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令和4年度診療報酬改定で注目を集めるFHIRとは

診療報酬改定で取り組み状況の報告を求められるようになったHL7FHIR

令和4年度の診療報酬改定において、【診療録管理体制加算(入院初日)】の施設基準の届け出に関する事項の一つに「毎年7月において、標準規格の導入に係る取組状況等について、別添様式により届け出ること」という項目が追加されました。本稿では、この項目が求めるHL7 FHIRという標準規格について、考察します。

医療情報共有のための手段

令和4年度の診療報酬改定において、【診療録管理体制加算(入院初日)】の施設基準の届け出に関する事項の一つに「毎年7月において、標準規格の導入に係る取組状況等について、別添様式により届け出ること」という項目が追加されました。ここで求められている標準規格とは、「HL7 International によって作成された医療情報交換の次世代フレームワークであるHL7 FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)」を指すということが中央社会保険医療審議会でも示されています。

HL7 FHIR (以降、FHIRと記載)については、電子カルテシステム関連の業界や日本医療情報学会等では以前から議論されていますが、医療機関では、医療情報システムを扱う部門の方以外には馴染みのないキーワードかもしれません。

本稿ではFHIRの概要と診療報酬改定に要件記載された背景、今後準備するべき対応を考えてみます。

医療情報共有の歴史

古くはオーダリングシステムから始まった、医療情報の電子化は、1999年の旧厚生省通知によるカルテの電子保存認可以降、世の中のIT化を追いかける形で進んでおり、現在は、クラウドサービス型の電子カルテの登場に至っています。この間、紹介状を中心とした、医療機関同士での情報共有は、現在も主流であるFAX以外にも、画像や詳細な検査結果を共有するための地域連携システムの形で全国に展開されてきました。

2006年(平成18年)に、厚生労働省が開始した「すべての医療機関を対象とした医療情報の交換・共有による医療の質の向上を目的とした「厚生労働省電子的診療情報交換推進事業」(SS-MIX:Standardized Structured Medical Information eXchange)」に沿って、地域連携システムの全国展開が進んだことで、おおよそ主流な電子カルテが後継規格のSS-MIX2への対応を行っています。

SS-MIX2は、医療機関同士の紹介情報の共有に主眼を置き、機能開発の容易性も考慮したことで、比較的自由度の高い規格となっています。そのため、情報共有のために厳格に定められた項目(=標準化ストレージ)以外に、情報共有を行う医療機関で自由に設計利用可能な項目(=拡張ストレージ)が設けられています。

しかしながら、この規格の自由度の高さは、拡張ストレージの使い方が必ずしも標準化されず、各医療機関の電子カルテから出力できる医療データのフォーマットが全国的に統一しきれない、というジレンマにつながっていました。

FHIRの現状

今後、全国的に医療情報を統合し、国民一人一人が自身の健康・医療データを管理できる社会(データヘルス改革<図表1>)の実現のためには、同じ電子カルテを利用する医療機関において、共有できるデータの形式が異なることは好ましくありません。

 

図表1 データヘルス改革に関する工程表(一部)

出所:厚生労働省 第8回健康・医療・介護情報利活用検討会資料https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_23904.html

そのため、SS-MIX2で標準化されていないデータ項目も含めた標準化対応規格として、グローバルで情報共有のための規格として議論されているFHIRの議論が数年前から進んできました。

FHIRはHL7という標準規格化団体が検討を進めていますが、SS-MIX2もそのベースはHL7の規格ですので、その意味では、SS-MIX2の考え方の発展と捉えることもできるかもしれません。一方で、FHIRが従来のSS-MIX2等の規格と大きく異なるのは、データのやり取り手段まで想定されている点にあります。これまでの規格は、そのデータ表現の規約(データ構造)を定めることが目的でしたが、FHIRでは、Web通信を前提として、インターネットで利用される汎用的な技術でのデータ交換までを想定した規格となっています。このことは、医療情報をやり取りするためシステム開発の敷居を下げ、Webブラウザやモバイル端末など、機器やOSを選ばず、容易にデータ交換できるようにすることを意味しています。

このような背景もあり、2022年度に開始が予定されている、電子処方箋の仕組みとも呼応する形で、2022年3月24日付で、厚生労働省標準規格として、FHIRに関する以下の4規格が認定されました<図表2>。

 

図表2 2022年3月24日認定 厚生労働省標準規格認定のFHIR関連規格

一般社団法人医療情報標準化推進協議会ホームページの「医療情報標準化指針」一覧(http://helics.umin.ac.jp/helicsStdList.html)よりトーマツ作成

一方で、FHIRでは可能な限りの医療情報を標準的に扱えるよう多数の項目の標準化に関する検討・整理がなされていますが、現状では、国際的に承認された項目は限定的であり、多くの項目が規格策定後の確認状況にある点では、今後も規格承認・リリース状況には注目していくことが必要でしょう。

今後準備すべき対応

診療報酬改定で求められているのは、現状では各医療機関での取組状況に関する「報告のみ」です<図表3>ので、医療機関においては、利用している電子カルテからデータをFHIRのフォーマットで取り出せるかを確認することから始めて頂ければと思います。

 

図表3 施設基準として報告すべきFHIRに関する項目

厚生労働省 令和4年3月4日 基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000923512.pdf)よりトーマツ作成

一方で、この改定の目的は、医療データを広く安全に世の中で利活用できるようにする点にありますので、医療情報システムの開発計画に関してシステムベンダー担当者に確認し、将来の対応見通しを把握しておかれることは大切です。

FHIRは標準規格であり、たちまち、医療機関で個別の改修対応を行う必要はないので、特に研究用途などで先んじて導入検討したいということでなければ、システムベンダーの開発計画を待って、導入対応を検討することでも良いかと考えられます。一方で、システムベンダーから明確に計画が提示されない場合は、国の動向を見ながら、中長期的には対応できるシステムベンダーを検討することも考慮に入れていく必要があるかと思われます。

診療報酬に明記されたこともあり、今後の医療情報の利活用の手段としてFHIRは欠かすことのできないキーワードとなったと言えます。電子処方箋などの国の施策でもFHIRの利用が想定されていることから、今後の病院情報システムの導入・更新検討の際には、欠かすことのできないキーワードとして取り扱っていただき、具体的な選択に困られる場合には、当法人のコンサルタントにご相談いただければ幸いです。

 

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2022/4

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