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ウィズコロナ・ポストコロナ時代のデータヘルス集中改革

オンライン資格確認基盤を活用するデータヘルス集中改革プラン

2020年7月に内閣府が示した「経済財政運営と改革の基本方針2020」、それを受ける形で厚生労働省が示した「新たな日常にも対応したデータヘルスの集中改革プランについて」でのオンライン資格確認基盤を活用する電子処方箋の仕組みなど、2022年度に実現が明確に示されたデータヘルス集中改革プランの概要を確認します。

骨太の方針2020で示された、データヘルス集中改革プラン

去る2020年7月17日に、内閣府の「経済財政運営と改革の基本方針2020」(いわゆる、骨太方針2020)が決定・公表されました。

この方針の中では、新型コロナウイルス禍において、経済の維持・再生を大きなテーマとして、さまざまな分野に対する計画が提示されています。

その中で、健康・医療分野においては、新型コロナウイルス感染症への対応として、「新型コロナウイルス禍における医療提供体制等の強化」(当面の対応)と、「新たな日常(ポストコロナ)下における社会保障体制の構築」という、ウィズコロナ・ポストコロナ時代の在り方・考え方が示されています。

ウィズコロナについては、PCR検査体制の充実や、「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)」による患者情報の集約・一元化などが示されています。一方、ポストコロナの対応としては、「新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム(G-MIS)」や「医療のお仕事Key-Net」の活用による、医療資源情報の共有などが示されました。

これらは、国民の生命を守り、医療崩壊を未然に防止するための情報共有の仕組みであり、今後、医療におけるデータの利活用がより重要になってくるということのメッセージと捉えることができるでしょう。

本記事では、方針の中で示された「医療・介護分野におけるデータ利活用等の推進」においてもその概要が記載されている、2020年7月30日に厚生労働省が公表した「新たな日常にも対応したデータヘルスの集中改革プランについて」に注目し、そこで示された3つのACTION(図表1)について、簡単にその概要を確認してみます。

図表1 集中改革プランで示された、3つのACTION
図表1 集中改革プランで示された、3つのACTION

全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大

ACTION1として掲げられている仕組みです。

患者の基本的な医療情報を迅速に入手し、重症化リスクや継続の必要性がある治療を把握することは、新型コロナウイルス感染症のみならず、近年多発する災害の救助現場においても、適切な診断・処置を実施するために必要な事項であると言われています。把握すべき情報の具体的な例として、高齢者や意識障害の救急患者等への抗血栓薬等の薬剤情報や過去の手術・移植歴・透析等の確認が挙げられています。

また、平常時においても、複数の医療機関を受診している患者の重複・併用禁忌の薬剤情報等を確認するといった、患者を中心とした医療情報の整理・把握の手段は常に必要とされています。

しかしながら、既存の地域医療連携システムやおくすり手帳は、その成り立ちや目標が、全国の患者の医療情報を網羅的に共有することを目的としていないため、ACTION1の仕組みを十分に果たすには力不足の面が否めません。

この課題を解消するため、2019年5月に成立した改正健康保険法を受けて構築される、全国の保険者が保持する被保険者番号の個人単位化(個人単位被保番)を前提とした「オンライン資格確認等システム」がすでに構築されています。そして、このシステム上に保存される、個人に紐づいた医療情報や特定健診情報をマイナンバーカードでの本人確認を前提として参照・利用できるようにする仕組みの構築が、このACTIONの目的とされています。(図表2)

 

図表2 全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大
図表2 全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大

電子処方箋の仕組みの拡大

ACTION2としては、処方箋の電子化が取り上げられています。

ACTION1で予定される、「オンライン資格確認等システム」を活用し、そのシステム上で医療機関と調剤薬局が処方箋を電子的にやり取りする仕組みです。

現在でも、調剤薬局へのFAXでの処方箋送付による事前調剤が可能ですが、最終的な薬剤の受け取りには引換証の役割として、紙の処方箋が必要となっています。

また、処方する医師や調剤薬局の側から見ると、当該処方情報や、過去の自施設での投薬歴でしか患者の服薬履歴情報を把握できないため、他医療機関の処方との重複投薬の可能性を否定できない状況です。

このような環境でありながら、新型コロナウイルス感染症対策により、オンライン診療が広がりを見せる中では、診療はオンラインで可能なのに、処方箋のやり取りが紙でなければいけない、という矛盾も顕在化しつつあります。

そのため、ACTION2で掲げられる電子処方箋の仕組みでは、紙の処方箋に代わり、処方箋の電子データと電子認証の仕組みを組み合わせることにより、オンライン診療・オンライン調剤の普及と医療安全の向上・医療情報の利用の推進を目指すことが目的とされています。(図表3)

 

図表3 電子処方箋の仕組み
図表3 電子処方箋の仕組み

自身の保険医療情報を確認できる仕組みの拡大

ACTION3では、ACTION1,2での医療情報活用の基盤整備に加えて、自治体や学校の健診情報も含めた、自分自身の保険医療情報を国民が閲覧・活用できる仕組みが提示されています。(図表4)

図表4 自身の保険医療情報確認できる仕組み
図表4 自身の保険医療情報確認できる仕組み

この仕組みにより、国民が自己の判断によって、医療機関の受診時により多くの情報を医療専門職と共有できるようになり、適切な診療を受けるために利用することが可能となるといった、ACTION1,2の仕組みがより容易で実現性のあるものになると考えられます。

一方で、ACTION3では、単に情報の閲覧ができるだけでなく、国民自身の判断で、民間のPHR(Personal Health Record)事業者等に情報を保管したり、そこから新たなサービスを受けたりする、といった点にも言及されています。

現在、PHRについては、さまざまな企業や自治体が、健康増進のインセンティブによる国民の医療費抑制や新たな健康産業の創造へのヒントの獲得など、多種多様な目的をもって取り組んでいます。ACTION3で想定される仕組みにより、PHR事業者や研究への情報提供が容易になることで、これまで以上に個人のニーズに応じた幅広い民間PHRサービスの出現や、医療情報の利活用への敷居が下がることによる、医療・産業の発展が期待されます。

 

これからの医療情報との接し方(まとめ)

これら3つのACTIONは、すべて2022年度中の実施が明記されており、今夏(2020年夏)から1年間で政府において必要な法制上・予算上の対応を行った後、地方自治体や医療機関のシステム改修等を行うと、第9回経済財政諮問会議(2020年6月22日)でも、報告されています。

順調に進むと、2021年度中には、医療機関に対しても何らかの形でのACTIONへの参加の呼びかけや、電子カルテやレセコンシステムへの改修相談の声が届き始めるものと考えられるでしょう。

ヘルスケアメールマガジンでは次世代医療基盤法など、医療情報の扱いに関する様々なテーマでの記事を掲載してきています。

今回のデータヘルス改革は、マイナンバーカードの普及が前提となるなど、クリアすべき課題もあるものの、ウィズコロナ・ポストコロナ、そして、ニューノーマルの時代の医療や医療情報の在り方を示すものとして注視していくべき内容と考えられます。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。2020/08

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