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マイナンバーカードの医療分野での活用に向けた取組事例
マイナンバーカードの診察券としての利用について
政府は令和4年度末までに、マイナンバーカードがほぼ全国民に行き渡ることを目指しており、マイナンバーカードの利用シーン拡大等を通じて、国民にとって利便性の高いサービスの提供に取り組んでいます。本稿では、マイナンバーカードの医療分野での活用方法の1つである診察券としての利用について事例を交えて考えます。
マイナンバーカードの普及及び利用の推進と医療分野での活用
マイナンバーカードのICチップには電子証明書などの機能を搭載しており、民間事業者を含め様々なサービスに活用することができます。例えば、マイナンバーカードの電子証明書で本人確認を行うことで、コンビニエンスストアで住民票の写しや印鑑登録証明書を取得できるほか、確定申告などの行政機関に対する電子申請などに利用できる、ネット証券などの民間サービスの申込みに利用できる等、様々なシーンでの利用が進められています。
既に医療分野では、令和3年(2021年)10月からマイナンバーカードの健康保険証利用を含むオンライン資格確認の本格運用がスタートしており、診療時における確実な本人確認と保険資格確認を可能とすることで医療保険事務の効率化が図られています。併せて、医療機関において本人同意のもと、健診情報や薬剤情報など過去に受診した医療機関での医療情報の閲覧を可能とすることで、より良い医療の提供に向けた取組みが行われています。
また、同じ基盤を活用して令和5(2023)年1月から、電子処方箋の運用開始が予定されています。医療機関と薬局間での情報共有が進み、患者にとってより適切な薬学的管理や、実効性のある重複投薬防止等の実施が期待されています。
このようなマイナンバーカードの普及及び利用の推進には、セキュリティの確保や個人情報保護の確保を図ることを前提に、国民(利用者)がマイナンバーカードの利便性を実感できることが重要です。
医療分野では、患者が利便性の向上を実感できる取組みとして、従来の診察券の代わりにマイナンバーカードを利用することについても検討及び実証が行われています。
マイナンバーカードの診察券利用の事例
マイナンバーカードの電子証明書を利用した診察券利用に関する実証事業の事例はいくつかあります。オンライン資格確認の運用が始まる前の事例として、平成29年(2017年)度に群馬県・前橋市内の複数診療所において、JPKI(公的個人認証サービス)の活用による診療受付(チェックイン)の実証を実施しており、マイナンバーカード1枚で複数の診療所の診察券を代替できるようにしました。また、令和2年(2020年)度には、愛知県小牧市において、マイナンバーカードICチップ内に診察券番号を登録することで、市民病院の診察券としてマイナンバーカードを利用可能とした事例があります。これらの流れを受けて、オンライン資格確認の仕組みを活用したマイナンバーカードの診察券利用に係る実証・調査研究事業が企画されており、厚生労働省から委託を受けて、当法人でも令和2年(2020年)度と令和3年(2021年)度に事業を実施しています。※1
※1 事業については厚生労働省のHPにおいて以下の報告書が掲載されております。
(厚生労働省)マイナンバーカードの診察券利用に係わる実証・調査研究報告書(令和3年3月)
(厚生労働省)マイナンバーカードの医療機関等間での診察券利用に係わる実証・調査研究報告書(令和4年3月)
マイナンバーカードの診察券利用におけるメリット及び課題
マイナンバーカードを診察券として利用することのメリットについて考えます。
まず、患者側のメリットとしては、複数の医療機関の診察券をマイナンバーカード一枚に集約できるようになります。保険証等とマイナンバーカードは既に一体化されているため、医療機関の受診の際、患者がマイナンバーカードを持っていくだけで事足りるようになり、利便性の向上が考えられます。
医療機関側のメリットとしては、マイナンバーカードでの受付とオンライン資格確認の利用を併用することで、レセコンでの患者情報(氏名、生年月日、保険資格情報等)の入力作業を軽減できます。また、診察券の発行業務や、診察券自体の不具合(磁気カード不良等)による再発行業務の負担が軽減できます。加えて、 顔認証カードリーダーを用いることによる「なりすまし」被害を防止し、本人確認の厳格性及び医療安全の向上が期待できます。
但し、このようなメリットの享受に向けて、課題もあります。
例えば、診療所・クリニック等で診察券を受付順に並べることで順番の管理に利用する等、従来の紙の診察券を利用した受付業務の運用を一部変更する必要があるかもしれません。また、システムや自動再来受付機等に改修が必要となる可能性があります。
マイナンバーカードの診察券利用だけにフォーカスしてメリット、課題を考えると上記のようになりますが、マイナンバーカードの利用シーンが増えることによって、オンライン資格確認や電子処方箋の普及、及び利用の推進にもつながる可能性があります。つまり、他の取組みと合わせて総合的な効果を見込める取組みとなる可能性があると考えます。
おわりに
オンライン資格確認の仕組みによらない前橋市や小牧市の事例、オンライン資格確認の仕組みを利用した厚生労働省の実証・調査研究の事例など、マイナンバーカードを診察券として利用するに当たり、実現方式はいくつか考えられます。オンライン資格確認の仕組みを利用する方法では、現状導入されているインフラを活用することにより、技術面・運用面の課題を極力排した形で、マイナンバーカードを診察券として利用することが可能であることの示唆を得ています。実際に、既にオンライン資格確認の導入後、診察券の発行を廃止しマイナンバーカードを診察券の代用として利用している医療機関もあります。※2
令和5年(2023年)4月からはオンライン資格確認の導入が原則として義務付けられるほか、令和6年(2024年)秋には現行の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化する方針も示されています。今後、患者がマイナンバーカードを持参し医療機関を受診するケースが増えることが予想される中、オンライン資格確認や電子処方箋の導入にあわせて、患者サービスを向上する1つの手段としてマイナンバーカードを診察券として利用することを検討してみてはいかがでしょうか。
※2 出所:医療機関等向けポータルサイト オンライン資格確認 導入事例サイト
執筆
有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2022/11
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