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【連載企画】医師の働き方改革の進め方

第6回:病院の経営戦略と医師の働き方改革

2024年に向けて医師の働き方改革は医療機関において避けて通れないテーマです。 これまで、第2回~第5回まで働き方改革の重要性や進め方のポイント、診療報酬の改定動向に触れてきました。 第6回では、周辺医療機関との機能分化・連携なども含む、病院の経営戦略や将来のあり方検討との関連性を解説します。

病院の経営戦略・将来のあり方検討と医師の働き方改革

医師の働き方改革は、医師の勤務環境を改善すればよいという単純な話ではありません。多くの医療機関が、医師不足や偏在といった環境や人口減少・高齢化の進展による需要の減少・変化といった環境にさらされています。これらの環境変化に対応するため、国は様々な施策を一体的に実施しており、その一環として医師の働き方改革も位置付けられています。そのため、医師の働き方改革の検討は、周辺医療機関との機能分化・連携なども含む、病院の経営戦略や将来のあり方検討などとセットでの議論・検討が必要となります。さらにこれらの議論に実効性を持たせるために、都道府県や自治体などを巻き込んだ議論が期待されています。

 

医療機関を取り巻く経営環境

人口減少や少子高齢化を背景に、医療機関を取り巻く経営環境として需要面と供給面の双方から多くの課題が発生しています。まずは医療需要の減少や変化という側面です。人口減少が進むことにより医療需要自体が減少し、また少子高齢化を背景に、求められる医療が急性期から回復期や慢性期、在宅医療などへシフトしています。さらに供給面からも少子化による生産年齢人口の減少により、医師を中心とした医療スタッフの不足や地域偏在が課題となっています。人口減少や少子高齢化のトレンドは多くの地域で見られるため、これらの課題は今後より一層顕在化してくると考えられます。

このような外部環境の変化に対応するため、国は様々な施策を一体的に推進しています。地域医療構想では、都道府県において2025年の医療需要と病床の必要量を推計し、その実現に向けて様々な施策を実施しています。また、医師の働き方改革として、2024年度からは時間外労働の上限規制が医師にも適用されることとなりました。さらにそれらに歩調を合わせる形で、診療報酬制度においては、機能分化・連携強化や地域包括ケアシステムの推進、医師の働き方改革の推進を後押しするための改定が行われ、2022年3月29日に示された「公立病院経営強化ガイドライン」では、公立病院において上記を一体的に検討し、持続可能な医療提供体制を構築していくことの必要性が示されています。

医師の働き方改革は、人口減少や少子高齢化という国の社会課題に対応するための様々な施策の一環として行われています。

 

病院の経営戦略の方向性

上記のとおり、人口減少や少子高齢化を背景に、需要面・供給面、そして国の施策の面からも医療機関を取り巻く経営環境は大きく変化しています。そのため、医療機関側にも変化が求められており、変化に対応できない医療機関は、今後より一層厳しい経営状況に転じていくものと想定されます。医療機関として環境変化に対応するための検討ポイントとしては、「単独病院での環境変化への対応」と「複数医療機関を巻き込んでの環境変化への対応」の2つの観点が考えられます。

まずは「単独病院での環境変化への対応」です。環境の変化に合わせて、提供する医療機能を見直す(急性期機能を減らして回復期や慢性期・在宅医療にシフトする)、そして、診療科や病床規模についても見直すという考え方です。現在の診療報酬改定の考え方では、提供している医療機能や地域が求めている医療機能と施設基準等で届け出ている医療機能にミスマッチがあると減算されますが、逆にマッチしている場合には増収を目指すことも可能です。地域の医療ニーズに合致した機能へ転換すると同時に適正規模へ見直すことにより、経営と働き方のバランスを確保していくという考え方です。

もう一つの観点である「複数医療機関を巻き込んでの環境変化への対応」は、複数の病院による役割分担・連携を推進していくパターンと、複数の病院を統合して集約化するというパターンがあります。何れのパターンにおいても重要となるのが、地域での診療機能の重複を解消することです。需要が減り供給体制も脆弱な中での診療機能の重複は極めて非効率です。非効率な部分を取り除きながら、医療機関の経営改善や働き方改革を推進していくという考え方です。

 

医師の働き方改革検討時に持つべき視点

医師の働き方改革も、地域全体で検討が必要な視点と個々の病院で検討可能な視点の、2つの視点から考えていく必要があります。

個々の病院で検討可能な視点としては、タスクシフトや業務改善といった手法です。これらについては次号にて解説をしたいと思います。

もう一つの地域全体で検討が必要な視点では、医師という限られた医療資源を、地域全体で最大限効率的に活用していくための手法についての検討が必要となります。地域を巻き込んだ議論が必要不可欠となり、検討を進めるに大きなハードルも想定されますが、特に人口減少の激しい地方においては、避けては通れない議論と考えます。これらの議論を行うためには、急性期機能を担う病院の集約化や、役割分担とそれに伴う医師の集約・再配置が必要となり、地域全体を俯瞰した調整機能の存在が不可欠となります。都道府県や市町村町などの自治体が調整機能を担ったり、地域のNo1病院が調整機能を担うなどの体制構築が必要となります。

今後、各都道府県で第8次医療計画の策定が行われ、各地域の医療提供体制のあり方について議論が進むほか、令和5年度中には、各自治体病院が「公立病院経営強化ガイドライン」に基づいた経営強化プランの策定が行われます。これらを契機ととらえ、医師の働き方改革を含む、地域全体の医療提供体制のあり方検討について、地域全体での議論の推進が望まれます。

 

次回掲載予定

次回は、各病院で検討可能なタスクシフトや業務改善といった手法や事例について解説予定です。是非次回もご覧いただければ幸いです。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2022/4

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