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【連載企画】医師の働き方改革の進め方

第7回:医師の働き方改革を進める上でのタスクシフト、業務改善

2024年4月に向けて、様々な医療機関で医師の働き方改革を進めている最中だと思います。これまでの連載では、医師の働き方改革の重要性や診療報酬改定による誘導、経営戦略などを紹介してきました。本稿では、具体的にどのようなタスクシフトや業務改善が行われてきているのか、事例を挙げて解説していきます。

医師の働き方改革とタスクシフト・業務改善

2024年4月から医師の働き方改革の中心である時間外労働の上限規制が開始されます。どの医療機関においても、どのようにして医師の労働時間を規定内に抑えるか、削減するかが課題になっています。

その中で、多職種で医師が行っている業務をカバーして、医師が医師にしかできない業務に専念できる環境を作り、医師の労働時間の短縮に繋げようとする取り組みが「タスクシフト」です。

代表的なものとして、「医師事務作業補助者」によるタスクシフトが挙げられます。医師が医師にしかできない業務に集中できるよう「医師事務作業補助者」を配置し、「医療文書の作成代行」や「診療記録への代行入力」など医師の事務作業をサポートする役割を担っています。診療報酬でも、「医師事務作業補助体制加算」として評価されています。最近の診療報酬改定を見ると、年々点数が上がっており、国としても推進していることが見て取れます。

このようなタスクシフトや業務改善を通じて、医師の働き方改革は具体的に進められています。

 

多職種によるタスクシフトの推進

事務以外の職種にも「タスクシフト」は広がっています。

看護師に関しては、2015年に「特定行為に係る看護師の研修制度」が創設されており、他のコメディカル職に比べて早くからタスクシフトが進んでいます。具体的には、特定行為研修を受けた看護師は、気管カニューレの交換や人工呼吸器の離脱など38行為を、医師の指示の下で、手順書に従って行えることになっています。

他の職種では、2021年10月から、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士の4職種について法改正が行われ、業務範囲が広がりました。

<法改正により拡大した業務>

■ 診療放射線技師

  • RI検査のために、静脈路を確保し、RI検査医薬品を投与する行為、投与終了後に抜針及び止血する行為
  • 医師又は歯科医師が診察した患者について、その医師又は歯科医師の指示を受け、病院又は診療所以外の場所に出張して行う超音波検査

■ 臨床検査技師

  • 超音波検査において、静脈路を確保して、造影剤を接続し、注入する行為、当該造影剤の投与が終了した後に抜針及び止血する行為
  • 採血に伴い静脈路を確保し、電解質輸液(ヘパリン加生理食塩水を含む。)に接続する行為
  • 静脈路を確保し、成分採血装置を接続・操作する行為、終了後に抜針及び止血する行為

■ 臨床工学技士

  • 手術室等で生命維持管理装置や輸液ポンプ・シリンジポンプに接続するために静脈路を確保し、それらに接続する行為
  • 輸液ポンプやシリンジポンプを用いて薬剤(手術室等で使用する薬剤に限る。)を投与する行為、投与終了後に抜針及び止血する行為
  • 心・血管カテーテル治療において、身体に電気的負荷を与えるために、当該負荷装置を操作する行為
  •  手術室で行う鏡視下手術において、体内に挿入されている内視鏡用ビデオカメラを保持し、術野視野を確保するために操作する行為

■ 救急救命士

  • 医療機関に搬送されるまでの間(病院前)に重度傷病者に対して実施可能な救急救命処置について、救急外来においても実施可能とする

出所:第78回社会保障審議会医療部会 資料1「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案の閣議決定について」

タスクシフト・業務改善の事例

取組事例①-多職種によるタスクシフトの取組みと医師の意識改革

医師が医師にしか出来ない業務に集中するため、多職種協働でタスクシフトを行っている医療機関の事例を紹介します。

その医療機関では、手術に伴う外来検査等の準備について、医師が主導するのではなく看護師が中心となって入院前の対応や退院調整等の入院に伴うマネジメントを行ったり、医師事務作業補助者が手術予定患者の書類準備や、術前検査の指示入力、パスオーダーの代行入力等の事務業務を行ったりしています。

このような医師のタスクシフトを進めるには、医師の意識改革も必要です。

総合病院では診療科が複数あり、また多くの医師が勤務しています。それぞれがそれぞれのやり方をしていては、タスクシフトは進みません。例えば「A診療科では術前検査を当日朝実施する。B診療科では前日に実施する。C診療科では術日1週間前に実施する。」というように各診療科がバラバラのルールで運用されていると、その分サポートする事務やコメディカルは大変です。(同じ診療科であっても、手術の種類によっては術前検査の実施タイミングが異なることもあります。)

病院として統一的なルールを決め、医師もそれを理解・順応していただくことで、タスクシフトが円滑に進んでいきます。タスクシフトは医師以外の職種だけが頑張るのではなく、医師自身も意識を変えて進めていくものであると言えます。

 

取組事例②-医師の業務マニュアルを用いた業務改善

医師の業務マニュアルを作成して、業務効率化を進めている医療機関の事例を紹介します。この医療機関では、医師は大学医局からの派遣が中心のため、毎年のように異動がありますが、その都度医師に当院のルールや注意事項などを説明することに苦慮していました。また、医師が多忙な中で説明を行うために、医師が覚えていてくれないことも度々発生していました。

そこで、病院長が中心となって医師の業務マニュアルを作成しました。業務マニュアルの内容は事務的な内容や、診療におけるルール等が細かく記載されています。医師の業務マニュアルは看護師からの評判も良く、新任の医師が院内ルールを忘れている時には、「医師の業務マニュアルに書いてあるルールなのでお願いします」といった形で、看護師から直接お願いができるそうです。

当該業務マニュアルは、今後も適宜更新されていくと思われます。文章として整理されることで、説明する看護師等は毎回口頭で医師に説明する必要がなくなり時間を取られなくなります。また、医師も分からないことがあったときにすぐにマニュアルを見て調べることができるため、誰に聞くべきか考える時間、誰かに依頼する際のストレス、実際に誰かに聞いている時間が軽減され、お互いにとっての業務効率化に繋がるものと考えられます。

<業務マニュアル内容の一例>

■ 事務的な内容

  • 組織図、会議・委員会組織図
  • 病院の意思決定プロセス
  • 診療、ケアの管理・責任体制
  • 就業規則など事務手続き等について    など

■ 診療におけるルール

  • 救急車受け入れ当番について
  • 外来で複数診療科併診となっている場合の患者対応について
  • 指導料の算定について
  • 病床の利用、ベッドコントロールについて    など
     

医師の働き方改革に関する好事例などは厚生労働省管轄のHP「いきいき働く医療機関サポートWeb(http://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/)」、通称“いきサポ”に多くの事例が掲載されています。こちらのHPでは、医師以外にも看護師や薬剤師等多職種の業務改善事例も掲載されていますので、ぜひ参考にしてみてください。

 

医師業務のタスクシフトや業務改善は結果的に病院全体・他職種に好影響を与える?

ここまで医師の働き方改革に向けたタスクシフトや業務改善の事例を紹介しましたが、これらの取組みは医師だけでなく他職種、ひいては病院全体に好影響を与えてくれます。

病院全体への好影響は、費用面を考えると分かりやすく、人件費(時間外労働に支払われる費用)の削減になります。

他職種への好影響は、見識が広がること、医療従事者(専門職)としてより患者の診療に近い業務ができること、そして、他職種の時間外労働の削減に繋がる可能性があるということです。一見、タスクシフトをすることで医師以外の職種の業務が増え、時間外労働が増えそうといった考えもよぎるかと思いますが、実際のところ、医師の労働時間の長さが他職種にも悪影響を及ぼしていることも少なからずあると考えられます。

時間外労働の要因や繁忙の理由について看護師にヒアリングすると、「医師の指示出しが遅いので対応が遅くなる」「医師の外来が終わらずに病棟に来るのが遅い」など医師の業務時間の長さに起因する理由が必ずといってよいほど聞かれます。看護師以外の職種でも医師の労働時間の長さが原因となり、自部署の労働時間が長くなってしまうことは往々にしてあるのではないでしょうか。

医師の働き方改革を進めることは、病院全体・他職種の働き方改革を進めることに繋がる可能性が考えられます。医師以外の職種の方は、医師だけでなく自分や自部署のためにも医師の働き方改革に積極的に取り組んでいただきたいと思います。

 

次回掲載予定

次回は、ICTを活用した医師の働き方改革推進について解説予定です。是非次回もご覧いただければ幸いです。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2022/5

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