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【連載企画】教えて!デロイトさん!(第15回)

「心理的安全性」の確保で、円滑なコミュニケーションが生まれる職場を作る

地域における医療提供体制を維持するにあたっては、医療従事者が持続的に働ける環境が必要です。勤務環境の改善に向けた取り組みを既に進めている医療機関から寄せられる相談事項等をもとに取り組みにあたっての留意点についてQ&A形式で解説します。

円滑なコミュニケーションにはお互いの「関係性の質」が重要である

相談者:

私は、東北地方にある病院の事務長です。最近、ある部門で業務上のミスが目立っており、いつか重大インシデントが起きてしまうのではないかと大変危惧しています。その部門の職員に話を聞いたところ、上司と部下間で上手くコミュニケーションが取れていないようでした。管理職は「部下に的確に指示を出している」と主張していますが、部下は「上司の指示は一方的で自分たちの意見を全く聞いてくれない」と感じているようでした。また、チームメンバー同士でも、言葉を交わすことが少なくなっているようです。管理職には、マネジメントや部下育成の研修を定期的に実施していますが、管理職によって理解度や実践状況の格差が生じています。組織内で円滑にコミュニケーションを取ってもらうためにどのように取り組めばよいでしょうか。

デロイト:

ご相談ありがとうございます。おっしゃるとおり、医療現場でのインシデントは、コミュニケーションを起因として発生するケースは少なくありません。問題が生じる前に早期に何らかの対応が必要だと思います。人事制度等の仕組みだけを変更しても解決は難しく、円滑なコミュニケーションには、まず組織内での信頼関係の構築が必要です。信頼関係がないと互いの意思疎通が難しいのではないでしょうか。信頼関係を構築するにあたって、「関係性の質」に着目します。下の図は、ダニエル・キムが提唱した「組織の成功循環モデル」を基にデロイトが加工した図表ですが、関係性の質が向上すると互いの共通理解が進み、思考の質、行動の質が高まることで、組織としての成功が増えていきます。組織としての成功が増えれば、チーム内の相互の信頼関係も高まっていきます。関係の質向上のためには、個々が職場での自己表現や意見の提案を恐れずに自由に発言・行動できる状態である「心理的安全性」が確保されていることが重要です。

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心理的安全性の構築に向けて、管理職が重要性を実感し主体的に場づくりに取り組むことが大切

相談者:

なるほど、円滑なコミュニケーションには信頼関係が重要であり、信頼関係を構築するために「関係性の質」向上に着目する必要があるのですね。「心理的安全性」について、もう少し詳しく教えてもらえますでしょうか。

デロイト:

心理的安全性とは、「チームの誰もが、非難される不安を感じることなく、自分の考えや気持ちを率直に発言できる状態」のことです。心理的安全性は4つの要素で構成されており(「話しやすい」「助け合える」「チャレンジができる」「異質を認め合える」の4つ)、これらの要素が整うことで、組織・チームのメンバーが不安や恐怖を感じることなく、安心して業務に取り組むことができるようになります。

ある病院の事例についてお話しますと、その病院は歴史的に上意下達の文化が強かったため、部下が上司に意見や本音を言えない風土がありました。また、職員は主体的に仕事をする意識が希薄となっていたようです。そこで、以下の取組みを行ったことで心理的安全性が高い組織・チームづくりを進め、若手職員が積極的に意見を出し、自発的に仕事に取り組むようになったようです。

①心理的安全性を構築するための、下地づくりを行った

  • 院長・事務長をはじめとしたトップ主導で進めた
  • 管理職に心理的安全性の正しい理解、重要性を説明した

②上司を独りにしないようにした

  • 上司同士の気づきの共有の場を設定した
  • 上司にとって”いつでも相談できる場や人がいる”状態を構築した

③共感し・受け入れる対話の場づくりを行った

  • リーダーが聞き役に徹し、メンバーが自分の考えを発信できるようルールを決めた
  • 部門長やリーダーが若手職員の意見を聞き入れる姿勢を示した

心理的安全性の確保に向けて、管理職がその重要性を実感し主体的に場づくりに取り組むとともに、管理職自身が気軽に相談できる場を作ることが大切です。また、心理的安全性を担保するために、管理職自身が自己開示することが必要です。例えば、管理職から「自分が夢中になれることは何か」「これまで一番うまくいった仕事は何か」「自身の弱みは何か」などの話をすると、部下としても胸に秘めている思いを話しやすくなるのではないでしょうか。

上司・部下間の相互理解を促進するためには、コミュニケーションの量と質を高めることが重要

相談者:

上司・部下間の相互理解を促進していくには、具体的にどのようなことに取り組めばよいでしょうか。

デロイト:

上司・部下間の相互理解を促進するためには、コミュニケーションの量と質を高めることが重要です。コミュニケーションの量を高めるには、部署内で会議やミーティングの機会の増加、上司・部下間での1on1ミーティングの実施などが考えられます。また、質を高めるには会議やミーティングの進行方法の工夫や相手の意図を引き出す質問スキル(コーチングスキル)を習得することが有効です。1on1ミーティングとは、頻度高く上司・部下間で面談を行い、相手(部下)のことを中心に話をする手法です。ミーティングを繰り返すと、マンネリ化することがあるため、運用ルールを決めてスムーズに進められるようにすることが肝要です。
質問スキルについては、相手に考えてもらうための質問を投げかけることで、より深く相手を知り、行動を促すことができます。同じ質問であっても、相手のタイプによって質問の仕方は臨機応変に対応する必要があります。

医療機関においてはコミュニケーションの不足・不和が重大なインシデントにつながりかねません。そのため、職場内の心理的安全性を確保し、コミュニケーションの量と質を高めることで職員間の関係性の向上につながり、ひいては円滑なコミュニケーションの実現が果たされると思います。ぜひ、これらを意識して取り組んでみてください。

執筆

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2024/5

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