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国内洋上風力発電と官民連携

Financial Advisory Topics 第7回

2021年12月24日、日本国内において初めて行われた一般海域での(着床式の)洋上風力発電事業者の3海域での事業者選定結果が公表された。結果は、事前予想を覆すものだったといわれており、本稿作成時点でも大きな反響・議論を呼んでいる。本稿では、官民連携という観点でこの事業者選定について読み解いてみたい。

I. 日本国内における洋上風力発電事業の動向

① 制度や事業者選定方式の概要

2018年、欧州を中心に先行して導入が進んできた洋上風力発電に関して、再エネ海域利用法1 が定められた。自然的条件等の要件適合性についての状況調査等を経たのちに、政府により促進区域2 に指定された一般海域に関して公募占用指針を作成・公表する。これに対して関心ある事業者により公募占用計画の提出を求めるという公募により事業者を選定するものである3 。

選定された事業者は政府により最大30年間の占有を許可され、公募占用計画に記載したFIT価格を20年間認定も受けられるものとなっている。
 

② 事業者選定の配点:価格点と提案点のウェイト

事業者選定の配点は公表されており、価格点と提案点のウェイトが50:50と同程度となっている。官民連携事業としてここ10年間先行してきたPFI法に基づくコンセッション案件と比べても価格点のウェイトが大きい。ここには、再生可能エネルギーの最大限の導入と国民負担抑制を両立する、という政府の意思が込められているといえる。
 

③ 第1ラウンドの結果概要と今後の動向

2021年12月24日、経済産業省および国土交通省は、「秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖」、「秋田県由利本荘市沖」、「千葉県銚子市沖」における選定について結果を公表した。公募には、それぞれ5事業者、5事業者、2事業者からの応募があり、3海域同じ事業者がリードするコンソーシアムが選定された4

なかでも大きな反響を呼んだのは、事業者選定におけるFIT価格の上限は29円/kwhとされた中で、選定された事業者のFIT価格は10円台前半~半ば(11.99円~16.49円/kwh)水準であったことである。制度導入時から政府目標で「(着床式の発電コストを)2030~2035年に8-9円/kwhにする」5 という点は明示されていたものの、他の事業者と価格点で大きく差がつく結果となった。

政府は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」において、2040年までに最大で45GWの導入目標を示しており、今後も公募は行われることが想定される中、今回の結果が応募事業者や関係プレイヤーの戦略に大きな影響を与えることになるのは間違いないと思われる。

II. 官民連携の観点から考察

① 肝はパートナーシップ 官民の対話が大事

今回の公募選定に関して官民連携の観点から考察する。まず洋上風力発電事業の事業者選定は、いわゆるPFI事業ではないが、グリーンフィールド型の官民連携事業である。すなわち、公共側は、洋上風力発電という長期安定的な電源かつコスト競争力のある電源として民間事業者の力を求めており、民間事業者側は大きな事業機会として公募機会をとらえている。以降、公共側、民間側それぞれの観点でいくつか考察したい。
 

② 公共側に求められた論点

i. 公募開始前の対話機会(民間へ期待するものを明確に伝えていたか)

公募開始前の官民のコミュニケーションはどうであったのか。この点に関していえば、基本方針6 やガイドライン7 の作成・公表、協議会の設置、有望区域の指定、促進区域の指定といった段階的なプロセスを設け進捗を公表しつつ、協議会やパブリックコメントなどプロセスの透明性や意見を取り入れる仕組みはある程度整っていたといえる。また、いわゆる選定基準8も公表されていたことから一定程度はゲームのルールは伝わっていたと筆者は考える。
 

ii. 公募開始後の対話機会(民間との対話の仕組みはどうだったか)

一方で、公募開始後はどうであったか。ここでは対話の機会が少なかったと思われ、この点では改善の余地があるものと考える。具体的な例を2つ挙げる。

まず、公募期間中の対話や質疑応答の機会である。今回の公募では、公募開始後すぐに公募占用指針に関する質問機会が設けられ、質問回答も公表されたが、それ以降は双方向のやり取り・対話という観点で改善余地があると思われる。PFIコンセッション事業では競争的対話という形で公募期間中に双方の考えを協議する機会が与えられる他、公募関連の質疑も数回与えられているケースが多い。これにより公共側の意図をより深く伝え、その意図を汲んだ提案を民間から引き出す狙いがある。

次に、公募占用計画の提出後の機会である。今回の公募占用計画は枚数制限がなく、応募書類は数百ページに上ったといわれている。評価プロセスでは、ヒアリングを実施する想定であったと思われるが、膨大な量の書面では十分に民間の意図が伝わりにくかった可能性もあり、民間の意図を把握する・対話する場をより積極的に設けることも一案だったのではないかと考える9

③ 民間側に求められた論点

次に民間側はどうだったのであろうか。ここでは、市場環境、競争環境、自社戦略という3つの切り口で整理したい。
 

i. 市場環境(公共からの期待と不確実性)

今回、洋上風力事業で公共側が何を求めているか、民間にどういう役割期待があるかを整理できたかという点である。洋上風力では、FIT価格の低減=国民負担の抑制が大きなゴール、電力安定供給、関連産業育成にニーズがある点は公募占用指針等でも明記されており、公募占用計画でいかに訴求できたかが重要である。

また、最大30年間という長期の計画が求められている中、不確実な未来をどう思い描き、そのリスクにどう対処するかが問われた。これは通常の中期経営計画よりも遥かに長い期間であり、必然的にバックキャスト思考が求められる。今回のようなグリーンフィールド型のプロジェクトの場合、シナリオプランニングなどの活用も有効であったであろう。またFIT価格のみならず、FIT期間後の収益確保やバリューチェーン全体への目配せ、EXITやリファイナンスなど資金・財務戦略をどう組み立てるかも検討が求められたと思われる。
 

ii. 競争環境をどう考えたか

事業者選定は公募であり相対評価の競争である。今回多い海域では5事業者が手を挙げた。しかもコンソーシアム同士の競争である。今回の選定基準では、いわゆるトップランナー方式10 も導入されており、項目ごとに点差が付きやすい形になっていたことから、競合コンソーシアムの出方を想定し、自分たちの相対的な強みを生かした公募占用計画に仕立て上げられたかが重要であったといえる。
 

iii. コンソーシアム戦略(自社とパートナーの役割分担)

今回の洋上風力発電事業のような巨額のインフラ事業においては、1社単独ではなく、複数企業がコンソーシアムを組んで取組・応札することが多くみられる。この中では、自社の強み(弱み)を考え、コンソーシアムを組むパートナーに求める機能を考える事が求められる。また公募事業に応札する以外にも様々な形で関与したプレイヤーは多かったと思われる(資金提供者、EPC<設計、調達、建設>ないしO&M<運営および維持管理>サービスのサプライヤー等)。こうした複合的なパートナー戦略・コンソーシアム戦略の巧拙は今後も重要な論点であると考える。

 

III. 結びに

公共と民間とがWIN-WINになる形を模索・検討し続けることが官民連携事業の難しい点であり、また可能性を秘めた仕組みであると筆者は考えている。本稿執筆段階において、洋上風力発電事業に関するFIP制度の導入11 や選定方式等に関する見直しの要望等、改善に向けた議論がされている。今後も続くと想定される洋上風力発電事業の公募にあたり、公共・民間相互に改善を加えながらより良い事業が形成されることを期待したい。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
インフラ公共セクターアドバイザリー
マネージングディレクター 手計 徹也
シニアアナリスト 早川 雄基

 

(2022.3.2)

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

 

1 正式名称は「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」

2 正式名称は「海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域」

3 関連法律や制度概要は経済産業省ホームページ参照  洋上風力発電関連制度|なっとく!再生可能エネルギー (meti.go.jp)

4 経済産業省ニュースリリース 2021年12月24日「秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖」、「秋田県由利本荘市沖」、「千葉県銚子市沖」における洋上風力発電事業者の選定について (METI/経済産業省)

5 洋上風力産業ビジョン(第1次)(vision_first.pdf (meti.go.jp)

6 正式名称は「海洋再生可能エネルギー発電設備に係る海域の利用の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な方針」

7 正式名称は「海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域指定ガイドライン(令和3年7月改訂)」

8 公募占用指針の中に「選定事業者を選定するための評価の基準」として記載されている

9 なお2021年12月に公募が開始された「秋田県八峰町及び能代市沖」案件では枚数制限が設けられた。(再エネ海域利用法に基づく洋上風力発電事業者の公募を開始します (METI/経済産業省)

10 公募占用指針内において記載された評価の採点方法。5段階の階層を設けて採点した上で各項目のトップランナーを満点とし、トップランナー(100%)、ミドルランナー(70%)、最低限必要なレベル(30%)、不適切とまでは言えないレベル(0%)、不適切(失格)として採点するもの。更に一部項目ではトップランナーは1者のみとしていた。これにより項目ごとに点差が付きやすくなっている

11 総合エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第39回)基本政策分科会 再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(第15回)合同会議(METI/経済産業省)

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