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最新動向/市場予測
全国で電子カルテ情報等を共有する仕組みの最新動向
WG・検討会における議論の状況と今後、医療機関のシステムに求められること
データヘルス改革に関する工程表によると、電子カルテ情報等を全国で共有できる仕組みは、2023年度からシステム開発を進めていくことが予定とされており、整備に向けた具体的な検討が今年度開始されます。 本稿では、電子カルテ情報等を全国で共有するための仕組みの概要、及び今後医療機関に求められることが想定されるシステムへの対応について紹介します。
検討の経緯
新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、諸外国と比べて医療情報等の利活用、オンライン化が遅れていることに対して、「新たな日常にも対応したデータヘルスの集中改革プラン」として、「(1)全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大」、「(2)電子処方箋の仕組みの構築」、「(3)自身の保健医療情報を活用できる仕組みの拡大」の3つのアクションが取り組まれています。
現在、データヘルス改革工程表に従い、全国的にレセプト情報、特定健診情報、処方調剤情報(電子処方箋)を医療機関等で閲覧可能な環境の整備が進められていますが、2021年11月に「医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」を立ち上げ、電子カルテ情報等を送受信するための仕組みの検討が開始されました。また、経済財政運営と改革の基本方針2022において、オンライン資格確認等システムのネットワークを拡充し、レセプト・特定健診等情報に加え、予防接種、電子処方箋情報、自治体検診情報、電子カルテ等の医療(介護を含む)全般にわたる情報について共有・交換できる全国的なプラットフォーム(以下、「全国医療情報プラットフォーム」という)、「電子カルテ情報の標準化等」の取り組みを行政と関係業界が一丸となって進めることが明記されました。
これにより今後、全国での電子カルテ情報等の共有に係る検討が加速度的に推進されることが想定されます。
仕組みの概要
電子カルテ情報等を共有するための仕組みは、オンライン資格確認等システムのネットワークの活用を前提とし、本人同意の下、電子カルテ情報交換サービスを介して情報を連携することが想定されています(図表1)。また、現状のSS-MIXによるデータ交換から、Web交換方式(REST通信+JSON形式)であるHL7 FHIR規格による送受信が想定されています。
まず、医療情報ネットワークの基盤で取り扱う電子カルテ情報は、厚生労働省標準規格として採用されたHL7 FHIR形式の「診療情報提供書」、「健康診断結果報告書」、「退院時サマリ―」が対象とされています。これら文書の中に6情報(傷病名、アレルギー、感染症、薬剤禁忌、検査(救急、生活習慣病)処方)が含まれています。
なお、HL7 FHIRについては、2022.4月 配信 第70回で解説していますので、合わせてご参照ください。
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/life-sciences-and-healthcare/articles/hc/hc-fhir-2022.html
電子カルテ情報等の共有に向けて医療機関に求められる対応
全国的に電子カルテ情報等を共有を有効に働かせるためには、医療情報ネットワークの基盤の整備だけでなく、医療機関のシステムも対応が求められることが想定されます。ここでは、医療機関のシステムに求められる対応を3点取り上げます。
①オンライン資格確認システムの導入
これまでの検討状況によると、電子カルテ情報等の閲覧においてはオンライン資格確認等システムのネットワークを活用することが想定されています。厚生労働省のホームページ(オンライン資格確認の導入について(医療機関・薬局、システムベンダ向け))によると、2022年7月3日現在でオンライン資格確認システムの運用開始施設は病院で41%、医科診療所で16.5%となっています(顔認証付きカードリーダー申込数は、病院で約80%、医科診療所で約48%)。そのため、オンライン資格確認システムを未導入の医療機関においては電子カルテ情報等を閲覧する基盤が整備されるまでに導入することが必要となります。
②電子カルテシステムの導入
現在の電子カルテシステムの普及率は、400床以上の病院で90%を超えている一方、中小規模病院や一般診療所においては十分普及が進んでいない状況にあります(図表2)。中小規模病院の導入率が低い理由としては、費用面やIT専門人材の不在が影響しているものと考えられます。そのため、電子カルテシステムの検討に当たっては、安価で、かつIT専門人材の配置に依存せずにシステム導入・保守が可能なシステムを選定すること、例えばクラウド型電子カルテシステムなど、も候補として検討していく必要があると考えます。
③標準コードへの対応
電子カルテ情報の共有には、HL7 FHIR形式による情報交換を行うこととなるため、今後電子カルテシステムベンダーが標準規格に対応したデータ出力ができる仕組みを整備することが想定されます。一方で、共有された電子カルテ情報をどこの医療機関で閲覧した場合でも同じ解釈ができる必要がありますが、マスタコードが医療機関毎にバラバラであると同様の解釈ができません。実際に、医療機関では院内独自コードを利用しているケースが多くあります。そのため、医療機関においては、電子カルテシステムのリプレース時や新規導入時において、標準コードを採用した運用の検討も必要となります。
図表1 全国的に電子カルテ情報を医療機関等で閲覧可能とするための実装方法イメージ
全国的に電子カルテ情報を医療機関等で閲覧可能とするための実装方法イメージ
図表2 電子カルテシステムの普及状況の推移
おわりに
全国で電子カルテ情報等を共有できる仕組みは、今年度に業務運用、医療情報ネットワークの基盤の要件、運営主体、費用などの検討が予定されています。電子カルテ情報等の共有が有効に働くためには、全国で利用されることが必要不可欠となります。そのため、医療機関等がオンライン資格確認システムと電子カルテシステムの導入、標準コードへの対応などに係る普及促進策についても合わせて注目する必要があります。
執筆
有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2022/7
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