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地域医療再編に向けて

持続可能な地域医療体制を確保するために

地域医療構想の実現に向けた各医療機関の対応方針についての再調査が行われています。2022年度及び2023年度において、地域医療構想に係る、民間も含めた各医療機関の対応方針の策定や検証・見直しを行うとされており、改めて地域医療再編が必要な理由について整理します。

持続可能な地域医療提供体制の確保に向けて

今後、多くの地域において人口減少や高齢化に伴う医療ニーズの質・量の変化、労働力人口の減少が見込まれています。そうした中でも、地域住民の健康や生活を守るために、質の高い医療を効率的に提供できる体制を確保していくことが求められているところです。

そのために、いわゆる「団塊の世代」が75歳を迎える2025年の医療需要と病床の必要量について、医療機能(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)ごとに推計し「地域医療構想」として策定され、この実現に向けて、各地域で病床の機能分化・連携に向けた協議が進められてきています。

一方で、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、地域医療構想に関する取組の進め方については、一時検討が停滞していた地域があるのも事実かと思われます。そして、改めて今回の新型コロナウイルス感染症の感染拡大により病床の機能分化・連携等の重要性が認識されています。

今般、コロナ禍も3年目を踏まえ、第8次医療計画(2024年度~2029年度)に新興感染症等への対応が記載事項として追加されることもあり、2022年度及び2023年度において、地域医療構想に係る公立・公的病院に加え、民間も含めた各医療機関の対応方針の策定や検証・見直しが行われることとなりました。

地域医療構想の実現に向けて、コロナ禍で顕在化した課題を含め、各医療圏域における医療機関の機能分担及び連携強化が強調されています。

医療ニーズへの変化にどのように対応するか

我が国の人口動態を見ると、現役世代の減少が続く中、いわゆる団塊の世代が2022年から2025年に75歳となり、後期高齢者が急速に増加していきます。そして、2040年に入院患者数のピークが見込まれています。

この入院の医療需要については、65歳以上の人口が増加する二次医療圏では急性期の医療需要が引き続き増加することが見込まれる反面、65歳以上の人口が減少する二次医療圏では急性期の医療需要が減少することが見込まれ、また、既に急性期需要のみならず入院需要全体が減少に転じている地域も出てきています。厚生労働省の調査(出所:第3回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ)では、2020年までに329の二次医療圏中、89(27%)の医療圏が、さらに2035年までには260(79%)の医療圏がピークを迎えると見込まれています。

また、外来の医療需要については、全国では2025年にピークを迎えますが、2020年までに329の二次医療圏中、214(65%)の医療圏で既にピークを迎えていると見込まれています。

在宅の医療需要については、65歳以上から徐々に受療率が増加していき、85歳以上での受療率が急激に増加します。そのため、全国での在宅の医療需要は多くの地域で増加し、203(62%)の二次医療圏は2040年以降も増加していくと見込まれています。

こうした人口や医療需要の変化から、医療と介護の複合ニーズが一層高まることや、介護施設等へ退院する患者数が増加していき、各医療機関における医療従事者の負担が増加することも見込まれます。

マンパワー不足が深刻化している

人口動態の変化として、高齢者は急速に増加する一方、生産年齢人口は減少傾向が続いています。そして、2025年以降はさらに減少が加速すると見込まれています。周辺人口の減少及び高齢化が進んでいる地域の医療機関では、とりわけ職員の高齢化が問題となっている場合が多いのではないでしょうか。2040年にかけて、現在50歳代の団塊ジュニア世代の定年退職が続くと、存続が危ぶまれる医療機関がますます増えるのではないかと思われます。

加えて、医師の働き方改革の問題があります。これまでの日本の医療は医師の長時間労働により支えられてきており、今後、医療ニーズの変化や医療の高度化、少子化に伴う医療の担い手の減少が進む中で、医師個人に対する負担がさらに増加することが予想されます。こうした中、医師が健康に働き続けることのできる環境を整備することが持続可能な地域医療提供体制を維持していく上で重要です。2024年度から医師の時間外・休日労働時間の上限規制が開始されますが、当該影響により地域の救急医療体制が脅かされる恐れがあります。また、診療体制の縮小を検討する医療機関が増えてきています。

地域医療再編による医療機能の分化と役割分担の推進

こうした医療ニーズの変化と医師の働き方改革の両方に対応しながら、医療の質を確保・向上していくためには、「地域で高度な医療を支える柱となる病院」と「地域包括ケアシステムを支える医療機関」との役割分担による体制づくりが重要です。圏域ごとに特定の病院に医師等を集約して「手術」や「救急」に確実に対応できる体制をつくり、それ以外の病院では増加する後期高齢者の入院ニーズを担うなど、その役割を見直していく必要があるということです。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大時の医療提供に当たっては、特定機能病院(大学病院等)において重症者、公立・公的病院や専門病院など地域の中核病院において中等症患者、その他の医療機関において軽症患者の対応を行いつつ連携を行うなど、医療機関の機能分化と相互連携、更には、後方病床の確保が重要なテーマとなっています。

さらに今年度からは、外来医療の機能の明確化・連携を進めるために、外来機能報告制度が開始されます。紹介患者への外来を基本とする紹介受診重点医療機関の承認や、少なくとも外来医師多数区域における開業希望者に対して地域に必要とされる医療機能を担うよう求めることが検討されています。

公立病院においては、「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」が2022年3月に総務省から発出され、役割・機能の最適化と連携の強化を含む経営強化の取組みの必要性が示されました。その中でも、持続可能な地域医療提供体制を確保するため、地域の実情を踏まえつつ、限られた医師・看護師等の医療資源を地域全体で最⼤限効率的に活⽤するという視点と新興感染症の感染拡⼤時等の対応という視点が重要視されています。

地域医療構想の検討状況については、今後、2022年度は2022年9月末及び2023年3月末時点の状況が各都道府県のホームページ等で公表されていくこととなります。様々な制度・仕組みが設けられていますが、地域医療再編により限られた医師・看護師等の医療資源を地域全体で最⼤限効率的に活⽤し、地域に本当に必要な医療機能を持続可能な形で確保していくことが各医療機関に求められています。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2022/7

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