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CEOのサクセッションプラン設計(2)
改訂版コーポレートガバナンス・コードを踏まえた後継候補人材の選抜・育成の考え方と仕組み
コーポレートガバナンス・コードの改訂を受けて、今後上場企業を中心に、CEOを頂点とする経営陣人材の候補者育成と、新たな柱となる後継者計画=サクセッションプランの策定に向けた取り組みが活発化していくものと思われる。そこで今回は、サクセッションプラン策定のプロセス・考え方と実施上のポイントについて解説する。(労務行政研究所:労政時報 第3956号(18. 8.10/8.24)より転載)
CEOサクセッションプランの策定
CEOのサクセッションプランならびに選解任基準の策定について、まず全体の概要をつかむために、[図表4]を見ていただきたい。
図表4 CEOサクセッションプランの二つのタイプ
CEOのサクセッションプランは、大きく、(1)平常時と、(2)非常時に分けられる。また平常時の中でも、CEOを実際に選任するタイミング(1-1)と、それに至るまでの育成期間(1-2)に大きく分けることができる。
今回は誌幅に限りがあること、また多くの日本企業でCEOのサクセッションプランが策定されていない現状を踏まえ、本稿では、(1)平常時のケースにフォーカスした上で、その策定方法を紹介したい。以下では、[図表5]に示した四つのステップに従い、順を追って説明する。
図表5 CEOサクセッションプランの策定ステップ
[ 1 ]STEP 1 :全体構想の検討
CEOを含む経営陣幹部のサクセッションプランの設計に当たり、最初のステップとして全体構想の検討を行う。具体的には、まず自社のコーポレートガバナンス体制を踏まえ、新たにどのような体制・会議体を設定すべきか、それぞれがどのような役割を果たすべきか(権限・責任)を明確にし、その上でサクセッションプランの全体方針を決定していく。
⑴役割・体制・権限/責任の明確化
サクセッションプラン検討の初期時点では、役割・体制は詳細なものでなくてもよいが、誰が、何をするのか、大枠の体制が決まらないことには検討が始められない。典型的には[図表6]のように、取締役会、指名委員会、人材育成委員会、事務局等が役割を分担する形となる。
図表6 サクセッションプランを担う会議体
この中で、ポイントとなるのは各会議体が、どのプロセスに、どこまで関与するかという点である[図表7]。例として、それぞれの会議体における役割について見ていこう。
図表7 各会議体と役割分担の例
- 取締役会
取締役会では、改訂版CGコードにも記載のあるとおり、「サクセッションプランの策定や運用へ主体的な関与を行う」とともに、「後継候補者の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われているか、資質を備えたCEOが選任される状況にあるかを監督する」必要がある。また、会社法では、株主総会で選任された取締役会に、執行部門のトップとなる代表取締役の選解任を委ねていることから、取締役会の本質的な役割は執行部門の監督、すなわちモニタリングにあるといえよう。
このような観点から見ると、取締役会は、サクセッションプランの執行面については、ある程度他の会議体に委ね、プロセス全体が適切に機能しているかを監督する形になると考えられる。
- 指名委員会
指名委員会は、日本の上場企業の95%以上を占める監査役会設置会社または監査等委員会設置会社を念頭に置いた場合、通常は取締役会からの諮問に答申を行うことが主な役割となる。つまり、取締役会に提示する、CEOを含む経営陣幹部の選解任案やサクセッションプランの運用(選抜・育成)について検討を行う会議体となる。
一般的には、CEOのサクセッションだけではなく、経営陣幹部、例えば執行役員やグループ企業の役員人事等まで含めて指名委員会の中で検討をすることが多い。このため、次に紹介する人材育成委員会等との役割分担を明確にしておく必要がある。この点、企業の実例ではオムロンのように、社長指名諮問委員会と他の取締役・監査役・執行役員の指名を分けるケースも見られる。なお指名委員会については、業績評価との一貫性を持たせるために、報酬決定機能を合わせ持つ指名・報酬委員会として運用を行うケースもあるため、各社の状況に合わせて検討していただきたい。
- 人材育成委員会
人材育成委員会は、通常、社長・副社長・人事担当役員等の社内メンバーで構成され、その役割は、サクセッションプランの具体的な運用(人材プールの入れ替え、後継候補者に関する事前スクリーニング、育成のための研修・配置の実施等)がメインとなる。
サクセッションプランを導入・運用する上で必須の会議体ではないが、社内の人材や社内の状況を熟知しているメンバーで実際的な議論を行うという観点から、筆者らが支援を行う場合は設置を推奨するケースが多い。
というのも、前述した指名委員会には、社外取締役等もメンバーに加わり、CEO以外の役員の選解任に関しても議論を行うことになる。このため、サクセッションプラン候補者の絞り込みに関する議論をすべて指名委員会で行うことは、実務的に考えても難しい。そこで、指名委員会で議論を行うに当たっての前さばきとして、人材育成委員会で候補者の絞り込みをある程度行ったり、個別育成プランを検討することが有効となる。
具体的には、人材育成委員会が主体となって、CEOや役員候補となる人材のスクリーニングや育成研修の実施、あるいはタフアサインメントと呼ばれる修羅場を経験させるような異動配置案を検討する形となる。ただし、社内のメンバーを知りすぎているが故に、大胆な人材の選任・登用の提案に踏み切りづらいなどデメリットが生じ得ることにも留意が必要となる。
- 事務局
事務局は、サクセッションプラン等に関する実務を担う。役員等の人事情報や、その後の人材育成・配置とも密接に関係する業務に携わるため、人事部門が担うケースが多く、またその担当者も部長級など一定レベル以上の役職者が担うことが多い。
⑵全体方針の明確化
必要な体制と役割分担を固めた上で、次にサクセッションプランの対象者(範囲)を決定する。経営陣幹部のサクセッションという文脈において、CEOのみを対象とするのか、あるいは取締役や執行役員クラスまで含めるのかという点を検討することが通常であろう。典型的には、まずは対象をCEOポストのみに絞って小さく始め、その後に取締役や執行役員クラスに広げていくほうが、検討も進めやすくなるだろう。
続いて、ここまで決定した内容をサクセッションプランの全体方針(素案)として整理する。最終的にどこまでを開示するかは、各社の方針によるが、参考としてJ.フロントリテイリングと東京エレクトロンの事例を一部抜粋して[図表8]に示した。このように、開示する情報としては取締役会・指名委員会等の責任や、選抜・育成の指針等を示すことが多い。東京エレクトロンの事例では、後継候補者への影響力を排除する目的で、CEOは育成には関与するが指名自体は行わない旨が明記されている点も特徴的といえる。
図表8 サクセッションプランに関する方針の例
[ 2 ]STEP 2 :あるべき人材要件の策定
⑴人材要件の検討
サクセッションプランとは、詰まるところ「誰が」「誰を」「どのように選抜するのか」ということを明確化していく一連のプロセスである。その最も根幹となるのが、あるべき人材要件である。これなしには、「誰を次期経営トップとすべきか」という議論そのものが成立しない。また、社外取締役等の外部者から見た際に、どの観点から評価するか、といった基準がなければ、アドバイスも選抜も難しい。
あるべき人材要件を整理したイメージ例を[図表9]に示した。これらの検討に当たっては、CEOをはじめとする現任の経営陣や社外取締役の意見、業界専門家の知見を取り込むことが重要となる。そのために、通常はインタビューセッションを設けて意見を吸い上げ、事務局で整理を進めながら、経営陣や社外取締役等と複数回のディスカッションを行い、今後のCEOに何が求められるのかを取りまとめて、具体的な人材要件へ落とし込んでいくことになる。
図表9 あるべき人材要件の設定例
⑵カギとなる「ビジネスの方向性」と「価値観」
経営トップに求められる人材要件は、必ずしも一様ではなく、企業を取り巻く事業環境や経営のステージ、各社の経営理念等によって大きく異なる。そうした中でも、共通的に勘案すべきポイントとして挙げられるのが、「(1)今後のビジネスの方向性」と「(2)自社の企業理念・価値観(らしさ)」の2つである。
「(1)今後のビジネスの方向性」については、中長期的に重視する経営戦略や、今後優先的に取り組むべき事業課題とは何かを特定することが求められる。中期経営計画の達成に求められることも重要であるが、CEOの育成に10年スパンの期間を要することを考えると、長期的な視野で、どのような経営人材が求められるかを議論することが必要になるだろう。また、今後の自社および関連業界における長期見通しや、国内外の経済情勢の変化、技術革新の動向もウオッチしておく必要がある。
また「(2)自社の企業理念・価値観(らしさ)」のように、社内・グループで大切にしている価値観も、あるべき人材要件を設定するに当たっては重要となる。経営の指針として、社是や企業理念を明文化している企業も少なくなく、それが各社のカルチャーを形づくっている面もあるからである。こうした企業理念の代表的な例としては、三菱グループの三綱領(所期奉公・処事光明・立業貿易)や、花王の「花王ウェイ」で提示されている価値観(よきモノづくり、絶えざる革新、正道を歩む)などが挙げられる。重視すべき度合いや優先度は各社なりの判断となるが、経営トップ候補たる人材が、どの程度企業理念を理解・体現・実践できているかは、当然考慮に入れられるべきであろう。
なお、あるべき人材要件と選任基準は、同じもののように語られるケースも多いが、筆者らが企業への支援に携わる際には、「人材要件」は文字どおりCEOに求められる要件、「選任基準」はCEOを実際に選考する過程で見ていくポイントという形で区分している。この点も、後に述べる選抜の際に重要となるので、あらかじめ考慮に入れながら検討を進めていただきたい。
⑶CEOに求められる七つの要件
それでは実際に、CEOに求められる人材要件とはどのようなものだろうか。各種資料や過去に実施した多くのインタビューを踏まえた分析結果から、筆者らは七つの要素がこれからのCEOに求められるものと考えている。具体的には、以下のものが挙げられる[図表10]。
図表10 これからのCEO人材に求められる七つの要件
とりわけ現代においては、新たなデジタル技術の登場や外部環境の素早い変化により、自社のビジネスモデルやサービスがディスラプト(disrupt=破壊)されやすくなっている。(5)や(7)といった要素を十分に踏まえつつ、(3)のように迅速な意思決定を行うことができなければ、企業やサービスが市場から退出させられてしまうため、これらの要素を特に重視する企業が増えている。
⑷CEOの人材像を議論し共有する
ここまで見てきたように、人材要件・選任基準の設計・策定には多くの議論が必要となる。こうした議論を重ね、将来の経営を担うCEOの人材像を明らかにしていくプロセスを通じて、経営陣および社外取締役の間での共通認識を醸成していくことこそが、実は最も重要な点といえる。
もちろん、あるべきCEOの人材要件を設定しても、その要件を完全に満たす人物は現実にはほとんど存在しない。それでも、次期CEOになるべき人物は、設定した人材要件のうち、どの点に秀でているのか、また次期選任においては、どの項目を重視すべきか─などを議論できる土台をつくることが重要である。
後編に続く>>
執筆者紹介
村中 靖(むらなか やすし)
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員/パートナー
淺井 優(あさい ゆう)
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 マネジャー
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