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【連載企画】教えて!デロイトさん!(第11回)

医師の働き方改革の後に起こり得る課題

医師の働き方改革の進捗はいかがでしょうか。B水準やC水準の評価センターへの申請などについて、概ね目途がつきましたでしょうか。働き方改革を真剣に進めれば進めるほど、対応すべき課題は労働時間だけでないことに気づかされます。その中でも、給与の問題に関する疑問にお答えしていきたいと思います。

時間外休日労働の「80時間」という数字だけに固執すると過少申告の強要に陥りかねない。

デロイト:

院長、ご無沙汰しています。デロイト トーマツのヘルスケア専門チームです。医師の働き方改革について、事務長から評価センターへの申請も無事終わったと伺いました。お疲れ様でした。

相談者:

はい、おかげ様で書類も整備でき、有難うございました。勤怠管理マニュアルの助言や労働に該当する行為の整理、さらに現場医師と協議して各診療科に合ったやり方を考えてもらい、去年の今頃と比べて随分と進展してきたと思います。

デロイト:

実際に形だけで終わらせないためには、これからが大事ですね。働き方改革については一段落されたという理解ですが、いかがでしょう。

相談者:

いえ、まだまだ課題だらけです。特に心配事の一つは、時間外休日労働の「月80時間以内」に現場が過剰反応していないかです。働き方改革は本質的には時間数だけの話ではないと思っていますが、「80時間」という数字情報が優先されると、各診療科で帳簿上の数字合わせが横行して過少申告を促進する風土につながりかねません。でも、患者の生命を守るために必死で働いた時間が、記録上なかったことにされるのは、医師にとって非常に不愉快な話だと思うのです。法対応が重要だというのは理解していますが、本気で改革しようと腹を括った以上、医師のやる気を削ぐような組織・風土に陥らないように目を光らせておかなければなりません。

業務効率を高めるほど、医師の時間外手当収入が減っていく。

デロイト:

働き方改革に真面目に取り組んで「損をした」という気持ちにならないようにしなければなりませんね。しかし、本気で改革した結果、時間外労働が削減されることになり、必然的に給与(時間外手当)も減ることには変わりないと思います。基本的に、給与が減って喜ぶ医師はいないと思いますが、この点について、何か院内で検討はされているのですか?

相談者:

当院の場合、循環器内科・消化器内科・心臓血管外科などの長時間労働の傾向がある診療科の医師や給与ベースの低い若手医師から、給与上の対策をしてほしいという要望が出ています。給与は中長期的に考える課題だとは思っていますが、放置するわけにもいきませんので、当面は定額残業手当という形で給与の安定を図ろうとは思っています。

デロイト:

定額残業手当は何時間分を含む時間外手当かを金額とともに明示する必要があるなど、いくつか留意点がありますので、ご注意ください。ただ、給与の安定を図ることができるならば、給与が減ることを理由に働き方改革に反対するケースは減らせられるのかもしれませんね。

予定外業務を献身的に頑張ってくれた医師を評価したいが、超過勤務は抑えなければならない。

相談者:

定額残業手当は非管理職の医師に一律に設けています。しかし、公平にしたつもりが悪平等と捉えられる問題も出てきました。例えば、一律に定額残業手当を設けた場合、働き方改革を頑張った診療科と、特に忙しくもなく影響もなかった診療科で給与上、差異がつかないことになります。

経営側としては、他の医師がやりたがらないような予定外の診療などを頑張った医師には当然報いたいし、強いプレッシャーの下で高重症度の患者の治療にあたっている科は特に評価したい。そういった医師や診療科ほど時間外労働時間を減らすために相当な努力を要するはずですから。

デロイト:

なるほど。しかし、診療科間で露骨に給与差異をつけるのは、なかなか難しいですね。重症度や予定外対応などを重視すれば、循環器内科などが高く評価されるケースもあろうかと思いますが、例えば、稼働率や手術件数、診療科別損益など経営上一般的に重視する指標を見ると、重症度の高い患者を受け持つ診療科は相対的に評価が下がることもあり得ます。

ですので、なぜその指標で評価するのか?という大義名分や根拠がとても重要ではないかと思います。根拠が曖昧なまま偏った評価制度を導入すると、他の診療科や医師の声が強まった際に耐え切れなくなるのは目に見えていますよね。

毎月の固定給与を高めた上で、インセンティブの支給対象を絞り込み、効率化を図る。

相談者:

偏った評価を行うことで、医師が大量退職したという病院事例も聞きますから、あまり過度なことはできませんね。しかし、予定外対応で頑張った医師への報酬を増やしたい。でも、「働き方改革を推進して労働時間を減らす」という課題もあります。これは一見相容れない課題だと思うのですが、いかがでしょうか。

デロイト:

ある病院様で、若手の固定給与UPとインセンティブの見直しの助言を行ったことがあります。その病院様では、若手医師の収入が基本給の時点で相場より低く、時間外手当が減ると生活への影響がかなり大きい状態でした。実際、アンケートをとっても中堅医師は現給与水準に大きな不満はなかったのですが、若手は不満だらけでした。そこで、若手医師の収入増への対策として、原資配分を見直して、若手の基本賃金カーブを月5〜10万円ほど高めるような改定を行いました。

月次の固定給の引上げができたことを確認後、次は、予定外対応関係の月次インセンティブについて議論しました。多種多様な議論をしたのですが、最終的に、インセンティブの対象手技を拡大しつつ、インセンティブの支給対象者数に制限を設けるという方針で落ち着きました。

なぜ月次インセンティブの支給対象者数を絞ったかというと、総原資のコントロールという経営的な視点ももちろんですが、どちらかといえば、より少人数で密度濃く働く方が得だと思ってもらうためです。例えば、希少症例の対応時、経験値になるからといって、時間帯を問わず主治医や若手全員を呼び出すような働き方はご時世的には望まれません。予定外対応は評価しますが、例えば、夜間は2人までがインセンティブの対象と決めた症例であれば、気軽に3人目の医師を呼ぶことにブレーキをかけることが狙いです。ただ、手技や症例、ペアを組む医師の経験値等によって必要人数は変わると思いますので、どこまできめ細かく適正人数を設定するかは非常に重要な論点です。

相談者:

夜間の対応は指導医レベルよりも若手の方が多いですから、若手の給与を底上げしつつ、その他の対応実績による手当部分は効率的に配分するというわけですね。インセンティブの議論は参考にできそうです。ただ、当院はあまり原資がないので、ベースアップは難しいと思っていますが、原資の再配分についても、ぜひ一度客観的な視点で分析して頂きたいです。

キーワードは「生産性」。生産性の高い状態を定義し、生産性を高め続けられる環境整備を行う。

相談者:

ここまでお話を聞いて、予定外対応をしたからといって何でもかんでも評価するのは違うかもしれないと思いました。実際、夜間に入院をとったという医師がいても、実は入院オーダーを出しただけで、処置等の実働を行ったのは別の医師だったというケースもあります。だったら互いに業務を補いあって効率よく、何件も救急を受けてくれる方が生産的といえるでしょう。働き方改革からのストーリーという意味でも、「頑張った医師とはどういう医師か?」をきちんと定義しておくことが重要だなと気づきました。

デロイト:

院長が今、仰ったように、私もこれから「生産性」がキーワードになってくるのではないかと感じています。生産性といっても、一人で効率的に行うことやチームでの効率性を評価する切り口もありますし、逆に生産的でない状態をどう定義するかで、優劣を判断する基準も変わります。これらは、医療機関ごとに異なると思いますので、コンセプトの部分をしっかり議論していきましょう。

相談者:

ありがとうございます。ちなみに、毎日「生産性」を問い続けると、せっかく働き方改革を進めていて、逆に現場が疲弊しないだろうかと心配してしまうのですが、この点は何か配慮すべきでしょうか。

デロイト:

先日、某病院の中堅医師とこの生産性をテーマに話していたとき、「目標管理を行ってほしい」という要望を受け、とても興味深いと思いました。例えば、診療科ごとに半期で患者数の達成値を決め、その目標値を四半期で達成すれば休暇を増やしてほしいというものです。つまり、生産性を高めて病院が求める業績を早期達成したのだから、達成後は休むなり、研究に充てるなり、自由に使える時間を増やしてほしいということですね。営業職のような発想だなと思いましたが、実際、毎日・毎月、終わりのない診療活動を続けてフラフラの状態よりも、「あと、少しだから頑張ろう」と思える方が、医師もメリハリをもって働きやすいのだろうと思います。

相談者:

金銭以外にも、そういった切り口は当院にも当てはまりそうです。ぜひ参考にさせて頂きます。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2023/07

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