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ビジネスDDガイド:コマーシャルデューデリジェンスの実務ポイント 第12回

コロナ禍特有のM&Aデューデリジェンスの留意点

新型コロナウイルスの感染拡大後、多くの企業が事業面や財務面を含めて様々な影響を被っており、例外なくM&Aにもコロナ禍の影響が及んでいます。通常でもM&Aを実施する際には様々な留意点が存在しますが、コロナ禍特有の状況に応じて、新たな留意点が生じています。本稿では、デューデリジェンスに焦点を当てて解説を行います。

I.はじめに

新型コロナウイルスの感染拡大後、多くの企業が事業面や財務面を含めて様々な影響を被っており、例外なくM&Aにもコロナ禍の影響が及んでいる。

通常でもM&Aを実施する際には様々な留意点が存在するが、コロナ禍特有の状況に応じて、新たな留意点が生じている。本稿では、「コロナ禍特有のM&Aデューデリジェンスの留意点」というテーマでデューデリジェンスに焦点を当てて解説を行う。なお、デューデリジェンスといっても財務、税務、法務、IT、人事、ビジネスと多岐に亘るため、本稿ではデューデリジェンス全般に共通する部分を記述している。

II.コロナ禍におけるデューデリジェンスの留意点

コロナ禍におけるデューデリジェンスへの留意点を考えるには、まずはコロナ禍が与える影響を特定し、その後に、影響に対しての留意点を検討する必要がある。コロナ禍が与える影響は業界や企業によって異なるが、事業が縮小(もしくは拡大するケースもあり得る)し、事業の先行きが不透明で将来的な不確実性が増し、かつ海外への渡航に制限が加わっているという状況は共通する部分といえるだろう。

上記のような影響を踏まえて、コロナ禍にデューデリジェンスを実施する際の留意点に関して、5つのポイントを挙げて概説を行う。

 

① 面談や現地視察が困難(特にクロスボーダー案件のケース)

本稿執筆時点では、依然として海外渡航には制約が存在する。そのため、日本企業が買い手で海外企業が売り手のようなクロスボーダー案件の場合、面談や現地視察が困難になっている。渡航制限は国によって異なるため一概には言えないが、海外渡航に際しては様々な手続きが必要であったり、14日間の隔離が要求される。渡航先および日本で2回隔離があると合計28日間の隔離になるため、現時点では海外に渡航してM&Aを進めるというのは現実的ではない。

代替策としてオンライン会議が挙げられる。以前であれば、オンライン会議には抵抗があったように個人的に思うが、現在はマインドの変化があり、心理的な抵抗が少なくなったように感じている。ただ、M&Aを上手く進めるためにはターゲット企業の経営陣と信頼関係を築く必要があり、現地視察で気付ける点もあり、オンライン会議が全てを解決するわけではない。渡航制限がなくなり次第、必要に応じて現地に赴く検討も必要だろう。

 

② M&A予算の削減

業績悪化や先行きの不透明さによって、検討中であったM&Aを延期や中止するケースがあるだろう。M&Aを実施するとしても、投資予算が制限されることも想定される。デューデリジェンスの実施にもコストが生じるため、網羅的に調査を行うのではなく、重要度の高い部分に絞り込んで対応することが求められる。

しかしながら、デューデリジェンスの範囲を絞り込みすぎて将来的なリスクが高まる可能性や善管注意義務という観点も考慮する必要があるため、ターゲット企業の性質や投資予算も踏まえた最適な範囲を見極めることが求められる。M&Aの経験が浅くデューデリジェンスに関しても知見が少ない場合、最適な範囲を見極めるのが難しいと想像されるため、専門家に対してデューデリジェンスの範囲を絞ることに対するリスクについて意見を求めるのが良いだろう。

 

③ 事業計画前提が大幅に変更

デューデリジェンスの中では、ターゲット企業の事業計画を分析するが、新型コロナウイルスの感染拡大前に作成した事業計画は、現状の事業環境と全く異なる前提条件になっており、現状の事業環境が適切に反映されていない可能性が高い。

ターゲット企業の事業計画はバリュエーションに影響してくるものであり、コロナ禍の影響が大きいと想定される場合には、事業計画の前提条件の見直しが必要になる。コロナ禍は国によっても状況が異なるため、多くの国に拠点を有しているターゲット企業の場合には、国別の状況も考慮する必要がある。なお、コロナ禍の影響で先行きが不透明であり、実務的に事業計画の修正が困難な場合においても、いくつかのシナリオを検討し、現段階で最も妥当と思われる事業計画を手探りで検討することが求められる。

 

④ 不確実性への対応策

コロナ禍で、ターゲット企業の事業の不確実性が高まっており、デューデリジェンスで発見された潜在的リスク項目が、コロナ禍の影響で顕在化するリスクが高まることも想定される。リスクが高く、影響度が大きいものは、どのようにリスクを最小化するかをDA(最終計画書)の締結前には検討する。コロナ禍による影響は業界や企業によって異なるものの、必要に応じて価格調整条項も含めて検討を行うことが求められる。

コロナ禍に関わらず、M&Aにはリスクが付きもので、完全に払拭することは難しい。通常の状況下においてもいえることであるが、影響度の低いリスクに拘り続けて、M&A全体に影響を及ぼすようなことは避ける必要があり、M&Aによって得られるメリットとそれに伴うリスクを総合的に勘案しながら、バランス感ある意思決定が求められる。

 

⑤ デューデリジェンスの再実施

既にデューデリジェンスを実施済みで、契約の条件交渉フェーズにあるM&A案件も想定される。コロナ禍でデューデリジェンスの結果に対して大きな影響が及んでいると考えられる場合には、デューデリジェンスの再実施の検討も必要になる。状況が変化しているため、再実施が望ましい一方で、コストや時間も掛かり、ターゲット企業の同意も必要になる。

そのため、再実施が望ましいものの、再実施に関する交渉が難航する場合には、影響が大きそうな部分に焦点を当てて相手側の手間を減らすなどして落としどころを探る必要がある。

 

III.戦略的なデューデリジェンスの重要性

事業環境が大きく変わり、不確実性が増している中で、ただでさえ困難が伴うM&Aに加えて、コロナ禍特有の留意点が生じるため、以前に増してより戦略的にデューデリジェンスを実践する必要性が高まっている。ターゲット企業はもちろんのことであるが、業界によっては外部環境に大きな変化が起きていることも想定されるため、内部環境だけでなく、外部環境も踏まえたデューデリジェンスの実施が求められる。

 

IV.総括

本稿では、コロナ禍におけるデューデリジェンスの留意点ということで少しネガティブな視点で記述を行ったが、一方でコロナ禍による環境変化で新たなM&A機会が生まれているのも事実であり、ポジティブな動きも存在する。 

コロナ禍で新たな制約が加わる中でのM&Aを実施するため、その制約の中で留意点を踏まえつつ、M&Aを成功に導くため戦略的にデューデリジェンスを実施することが求められる。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コーポレートストラテジーサービス
ヴァイスプレジデント 中山 博喜

※2017年7月からタイのメンバーファームであるDeloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.に駐在中

コーポレートストラテジー部門にて、各業種のクライアントに対して主にビジネスDD、コマーシャルDD、オペレーショナルDDを提供。クロスボーダー案件の経験も数多く、現在は在タイの日系企業を中心にM&A案件に関するアドバイザリー業務を提供。

監修

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コーポレートストラテジーサービス統括
パートナー 初瀬 正晃

主にM&A戦略、統合型デューデリジェンス(ビジネスDDを含む)、事業計画策定支援、事業価値評価、交渉支援、PMI支援、Independent Business Review (IBR)、Corporate Business Review (CBR)、Performance Improvement (PI)に従事。大手商社の経営企画部に出向し、国内外の投融資案件を多数支援した経験を有する。

 

(2020.10.07)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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