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【連載企画】教えて!デロイトさん!(第4回)

医療機関の組織・人事・労務について、デロイトさんが皆さんの疑問にお答えします。

組織・人事・労務の専門家であるデロイトさんが、日ごろ皆さまが業務に携わる中で生じる疑問に対して、Q&A形式でお答えしていきます。今月は、今、多くの医療機関が着手されている「医師の働き方改革について」です。是非ともご一読ください。

医師の働き方改革の定着を図る仕組みづくり

相談者:

私は急性期病院で事務長をしています。昨年度より医師の働き方改革について院内プロジェクトを立ち上げ、勤務実態の把握と課題の分析を行い、勤務実態に即した勤務形態への変更と業務の在り方の見直し、一部多職種へのタスク・シフト/シェアを検討してきました。その結果、殆どの診療科は時間外労働はA水準(時間外労働時間 年960時間/月100時間未満)となり、外科系の一部の診療科の医師のみB水準(時間外労働時間 年1860時間以下)となる見通しです。これは、勤務実態から考えて現実的に不可能なラインではありません。しかし、時間外労働の上限の問題は2024年4月の法施行時のみの話ではなく、病院を続けていく限りは永続的にクリアしなければならない課題であり、また、B水準は2035年度で廃止になると聞いています。今後、目指す時間外水準の維持及び更なる改善を図っていくためには、各医師の意識や取組み姿勢が重要と考えています。医師の働き方改革について各医師の意識や行動を定着させる仕組みについてアドバイスを頂けないでしょうか。

デロイトさん:

ご質問ありがとうございます。既に院内で医師の働き方改革について着手されており、対応方針も明確化されていますね。取組みは比較的に進んでらっしゃると思います。

今回のご相談は、働き方改革に対する病院の方針を実現・維持するために医師の意識を定着させる仕組みづくりということですね。

医師の働き方改革については、先ずは2024年4月の法施行に向けた対応が必要ですが、仰るように時間外労働の上限規制は一時的にクリアできればよいものではなく、絶えず守り続けなければなりません。そのためには、医師一人ひとりが働き方改革の目的を正しく理解し、働き方の意識を改革することが重要です。私共がご支援させて頂く際は、各診療科や特に改革が必要な診療科について、現場の医師を巻き込んだワーキング形式を用いて実態の把握や課題整理、対応方法等を検討します。それらを通じて現場の医師の意識変革に繋がるようにアプローチしますが、貴院では、現場の医師を巻き込んだ取組みはどのようにされていますか?

相談者:

働き方改革のプロジェクトの初段階で、診療科の責任者から現場医師に意見を聞いて課題を整理しました。その後、委員会や各種会議体、業務の見直しの検討の際に、都度、現場の医師にも意見を聞きました。しかし、定期的・継続的な取組みではなかったため、現場の医師に働き方の見直しを継続的に行う必要性をどの程度理解頂いているか分かりません。

デロイトさん:

これまでの取組みによって、働き方改革への着手に関しては現場の医師に伝わっているものと推察します。今後の課題としては、働き方の見直しを継続的に取り組む意識を定着させることと考えます。

施策の一例としては、院内の働き方改革のプロジェクトを継続し、定期的に時間外労働の実態や働き方改善に向けた取組みをモニタリングすることや現場の医師を巻き込んだワーキング等を組成し、現場視点での検討や診療科間で取組み内容や成果を共有することなどが考えられます。

また、人事評価において働き方改革の視点に基づく評価の指標や仕組みを盛り込む方法もあります。

相談者:

ありがとうございます。継続的なアプローチの必要性や方法について検討してみたいと思います。

働き方改革を推進するための人事評価の視点

デロイトさん:

医師の時間外労働時間の削減によって診療の量が減少すると病院収益の減少にも繋がり、ひいては職員に還元する賞与や昇給の原資等にも影響が生じます。働き方改革への対応によって病院の業績や処遇の悪化を招かないためには、より生産性を高めて病院経営上必要な診療の量の達成が必要です。この点から、働き方改革への対応と併せて業績評価や人事評価を見直すこともよいかと思います。

相談者:

人事評価の方法について具体的に教えて頂けますか。

デロイトさん:

はい、働き方改革に応じた評価の視点としては、①時間外労働の水準を遵守しつつ求められる診療目標を達成した場合に評価する(業績評価)、②MBO(目標管理)等で各診療科で働き方見直しのための自発的な取組みを策定し達成度を評価する、③診療科のマネジメントがより重要となるため、診療科責任者に対するマネジメントの役割を明確化し役割の遂行度合いを評価する、などが考えられます。それぞれ少し具体的にご説明すると、

「①時間外労働の水準を遵守しつつ求められる診療目標を達成した場合に評価する(業績評価)」では、各医師の時間外労働時間をモニタリングして水準を遵守頂くとともに、病院経営上必要な診療目標を各科で設定し達成度を評価します。評価指標は、一般的なものでは入院・外来患者数や手術件数などの診療実績や医業収益(売上)が挙げられます。一歩踏み込んだものでは科別損益を適用しているケースもあります。

「②MBO(目標管理)等で各診療科で働き方見直しのための自発的な取組みを策定し達成度を評価する」では、各診療科で改善に向けた取組みと達成度を評価するための評価指標及び改善目標を設定します。評価指標は、時間外労働時間自体や有給休暇取得率、各種会議時間、タスクシフト・シェアの適用事例など、取組み内容に基づいて様々考えられます。

「③診療科のマネジメントがより重要となるため、診療科責任者に対するマネジメントの役割を明確化し役割の遂行度合いを評価する」では、①・②と重なる部分もありますが、業績管理や労務管理、リスク管理、リーダーシップなど部門マネジメントの役割と求める行動を定め、求める行動を取れているか否かを定性的に評価します。

これらの評価は、結果に応じて賞与等の処遇に反映することで改善に向けた取組みへの医師のモチベーションを喚起できます。

また、医師の研鑽と労働時間に関する考え方によって労働時間に該当しない自己研鑽については、論文執筆や学会発表等の成果に対して医療の質向上・病院の評価向上に貢献する視点から、人事評価上での加点や別途報奨制度等によって処遇する方法が考えられます。

上記は評価の視点の一例ですが、働き方改革と経営の両立、各診療科や医師一人ひとりの自発的な働き方見直しの意識と行動に繋がるのではないでしょうか。

相談者:

参考になりました。働き方改革に伴う評価の在り方について検討してみたいと思います。

次回掲載予定

医師の働き方改革の進め方のポイントについて、デロイトさんが回答しました。引き続き次回もこのテーマで皆様からのご質問に答えていきたいと思います。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2022/10

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