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Industry Eye 第73回 エネルギーセクター

発電投資回収の予見性を取り巻く論点

本稿では、発電事業の投資回収の予見性が低下しがちな現状において、特に再エネで投資回収予見性を高めるための取り組みであるコーポレートPPAについて、その活用に向けた課題も含めて概説します。

I.はじめに

太陽光や風力といった再生可能エネルギー(以下、再エネ)を含む発電事業は、投資回収が最低でも10年以上にわたる事業である。このため、投資回収期間中の発電事業の収益や費用に関する予見性が十分でなければ、発電事業者が投資意思決定を下すことは難しく、また、金融機関による発電事業者へのファイナンスについても、保守的な発電事業キャッシュ・フロー想定に基づく限定的な規模の貸付にならざるを得ない。したがって、発電事業の投資回収の予見性を高めることは、再エネの導入を促すためにも、また、電力不足を招かないために既存電源(火力、原子力等)の維持・開発を促すためにも、政府にとって極めて重要な課題である。

しかしながら、再エネ発電事業の予見性を高めるために導入した固定価格買取制度(FIT制度)において、発電事業者に対して買い取りを約束している金額、すなわち再エネ賦課金は2022年度に4兆円を超えている。この賦課金は、電気料金に上乗せして国民や企業といった電気の需要家から広く回収する仕組みである。このため、賦課金の積み上がりは、そのまま国民の財布を直撃することになることから、国としてはこれ以上国民負担を増やすことに慎重にならざるを得ず、従来のFITほどの予見性を発電事業者に与えることは難しい状況である。

このような状況を踏まえ、国は、FITに代わる制度としてFIPを導入し、さらに発電事業者を入札で決定する等により、できるだけ国民負担を抑えながら、同時にさらなる再エネ導入を促すことを目指している。これにより、発電事業者にとっては、発電さえすれば安定的な収益が約束されていたFIT下と異なり、発電事業の投資回収の予見性を高めるための方策を自らが講じていくことが求められる。

II.発電投資回収の予見性を高めるための取り組みと論点

1.再エネを取り巻く制度の振り返り

FIP(フィード・イン・プレミアム)は、FITと同じく、再エネ電気の買い取りに係る支援策である。ただし、いくつかFITと異なる点があり、その一つは、買取価格が電力取引市場価格の影響を受けるという点である。具体的には、FITにおいては電力取引市場価格によらず固定価格での買い取りであったところ、FIPにおいては、発電事業者は、(1)自ら決定する売電先からの売電収入に加えて、(2)事前に決められた算出式および電力取引市場価格を踏まえて算定される一定のプレミアムを得ることになる。このため、発電事業者の再エネ発電による収益は、電力取引市場価格の影響を受けやすくなる。例えば、(1)において電力取引市場への売電を選択する、または選択せざるを得ない場合、当然ながら売電収入が市場価格見合いで大きく変動する。また、(2)については、そもそもプレミアム算出にあたって電力取引市場価格を参照するため、やはり市場価格見合いで変動する。詳細は省くが、(1)と(2)の合わせ技により、FITと同等程度の収入額を得られる場合も少なくないと想定されるが、予見性という意味ではFITに比べて大きく劣ることは否めない。

再エネの電源別にみると、以下の通り太陽光や風力の一部を皮切りに、FIPに移行した、あるいは今後移行していくこととなっている。

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2.投資回収予見性を高めるための取り組みと論点

FIP下で問題のひとつとなる、市場見合いでの収益変動に伴う予見性の低下に対し、それを改善するための一つの方向性が、コーポレートPPAと呼ばれる、発電事業者と需要家との間の相対契約に基づく固定価格での電気の買い取りである。既に事例が出てきているこのコーポレートPPAには、再エネから生じる電気と環境価値をともに需要家に長期、固定価格で引き渡すフィジカルPPAと、環境価値のみを需要家に長期、固定価格で引き渡し、電気については需要家ではなく市場に売電し、代わりに発電事業者と需要家との間で電気の約定価格を決めておき、市場と約定価格との差分を需要家が補填(差金決済)するバーチャルPPAがある。後者が望まれる背景の例として、需要家の既存の電気契約との兼ね合いであったり、需要家の電気消費パターンに再エネが合わないであったりにより、電気は引き取れないが環境価値は欲しいというパターンなどがある。それ以外にも、バーチャルPPAには補助金が充てられやすい等もあり、今後の普及が期待されている。

しかしながら、コーポレートPPA(フィジカル、バーチャル)には、需要家の理解度、価格を長期固定するための判断材料となる電力価格の長期予測、会計処理など、解決しなければならない様々な課題が存在する。会計処理という点では、長期で取得する環境価値の資産性評価や償却タイミングをどうするか、また、バーチャルPPAの場合における電気の取り扱い(差金決済)がデリバティブ判定される可能性がないか、もしそう判定される場合に時価評価をどう行うか、といった課題が生じる。

将来のカーボンニュートラルに向けて、再エネ発電投資の回収予見性を高め、再エネ導入を促すためには、こういった課題を業界関係者で積極的に議論・解決していく必要がある。

III.おわりに

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社およびデロイト トーマツ グループは、電力価格の長期予測や、デリバティブを含む会計処理をはじめとする、コーポレートPPAを取り巻く課題の解決に積極的に取り組み、将来のカーボンニュートラルに貢献していきたいと考えている。本記事をご覧になっている、コーポレートPPAを検討しておられる会社様がいらっしゃれば、発電事業者、小売事業者、需要家いずれのお立場を問わず、お気軽にご相談いただきたい。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

(2023.3.10)

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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