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医療情報のガバナンス確保に向けた医療ICT人材の確保・育成について

2022年度の診療報酬改定を振り返って

2022年度の診療報酬改定では、新型コロナウィルス感染症のまん延に伴うオンライン診療への期待や、頻発するランサムウェアに代表されるコンピュータウイルスによる被害への対応必要性等から、医療ICTにかかる項目に多数の改定が加えられました。本稿では、注目を集める医療ICTへの取組みを推進し、安全に管理運用するための医療ICT人材の確保について考えてみます。

診療報酬改定でより強く求められようになった医療情報ガバナンス

2022年度の診療報酬改定では、新型コロナウィルス感染症のまん延に伴うオンライン診療への期待や、頻発するランサムウェアに代表されるコンピュータウイルスによる被害への対応必要性等から、医療ICTにかかる項目に多数の改定が加えられました。

本稿ではこれらの改定を通して医療機関に求められるようになった、医療情報システムおよび医療データ(以下「医療情報」)のガバナンス確保に、どのように取り組んでいくべきかを考えてみます。

診療報酬改定における取り組みの振り返り

医療情報のガバナンス構築を考えるにあたって、まずは診療報酬改定項目について振り返ります。

2022年度の改定では、2020年度に引き続いての重点課題である「働き方改革」や「新型コロナ感染対策を含む地域包括ケアの推進」「質の高い医療の推進」において、次のようなICTの利活用への取組みが挙げられました。

■許可病床数400床以上の医療機関では、診療録管理体制加算の要件に医療情報システム安全管理責任者の配置及び院内研修の実施が要件化された

■診療録管理体制加算の施設基準要件に、標準規格の導入に係る取組状況等について届け出ることが求められるようになった

■「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の見直しを踏まえ、情報通信機器を用いた場合の初診について、新たな評価が行われた

■オンライン資格確認システムを通じて患者の薬剤情報又は特定健診情報等を取得し、当該情報を活用して診療等を実施することに係る評価が新設された

■医療機関連携に係る指導料や訪問看護指導料の算定要件から、「対面で行うことが原則」の記載が削除されて、ビデオ通話機器の使用が一般的に認められるようになった

また、これらの改定項目に対して、厚生労働省の「健康・医療・介護情報利活用検討会」(以下「検討会」)でも次のようなディスカッションや示唆がされています。

■2022年5月27日に開催された検討会の「医療等情報利活用ワーキンググループ」(以下「ワーキング」)において、「平時の予防対応」が示され、人材育成、情報共有体制の強化、脆弱性危機への対応の徹底を図る必要があること

■400床以上の病院では、専任の医療情報システム安全管理責任者を配置するだけでなく、少なくとも年に1回程度、職員向けに情報セキュリティ研修を実施するといった、医療従事者へのセキュリティ対策研修の充実が必要となること

■日常診療を取り戻すための復旧対応の議論として、長期に診療が停止しない方策として、まずは短期的にバックアップの実施について徹底を図る必要性、また、長期的にはランサムウェア攻撃への対策としてのバックアップの暗号化、秘匿化の必要性があること

特にバックアップに関しては、ランサムウェア被害の復旧に時間がかかった事例での大きな要因でもあることに加えて、厚生労働省の調査(図表1)でも、約半数の医療機関が不安を抱えていることが示されていることから、大きく取り上げられたものと考えられます。

 

図表1 厚生労働省の調査結果

また、今年度(2022年度)からの「医療機関の立入検査」では、安全管理体制において、都道府県の担当者が次の4点について確認し、必要な指導・助言等を行うこととなっています。

(1) PC(パソコン)やVPN機器(ルーター等)などの脆弱性情報を収集し、速やかに対策を行える体制が確保されていること

(2) 「診療継続のために直ちに必要な情報」をあらかじめ十分に検討し、データやシステムのバックアップを確実に行っていること

(3) 不正ソフトウェア対策を講じつつ復旧するための手順をあらかじめ検討し、BCP(事業継続計画)として定めておくとともに、サイバー攻撃を想定した対処手順が適切に機能することを訓練等により確認すること

(4) 医療情報システムの保守会社等への連絡体制(サイバー攻撃を受けた疑いがある場合)や厚労省への連絡体制(当該サイバー攻撃により医療情報システムに障害が発生し、個人情報の漏洩や医療提供体制に支障が生じる、またはそのおそれがある事案であると判断された場合)が確保されていること

ただし、医療機関の担当者、都道府県の検査担当者の多くがセキュリティ対策の専門家ではないと想定されることから、「システムベンターの業界を挙げた協力に期待する」考えも示されており、医療機関およびシステムベンダー側での業界における自助努力を期待されている側面も垣間見えます。

 

医療ICT人材の不足

このように、2022年度の診療報酬改定では、過去に例をみないほどICTに関する様々な議論がなされています。

ここで留意しておくべきポイントとして、これらの改定項目は、一般職員の注意・努力だけでは達成できないものも多く、医療機関内外に、医療情報の利活用及びガバナンス確保のための人材がいて、始めて担保されるという点です。

そのため、今後は医療機関内外のICTへの期待や情報管理組織の課題も踏まえた、医療情報の利活用推進とガバナンスを支える人材の確保・育成についての議論も活発化するものと考えられます。

 

医療機関における医療情報の利活用・ガバナンス確保への期待・必要性については、次のような成長の流れと課題の増加で捉えることができます。(図表2)

①病院情報システムの普及・拡大

■病院情報システムおよび周辺システムの普及とその利便性への期待値の上昇

■利便性の向上に伴う、情報漏洩等への対策の必要性

②医療連携・データ利活用に関するニーズの高まり

■医療データの二次利用や、地域でのデータ連携など、病院情報システム外での利用への期待

■外部との情報連携・二次利用に伴う、外部からの攻撃への対応必要性

③情報システム部門の役割・組織としての期待

■DX推進役としての期待など、ITの専門家としてのシステムの運用管理以外の役割への期待

■最新の医療情報・法制度・医療経営等に対する情報収集と適切な対応検討の必要性

 

図表2 医療機関におけるICTへの期待と課題の拡大

電子カルテを導入済みの医療機関では、すでに②③の段階に進んでいるかと思いますが、電子カルテ導入の検討段階にある医療機関では①だけでなく、②あるいは③まで同時に検討する必要があるかもしれません。

しかしながら、これらの検討や実際の導入・構築を検討できるIT人材の不足は、医療業界だけではなく、広くIT業界全体の課題となっています。

総務省の令和3年版情報通信白書においても、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査結果(2019年度)からの引用として、「IT人材の量について、「大幅に不足している」又は「やや不足している」という回答の合計は、89.0%にも達している。」「我が国では、外部ベンダーへの依存度が高く、ICT企業以外のユーザー企業に多く配置されており、ユーザー企業では、組織内でICT人材の育成・確保ができていない。」との記載があります。(出所:令和3年 情報通信白書 第1部 特集 デジタルで支える暮らしと経済 - 4 我が国がデジタル化で後れを取った理由)

他にも、地方も含めた全国でのデジタルの利活用を進める「デジタル田園都市国家構想」では、将来必要となるデジタル人材の推計人数は230万人とされているももの、現時点では全く足りておらず、今後、新卒学生だけではなく、職業訓練・リカレント教育(社会人の学び直し)での人材確保など、あらゆる手段での人材確保が必要になると記述されています。(出所:令和4年6月1日 内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局デジタル田園都市国家構想基本方針(案)について)

このようなICT人材がひっ迫している中、さらに医療知識も求められる医療ICT人材となると、さらに限られた状況となることは容易に想定されます。今後、政策面において様々な施策が打たれると想定されますが、人材の絶対数が不足している状況を前提に、医療機関においては、内部での人材育成や、外部との協力など、多角的な人材確保・育成の検討を進めておく必要があると言えるでしょう。

 

医療機関で進めるべき人材確保・育成の取り組み

人材確保・育成については、一朝一夕で行えるものではなく、医療機関の置かれた状況や現在の組織・人材状況により、その取り組み方も異なります、当メルマガでも図表3のような人材確保・育成に対する取り組み方を「医療機関に必要なICT人材の育成・確保について」として、ご紹介していますのでご参考にして頂き、皆様の医療機関にとって最適な取り組み方を考えて頂ければ幸いです。

 

図表3 医療人材の確保・育成取り組みの例

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2022/8

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