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Industry Eye 第47回 インフラ・公共セクター
西シドニー地区における “エアロトロポリス” とは ~オーストラリアにおける新空港をとりまく巨大都市開発プロジェクト~
新たな国際空港の整備が進み、今後爆発的なインフラおよび都市開発ニーズを生むことが想定されるオーストラリア ニューサウスウェールズ州 西シドニー地区におけるインフラ・都市開発の動向を整理するとともに、日本企業の事業への参画に向けた視点・論点を示します。
目次
- I.はじめに ~オーストラリアの都市開発における挑戦“City Deals”
- II.西シドニー地区の取り組みと日本企業の参入ポテンシャル
- 1.西シドニー地区の概要
- 2.西シドニー地区におけるエアロトロポリスの取り組み
- 3.日本企業の参入ポテンシャル
I.はじめに ~オーストラリアの都市開発における挑戦“City Deals”
オーストラリアでは2016年より、連邦政府、州政府および自治体という異なる公的主体が連携し、地域コミュニティや民間企業などを巻き込みながら、特定の都市における成長や雇用を促進させ、経済を活性化させるための“City Deals”というパートナーシップの取り組みが進められている。
本稿の主題となる西シドニー地区は、最も早い段階で“City Deals”の検討が始まった3都市のうちの1つとして位置づけられ、2018年に正式に“City Deals”の都市として決定がなされた。
西シドニー地区におけるCity Dealsの目玉は、ニューサウスウェールズ州(以下、NSW州)における新たな国際空港であるWestern Sydney Airport(以下、「WSA」という。)を中心としたシドニー大都市圏の西部地域に立地する大規模新都市開発プロジェクトであり、今後長期にわたって旺盛なインフラや不動産開発のニーズが見込まれるエリアである。
本稿においては、西シドニー地区における新空港開発の経緯や、先行して開発が行われるエアロトロポリス構想などの計画を概観した後、日本企業等による参入にあたっての視点・論点等について整理する。
II.西シドニー地区の取り組みと日本企業の参入ポテンシャル
1.西シドニー地区の概要
西シドニー地区は、NSW州のシドニー大都市圏西部エリアに位置付けられている。
現在、西シドニー地区を構成する8自治体の人口合計はおよそ100万人であり、シドニー大都市圏の人口の増加を背景に、シドニー第二の新空港の整備が正式決定されたことも影響して、今後さらなる発展が見込まれるエリアである。
新空港は、シドニー中心地からおよそ50km西方のBadgerys Creekに計画されており、2014年に正式に計画が決定した後、2026年の供用開始に向け、現在建設予定地の造成工事に着手するとともに、空港に係るデザインコンペが実施されている。新空港は連邦政府機関として設立されたWSAによって整備・運営がなされ、現在、第一期整備では3,700mの滑走路が整備され、開港当初は500万人、最大年間約1,000万人の旅客キャパシティを備えた空港として計画されている。
連邦政府、NSW州および8自治体の間で締結された“City Deals”においてコミットされた枠組みは概ね以下のとおりとなっており、公共交通の整備推進や20万人の新たな雇用開発等に向け、6つのイニシアティブに基づき、多数のコミットメントが掲げられているところである。
図表2 City Dealsに掲げられたコミットメントと具体例
イ |
接続性 |
鉄道整備 |
Western Cityにおける鉄道の整備 |
---|---|---|---|
高速バスサービス |
Western Cityにおける高速バスサービスの提供 |
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デジタル接続、スマート技術 |
Western Cityのデジタルアクションプラン |
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Smart Western Cityプログラム |
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5G戦略 |
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利用可能なデータセットの公開 |
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将来の雇用 |
ワールドクラスの“Aerotropolis” |
Badgerys Creekにおけるエアロトロポリス構想 |
|
エアロトロポリスのマスタープラン策定機関の設立 |
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投資および産業誘致 |
Western Sydney Investment Attraction Office(WSIAO)の設立 |
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Investment Attraction Fundの設立 |
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地域における雇用の確保 |
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高付加価値の雇用を確保する地区の指定 |
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雇用創出のための政府用地の活用 |
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農業ビジネス機会拡大 |
農業ビジネス地域 |
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先住民ビジネス展開支援 |
先住民ビジネスハブの設立 |
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先住民の小規模ビジネスおよびスキルパッケージ |
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より多くの雇用機会 |
先住民・地域の参画を踏まえた建設事業に対する調達 |
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スキル・教育 |
教育およびスキル |
WSA周辺地域のTAFE Skills Exchangeの設立 |
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教育パートナーシップ |
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パートナーシップ構築 |
エアロトロポリスでのSTEM Universityの開校 |
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エアロトロポリスでのVET Facilityの設立 |
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航空宇宙・空港産業に係る新パブリックスクールの設立 |
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住みやすさ・環境 |
アメニティと住みやすさ |
Western Parkland City Liveability プログラム |
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環境・文化等の保護 |
Innovation In Plant Sciencesセンターの設立 |
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South Creekの再生および保全 |
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環境評価手続合理化 |
EPBC Actに係る戦略的評価手続き |
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地域健康の改善 |
Western Sydney Health アライアンスの設立 |
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プランニング・住宅 |
住宅パッケージ |
Western Parkland Cityにおける住宅整備目標策定 |
|
地域住宅戦略の早期化 |
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PenrithからEastern CreekにおけるNew Growth Areaの指定 |
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自治体の技術デザイン標準、通信計画の統一化 |
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Growth Infrastructure Compacts(新規雇用、住宅供給等の計画および調整を実施)の設立 |
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計画に係るパートナーシップアプローチ |
5自治体間の計画策定に係るWestern Sydney Partnership |
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将来のインフラニーズに対する革新的計画 |
交通および水インフラストラクチャーモデルの開発 |
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実行性・ガバナンス |
長期にわたる連邦・州・自治体のガバナンス |
長期にわたるガバナンス |
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City Dealのコミットメントに係るKPIの検討 |
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コミュニティパートナーシップ |
原住民組織による機会最大化するための連携 |
出所:Implementation Western Sydney City Dealsよりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成
現在、エリアでは、新空港のほか各種道路の整備が先行しており、エリア東側の高速道路M7と空港北部をつなぐ高速道路であるM12やエリア西側を南北につなぐthe Northern Roadなど、軸となる幹線道路の整備が進められている。
鉄道については、エリア西部の南北既存鉄道網をつなぐNorth-South Rail LinkがNSW州の機関であるSydney Metroにより計画されており、新空港から北部既存都市に立地するSt. Marys駅をつなぐ第一期事業につき、新空港の開港する2026年までに開通させるべく、計画が進められている(現在は戦略的フィージビリティスタディを実施している段階)。
2.西シドニー地区におけるエアロトロポリスの取り組み
“City Deals”において指定された西シドニー地区のうち、特に新空港であるWSAを中心とした11,200haのエリアをエアロトロポリス(Aerotropolis)として位置づけ、就業人数20万人の新都市の整備を目的とした都市開発を行う計画が進められている。
エアロトロポリスの構想によれば、WSAの南北をエアロトロポリス・コアおよびノーザン・ゲートウェイとして、雇用創出のための中心的なエリアとして位置づけ、エアロトロポリス・コアでは、特に西シドニー地区における中心地として位置づけ、高度科学技術と関連する航空宇宙・防衛産業を中心とした産業の育成が求められている。また、ノーザン・ゲートウェイは、空港の玄関口として、教育やハイテク、R&D拠点として位置付けられるほか、農業の加工・輸出産業の育成が求められているエリアとされている。なお、ノーザン・ゲートウェイにおいては、すでにいくつかの民間事業者による開発構想が策定されているところである。
2018年11月には、エアロトロポリス構想の推進に係る機関として、連邦政府およびNSW州政府が共同で“Western City and Aerotropolis Authority ”(WCAA)を設立し、マスタープランやインフラ計画等の策定、国内外の投資誘致などの取り組み等を推進しているところである。
3.日本企業の参入ポテンシャル
本事業は、現在、対象となるエリアの大部分で基礎インフラも十分に整っていない状況であることから、実際の不動産開発などが進むのは、比較的先のことであると想定される。
その一方で、広大な国土を有するオーストラリアにとっても、本構想はこれまでに類を見ない規模のプロジェクトであり、オーストラリアの官民双方のプレーヤーより、多様な観点から、日本企業等の有する技術やノウハウ、資金力等に対する期待が示されているところであり、将来的には、幅広い業種による事業への参画機会が見込まれるところである。
上記を踏まえ、現段階において、日本企業による各種事業への参入機会を得るにあたって必要な視点として、以下の2点を示す。
1点目は、西シドニー地区およびエアロトロポリスに係る敷地は、多くが民地であるということである。したがって、計画を実現するためには、地権者等現地プレーヤーとの合意形成等が欠かせない。また、現段階において、地権者等現地プレーヤーに対して効果的にアプローチするにためには、面的開発に係る明確なコンセプトを打ち出し、インフラ整備と都市開発がパッケージ化された提案を念頭に置く必要がある。
2点目として、各種インフラ整備や鉄道の開発・運行、不動産開発などの幅広い日本企業や、それをコーディネート、統括する公的機関などの総合力にて、民間提案的な発想でのプロジェクト開発を志向することである。オーストラリアにおいては、多くのインフラプロジェクトについて州政府が事業実施主体となっており、NSW州においては、民間が各種公共関連プロジェクトを提案して事業化するUnsolicited Proposalに係る一定の手続きが定着している。事業が採択されるためには、当該提案に対する提案者の唯一性(Uniqueness)が必須であり、採用のハードルは高いものの、日本企業が有する随一の技術や、地元地権者などと連携した個別性(敷地等を有していることの個別性等)などを訴えることにより、民間による発意を契機としたプロジェクトが実現する余地がある。
III.おわりに
以上、オーストラリアの西シドニー地区に係る“City Deals”およびインフラ整備計画などの状況と、西シドニー地区内の大規模都市開発計画であるエアロトロポリスの開発構想について概要を示したうえで、日本企業による参画に向けた論点などを取り上げた。
当社では、本年6月に国土交通省との共催により、西シドニー地区などを対象としたインフラ等の展開に係るセミナーを開催したところ、民間企業などより100名を超える多くの参加があり、日本企業による本事業に対する興味・関心の高さがうかがえた。
さらなる検討の深化とともに、今後の実案件での日本企業の参加に期待したい。
執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
インフラ・公共セクター
シニアバイスプレジデント 片桐 亮
(2019.9.17)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。
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