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未来の医療と病院の姿【ライトノベル】

未来の医療のすがたをイメージしたライトノベル

数十年後、データ活用や情報システム技術が進んだ未来では、医療制度も現在とはまったく異なっています。 そこではたらく医療スタッフの業務はどのように変わっているのでしょうか。魅力的な未来の世界で 生きる、体が不調になった未来人を通して、これからの医療の在り方を考えます。 単にAIやデータ活用ということだけではなく、その先の医療の在り方を含めた問題提起として、ストーリーが展開します。

【イメージ】

※本稿は、2016年に記載されたものに対し、一部の過激な表現や設定を修正し、問題提起のひとつの極端な視点として、公表するものです。

 

未来の病院

ある国の、今から少し先の時代の話、いやむしろ、また別の世界の話なのでしょう。都市部に住むA氏は、せきが止まらず、夜もせきで眠れないため、インターネットで、自治体のヘルスケアポータルページにアクセスしました。
自治体から配布された自身のIDを入力し、テーマを「せき」として、自身の訴えを記載しました。時計タイプのウェアラブル装置から、日々収集されている体温や血圧、運動量がすでに表示されており、その内容を確認して「確認」ボタンを押下します。医療情報も、ここ数年のカルテデータから取り込まれていることを確認し、また、アレルギー情報などが正しく表示されているかもチェックし、「アセスメント」ボタンをクリックします。
全国から集まってくる問診やカルテ情報などのデータから、コグニティブ技術により、経験的に標準化された診断が出力されます。
肺のレントゲンをとる指示が届きました。そのページから、肺のレントゲンをとれる検査センターが一覧で表示され、本日の夕方に予約を入れます。
さて、夕刻、一番近くの検査センターに行き、検査結果を送信したところ、クリニックの看護師から電話がありました。その場で、のどの写真を撮るなどの指示があり、写真を送信。すると、すぐに処方情報がとどきました。
処方の確認をして発注します。薬は2時間後に配達されてきました。
特別な処置・手術がないかぎり、医療機関に行かなくなってから、まだ3年ですが、あれほど問題視されていた医療スタッフの不足を不安とする声もなくなりました。今や、病院は、二次医療圏に1つとなり、逆に、検査センターが増えました。
アセスメントは中央で管理されたしくみが行うため、検査センターも、単に検査をするだけです。それも、多くの検査は、検査キットなどに代替されています。検査センターは、特殊な必要な検査がある時や検査結果の確認・証明のために行く場所です。
3年前まで、なぜ医療機関にわざわざ行っていたのか、今では不思議なくらいです。
かつて、わざわざ病院で検査をしたり、待ち時間でイライラしたり、医師の能力に依存した診断のために「良いクリニック」を探したり、いろいろな薬を試してトライアンドエラーを繰り返して消去法で治療を進めたり、と、すべてが非効率でした。
5年前、高熱でクリニックに行ったときは、そこでインフルエンザをもらったり、高熱でだるいにもかかわらず問診票にわざわざ記載したものの、そのことをまた診察室で聞かれたり、たいへんでした。
診断も治療も、診断のための情報収集も、医療機関一箇所ですませるために、治療が必要になってはじめて、すべてのことをイチからやらなければならなかったのです。
セカンドオピニオンというしくみもありました。担当する医師の意見だけでなく、他の医師にも意見を聞くのです。今思うと、たった二人の意見で、自身の治療方針を判断するなどリスクが高すぎます。それも、大きな治療の場合に限ったものでした。
「病院の外来」というしくみが事実上なくなり、しばらく経ちました。今や、優秀な医師は、どのようなデータからどのような診断をするか、標準化のしくみを考えることに没頭しています。
触診ではなく検査結果で診断するノウハウが広まり、触診で医療スタッフに体を触られることも少なくなりました。
制度変更当時は、目で見ることもせず、身体にもふれずに判断することに対して、反対する人も多くいました。しかし、目の変わりとなる高性能なカメラと、身体にふれずに判断できる他の方法から得られるデータがあれば、ほとんどの判断が可能であることが実証されてきたのです。
一方、施設の内部にもつ検査部門での検査結果に頼っている病院もわずかに残っています。そこでは、医師が目で見て、身体をさわって、カルテも患者本人ではなく医師が管理するという、昔のやり方をしています。
統一されたアセスメント結果に納得できない患者や、情報漏えいを気にする患者が、まれに、そのような施設に通います。統一規格のアセスメントは、完全ではありません。その相談先として相談センターがありますが、そこではリアルな医師によって、診断されることもあります。そこでも納得できない方々は、「昔のやり方」をする病院に通院します。
そのような医療施設は、社会システムに登録されていないので、費用が高額です。誰もが通えるわけではありません。データによって定義付けされていないため、ロジカルな診断ではありませんから、その診断の根拠が曖昧で、同じ検査結果・問診結果であっても、判断が異なるケースもあります。施設によっては、「患者が満足するような診断結果を言ってあげる」という方針とし、患者満足にサービスの主軸を置いているところもあります。いずれにせよ、そのような施設は、この世界の政府には推奨されておらず、公式には治療が認められていません。したがって、ここに勤務する医療スタッフは、かつて医療にかかわったことはあっても、医療情報分析時の注意点を熟知していないことも多く、最新の医療情報分析メソッドも共有されていない医療スタッフです。これらの点で、注意が必要です。
一方、このような非公式の医療機関から、画期的な治療方法が発見されたり、標準化されたアセスメント選択方法に対して、間違いを指摘するヒントが生まれていることも事実です。

【イメージの解説】

検索エンジンで、「未来の病院」と検索したところ、表示上位3位までは以下のとおりでした。(2016年1月21日時点)
まず、1番上に表示されたページは、建築家が未来の病院として考えたものでした。壁に埋め込まれた大型のディスプレイがあり、そこに必要な情報が表示され、紙が不要になるというコンセプトです。
これは、ベッドサイドのモニターのコンセプトに似ており、そのコストが高額で、現在、普及に至っていない状況かと考えます。
二番目に表示されたページは、ナノマシンが血中に入り込み、勝手に治療してくれるというものです。病院自体のしくみを変える、「自分だけの病院」として、おもしろい記事が書かれていました。
三番目に表示されたページは、ナースコールが消える病院ということで、ある病院が最新の医療情報システムを導入するというものでした。未来の病院ではなく、最新のシステム導入計画が紹介されているページでした。
さて、未来の病院を、ICTやその運用の視点からも考えてみるとおもしろいだろうという思いがあり、今回のイメージを記載してみましたが、いかがでしたでしょうか。

前述のイメージは、技術的にはできそうなことで、かつ、運用としては活気的なことを、記載してみました。この未来は、理想と言えるのか、議論の一助となれば幸いです。
ここでは、医師の技術や経験により、医療サービスに差がでないようなしくみを提示しています。
また、先月の本コラムに提示した、患者が作成するカルテについても実現している設定になっています。患者は、医療機関で問診記載や自身の情報を伝えるのではなく、自治体の医療情報システムにそれらを収集しており、カルテもまた患者自身がそこで作成しています。
このような未来世界においては、医療機関の役割りは、限定的になっています。診断に必要なデータは医療機関ではないところで収集されます。診断もアセスメントシステムが分析結果として通知し、その後の治療方針も決定します。治療も、今回のケースでは、自宅に薬が届くだけです。そして、このストーリーの主人公A氏は、医療機関に行かずとも、すべてを済ましているのです。
一方で、アセスメントが標準化されることで、その標準化のしくみでは対応できないケースが発生する可能性を示唆しています。そこではじめて、患者は医療機関に相談にかかります。非正規の医療機関を利用するケースも出てきています。
アセスメントは完全ではないという想定で、一部の、標準化から漏れてしまうケースをどのように救うかが、このケースの課題です。また、標準化が完全にはなりえないという想定でのストーリーにすることで、よりよいアセスメント標準化を目指し、優秀な医療スタッフは、アセスメントのロジックづくりに注力しています。
医療スタッフ不足のヒントになる未来図かもしれません。
そしてもう1つの課題は、情報漏えいを恐れて、非正規の医療機関に通う患者の存在です。この社会では、アセスメント標準化がICTにより実現しており、その後の課題として、情報漏えいへの不安を書きましたが、実際は、情報漏えいへの不安のために、このしくみが実現できないということが考えられます。リスクをどのようにとっていくかが、重要です。リスクをとることにより享受できる未来もあるかもしれません。

※本内容のイメージは実在の人物・団体とは一切関係ありません。

※本内容は、筆者個人の意見であり、デロイト トーマツ グループの意見ではありません。また記載当時の考えとなります。
本コラムは、法的助言の提供、法的レビュー他弁護士法に抵触するような業務提供ではありません。したがって本コラムのみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。また、これにより生じた損害は、筆者およびデロイト トーマツ グループは責任を負いません。

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