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【連載企画】医師の働き方改革の進め方
第8回:医師の働き方改革を推進するためにどのようにICTを利活用するか
36協定で定める医師の時間外労働時間に上限を設ける「医師の働き方改革」の実施まで、いよいよ2年を切る中、これまでの連載では、医師の働き方改革の重要性や診療報酬改定による誘導、経営戦略、タスクシフト・業務改善への取り組み方などを紹介してきました。本稿では、ICTの導入・利活用の側面から医師の働き方改革に対して何ができるかを考えてみます。
2024年が迫る中でのICT検討
36協定で定める医師の時間外労働時間に上限を設ける「医師の働き方改革」の実施まで、いよいよ2年を切る中、本稿では、ICTの導入・利活用の側面から医師の働き方改革に対して何ができるかを考えてみます。
まず注意しなければならないのは、ICTの検討・導入には時間がかかることが多く、それを理解した上で2024年に向けた時間的余裕を持った検討を進める必要があるという点です。
もちろん、たちまち明日から試すことの可能な事例が皆無ということではありませんが、課題を整理し、それを解決できる可能性を持ったICTソリューションを調べ、最終的に費用対効果も含めた評価を行い導入する、という一連の検討には、時間がかかることの方が多いでしょう。
働き方改革の一手としてのICT利活用を気にされているのであれば、検討未着手の医療機関の方はもちろん、既に検討に着手されている医療機関であっても、2024年4月という期限とそこに至る上記の検討プロセスを意識して頂く必要があります。
働き改革に資するICTの検討方針
医療機関におけるICT利活用というと、電子カルテシステムや画像管理システムなどの診療支援システムから検討する、という医療機関の方も多いかもしれません。
しかしながら、医師の働き方改革における議論では、それらを前提に、より便利に使いこなしたり、効率よく利用するためにサポートしたりする機能や運用も大切な検討要素となり得ます。
国の検討においても、次に挙げるような機能が議論されてきました。
これらは、電子カルテシステムや医療情報共有基盤を前提に、医師・職員が効率的にそれらを使えるようにするためのサポートツールです。
また、他にも具体的な取り組みとして、次のような事業が国で実施・促進されています。
これらの取り組みもまた、電子カルテシステムなどの診療情報の電子化を前提として、いかに遠隔地との診療・情報共有を容易に行うか、という課題に対応するものと言えます。
つまり、電子カルテシステムが広く導入・利用されている中では、「いかにそれらを効率的に利用し、業務運用するか」がポイントになる、と言い換えることができるでしょう。
このような効率的なシステム・運用は、十分な事前準備と職員全体の正しい理解があって初めて効果を発揮するものであり、時には専用のデータを整備したり、既存の運用ルールの変更を検討したりするように、職員の時間・コスト面での負担も伴うことがあります。
働き方改革のために必要な作業によって、残業時間が大幅に増えてしまうといった本末転倒の事態にならないよう、専門の検討チームを作ったり、電子カルテシステムの導入・更新タイミングに合わせて計画的に対応したりするなど、組織全体で準備・体制検討を行うことが大切です。
とはいえ、システム投資計画や利用中のシステムの更新タイミングが2024年に上手く合う医療機関ばかりではありませんので、費用対効果が高く、導入も容易なICTサービス・パッケージの利活用を考えることも併せて検討することが必要だと考えられます。
それでは、具体的に「費用対効果が高い」「導入が容易」なサービスとはどのようなものでしょうか。本稿ではその代表的な例として「クラウドサービス」「AIによる業務サポートシステム」と「サブスクリプションサービス」を考えてみます。
具体的な検討例
クラウドサービスの利用
その導入のしやすさ、管理負荷の低さから、電子カルテシステムを含むICTシステム全般で、クラウド版のサービス提供が始まり、採用され始めています。
今年度の診療報酬改定や医療情報システムの安全管理に関するガイドラインでもクラウドサービスについて触れられているとおり、適切なクラウドサービスの利用は今後の医療機関においては不可欠と言えるでしょう
とはいえ、先にも述べた通り、電子カルテシステムやその支援システムをクラウドサービス化するためには、運用変更を始めとした多くの検討が必要となり、多くの時間・負担がかかるため、診療業務と切り離して使えるクラウドサービスでの検討も一つの方策であると思われます。
例えば、テレビ会議システムやオンラインチャットツールの導入や環境整備などです。
こうした機能は、新型コロナ感染症の拡大に伴うリモート業務実施を前提に暫定的に導入した施設も多く、既に多くの医療機関で取り組み済みかもしれませんが、その後サービス提供側も新たな契約・サービス形態を多く提供しているため、少しの工夫・設定変更や、サービス契約の見直しでも快適性が飛躍的に向上する可能性があります。
AIの利用
多くの医療向けAIシステムが世の中に登場していますが、特に医療現場で広く利用され始めているものとして診断支援AIがあります。診断支援AIを利用したシステムには、問診形式で答えることで可能性のある病名候補を導出してくれるシステムや、画像検査データに対する読影診断を補助してくれるシステム等があります。
大きく運用を変更しなくても、医師の診断業務に関する、時間的補助、見落とし予防の精神的負担軽減などに効果があることに加え、既に医療機関に導入されている電子カルテシステムや画像管理システムに後付け・連携利用できるものも多いため、導入の負担は少ないと考えられます。
サブスクリプションサービスの利用
特に画像診断の世界では精度面だけではなく、サービス提供の面でも変化が始まっています。AIサポートを備えたクリニック向け内視鏡システムを月額固定で利用可能となるサブスクリプションサービスや、放射線撮影装置メーカーの自社診断アプリケーション群のすべてにアクセス可能なサービスの提供などです。このようなサービスについて、自施設の画像検査装置を扱っているシステムベンダーに追加提案を依頼してみることも、短期間で働き方改革を実現するための一つのヒントになるかもしれません。
まとめ
本稿では、医師の働き方改革について、医師の直接的な業務効率の向上を中心に記載してきました。
一方で多職種協働・タスクシェアリングを前提とした働き方改革も当然意識する必要があります。多職種協働をICTで支える際の中心となる電子カルテシステムの検討については、先にも述べた通り、時間もお金もかかるため、医療機関においては、しっかりと計画して、関係者が納得できる検討・導入する必要があります。
既に検討中のICTサービス・製品についてはそのまま検討を進めて頂きながら、必要に応じて短期的に検討・導入できるサービスも検討することで、医師はもちろん、医療機関そのものの効率的な働き方改革への準備を進めて頂くことをお勧めします。
これらの課題への取り組みに関して不安・疑問がある医療機関の担当者の方は、当法人のコンサルタントにご相談いただければ幸いです。
執筆
有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア
※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2022/6
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