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女性活躍と成長はエクスポネンシャル発想で考えよ
働き方改革×女性活躍推進シリーズ:第1回
働き方改革の成果を短期的に追い求めても、真の改革には至らず、ましてや女性活躍にもつながらない。本稿では本来追求すべき改革後の姿とはどのようなものか、そして具体的にはどのような踏み込み方が必要なのかについて、人(ここでは、働く人)の「成長」に着目して考察してみたい。
「長い時間働くと成長する」というのは、幻想である
日本企業において、働き方に制約のある人がこれまで組織で活躍できなかった一番の原因は、「長時間労働することによって人は成長する」という思い込みでマネジメントを行ってきたことにあると考える。結果として、結婚・出産などのライフイベントを経ることで、女性は時間的・物理的な制約が生じるため、「周囲と同じスピードで成長することは難しい」考えられてきた。
図1:制約とは
一般的に「働き方改革」では、長時間労働を是正していくことによって、上記図のような働き方に制約のある人材が活躍しやすくなる環境作りを目指すことが多いが、その根底には、「定時で帰れるような業務量が配分され・定時で帰ることが推奨される風土であれば、体力的な差や時間制約にかかわらず男性でも女性でも活躍できるはずだ」という考え方がある。しかし実際には、労働時間を短縮することばかりに注力してしまい、個々の成長に資するマネジメントが出来ず、担う業務の幅を広げられない・仕事の質が上がらないという状況に陥っているケースが非常に多く、女性活躍につながっていない。
これは、「人の成長」に対する思い込みや考え方を改めて議論せずに、労働時間短縮のための施策を盲目的に進めてしまうことが多いためだ。例えば、PCシャットダウンやノー残業デーの導入、早帰り退社時間の設定等をとにかく進めてしまう等がこれに該当する。効率的に仕事を進めることを優先しがちになり、試行錯誤や成果を最大化するような高いハードルへの挑戦は、長時間労働リスクが高まるため極力避けるようになった結果、「人の成長」が難しくなるという先入観の悪影響がより進み、本当に人が成長しづらくなってしまうのだ。
図2:人の成長に対する旧来の考え方
「長時間働かないと人は成長しない」という思い込みは、時間・得ることのできる経験・発揮能力が比例している「線形」の思考であると言えよう。予測できる範囲で「組織が定めた」一定の経験を、一定期間積ませて、あらかじめ定められた「バー」に到達することが、いわゆる「成長」であると考えられてきた。その考え方が、働き方に制約のある人材の活躍を阻害してきたのである。
図3:線形の思考が女性活躍を阻害してしまうステップ
エクスポネンシャルな成長が不確実性の高い将来において必要となる
このような線形の考え方に支えられた組織は、一定の経験を、時間をかけて積み上げさせることで「自社の中の今の業務」を早くこなす人材を多く作り出すことが可能となるため、短期的な生産性向上には適した考え方であると言える。しかし、これまで以上に不確実性が高まりつつある将来のビジネスの世界において、社員のどんな経験がどんな価値を生み出すのか、予測することが難しくなっている。このような状況下では、自社にとって価値ある人材づくりのためには、ランダム且つ意図的に経験の幅を広げさせ、1つの経験から角度を変えながら価値創出力を飛躍的に高めていくような「指数関数的(エクスポネンシャル)」な成長の概念が必要となってくる。
エクスポネンシャルとは、指数関数のグラフが急上昇するカーブを描くように、飛躍的な発展を遂げる企業のメカニズムを説明する際に用いられる概念である。そこにおいては、初期には必ず期待以下の失望が訪れ、とある分岐点を超えたあとには、想像を超えた大きな変化が訪れる。歴史的に、人類やテクノロジーの進化の世界で起こってきた形である。
図4:エクスポネンシャルとは
働き方に制約のある人材の長期的な成長と、将来の組織での活躍を実現してもらうためにも、この発想が欠かせない。
なぜなら、現状の業務の生産性を短期的に向上させるだけでは、不確実な将来で戦える組織を作ることは難しいからだ。したがって、働き方改革を成功に導くためには、短期的生産性を重視して長時間働くことを是としてきた発想から逃れ、「1つ1つの得られた経験から新しい価値を生むことが出来る力」をつけることを「成長」とみなして人材を育成していく必要がある。価値創出力の向上のためには、時間ではなく個人個人が得られた経験の質や多様性と、そこから個人が生み出す価値を徹底して磨かせることに加えて、個々人が生み出す価値を組み合わせて組織としての提供価値の向上に換えていく能力こそ磨いていかないといけない。「〇〇を経験させたら、〇〇は出来るだろう」という課題の与え方ではなく、意図的に偶発的な状態を作り出し、意図的に種類の異なる経験も同時にさせた上で、個人が得られた経験の質や多様性を組み合わせて、価値に換える経営としての工夫が必要だ。
図5:「指数関数的」な成長
具体的にマネジメントはどうしたらよいのか
図6:制約ある人材の成長に資するマネジメントをするための3ステップ
従業員にとって、真の成長とは、会社の現在の業務ができるようになることではない。今見えていない世界で、付加価値を創出できようになることを目指さなければならないのだ。そのために大事なことは、「線形の成長」の固定概念・思い込み・幻想を、疑い、徹底的に討議し、リセットすることだ。その中で、「時間」という概念と「人の成長」の関連性について、会社としての思想・考え方を刷新する取組みが必要である。今自社において、線形の思考によって構築された仕組みで人の育成や評価を行っていないか? これからは、どんな人材を優秀人材として報いるのか?自社の組織における人の「成長」とはどういうことか?こういった問いを、経営層含めマネジメント層が徹底的に議論する場を持つことが有効である。そのような機会を通年で定期的に設け、討議するプロセスの中で、改革すべき対象が具体的に見えてくるだろう。
図7:考え方を改めるべき3つの思い込み
成長の速度や角度、加えて、業務の品質や顧客の満足度も、時間に比例しないと割り切ることが出来たら、今度は現場において短時間で高品質の成果を上げてもらうための実務上の課題を意識的に与えることが必要になってくる。上位者が答えのわかっていることに試行錯誤させることには実はあまり意味がない。わかっていることは具体的にわかりやすくさっさと伝えてしまい、プラスアルファの新しいことに時間をかけさせるのだ。この方が、上司の指示に合わせて何回も同じことをやり直して長時間労働するよりも、能力がスピーディーに上がる。期間と時間制約の中で、工夫をして、新しいアイデアを込める技術を身につけさせることが成長への近道となるのである。
もちろん、このような仕事の与え方・させ方は、決して簡単ではない。しかし、このような仕事の与え方を、日々のマネジメントの中で根気強く丁寧に出来るかどうかで、時間制約のある子育て・介護に従事する女性・体力面で男性と差がある女性の活躍の明暗が分かれる。短時間で成果を上げることが出来るようになれば、その人材の時間の使い方や投じ方は、組織の中で一つのパターンとして許容されるようになるという好循環が生まれる。一旦こうなれば、この循環が勝手に回り始める。
働き方改革で本来追求すべき改革後の姿は、本稿で述べてきたような従業員それぞれの真の成長を伴う生産性向上と新しい価値創造ができる組織作りである。これからの企業は、まさしくエクスポネンシャルな成長を遂げなければ生き残れないと言われているように、組織がそうあるためには、女性活躍と個々人の成長もエクスポネンシャル発想で考えるべきであると言えよう。
著者:
児玉 都(デロイト トーマツ コンサルティング シニアコンサルタント)
※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。