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Industry Eye 第40回 エネルギー業界

電力/ガス業界におけるM&Aの動向と展望

電力/ガス業界は、電力会社アライアンスに加え、商社など他業種企業とのM&Aが活発になってきています。本稿では、電力/ガス会社のM&Aの現状・動向をみることにより、エネルギー業界における今後のM&Aの方向性を示唆していきます。

I.はじめに ~国内電力/ガス業界の現状

完全自由化後の国内電力/ガス業界のM&Aや事業投資が再び活性化してきている。これまでの電力/ガス業界内におけるアライアンスに留まらず、インフラやIT企業など異業種企業、海外企業との連携もでてきている。そこで、今回は電力/ガス業界の活動をもとに、今後のM&Aの方向性を示唆していく。

従来の電力/ガス業界は、電力/ガスの安定供給を第一義に行うために地域独占の環境下におかれていたが、2016年に電力、2017年にガスの小売り分野の完全自由化以降、通信事業者などのインフラ企業による新規参入がみられている。このような規制緩和に加え、人口減少や省エネの進展に伴うエネルギー需要減少と再生可能エネルギーの拡大による事業環境の変化、さらにはIoTなどデジタル化の波もあり、電力/ガス会社はこれまで以上に柔軟かつ迅速な対応を迫られている。電力/ガス会社は、旧電力9社で約20兆円弱、4大ガス事業者で約4兆円弱の売上規模であるが、これら大規模な電力/ガス会社が国内外でM&Aや事業提携を始めている。

II.電力/ガス業界のM&A動向

株式会社レコフのデータによると、電力/ガス業界の2017年M&Aは81件、取引金額では約3,568億円となっており、2016年の49件、約889億円と比較して件数は約1.7倍、取引金額は約4倍となっている。2010年以降、電力/ガス業界においては本格的にM&Aが行われているが、規模は大型案件の有無により年によってばらつく傾向にある。(注:2012年については、原子力損害賠償支援機構(現 原子力損害賠償・廃炉等支援機構)による東京電力株式会社(現 東京電力ホールディングス株式会社、以下、東京電力)への1兆円の出資を含む)

2017年の大型案件をみてみると、株式会社東芝とウェスチングハウス社の2案件(約779億円)、三菱重工業株式会社と日本原熱株式会社による仏原子力大手アレバグループ子会社への出資(約609億円)など大型案件に加え、投資銀行や商社など他業種による電力/ガス事業への大型参入案件があり(約1,000億円)、数年ぶりに高い水準となった。

 

図表1: 電力/ガス業界におけるM&A動向
※クリックして拡大表示できます

それでは、ここ数年の電力/ガス会社の国内企業間(In-In)のM&Aの取り組みに関して、少し詳しく見ていくことにする。電力/ガス会社の取り組みとしては、大きく以下の4つに分けられる。

  1. 電力/ガス会社同士のアライアンス
  2. 通信事業者などインフラ企業との電力販売連携
  3. 新商品・サービス開発のためのベンチャー企業投資
  4. IoTなどのソフトウェア/ハードウェア企業と組んだ業務提携/実証実験


1.電力/ガス会社同士のアライアンス

電力会社同士のアライアンスにおける大きな動きとしては、東京電力と中部電力株式会社(以下、中部電力)による株式会社JERA(以下、JERA)の設立がある。2015年に設立され、燃料輸送事業、燃料トレーディング事業を統合(ステップ1)、2016年に既存燃料事業(上流事業、調達事業)や既存海外発電・エネルギーインフラ事業を統合(ステップ2)、最終的には2019年に燃料受入・貯蔵・送ガス事業および既存発電事業の統合(ステップ3)が予定されており、火力発電事業のバリューチェーンを一元化するオペレーションの最適化だけでなく、これまでにない海外での事業規模と事業領域の拡大が進められている。グローバルでのLNG市場の拡大、国内での再生可能エネルギー導入拡大に加え、原子力発電所の稼働の見通しが不透明ななか、国内の既存火力発電所における生産性向上はもちろん、投資収益の追求が必須となってきていることが大きな背景にある。燃料事業、火力発電事業だけでなく、送配電事業、原子力発電事業、さらに国内外の事業投資の分野で今後も電力会社間の連携検討が進むことが予想される。

例えば、再生可能エネルギーにおいては、北海道電力株式会社(以下、北海道電力)と東京電力による風力発電導入に向けた実証実験を行うなど、単独で取り組むのでなく電力会社間の協業が行われている。

今後は、上記の活動に加え、電力安定供給、最適化のための「北海道電力と東北電力株式会社(以下、東北電力)」「東京電力と東北電力」「東京電力と中部電力」など隣接エリアのネットワーク事業連携(送配電線事業)、長期的には原子力発電事業に関する再編などの可能性も否定できない。
 

2.通信事業者などインフラ企業との電力販売連携

2016年、2017年と続いた電力/ガスの全面小売自由化により活発となっているのが販売連携である。電力会社とガス会社による相互販売や、通信事業者などインフラ企業による既存販売チャネルを活用したものがある。

中部電力は大阪ガス株式会社と組み、エネルギー・ガス販売会社である株式会社CDエナジーダイレクトを設立、東京電力は株式会社パネイルと電気やガスの全国販売を行う株式会社PinTを設立し、小売販売に特化した会社をつくっている。既存のエリアに加えてエリア外での販売を拡大させるために、販売会社同士の激しい攻防が繰り広げられている。
 

3.新商品・サービス開発のためのベンチャー企業投資

新商品・サービスの開発から顧客提供までを迅速に行うために、革新的な技術やビジネスモデルを持つベンチャー企業への出資も行われ始めている。東京電力や関西電力株式会社(以下、関西電力)では、東京電力フロンティアパートナーズ合同会社や、関西ベンチャーマネジメント株式会社などコーポレートベンチャーキャピタルを立上げ、ベンチャー企業に対して積極的な活動を行っており、他の電力会社も同様のベンチャー企業への投資を始めようとしている。
 

4. IoTなどのソフトウェア/ハードウェア企業と組んだ業務提携/実証実験

M&Aのように資本関係を伴わない形での協業も増えている。特にIoTなどのデジタル分野では、さまざまな業務提携/共同実証実験が行われている。東京電力は大東建託株式会社、株式会社ギガプライズと宅内IoTプラットフォームを活用したスマート賃貸住宅の共同実証試験、中部電力は電気自動車やプラグインハイブリッド自動車の充電履歴をブロックチェーンで管理する技術に関して株式会社Nayuta、インフォテリア株式会社と実証実験を行っている。

革新的なデジタル技術と一緒に取り組む新事業領域は、不確実性が非常に高いため、M&Aなどの資本提携ではなく、低リスクで迅速に進めることができる実証実験の形が多くなっている。実証実験により事業化の目途がつけば、M&Aなどの資本提携にもつながっていくだろう。

 

III.電力/ガス業界の海外におけるM&A動向

ここまで日本における状況を見てきたが、日本企業の海外における活動をみてみると、2017年のM&A件数は31件(In-Out)で国内(In-In)の48件と比較して少ないが、取引金額ベースでは約178億円で国内の179億円とほぼ同水準である。今後の日本における人口減少、省エネによる使用電力低下を踏まえ、大手電力/ガス会社は中期経営計画等において海外事業の拡大を明言しており、積極的な動きをみせているといえる。

 

図表2: 電力/ガス業界におけるM&A動向(In-In/In-Out/Out-In)
※クリックして拡大表示できます

大型案件としては、関西電力が参画しているイギリスとドイツを結ぶ国際連系線電線プロジェクト、JERAによるインド再生可能エネルギー発電事業への参画などがあり、冒頭でも述べた投資銀行や商社による参入も海外案件である。

JERAがLNG調達、販売におけるリスク評価・管理をグローバルに行う体制を2019年に整備するなど、来年以降大型案件が増えていく見込みである。

今後の海外投資の方向性としては、欧州企業の流れに追随していくと考えられる。電力自由化や再生エネルギーへの投資に対して先行して動いてきた欧州企業は、直近では先端技術への投資が活発になってきている。特に再生エネルギー活用に不可欠な蓄電池の開発に対してベンチャー投資が行われている。家庭用蓄電池メーカーのゾンネン(sonnen)は石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェル傘下のシェル・ベンチャーズと既存株主から合わせて6,000万ユーロの出資を確保するなどしている。また、ロシアのハッカーが米電力制御システムに侵入するなど、サイバー攻撃への対策が求められてきており、経済産業省も対策を検討し始めている。

 

IV.おわりに

ここまで直近の動向を見てきたが、日本の電力/ガス業界の国内外におけるM&Aは非常に活発になってきている。今後毎年連続的ではないかもしれないが、M&A市場は拡大していくと見込まれる。2018年は2017年の反動があり規模が小さくなるだろうが、2019年以降はJERAの火力発電承継(ステップ3)、ガス業界の海外投資案件(In-Out)など大型案件が予定されており、M&A市場は拡大していくだろう。

 

出所:各社プレスリリース、公開資料による

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
エネルギー担当 
パートナー 三木 要
シニアヴァイスプレジデント 品川 梓
シニアアナリスト 間下 充顕

(2018.09.18)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。 

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