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M&A会計 企業結合の実務 第15回

取得関連費用と事業分離関連費用の会計処理

企業結合の実務をQ&A形式でわかりやすく解説します。今回は、取得関連費用の会計処理について取り上げます。

1. 取得関連費用の会計処理

-発生時の費用として処理するが、個別上は子会社株式の取得原価に算入

Q:平成25年(2013年)改正前の企業結合会計基準では、企業結合に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る)は取得原価に算入することとされていましたが、平成25年改正基準では、以下のように処理することとされました。

  • 連結-取得に直接要した支出額を含む取得関連費用は支出時に費用処理
  • 個別-子会社株式の取得に直接要した支出額は従前と同様、取得原価に含め、それ以外は費用処理

つまり、改正前は取得に直接要した支出額はのれんに含まれ効果の及ぶ期間で償却されていましたが、改正後は一時の費用として処理されることになります。これはなぜなのでしょうか。

A(会計士):改正前の取得原価算入法と改正後の支出時費用処理法は、それぞれ次のような根拠がありました。

前者については、個別に取得した資産(棚卸資産や有形固定資産)は、付随費用を取得原価に含めており、事業の取得のときも同様に処理すべきというものです。すなわち、企業結合における取得関連費用を取得原価に含めることにより、その後の損益は投資した原価の超過回収額となり、概念的には個別に取得した資産と一貫した取り扱いとなる、というものです。

後者については、国際的な会計基準との整合性を重視したもので、企業結合の会計処理は、企業結合日において売主に引き渡した対価と売主から受け入れた事業との等価交換を表現すべきというもの、すなわち、外部のアドバイザリー等に支払った対価は、企業結合の会計処理の対象外であり、それらはサービスが提供されたとき(発生した事業年度)の費用として処理すべきというものです。

企業結合会計基準の結論の背景では、取得に直接要した支出額を費用処理とすることとした根拠の1つとして、どこまでを取得原価の範囲とするかという実務上の問題の解消を挙げていますが、前述の通り、個別上は従前と同様、子会社株式の取得原価に算入しているわけですので、本質的な理由ではないでしょう。平成25年改正は、もっぱら日本の会計基準と国際会計基準との整合性を優先した、ということなのだと思います。

 

2. 個別上の子会社株式の取得原価に含める費用

-改正前と取り扱いは同じ

Q:ところで、個別上は取得に直接要した支出額は、子会社株式の取得原価に算入するということでルール変更はないわけですが、会計基準では、取得に直接要した支出額の範囲を定めていた適用指針48項が削除されたため、改正後はどのように考えるべきなのでしょうか。

 

【参考】平成25年改正前の「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」

(11)取得に直接要した支出額の会計処理 

48. 企業結合に直接要した支出額のうち、取得の対価性が認められるものは取得原価に含め、それ以外の支出額は発生時の事業年度の費用として処理するとされている(企業結合会計基準三 2.(2)④)。 

取得原価に含める支出額とは、次の(1)及び(2)を満たしたものをいう。 

(1) 企業結合に直接要した支出額

 企業結合を成立させるために取得企業が外部のアドバイザー(例えば投資銀行のコンサルタント、弁護士、公認会計士、不動産鑑定士等の専門家)に支払った交渉や株式の交換比率の算定に係る特定の報酬・手数料等をいう。社内の人件費(例えば社内のプロジェクト・チームの人員に係る人件費)等は、これに含まれない。 

(2) 取得の対価性が認められるもの

 現実に契約に至った企業結合に関連する支出額のことをいう。したがって、契約に至らなかった取引や単なる調査に関連する支出額は、企業結合に直接要した費用であっても取得原価に含めることはできない。

なお、企業結合に直接要した支出額であっても、被取得企業が支出した額については、取得企業の支出ではないため、それらを取得原価に含めることはできない。事業分離を伴う企業結合(共同新設分割又は吸収分割)の場合には、分離元企業が負担する取得の対価性が認められる取得に直接要した支出額は、分離元企業が取得する分離先企業(吸収分割承継会社等)の株式の取得原価に含めて処理される場合がある(第91項参照)。 

また、企業結合に直接要した支出額として、現金に代えて自社の株式又は新株予約権を交付した場合には、その測定は、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」第14項及び第15項に準じて行う。


 

A(会計士):企業結合会計基準94項では、従来と同様、金融商品会計基準・実務指針に従って算定するとされており、金融商品会計Q&AのQ15-2では平成25年改正基準の適用と関係なく、従来と同様に取り扱うことが明記されています。したがって、削除された適用指針48項の考え方は、今でも生きているのだと思います。

Q:でも取得に直接要した支出額は、前述の通り、どこまでを取得原価の範囲とするか、という点は依然として判断に迷いますね。

A(会計士):そうですね。企業結合会計基準94項では「取得企業が等価交換の判断要素として考慮した支出額に限って取得原価に含める」とされています。これを踏まえると、基本的には対象企業が絞られてからの支出額が取得原価に含める対象となり、その具体的な範囲は、上記の趣旨を踏まえつつ、実務はケースバイケースで対応することになるのではないかと考えます。

 

3.事業分離に伴い発生した支出額

-原則として支出時の費用、ただし受け入れた株式の取得原価に含めるものもある

Q:次に事業分離に関連した事項について質問します。事業分離に要した支出額は、投資の継続であれ、投資の清算であれ、原則として、支出時の費用として処理されますね。

A(会計士):移転事業に対する投資が継続している場合(例えば、事業の移転先が子会社に該当する場合)には、事業分離によって受け取る対価を構成しないと考えられること、また、投資が清算された場合(例えば、事業の移転先が子会社や関連会社以外に該当する場合)でも、通常、売却に要した支出額は発生時の費用として処理するためです。

Q:他方で、分離元企業の会計処理を定めた適用指針91項では、事業分離に要した支出額は、発生時の費用として処理するとしたうえで「個別財務諸表上、分離先企業から交付された株式等の取得原価は、取得の対価に付随費用を加算して算定する。付随費用の取扱いについては金融商品会計実務指針に従う。」とされています。これはどのように理解したらよいのでしょうか。

A(会計士):例えば、A社からB社に事業を分離する場合、A社で発生するアドバイザ―に支払う費用としては、基本的にはセルサイドサポートとしてカーブアウトF/S(財務諸表)作成委託業務やバイサイドDD(デューデリジェンス)受入れ業務費用などから構成されることがあります。この場合、A社の個別上の処理としては、セルサイド費用は事業分離に要した支出額として一時の費用として処理し、バイサイド費用については、前述の取得に直接要した支出額に該当するものはB社株式の取得原価に算入する、ということだと思います。事業分離によって分離先企業の株式を取得する場合には事業の交換、すなわち事業の売却と取得が一体として行われることになりますので、事業分離に関連して発生する支出額は、原則として費用処理しつつ、旧適用指針48項に相当する取得に直接要した支出額に該当するものがあれば、それを個別上は子会社株式の取得原価に含める、ということになりますね。

Q:本日はありがとうございました。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2020.4.10)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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第2回 企業結合会計基準等の公開草案の解説
第3回 逆取得となる株式交換の会計処理
第4回 持分変動と税効果会計
第5回 会計基準と会社法との関係
第6回 価格調整の会計処理
第7回 逆さ合併の処理
第8回 100%子会社への無対価会社分割とその子会社株式の譲渡の会計処理
第9回 取得原価の配分~引当金~
第10回 共通支配下の取引における繰延税金資産の回収可能性の考え方
第11回 現物配当の会計処理
第12回 100%子会社の合併
第13回 子会社から親会社に会社分割より資産を移転した場合の会計処理
第14回 何が企業結合取引の一部になるか(条件付支払のケース)
第15回 取得関連費用と事業分離関連費用の会計処理

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