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【連載企画】教えて!デロイトさん!(第2回)

医療機関の組織・人事・労務について、デロイトさんが皆さんの疑問にお答えします。

これから1年間にわたって、組織・人事・労務の専門家であるデロイトさんが、日ごろ皆さまが業務に携わる中で生じる疑問に対して、Q&A形式でお答えしていきます。今月・来月・再来月の3か月間は、今、多くの医療機関が着手されている「医師の働き方改革」についてです。是非ともご一読ください。

B水準とは何か?

相談者:

初めまして。私はとある地方の病院で診療科部長をしています。今回、病院長から「残業を減らせ」と言われたのですが、特に施策も思いつかず困っています。うちの科は人数も少なく、スタッフは働き方改革にあまり乗り気ではありません。B水準を取得すれば、とりあえず今のまま特に何も変えずに済むような噂も聞いたのですが、B水準について教えていただけませんか?

デロイトさん:

ご相談ありがとうございます。先生もお調べになっているとは思いますが、ざっくりと言いますと、B水準は地域医療確保暫定特例水準といい、休日労働を含めた時間外労働が年1,860時間以下で上限を設けることができる水準となります。A水準は年960時間です。同じ年1,860時間が上限となるものとして、ほかに大学病院等の医師が他病院に副業・兼業にいくケースを想定した連携B水準や初期・後期研修医に適用されるC-1水準、厚生労働大臣が指定する特定分野で高度技能取得を目指す医師に適用されるC-2水準などもあります。

昼夜問わず救急対応をしている救命救急センターや曜日を問わず毎日長時間の手術を行う診療科、大学病院等において外勤先で宿日直許可なしの当直をされている場合は年960時間を超える可能性がありますので、仰るとおり、B水準を取得することが今の診療活動を維持する前提にはなるかと思います。ただ、B水準の指定を受けるためには、いくつか超えなければならないハードルがあります。

B水準の指定を受けるためのハードルとは?

相談者:

ハードルですか。それは具体的にどのような内容でしょうか。

デロイトさん:

はい、まず「追加的健康確保措置」という施策を行うことが義務となり、36協定に規定する必要があります。追加的健康確保措置とは、「連続勤務時間制限」「勤務間インターバル」「代償休息」と「面接指導・就業上の措置」と言われています。後者の面接指導は現行でも時間外労働が月100時間を超える前に産業医等による面接が行われていると思いますが、前者の連続勤務時間制限等はこれまでにないルールでなかなかハードルが高いと思っています。具体的な要件は以下です。

 

① 始業から24時間以内に9時間の連続した休息時間を確保=15時間の連続勤務時間制限・・・(通常の日勤・宿日直許可のある宿日直に従事させる場合)

② 始業から46時間以内に18時間の連続した休息時間を確保=28時間の連続勤務時間制限(宿日直許可のない宿日直に従事させる場合)

③ 上記の連続した休息時間中にやむを得ない理由により発生した労働に従事した場合は、当該労働時間に相当する時間の代償休息を事後的に付与する (翌月末までに付与する)

※「始業」は、事前に勤務シフト等で予定された労働の開始時

※C水準指定を受ける研修医の場合、②は始業から48時間以内に16時間の休息=28時間の連続勤務時間制限となる

B水準の指定を受けようとすると、医師の働き方はどのように変わるか?

相談者:

宿日直許可は管轄の労働基準監督署が出すもので、宿直週1回/人・日直月1回/人などの基準があるのは、最近記事でも話題になっていたので知っています。ただ、私は医師なので、当院が宿日直許可をとっているか、よく分かっていないのですが、具体的にいうとどう働き方が変わるのですか?

デロイトさん:

一般的には、平日の場合、日勤開始から夕方に宿直当番に入り、翌朝まで宿直されることが多いと思います。いわゆる寝当直であれば連続9時間は休息できると思いますが、宿日直の許可があっても通常の労働として救急搬送対応や緊急手術・検査などが入ると連続9時間の休息は難しくなりますよね。連続9時間中に実働した時間分は、実働発生日の翌月末までに「代償休息」として休む必要が生じるのですが、もともと予定していた週休日に代償休息を重ねても認められず、日勤帯のどこかで何とか休みを作ることになります。つまり、診療科の人数が限られている場合や、外来やカンファレンス・手術が連日あるような場合は、日勤帯のマンパワーが減ることになるので、休息を取ることは困難でしょうし、実際に休息した場合の周囲に与える影響は大きいでしょう。

また、宿日直許可がない場合は、宿直明けは16時間のインターバルが必要となるため、宿日直明けは必ず夕方16時には退勤しなければならなくなります(明け翌日の日勤出勤時刻が8時の場合)。宿直明けに外来の午後診がある場合や夕方に患者ICや手術が入る場合、その他、主治医として抱える業務があればなかなか厳しいかと思います。

この追加的健康確保措置を含む指定要件を満たせなくなれば、都道府県知事によるB水準等の指定取り消しも有り得るそうですので、そうなれば実質的に診療活動を縮小せざるを得なくなるのではないかと危惧します。

相談者:

なるほど・・・。宿直明けや代償休息で空いたコマを非常勤医師で埋めるのは人件費的に難しいと思いますし、病院長からは経営観点上、稼働率を下げるなときつく言われているので、これは困りましたね。まずは当院が宿日直許可をとっているのか、うちの診療科でB水準に係る時間外労働の医師がいるのかを事務長に聞き、その上で対策を考えたいと思います。ちなみに、このB水準やC水準は病院単位で取得するものなのですか?

デロイトさん:

そうですね。まずは現状を確認いただくことが優先です。その上で、措置が必要となりそうでしたら、またご相談ください。最終的にはチーム主治医制や他科との合同当直、或いはタスクシフトによる手術等時間の効率化は必要かもしれませんが、その前にできることもあるかと思いますので。

また、B水準やC水準は医療機関の全ての医師に適用されるのではなく、指定される事由となった業務に就く医師のみに適用されます。ですので、例えば、B水準になる医師の所属する診療科が1人体制であれば1人のみになりますし、複数いれば診療科単位で指定を受けにいくことになるでしょう。

勤務間インターバル等以外でのハードルとは何か?

相談者:

よく分かりました。その他のハードルとしては何がありますか?

デロイトさん:

「医師労働時間短縮計画の策定」「評価機能による評価の受審」の2つです。医師労働時間短縮計画は、地域医療体制確保加算のために令和4年9月末までに厚生局に出されることになるかと思いますが、B水準指定のための短縮計画は、都道府県に提出して医療機関勤務環境評価センタ-(以下、評価センター)による評価を受けなくてはなりません。我々は厚生局に出すとき以上に、労働時間などの労基法上の取組が厳しく見られるのではないかと推察しています。

なお、評価を受けて最終的にはS~Dの5段階で判定されますが、B評価以下をとると、何等かのさらなる改善取組を示す必要があり、D評価をとれば、評価センターによる訪問調査を受け、要求される書類の整理やそれに対する指摘への対応などで指定を受けるまでに相当の時間を要する可能性が考えられます。

それらを加味すると、2024年4月の法改正直前での申請は非現実的で、2022年の冬ごろ・・・遅くとも2023年の春か夏には申請をしておかなければならないでしょう。また、短縮計画には前年度の取組実績を記載する欄もありますので、少なくとも労働時間は把握しておかないと計画書を書けなくなります。

相談者:

でも、短縮計画は病院が作るもので、現場の医師にはあまり関係ないことと思っていますが、違いますか?

デロイトさん:

評価のガイドラインは公示されており、評価項目は約90項目ほどあります。多くは各科での取組というよりは病院全体に係る項目が多いのですが、中には「少なくとも月に2回、各診療部門の長または勤務計画管理者が管理下にある医師の労働時間について、把握する仕組みがある」という項目や、医師に対する健康診断の実施率なども問われますので、労働時間だけでなく、診療科での管理ルールや所属する各医師の意識付けを見直していく必要が出てきます。

相談者:

分かりました。事務の方に診療科に関係する項目がどの程度あるか一度確認しておきたいと思います。どうもありがとうございました。

 

次回掲載予定

今回は、前回に続き、医師の働き方改革の進め方のポイントについて、デロイトさんが回答しました。次回もこのテーマで皆様からのご質問に答えていきたいと思います。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2022/8

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