対する気候変動関連要因の影響

気候変動関連の要因は、経営者のキャッシュ・フロー予測(経営者の経済状況の最善の見積りを表す合理的で裏付け可能な仮定に基づく)、又はそれらのキャッシュ・フローの達成に伴うリスクのレベルに変更をもたらす可能性がある(その場合、使用価値の評価の一部を形成する)。

例えば、企業は、使用価値の計算に関して次の点を考慮する必要がある。

  • 経営者の最善の見積りが、気候変動関連事象が予測期間又は予算期間を超えてキャッシュ・フローに影響を与える場合、単に一般的な予想経済成長率を使用した予算・予測に基づくキャッシュ・フローを推測して、これを使用価値の計算から除外することは不適切である。代わりに、IAS第36号33項(c)が要求している予算・予測に基づくキャッシュ・フローの推測は、気候変動の影響の予想時期、統計データ(profile)及び大きさ(magnitude)を反映した曲線(又は、経済環境に影響を与えると予想されるその他の長期的な要因)を組み込んで、修正すべきである。あるいは、気候変動(又は他の長期的要因)を組み込んだ単一の期間成長率は、資産(又は資金生成単位)の将来キャッシュ・フローの現在価値に対して予想される影響に合理的に近似する場合、適用することができる。IAS第36号36項で規定されているとおり、適用される成長率はマイナスの場合がある。
  • IAS第36号33項(a)に従って、使用価値の計算は、経営者が資産又は資金生成単位から生じると見込まれる将来キャッシュ・フローの最善の見積りを反映すべきである。消費者行動の変化、例えば環境に影響を与える製品の需要の減少は、企業によるリストラクチャリング、又は資産又は資金生成単位自体への変更に依存していないため(IAS第36号44項)、将来の売上の量又は価格のどちらかに(正又は負の)変更をもたらすと予想される消費者行動の予測変化に関する経営者の最善の見積りを含めるべきである。同じアプローチは、企業のサプライヤー又はビジネス顧客の行動の予想される変化に適用する必要があり、それ自体が社会の期待の変化に反応し、その結果、企業のコストベースが変更される可能性がある。
  • 温室効果ガス排出量の課税など、予想される政府の行動がキャッシュ・フロー予測に影響を与える時期を決定する際に、判断が必要となる。しかし、IAS第12号又はIFRIC第21号「賦課金」に基づいた新しい負債を認識する場合とは異なり、既存の資産又は資金生成単位の帳簿価額を裏付ける将来キャッシュ・フローの見積りに組み込む前に、変更の制定(enactment)を待つ必要はない。政府の立法又は規制措置の正確な性質又は形態が確かではなくても、経営者の最善の見積りが企業のキャッシュ・フローに影響を及ぼすという場合、キャッシュ・フローの予想される変更は、IAS第36号33項(a)に従って、合理的で裏付け可能な仮定を基礎として使用価値の計算に含まれるべきである。
  • 気候変動関連の要因(又はその他の長期的な地政学的な不確実性)が使用価値の計算に重要な役割を果たす場合、IAS第36号134項(d)に従って、各々の仮定に割り当てた値を算定した経営者の手法の記述とともに適用した主要な仮定は開示すべきである。関連する場合、この開示は、主要な仮定だけでなく、企業の将来キャッシュ・フローに対する予測の影響の説明を提供すべきである。

6.Brexitと2019年の年次報告書

規制当局は、英国の欧州連合の離脱を決定した場合に起こりうる影響についての開示の重要性を引き続き強調している。英国で重要性のある事業を行う企業の2019年12月の年次報告書には、Brexitが企業の業績と将来予測に及ぼす影響に関する説明が含まれると仮定すべきである。

企業は、ビジネス・モデル及び業務に対する特定の直接的な課題と、報告時の英国の立場に依然として付随する可能性のある、より広範な経済的不確実性とを区別して開示することが奨励されている。例えば、輸入/輸出税の変更やサプライチェーンの遅れによる推定される影響など、特定の脅威がある場合には、それらを明確に特定し、潜在的な影響を管理するために計画された、又は取られた措置を年次報告書で説明すべきである。状況によっては、財政状態計算書における特定の項目を認識又は再測定することを意味する場合がある。

報告時のBrexitに依然として付随する広範な不確実性は、経営者の仮定の変動に対する資産と負債の感応度を利用者が理解するのに役立つ十分な情報の開示を必要とする。多くの企業が、自社のキャッシュ・フロー予測に関する感応度分析を実施する際に、合理的に可能な範囲のより広範な結果を検討し、その結果を開示し説明することが望まれる。すべての企業が詳細な開示を必要とするわけではないが、感応度テスト又はシナリオ・テストで重要な問題が示された場合、関連する情報及び説明は、年次報告及び会計報告の適切な箇所(例えば減損開示)に反映されるべきである。

一部の企業はまた、Brexitから生じる不確実性が継続企業として存続する能力に影響を及ぼすかどうかを検討する必要があるかもしれない。

英国の離脱の最終条件(現在の期限は2020年1月31日に設定)に関する重大な不確実性と不明点及び絶えず変化する英国の政治状況により、IAS第10号「後発事象」で要求される修正を要する後発事象及び修正を要しない後発事象を識別し必要な開示を作成するために、年度末報告計画時に貸借対照日後の事象の包括的なレビューを取り入れるべきである。

Brexitと法人税

Brexitと同様にさらに広く見れば、英国の欧州連合からの離脱が、欧州で事業を行う英国企業(及びその逆)に適用される税制に及ぼす影響は、まだ不明である。税金の論点は、Brexitから生じるリスク及び不確実性の開示に必要に応じて組み込み、年次報告書の承認日まで更新する必要がある。

しかし、IAS第12号に基づく税金の会計処理は、報告日に実質的に制定された税法に基づいていることに留意すべきである。デロイトのニュースレター「IFRS in Focus:欧州連合からの英国の離脱」9で記述しているように「第50条」のトリガーは、それ自体が既存の税法の変更の実質的な制定を構成するものではない。

7.「会計基準に基づかない(non-GAAP)」又は代替的な業績指標の使用

「会計基準に基づかない」指標「代替的な業績指標」(「APM」のような他の用語を使用して呼ばれることもある。)の使用は、世界の多くの法域で規制当局の関心がある領域である。IFRS第16号などの新規の重要な基準の適用は、企業が新しくAPMを定義したり、これまでのAPMの計算基礎を変更したりすることにつながるかもしれない。この場合、使用したAPMの変更の程度とその根拠ついて開示を提供すべきである。

デロイトのニュースレター「IFRS in Focus:代替的業績指標(APM)実務ガイド」10には、APMの使用に関する追加的なガイダンスを提供している。そこでは、ベストプラクティスと考えられるものの設定、及び企業がそのような測定をどのように表示するかの実際の設例が提供されている。IOSCO及びESMAによって提示された要求事項を網羅しているが、企業は自身の法域での追加的な要求事項も考慮する必要がある。


IOSCOの会計基準に基づかない財務指標に関する文書

範囲
  • 会計基準に基づく指標(例えば、プレス・リリース、年次報告書の説明セクションに含まれる発行者の財務報告のフレームワークに従って決定される指標と定義される)ではない発行者の過去、現在又は将来の財務業績、財政状態又はキャッシュ・フローの数値指標である「会計基準に基づかない」財務指標に適用される。
  • 財務諸表に含まれている開示は、範囲に含まれない。
  • 財務指標ではない営業指標又は統計的指標は、範囲に含まれない。

会計基準に基づかない財務指標の定義-指標を定義、説明し(標準化された指標ではないという記載を含む)、明確に名付けるべきである。また、その指標の使用の理由(その情報が投資家にとって有用であるという理由の説明を含む)を説明すべきである。

偽りのない目的-不利な情報を表示するのを避けるために会計基準に基づかない指標を使用すべきではない。

会計基準に基づく指標の表示を目立たせること-会計基準に基づかない指標は、最も直接的で同等である会計基準に基づく指標よりも目立たせて表示してはいけない。

比較可能な会計基準に基づく指標への調整表-最も直接的で同等である会計基準に基づく指標への明確で定量的な調整表が提供されるべきである。

期間を通じて一貫した表示

  • 比較値を表示すべきであり、会計基準に基づかない財務指標を、通常は各年度を通じて一貫して表示されるべきである。
  • したがって、会計基準に基づかない財務指標の変更(又は会計基準に基づかない財務指標の使用の中止)は、比較可能な修正された数値を用いて説明すべきである。

経常項目-IOSCOの認識では、リストラクチャリング・コスト又は減損損失が「非経常」、「稀な」、又は「通常ではない」と判断できる状況はほとんどない。

関連情報へのアクセス-会計基準に基づかない財務指標の使用及び算定を裏付ける情報は、直接的に指標に添付するか、又は情報が入手可能な場所への相互参照することによって、利用者が容易に利用できるようにすべきである。

8.金利指標改革による変更

銀行間金利取引(IBOR)などの金利指標は、世界の金融市場において重要な役割を果たし、金融商品の何兆ドルもの指数となっている。しかし、多くの法域で早ければ2020年には、現行のIBORシステムから代替的なリスク・フリー・レート(RDR)への移行に向けて作業が進められている。これは、より信頼性の高い金利を実現し、IBORに組み込まれている信用リスク・プレミアムを組み込む必要がない商品や取引に堅牢な代替手段を提供することを意図している。

IASBは「金利指標改革」(IFRS第9号、IAS第39号及びIFRS第7号の修正)を、いくつかの既存の金利指標の長期的な存続可能性に関する不確実性から生じる会計上の問題に対処するために公表した。

これらの修正より、IASBは、特定のヘッジ会計の要求事項を修正して、ヘッジされているキャッシュ・フローとヘッジ手段となっているキャッシュ・フローの基礎となっている金利指標が、金利指標改革の不確実性の結果として変更されないと仮定して、企業がそうしたヘッジ会計の要求事項を適用するように修正した。

本修正は、以下の領域に影響を与える。

  • キャッシュ・フロー・ヘッジについての可能性が非常に高いという要求事項(IFRS第9号及びIAS第39号)
  • キャッシュ・フロー・ヘッジ剰余金の金額の純損益への振替(IFRS第9号及びIAS第39号)
  • ヘッジ対象とヘッジ手段との間の経済的関係の評価(IFRS第9号)
  • 将来に向かっての評価及び遡及的な評価(IAS第39号)
  • ある項目の構成要素をヘッジ対象として指定(IFRS第9及びIAS第39号)
  • 救済措置の適用終了(IFRS第9号及びIAS第39号)
  • 開示(IFRS第7号)

本修正は、2020年1月1日以後開始する事業年度に適用され、早期適用が認められる。これらは、企業が本修正を最初に適用する報告期間の期首に存在していた、又はその後の指定されたヘッジ関係、及び企業が本修正を最初に適用した報告期間の期首に存在していたその他の包括利益で認識された利得又は損失に遡及的に適用される。

デロイトのニュースレター「IFRS in Focus:IASB、『金利指標改革』(IFRS第9号、IAS第39号及びIFRS第7号の修正)を公表」11は、金利指標改革によるIFRSの修正に関するさらなる詳細を提供している。

9.事業の定義の変更

2018年10月、IASBは多くの利害関係者がIFRS第3号を適用する際に事業の定義をどのように解釈し適用するかについての懸念があったことから事業の定義を明確にするために「事業の定義」(IFRS第3号の修正)を公表した。

本修正は、2020年1月1日以後に開始する事業年度から発効し、早期適用が認められる。本修正の影響は、不動産企業及び製薬、採掘産業を営む企業にとって最も重大になる可能性が高い。

主な変更は以下のとおりである。

  • 事業と考えらえるための明確化、すなわち取得した活動及び資産の組合せには、最低限、アウトプットを創出する能力に著しく寄与するインプット及び実質的なプロセスが含まれていなければならない。
  • 実質的なプロセスが取得されたかどうかを判断するのに役立つ追加的なガイダンス。新しい設例は、何が事業と考えられるかについての解釈を支援する。
  • 市場参加者が欠けているインプット又はプロセスを置き換え、アウトプットの産出を継続することができるかの評価を削除。
  • 事業とアウトプットの定義は、顧客に提供される財及びやサービスに焦点を当てることにより、狭められている。コストを削減する能力への言及は削除される。
  • 取得した活動及び資産の組合わせが事業ではないかどうかの簡素化された評価を認める集中テストをオプションとして導入した。取得した総資産の公正価値のほとんどすべてが単一の識別可能な資産又は類似した識別可能な資産のグループに集中している場合は、事業ではない。
  • 活動及び資産の統合された組合せが事業であると考えられるかどうかが明確でない場合に判断を適用するためのヒント。

デロイトのニュースレター「IFRS In focus:IASB、IFRS第3号における事業の定義を修正」12は、事業の定義の修正に関するさらなる詳細を提供している。

10.ESGの開示

2019年1月に公表された文書において、IOSCOは発行企業に対して、ESGの問題は非財務的であると特徴付けられることがあるが、企業の事業運営やリスク及びリターンに重要性のある短期的及び長期的な影響を及ぼす可能性があることがあり、そのため投資家の投資及び投票の意思決定のために重要であることを再認識させた。ESGの影響は、次のように広範囲に及ぶ可能性がある。

  • 規制により、コストに影響又は資本的支出が必要になる、又は減損及び座礁資産(stranded asset)をもたらす可能性がある。
  • 消費者の嗜好の変化又は競合他社の革新により、市場シェアの変動をもたらし、収益が失われる可能性がある。
  • 新しくより持続可能なソリューションに移行するには、設備投資の増加が必要になる場合がある。
  • ガバナンス、パフォーマンス、又は文化に失敗が識別されると、収益の喪失、訴訟又は規制上の罰金のエクスポージャー、レピュテーションへのダメージ、及び企業の「営業のための社会的ライセンス」の喪失につながる可能性がある。
  • 自然災害を含む生産又はサプライチェーンの危機又は障害は、コストを増加させ、需要と供給を損なう可能性がある。

投資家は、ESGの問題が長期的な価値創造に対する企業のアプローチ、戦略的及び財務リスクの性質、及び企業がそれらを管理する方法にどのように影響するかを理解するのに役立つ情報をますます要求している。

IOSCOは、開示の実務が依然として企業間で異なっていることを指摘した。開示される情報の種類、及び情報の質は、市場内及び市場間で異なり、例えば、他にも理由があるが、使用される開示フレームワーク、開示の要求事項及び法域により課されている重要性の定義、又は特定企業の具体的なESGの問題の重要性に左右される。

世界中の規制当局は、気候変動に関する報告に関して期待を高めている。企業は、目的適合性がある場合、気候変動がビジネスに及ぼす影響(直接的及び間接的の双方)について報告しなければならない。ビジネス・モデルが重大な気候リスクを生じているように見えるが、年次報告書にその影響に関する開示が含まれていない場合、企業は指摘を受ける。定型的(ボイラープレート)な開示は、規制当局の指摘の対象となるため、避けるべきである。

経済が低炭素及び気候変動に対応できる将来に移行するにつれて、現在の報告と投資家の期待との間のギャップが大きくなっている。規制当局は、企業の事業が環境に与える影響、及び環境問題が企業の発展、業績、地位に及ぼす影響の両方について、目的適合性のある情報が開示されることを期待している。

金融安定理事会の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、投資家、貸手、保険会社、及びその他の利害関係者に情報を提供するために企業が使用するように設計されている気候関連財務情報開示タスクフォースの勧告13を開発した。

デロイトのニュースレター「IFRS in Focus:Task Force on Climate-related Financial Disclosures issues its final report」14は、TCFDによって公表された最終報告書について説明している。

デロイトは、気候変動に関するニュースレターA Closer Lookをまもなく発行する予定である。

デロイトは、イングランド・ウェールズ勅許会計士協会(ICAEW)と共同で、専用の気候変動ウェブサイト15と、企業や金融の専門家が学ぶのに役立つビデオ学習プログラムを開始している。

11.通貨と超インフレ

インフレのレベルの上昇と、現地通貨と国際的に取引される通貨との交換の制限は、世界中の多くの経済の特徴である。これらの問題は、以下のような財務報告の課題を示している。

  • 経済が超インフレであるかどうかを判断し(この用語はIAS第29号「超インフレ経済下における財務報告」で定義されている。3年間の累積インフレ率が100%に近づいているか又はそれを超えていることを含む、超インフレのいくつかの特徴が含まれている。)、もしそうであるならば、財務諸表における金額には一般物価指数を適用しなければならない。
  • 単体財務諸表の貨幣性項目を換算する、及び親会社の報告通貨に在外営業活動体の財務諸表を再換算するための適切な為替レートを識別する。

インフレ又は為替の問題が重要な判断につながる、又は見積りの不確実性の発生要因となる場合は、IAS第1号122項及び125項により要求する開示を提供しなければならない。

国際通貨基金(IMF)のインフレ予測やIAS第29号に定められた指標を含む執筆時点における入手可能なデータに基づいて、以下の法域は2019年12月31日終了年度の財務諸表について、IAS第29号を適用する目的及びIAS第21号「外国為替レート変動の影響」に従った在外営業活動体の再換算を行う超インフレ経済にあると考えなければならない。

  • アルゼンチン
  • 南スーダン
  • スーダン
  • シリア・アラブ共和国
  • ベネズエラ
  • ジンバブエ

アンゴラは2018年12月31日時点で超インフレと考えられていたが、2019年のインフレ水準の低下により、該当しないと考えられる。

上記のリストから、2つの重要な経済に影響を与えているインフレと為替の問題を、以下で議論する。

(1) アルゼンチン-通貨管理に関する新しい規制

アルゼンチン経済は引き続き超インフレと考えられている。デロイトのニュースレター「IFRS in Focus:2018年7月1日以後に終了する期間の報告-アルゼンチンにおけるインフレーション」16は、アルゼンチンのインフレの測定に関する詳細を提供している。

このニュースレターの後、アルゼンチン政府は2019年9月1日に、企業と個人の両方に通貨管理を課す法令を発行した。同日、アルゼンチン中央銀行(BCRA)は、為替管理手続を実務においてどのように実施するかについての詳細を示す通信を発行した。アルゼンチン・ペソの最近の急速な下落に対応する通貨規制は、2019年9月1日から2019年12月31日まで適用される。

規制の下では、輸出業者は、取得した外貨をアルゼンチン・ペソに換算することが要求され、特定の状況において、企業と個人の双方が、現地の外国為替市場(MULC)で外貨を購入する又は海外へ資金を送金するために、BCRAから承認を得ることが要求される。BCRAは、通貨管理ルールが回避されないことを確保するため、債券及びその他の金融商品に関する取引を規制する。

また、税制改革により、所得税法のインフレ手続の調整が再成立した。

様々な取引(配当金の送金、米ドルの購入等)に対する制限の影響や大幅な下落を評価するために、現地及び国際的に議論が続いている。アルゼンチン経済に重要性のあるエクスポージャーを有する企業は、最近の事象がビジネス及び財務情報に及ぼす影響について、関連性のある開示を提供しなければならない。

(2) ジンバブエ-2019年7月1日時点のインフレ会計

2019年2月、ジンバブエはリアル・タイム・グロス決済(RTGS)ドルを現地通貨として導入し、その価値を米ドルに対して変動させることを認めた。2019年6月以降、現地取引はRTGSドルで行わなければならない。

2019年6月までの年間インフレ率は176%(ジンバブエ国立準備銀行が公表したインフレ率に基づく)に上昇し、ジンバブエの3年間のインフレ率は185%となった。最新の国際通貨基金の予測では、ジンバブエの2019年12月までの3年間の累積インフレ率は300%を超える見込みであることを示している。

IAS第29号は、超インフレ経済下にある企業の財務諸表を適切な一般物価指数の変動の影響に合わせて修正することを要求している。さらに、IAS第21号42項は、在外営業活動体の財務諸表のすべての金額を決算日レートで親会社の報告通貨に換算することを要求する。これらの要求事項は、年次財務諸表及びIAS第34号で作成された期中財務諸表に等しく適用される。

IAS第29号はまた、インフレ会計の適用における企業間の首尾一貫性の必要性を強調し、IAS第29号4項は「同一の超インフレ経済国の通貨で報告するすべての企業が、同一の日付から本基準を適用することが望ましい。」とし、IAS第29号37項は、「同一の経済の通貨で報告するすべての企業が同一の指数を利用することが望ましい。」ことを規定している。

RTGSが機能通貨であると結論付けたジンバブエで重要性のある事業を行っている企業については、2019年7月1日以後終了する期中財務諸表及び年次財務諸表にインフレ会計を適用しなければならないという全般的な合意がなされた。

したがって、2019年12月31日時点でこれらの要求事項を適用するために、その日の適切な価格指数及び(ジンバブエの在外営業活動体の換算の場合)為替レートの識別が要求される。

年次の公式インフレ統計は2019年8月に利用可能でなくなったが、毎月のインフレ統計は利用可能であり、年率を決定するために使用されている。

公式為替レートは、本ニュースレターの発行日において、唯一の法的為替レートであるが、企業は、ジンバブエ政府によって実施された外貨制限の結果として、測定のための適切な為替レートの決定を要求することとなる複数の法的レートが出現するかどうかをモニターする必要がある。

適切な為替レート又はインフレ率の識別が重要な判断を伴う場合、又は見積りの不確実性の発生要因となる場合は、IAS第1号122項及び125項が要求するように開示を提供しなければならない。

IAS第21号は、その変更につながる可能性のある事象が発生した場合に、企業が機能通貨を再検討することを要求する。以前にその機能通貨が米ドルであると判断したジンバブエの企業は、これが引き続き適切であるかどうか、又は機能通貨が現在RTGSであるかどうかを検討しなければならない。

12.判断及び見積りの開示

デロイトのニュースレター「IFRS in Focus:主要な判断と見積りの開示にスポットライトを当てる」17は、重要な判断及び見積りの不確実性発生要因の開示に関して、さらに詳細な情報を提供している。


本ニュースレターでは、企業が重要な判断及び見積りの不確実性を開示する必要性を考慮する必要性を強調している。これらの開示は、投資家が企業の財務状態や業績を評価し、前提条件の変化に対する感応度を測ることを可能にするために重要であると考えられているため、依然として規制当局が焦点を当てる領域である。

各開示が何を表しているかを明確にすることが重要であり、すなわち以下の通りである。

  • 「判断」と「見積りの不確実性の発生要因」の区分
  • IAS第1号により開示が要求されている項目と任意で提供されている追加の開示の区分

(1) 重要な判断(IAS第1号122項で要求される開示)

これは、企業が会計方針を適用する際の見積り以外の判断を指し、しばしば項目をどのように特徴づけるかの判断である。例えば、企業が収益取引において代理人又は本人として行動しているかどうかの評価は、重要な判断を必要とするかもしれないが、一度その判断がなされると、収益の測定は容易であるかもしれない。また、企業が他の企業に対する支配、共同支配、又は重要な影響力を有しているかどうか(もしくは、他の企業に対する支配、共同支配、又は重要な影響を喪失する日)の評価は、評価後に適用される会計上の要求事項は明確であるが、重要な判断を必要とするかもしれない。

IAS第1号122項では、判断が財務諸表で認識される金額に重要な影響を及ぼす場合、開示を要求している。開示される情報が、企業が行った判断、判断が重要である理由及び判断がどうのように下されたかの理解に役立つべきである。

(2) 見積りの不確実性の発生要因(IAS第1号125項で要求される開示)

これは、主として項目の測定に関する見積りの不確実性(見積りに関する判断を含む)の仮定又は他の要因を指す。例えば、不確実な税務ポジションが存在することは明らかかもしれないが、そのエクスポージャーに価値を割り当てるには、相当程度の見積りが必要になるかもしれない(特に可能性のある結果が広範囲に及ぶ場合)。

IAS第1号125項では、見積りの不確実性の発生要因が、翌事業年度中に資産又は負債に重要性のある修正を生じる重要なリスクをもたらす場合に開示を要求している。この開示は、不確実性の性質及び影響を受ける資産及び負債の帳簿価額を説明し、また、見積りの不確実性の発生要因に関する判断を利用者が理解するための十分な情報を提供しなければならない。

IAS第1号では、実施した見積りを説明する開示例として、感応度分析及び考え得る結果の範囲が含まれており、IAS第1号125項で開示された見積りの不確実性の発生要因として識別されたすべての項目について、そのような開示が提供されるという明確な規制当局の期待がある。

厳密にはどちらのカテゴリーにも分類されない項目(例えば、見積りの不確実性の長期的な発生要因が、翌事業年度内に解消されないと予想される)についての任意の開示も、投資家にとっては価値がある。このような追加的開示は、明確に識別され、それらを含める根拠を説明することが望ましい。

また、識別された見積り不確実性の主要な判断と発生要因を見直し、必要に応じて毎年更新し(例えば、IFRS第16号により新しいリース会計モデルが適用されることにより、これまで行われていたいくつかの判断が不要になるが、新たな判断が導入される可能性がある)、それらが年次報告書の他の側面と一貫していることも重要である。例えば、ある論点が監査委員会によって焦点が当てられている場合、それは(性質によっては)重要な判断か、又は見積りの不確実性の発生要因の候補になるかもしれない。

13.その他のトピック

検討すべきその他の項目は次のとおりである。

  • 欧州の単一の電子フォーマット(ESEF)-年次財務報告書を公表するためのEU透明性指令の要求に従う発行者は、2020年1月1日からESEFを使用して、2020年1月1日以後開始する事業年度の連結財務諸表を含む年次報告書を作成する必要がある。この新しいフォーマットは、アクセスの可能性を向上させ、情報をより使いやすくすることを目的としている。
  • キャッシュ・フロー計算書-財務活動から生じた負債の変動に関する新しい要求事項及び上記で議論したサプライヤー・ファイナンシングとファクタリングの取り決めの処理について明確にする必要性に加えて、キャッシュ・フローの報告は、より一般的に依然焦点の当たる領域である。特に、キャッシュ・フローの適切な分類を決定する際には注意が必要である。一般的な落とし穴には、キャッシュ・フロー計算書から適切に除外する必要がある非資金取引(リースの開始など)が含まれる。
  • 引当金及び偶発負債-引当金の認識及び測定は本質的に判断の領域であり、含まれる主要な判断の明確な開示は重要である。例えば、義務が生じる時点及び事後のキャッシュ・フローの金額と時期についての不確実性についてである。
  • 公正価値測定-同様に、公正価値の算定は、特に観察可能でない「レベル3」インプットの使用が要求される場合、主観の行使となる可能性がある。使用される評価技法、重要な観察可能でないインプット及び感応度の明確な開示は、投資家が、含まれている見積りを理解できるようにするために提供しなければならない。
  • 確定給付年金制度-多くの確定給付制度債務の規模を考えると、死亡率の仮定及び資産超過の回収可能性などの問題に関する判断は非常に重要性がある可能性があり、明確に開示しなければならない。
確定給付制度債務に関するマイナスの割引率

IAS第19号「従業員給付」は、確定給付制度債務に適用する割引率は、当該通貨建の優良社債の市場利回り(又は、そのような債券に厚みのある市場が存在しない場合には国債)及び当該債務と整合する見積り期間を参照することによって決定することを要求している。

現在の経済情勢では、一部の通貨の債券利回りはマイナスになっている。IAS第19号にはゼロの割引率に対する「フロア」がなく、報告日の最も適切な市場レートが負であると判断された場合は、そのレートを確定制度給付債務に適用しなければならない。

付録

1.2019年12月31日以後に終了する事業年度に強制適用される新しい及び改訂されたIFRS及び解釈指針

下表に記載の新しい基準、修正基準、及びIFRIC解釈指針についての解説は、デロイトトーマツのウェブサイト「IFRS基準別の解説」から入手できる。(https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/finance/articles/ifrs/ifrs-kaisetsu-1.html

新しい基準

IFRS第16号「リース」

修正基準

IAS第19号の修正「制度改訂、縮小又は清算」
IAS第28号の修正「関連会社又は共同支配企業に対する長期持分」
IFRS第3号、IFRS第11号、IAS第12号及びIAS第23号に対する修正「年次改善2015-2017サイクル」
IFRS第9号の修正「負の補償を伴う期限前償還要素」

IFRIC解釈指針

IFRIC第23号「法人所得税の税務処理に関する不確実性」

 

(1) IFRS第16号「リース」

IFRS第16号は、借手と貸手の双方の財務諸表におけるリース契約の識別及び会計処理に対する包括的なモデルを提供する。IFRS第16号の適用から生じる論点は、本ニュースレターの本文で論じている。

(2) IAS第19号「従業員給付」の修正-制度改訂、縮小又は清算

本修正は、過去勤務費用(又は清算損益)は更新後の仮定を使用して確定給付負債(資産)を測定することにより計算され、制度改訂(又は縮小もしくは清算)前後の制度資産と提供された給付を比較することを明確化している。ただし、資産上限額の影響(確定給付制度が積立超過又は最低積立要件が適用される際に発生する場合がある)は無視する。
また、本修正は、制度変更後の報告期間の残りの期間に関する当期勤務費用と利息純額を算定するために、当期勤務費用と確定給付負債(資産)の純額に係る利息純額の測定による更新後の仮定の使用を要求している。本修正は、制度改訂後の期間は、利息純額はIAS第19号99項により再測定された確定給付負債(資産)の純額に当該再測定で使用された割引率を乗じて計算される(また、確定給付負債(資産)の拠出及び給付支払の影響を考慮に入れる)ことが明確化された。

(3) IAS第28号「関連会社及び共同支配企業に対する投資」の修正-関連会社及び共同支配企業における長期持分

本修正は、減損の要求事項を含むIFRS第9号を企業の被投資会社への純投資の一部を形成する関連会社及び共同支配企業に対する長期持分に適用されることを明確化している。

(4) 「年次改善2015-2017年サイクル」で公表された、IFRS第3号「企業結合」、IFRS第11号「共同支配の取決め」、IAS第12号「法人所得税」及びIAS第23号「借入コスト」
  • IFRS第3号の修正は、企業が共同支配事業である事業の支配を獲得する場合には、企業は、段階的に達成される企業結合の要求事項を適用することを明確化している。これには、共同支配事業に対して従来保有していた持分を公正価値に再測定することが含まれる。
  • IFRS第11号の修正は、事業である共同支配事業に参加しているが共同支配を有していない当事者が、当該共同支配事業に対する共同支配を獲得する場合には、企業は当該共同支配事業に対する従来保有していた持分を再測定しないことを明確化している。
  • IAS第12号の修正は、企業が分配可能利益を生み出した取引を当初にどこに認識したのかに従って、企業が配当の法人所得税への影響を純損益、その他の包括利益又は資本に認識しなければならないことを明確化している。
  • IAS第23号の修正は、特定の借入が、関連する資産の意図した使用又は販売の準備ができた後に未返済で残存している場合には、当該借入は、通常、企業が一般借入についての資産化率を算定する際に、資金の一部になることを明確化している。
(5) IFRS第9号「金融商品」の修正-負の補償を伴う期限前償還要素

本修正は、「合理的な追加の補償」という考え方によって生じた意図しない結果を改善している。本修正により、オプション保有者が早期終了に対する補償を「受け取る」こととなり得る期限前償還オプションを有する金融資産が、特定の要件を満たす場合にSPPI要件を満たすことを認めている。

さらに、本修正には、結論の根拠において、条件変更又は交換されるが認識の中止とならない金融負債の適切な会計についてのIASBの見解が含まれている。IASBは、金融資産の条件変更の場合と同じ会計処理となるという見解を示している。総額での帳簿価額が変更された場合には、直ちに純損益の利得又は損失となる。

(6) IFRIC第23号「法人所得税の税務処理に関する不確実性」

本解釈指針では、法人所得の税務処理に関する不確実性がある場合における、会計上の税務ポジションの決定方法を定めている。

本解釈指針は、企業に以下を要求している。

  • 不確実な税務ポジションを個別に評価するか、又はグループとして評価するかを決定する。
  • 法人所得税申告において企業が使用したか又は使用が予定されている不確実な税務処理を、税務当局が認める可能性が高いかどうかの評価。
    -可能性が高い場合、企業は、会計上の税務ポジションを、法人所得税申告において企業が使用したか使用が予定されている税務処理と整合的に決定しなければならない。
    -可能性が高くない場合、企業は、不確実性の影響を、関連する会計上の税務ポジションを決定する際に反映しなければならない。

2.2019年に行われたIFRS解釈指針委員会のアジェンダ決定

IFRS解釈指針委員会は、IFRS基準の正式な解釈指針を開発し、IASBがIFRS基準を修正することを提案する活動を行いながら、基準設定アジェンダに追加しないことを決定した論点の要約を、多くの場合提出された会計上の論点の議論と共に、定期的に公表している。

アジェンダ決定に含まれる説明は、正式にはIFRS基準の一部ではないが、ある取引に適用すべき適切な会計方針を選択する際に慎重に考慮すべき重要で説得力のあるガイダンスとなる。多くの国や地域の規制当局は、企業に対してIFRS基準を適用する際にアジェンダ決定を考慮することを期待している。

2018年12月、IASBは、委員会が公表したアジェンダ決定に起因する会計方針の変更を導入するのに十分な時間を企業が受けられるとの見解を確認した。IASBは、デュー・プロセス・ハンドブックへの追加を提案することを含め、この見解が利害関係者に明示されることを確保することにも合意した。

IASBは、特定の事実や状況に依存するとして、十分な時間が何を意味するのかを定義しなかった。これは要求される会計方針の変更と、報告企業の具体的な状況に依存する。作成者、監査人、規制当局は、何が十分であるかを決定するために判断を適用する必要がある。しかし、IASBは、それが数年ではなく数か月の問題であることを念頭に置いていたことを確認した。

2019年、委員会は以下のアジェンダ決定を公表した。18本アジェンダ決定は、アジェンダ決定集-第1巻19と名付けられた文書でも確認できる。

1月のIFRIC
アップデート

IAS第37号-法人所得税以外の税金に係る預託金

IFRS第15号-約束した財又はサービスの評価

IAS第27号-取得原価で会計処理される子会社に対する投資:部分的な処分

IAS第27号-取得原価で会計処理される子会社に対する投資:段階的な取得

3月のIFRIC
アップデート

 

IFRS第9号-特定のデリバティブがヘッジ手段として指定されている場合の、可能性が非常に高いという要求の適用

IFRS第9号-非金融資産項目の購入又は売却契約の現物決済

IFRS第9号-予想信用損失の測定における信用補完

IFRS第9号-信用減損金融資産の治癒

IFRS第11号-共同支配事業者によるアウトプットの売却

IFRS第11号-共同支配事業に対する共同支配事業者の持分に係る負債

IAS第23号-一定期間に渡る建築物の移転

IAS第38号-サプライヤーのアプリケーション・ソフトウェアに対する顧客のアクセス権

6月のIFRIC
アップデート

暗号通貨の保有

IFRS第15号-契約を履行するためのコスト

IFRS第16号-地下権

IAS第19号-割引の可能性が制度の分類に与える影響

9月のIFRIC
アップデート

IFRS第15号-遅延又はキャンセルに対する補償

IFRS第16号-借手の追加借入利子率

IFRS第9号-非金融資産の為替リスクの公正価値ヘッジ

IAS第1号-不確実な税務処理に関連する負債又は資産の表示

IAS第7号-財務活動から生じた負債の変動の開示

IAS第41号-生物資産への事後の支出

11月のIFRIC
アップデー

IFRS第16号-リース期間及び賃借設備改良の耐用年数

 

3.2019年12月31日に終了する年度から早期適用可能な新しい及び改訂されたIFRS及び解釈指針

IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」30項は、新しい及び改訂されたIFRSが発行されたが未発効の場合、その潜在的影響を検討し、開示することを要求している。上記のように、これらの開示の十分性は、現在の規制上の焦点となっている領域である。

以下のリストは、2019年11月30日時点のものを反映している。財務諸表が公表される前にIASBから公表された新しい及び改訂されたIFRSに関し、その適用がもたらす潜在的な影響についても検討し、開示すべきである。

 

下表に記載の新しい基準、修正基準、及びIFRIC解釈指針についての解説は、デロイトトーマツのウェブサイト「IFRS基準別の解説」から入手できる。(https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/finance/articles/ifrs/ifrs-kaisetsu-1.html

IFRS

発効日-以後開始する事業年度:

新しい基準

IFRS第14号「規制繰延勘定」

2016年1月1日以後に開始する事業年度の財務諸表にIFRSを初度適用した企業

IFRS第17号「保険契約」

2021年1月1日*

修正基準

IFRS第10号及びIAS第28号の修正-投資者とその関連会社又は共同支配企業間での資産の売却又は拠出

IASBは2015年12月にこれらの修正の発効日の無期限延期を決定した。

IFRS基準における概念フレームワークの参照に関する修正を含む、財務報告に関する概念フレームワークの修正

2020年1月1日

IFRS第3号の修正-事業の定義

2020年1月1日

IAS第1号及びIAS第8号の修正-「重要性がある」の定義

2020年1月1日

IAS第39号、IFRS第7号及びIFRS第9号の修正-金利指標改革

2020年1月1日

*2019年6月、IASBは公開草案「IFRS第17号の修正」を公表した。この公開草案では、IASBがIFRS第17号の強制適用を1年延期することを提案したことから、企業は2022年1月1日以後開始する事業年度からIFRS第17号の適用を要求されることになる。また、IFRS第4号「保険契約」におけるIFRS第9号の一時的免除の確定した期限満了日が1年延期されることから、すべての企業は、2022年1月1日以後開始する事業年度からIFRS第9号の適用を要求される。

IFRS第17号の公表に伴い、保険契約に係る移行リソース・グループ(TRG)が設立された。現時点では、さらなるTRG会議は予定されていない。ただし、TRGは当分の間存続し、論点を本グループに提出できる。20

 

以上

  1.  本ガイドについては、デロイトトーマツのウェブサイト(https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/finance/articles/ifrs/ifrs-ifrs16-20160705.html)を参照いただきたい。
  2. デロイトのDARTのウェブサイト(https://dart.deloitte.com/iGAAP)にて、定期購読により利用可能となる。
  3.  2019年度IFRSモデル財務諸表(英語)については、デロイトのIAS Plusのウェブサイト(https://www.iasplus.com/en/publications/global/models-checklists/2019/mfs-2019)を参照いただきたい。
  4. モデル財務諸表の付録(英語)については、デロイトのIAS Plusのウェブサイト(https://www.iasplus.com/en/publications/global/models-checklists/2019/ifrs-16-appendix)を参照いただきたい。
  5.  内容については、本誌2019年9月号「A Closer Look:収益認識:企業が本人として行動しているか代理人として行動しているかの評価」を参照いただきたい。
  6.  内容については、本誌2019年1月号「A Closer Look:引当マトリクスを使用した営業債権への予想信用損失モデルの適用」を参照いただきたい。
  7.  内容(英語)については、デロイトのIAS Plusのウェブサイト(https://www.iasplus.com/en/publications/global/a-closer-look/intercompany-loan-assets)を参照いただきたい。
  8.  内容については、本誌2017年8月号「IFRS in Focus:IASBが、IFRIC第23号『法人所得税務処理に関する不確実性』を公表」を参照いただきたい。
  9.  本ガイドについては、デロイト トーマツのウェブサイト(https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/finance/articles/ifrs/ifrs-ifrsinfocus-20160722.html)を参照いただきたい。
  10.  本ガイドについては、デロイト トーマツのウェブサイト (https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/finance/articles/ifrs/ifrs-ifrsinfocus-20160722.html)を参照いただきたい。
  11. 内容については、本誌2019年12月号「IASB、『金利指標改革』(IFRS第9号、IAS第39号及びIFRS第7号の修正)を公表」を参照いただきたい。
  12. 内容については、本誌2018年12月号「IFRS In focus:IASB、IFRS第3号における事業の定義を修正」を参照いただきたい。
  13. 本報告書の日本語訳については、サステナビリティ日本フォーラムのウェブサイトにて入手可能である。(https://www.sustainability-fj.org/reference/
  14. 内容(英語)については、デロイトのIAS Plusのウェブサイト(https://www.iasplus.com/en/publications/global/ifrs-in-focus/2017/tcfd-final-report)を参照いただきたい。
  15. 英国デロイトのウェブサイト(https://www.deloitte.co.uk/climatechange/)を参照いただきたい。
  16. 内容については、本誌2018年12月号「IFRS in Focus:2018年7月1日以後に終了する期間の報告-アルゼンチンにおけるインフレーション」を参照いただきたい。
  17. 内容については、本誌2017年7月号「IFRS in Focus:主要な判断と見積りの開示にスポットライトを当てる」を参照いただきたい。
  18. 一連のアジェンダ決定については、企業会計基準委員会(ASBJ)のウェブサイトの「IFRS関連情報」の「IFRS-IC会議」のページ(https://www.asb.or.jp/jp/ifrs/ifric.html)を参照いただきたい。
  19. 本文書については、IASBのウェブサイトから入手可能である。(https://www.ifrs.org/-/media/feature/supporting-implementation/agenda-decisions/agenda-decision-compilations/agenda-decision-compilation-volume-1.pdf?la=en)
  20. 本グループによる議論の詳細(英語)に関しては、デロイトのIAS Plusのウェブサイト(https://www.iasplus.com/en/resources/ifrsf/advisory/trg-ifrs-17)を参照いただきたい。
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