事例紹介

海外大学訪問レポート(3)オーストラリア国立大学

海外調査から得た大学経営管理高度化へのヒント

デロイト トーマツ グループでは、オーストラリア国立大学(ANU)の最高財務責任者、経理財務担当部門及び研究支援部門に複数回訪問し意見交換をしてきた。本レポートでは、ANUが行っている研究業績及び採用活動のシステム化による管理高度化を紹介する。日本の大学が持続的に競争力を向上させていくための大学経営管理高度化のヒントとして活用いただきたい。

はじめに

前々回(シンガポール国立大学 / National University of Singapore: NUS)、前回(バージニア大学 / University of Virginia)と2回に渡り、大学の経営管理等についての取り組みを紹介してきた。

DeloitteのGlobal Education Sectorは世界中の多くの大学や研究機関と協働しており、当法人の教育セクターにおいても海外の現地事務所Education Sectorとの連携、また各国の大学や研究機関との関係を活かし、2018年に複数回にわたり、海外大学等の調査研究を実施している。

第3回となる本レポートでは、オーストラリア唯一の国立大学である、オーストラリア国立大学(The Australian National University:以下「ANU」)について取り上げたい。我々は、同じアジア・パシフィックの名門大学である同校にこれまで複数回訪問し意見交換をしてきた。

本レポートは、ANU及びDeloitte MelbourneのEducation Sectorの協力を得て、2018年7月に実施した当法人教育セクターメンバーによる、訪問調査の内容に基づくものである。

 

 

オーストラリア国立大学(The Australian National University)について

オーストラリア国立大学(The Australian National University:ANU)は、1946年に設立されたオーストラリア唯一の国立大学であり、首都キャンベラに位置している。7つの学部及び大学院を有する総合大学であり、2017年12月時点の学生数は約26,000人(うち学部生約13,000人、大学院生約13,000人)、2017年3月時点の教職員数は約4,100人(うち教員1,700人、職員2,400人)である。なお、オーストラリアの大学は、2校の私立大学と国立大学であるANUを除き、公立大学が主体の高等教育市場である。

The Times Higher Education (THE) 2018版の大学ランキングでは、ANUは世界第48位、アジア・太平洋地域第8位にランクインしている。またThe QS World University Rankings 2018では世界第20位、社会科学分野では世界第14位、人文科学分野では世界第16位に位置づけられている。

 

 
 

ANUにおける特徴的な取り組み事例

今回の訪問では、ANUの最高財務責任者(Chief Financial Officer / CFO)、経理財務担当部門、及び研究支援部門とディスカッションを行った。 その結果、特に研究業績管理ならびに採用活動において、システムを活用した高度化の取り組みが、日本の大学においても参考になると思われるため、その概観を以下に紹介する。
 

(1)研究業績管理におけるシステム活用とORCID普及の取り組み

ANUでは経営戦略として、研究管理業務の効率化による研究者の事務負担軽減及び、研究成果のデジタル化とアクセサビリティの向上に注力しており、 「RIMS Program」と呼ばれる施策により研究管理プロセスのシステム改善を進めている。その中心的な取り組みの一つが研究情報管理システムの構築 ・運用であり、 2017年11月末に新システム Research Information Management System(以下、「RIMS」) が運用開始された。2018年7月時点で、RIMSは他システムとの研究者業績情報の自動連携機能、研究者個人用の業績管理ダッシュボード機能をリリースしている。今後は研究プロジェクト計画策定支援や、政府・企業を相手とした契約管理等の支援機能の拡充も検討されている。

こうした研究情報管理のシステム化については、以前のレポートで取り上げた大学でも確認されたが、ANUにおいて特筆すべき点としては、とりわけ機関リポジトリと研究情報管理システムの連携強化を図っている点、そしてそのキー情報として、「ORCID」の研究者IDを用いている点が挙げられる。ANUの図書館が管轄するリポジトリシステム「Open Research Library」では、所属研究者、教員及び博士課程在籍者が論文、雑誌記事等を公開することができるが、その際、自らのORCID IDを合わせて登録すれば、研究業績としてデータがRIMSへ自動連携され、その先にあるWebページ上の研究者情報へも反映される仕組みとなっているのである。

“ORCID(Open Researcher and Contributor IDの略)”は日本でも認知度が高まりつつあるが、世界中の研究者に対して一意な識別子を与えることを目指す国際的組織である。2012年10月よりその研究者情報データベースの稼働を開始し、2018年末時点でTHE Top100大学の約7割がメンバーになっているとの調査もあり、近年その活動が広がりつつある。特にオーストラリアでは2017年に大規模なコンソーシアムが立ち上げられ、2020年をターゲットに、全ての現役研究者によるORCID ID取得を目標に掲げている。ANUにおける取り組みもこうした学外状況と連動したものと推察されるが、学内の研究者及び学生のORCID IDの取得を推奨してきた結果、2017年段階で対象者の80%がORCID IDを取得済みとのことである。

今後ANUでは、機関リポジトリの掲載情報と、このORCID IDの紐づけを一層推進するほか、アクセサビリティ向上施策として、同一研究者が有している学内外の複数IDをRIMSに登録させ、研究業績の情報を集約していく計画を示している。日本におけるORCID IDの普及状況は、 2018年春時点で20弱の機関の参画にとどまっているが、その要因として、既に様々な研究者IDが国内でも存在していること、学内で管理している研究業績や研究者情報と紐づけるために既存システムの改修が必要であることなどが挙げられるだろう。しかし、研究業績アクセサビリティの向上、研究者ごとの抜け漏れのない業績管理という観点では、こうしたグローバルレベルで共通化されたID管理のニーズは今後高まっていくものと想定され、国内大学のIT戦略上も考慮に入れておく必要があるだろう。
 

補足:オーストラリアにおける大学評価システム(ERA)について 

先述のようにANUにおいて研究業績管理の高度化を進めている一つの背景には、オーストラリアにおける大学の研究評価制度があると推察される。2010年にラッド政権下で導入されたExcellence in Research for Australia(以下、「ERA」)制度は、数年に一度、オーストラリア最大のファンディング・エージェンシー法人であるAustralian Research Council (ARC)主導で国内大学の研究業績をスコアリングするものである。研究成果、出版状況(書籍等著作物)、研究収入、応用化状況(特許・商業実用化等)等を指標として大学別・研究分野別に評価され、その結果が一般公開されることとなっている。評価に際しては、有識者で構成される評価委員会においてグローバルレベルで要求される水準を定め、それに照らしてスコアリングが行われる。

国内外での評価獲得及び大学としての成長のため、各大学はERAのスコアアップに取り組んでいる。例えばANUではKPIの一つとして、「ERA上でレベル4又は5と認定を受けている研究分野(4-digit Field of Research)で最低1分野は認知されているレベルD(准教授等)及びレベルE(教授等)教員を増員させること」と定めている。結果として、ERAが導入された2010年は該当教員が79%であったが、2015年には90%にまで増加しており、大学の強みである研究分野をさらに強化するための人材を積極的に獲得していることがうかがえる。各大学の戦略立案上、ERAが分かりやすい指標として活用されている。

ERA開始以降、THEのランキングにおけるANUの研究分野の得点は上昇傾向にある。この傾向は他の“Group of Eight(Go8)”と呼ばれるオーストラリアの特に有力な8大学全体に共通しており、ERA導入、またそれによる各大学のスコアアップに向けた取り組みが、結果的にグローバルでの評価向上にも一定の効果をもたらしていると言えるだろう。
 

 

(2)採用プロセスにおけるシステム化の推進

ANUでは、採用プロセスにおける情報管理の高度化を進めており、「ANU Recruit」と呼ばれるシステムを用いた採用活動に取り組んでいる。ANU Recruitは、採用選考担当者向け、採用担当マネージャー向けだけでなく、応募者向けのメニューも用意されており、学外からもアクセス可能となっている。

まずANU内で教職員採用が必要になると、採用担当マネージャーがシステム上で当該ポジションの募集用情報の登録を行う。定型の質問項目に沿って専用フォームに入力することで公開される募集要項を作成できるため、情報の抜け漏れを防止しつつ、スピーディーに作業が完了する。ANU Recruitは全学共通の人事管理システムと連携しているため、募集内容に対応した職務記述書の添付や、権限内規に則った承認ルートの反映も可能である。

応募者側は、オンライン上で採用情報を確認し、応募フォームの入力及び必要書類のアップロードを行えば応募完了となる。採用選考担当者はその登録された応募情報を確認し、同システムの機能を用いて評価登録を実施する。その後の書類選考結果の通知、面接日程調整や、面接結果の記録、そして最終的な正式オファーとその受諾プロセスも全てオンライン上で完結する。採用内定者による銀行口座等の情報提出もオンラインから実施し、新規就業者情報として、必要部署にレポーティングされる仕組みとなっている。

このように面接以外のやり取りを全てシステム上で完結させることにより、より戦略的な採用活動が実現できる。書類送受の事務処理負荷の軽減、関係者間での共有漏れ防止、海外からのタイムリーな応募対応等の業務プロセス改善はもちろん、人事システムと連携し、採用時評価とその後のパフォーマンスを紐づけた分析も可能となる。日本国内では、雇い入れ後の勤怠・給与管理や人事評価管理はシステム化しているが、採用時は募集要項のHPページ掲載後、全てメールとシステム外の対応で賄っているケースも多い。費用対効果を見極める必要はあるものの、採用プロセス強化における一方策として、こうしたシステム化の推進も検討の余地があるだろう。


参考:Group of Eightについて
オーストラリアにおける特に優れた主要8大学を指す。本レポートでも取り上げているオーストラリア国立大学の他、シドニー大学、ニューサウスウェールズ大学(以上、ニューサウスウェールズ州に所属)、メルボルン大学、モナシュ大学(以上、ヴィクトリア州に所属)、クイーンズランド大学(クイーンズランド州に所属)、アデレード大学(南オーストラリア州に所属)、西オーストラリア大学(西オーストラリア州に所属)から成る。

教育分野はもちろんのこと、医療や科学技術分野における研究、また単独・協働での政策提言なども実施し、影響力の大きな大学群である。 近年、オーストラリア政府の政策の一つである国内大学生数の規制の影響もあり、各大学に所属する海学留学生の数は増加傾向にあり、中でも中国人学生を取り巻く各大学の取り組みは注目されている。

 

おわりに

以上、オーストラリア国立大学における取り組みを紹介した。研究業績管理、採用プロセス管理それぞれのシステム化事例ではあるが、人材に係る情報を抜け漏れなく、効率的に管理するための施策という点では共通しているといえるだろう。こうした施策が推進される背景には、補足の項で取り上げた国家的な施策の存在、そして、グローバルで競争力のある大学として認められるために優秀な人材確保や研究業績の公開による適切なアピールが重要である、という認識があるものと推察される。あくまでシステムの整備は手段の一つであるが、グローバル競争力の向上という観点では、特にインターネットを介した研究業績等の情報発信、海外研究者との接点の拡大において、戦略的に取り組んでいくべき課題であることは間違いないだろう。 国内大学の多くは、基幹システムも含め、周辺のアプリケーション、デジタル化の観点ではまだ発展の余地が大きいものと認識している。 こうした事例をもとに、有意義なトランスフォーメーションが進むことを期待したい。

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