事例紹介

海外大学訪問レポート(2)バージニア大学

海外調査から得た持続的な競争力向上へのヒント

バージニア大学(University of Virginia)での最高情報責任者(Chief Information Officer, CIO)、最高財務責任者(Chief Financial Officer, CFO)、および研究管理部門の責任者を中心におこなったヒアリングの内容を踏まえ、特に予算管理プロセス及び研究資金管理におけるBIツール活用について、特徴的な取り組みの一部を紹介したい。

はじめに

前回の海外大学訪問レポート(1)では、近年教育・研究双方における成長が著しく、日本においても注目されている大学の一つであるシンガポール国立大学(National University of Singapore)の取り組みについて言及した。

第2回となる本レポートでは、米国のバージニア大学(University of Virginia)について取り上げる。なお、本レポートは、バージニア大学の協力を得て、2018年6月に実施した有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー 教育セクターメンバーによる、訪問調査の内容に基づくものである。

 

 

バージニア大学(University of Virginia)について

バージニア大学(University of Virginia)は1819年、独立宣言の起草者で第3代大統領でもあるトーマス・ジェファーソンにより設立された州立大学であり、バージニア州シャーロッツビルに位置する。医療、法律、政策、教育、ビジネス等幅広い分野の11学部を有し、学生数は2018年時点で約22,000人、教職員(医療従事者含まず)は約17,000人である。

The Times Higher Education (THE) 2018では、世界第113位、米国内では第56位にランクインし、特に法律分野では世界第29位、心理学では第30位を獲得している。また、The QS World University Rankings 2019では、世界第173位、語学文学で世界第45位にランクインしている。

 

 
 

バージニア大学における取り組み事例

今回の訪問では、最高情報責任者(Chief Information Officer, CIO)、最高財務責任者(Chief Financial Officer, CFO)、および研究管理部門の責任者を中心にヒアリングの機会を得た。その結果、特に予算管理プロセス及び研究資金管理におけるBIツール活用について、特徴的な取り組みがあり、その一部を紹介したい。
 

(1)分権型の予算管理プロセス

バージニア大学では、管理会計上、学内の組織をActivity CenterとService Centerに分け、前者を授業料や補助金等の獲得により大学の収入に影響を与えることができる組織、後者を学内の他組織に対するサービス提供を担う組織として定義している。特に前者について、教育活動や研究資金獲得における貢献度合いによって、予算が増減することを強く意識させる仕組みとなっている。例えば各学部への学部生の授業料の配分は、年間の単位授与数(提供講義時間、受講学生数)や所属学生数を主要なドライバーとして行われている。また、補助金等の収入についても原則受領した組織にほぼ全額割り当てが行われる。

予算編成においては、毎年、各学部の責任者が、当該学部の収入見込額や、直接経費、Service Centerからのサービス享受に伴う負担見込額を算定し、大学全体に共有する。その上で、当該学部を管轄する上級副学長による承認が行われれば予算確定となる。特定の学部に対し、大学の内部留保資金の充当等により、収支がバランスするよう調整が行われることもあるが、その場合は透明性を担保するため、収入の補填が行われた理由について、全学的に公開されることとなっている。各学部では、自らの獲得収入額が執行可能な予算額に直結し、また予算枠内での使途の決定権も実質的に委譲されているため、一経営単位としての収支管理が求められることになる。

以前はバージニア大学においても、全学の収入額を本部管理組織で取り纏め、予算管理に基づき各学部へ配分する方法をとっていたが、現場レベルの経営意識が希薄であることが長年課題となっていたため、このような方式となった。新たな予算管理方式を採用したことにより、授業料収入を左右する入学者数や、提供講座の質・量、補助金獲得額が以前より重視されるようになり、各学部レベルで教育プログラムの設置・改廃や、それに伴う教員・研究者の採用、設備投資等の意思決定を戦略的に実施しようという意識の向上にもつながっているとのことである。

勿論、各学部の裁量拡大はメリットばかりでなく、複数の学部で類似プログラムが別個に企画運営されてしまう等、全体最適を図りづらくなるリスクも生じるため、バランスをいかにとるかが重要であるが、現場の意識改革、硬直的な予算計画からの脱却という点においては一つの選択肢と言えるのではないだろうか。
 

 

【補足】米国における研究助成金・補助金予算制度

大学個別の取り組みとは離れるが、米国における公的な研究助成金・補助金に係る予算管理、その1事業期間の定義は日本と大きく異なるため、ここでその概観に言及しておきたい。

まず、米国では暦年についてFiscal Year(会計年度)のほか、Award Year(研究年度)が別に設定されている。

会計年度は、行政機関においても日本の4月から3月までのように統一されているわけではなく、連邦政府の会計年度が10月から9月であるのに対し、州政府の1会計年度は多くが7月から6月であり、ニューヨーク州は4月から3月、といった例外もある。

次に、研究年度は助成金・補助金支給期間の開始時から1年間を指し、研究助成金・補助金予算の管理単位として用いられるが、ファンディング・エージェンシーが研究プログラム等に応じ、暦年や会計年度とは関係なく設定する。 したがって、研究年度は会計年度を跨いで設定されることも一般的である。また、多年度予算も一般的であり、ある会計年度において認められた予算を複数年度に渡って執行可能とされていることが多い。

当然、ファンディング・エージェンシーや連邦・州政府側では、自らの会計年度単位での助成金・補助金予算執行額の管理も行われるため、このような年度のずれは、日本の感覚からすると事務処理を非常に煩雑にするように思われるだろう。ここで前提となるのが、米国の連邦予算は、支出負担が確定していれば、当該会計年度内に現金支出が発生していなくとも予算執行済として扱われる(支出負担確定主義)という点である。すなわち、連邦政府側では、ある会計年度において研究助成金・補助金に割り当てた金額のうち、いつ実際の現金支出が生じるかはさておき、いくら使途が決まったのかモニタリング出来れば予実管理要件を満たすことになる(実際の現金支出も別途管理自体は行われているが予実管理上の必達事項ではない)。 このような予算執行要件を背景とした多年度予算や研究年度の設定により、大学や研究機関の側では行政機関の会計年度による予算執行タイミングの制約を受けず、研究の進捗状況に即した資金活用が期待できる仕組みとなっている点は看過できないものである。このような制度上の前提があるため、日本において米国の研究助成金・補助金等制度の柔軟性等についてよく言及されているように感じられ、今後日本においても検討が期待される論点だろう。
 

(2)研究資金管理業務の集約化と個人向けダッシュボードの構築

第1回のシンガポール国立大学の事例では、大学機関特有のデータ管理として、研究管理、資金管理に係るシステム機能を取り上げたが、バージニア大学においても同様の業務に対応するために”Research UVA” と称される独自開発によるシステムを導入していた。

システムは大別して2つの機能群から構成されている。一つはファンディング・エージェンシーの公募課題に対する申請~獲得後の研究進捗・予算管理機能群、もう一つは教職員向けのダッシュボード機能群である。

前者の研究資金管理機能群は、各学部の事務職員が利用するのに加え、学内の専任組織によってファンディング・エージェンシーの公募の結果獲得される研究資金(いわゆる競争的資金)の申請情報の取り纏め、ファンディング・エージェンシーへの応募情報の提出、その後の採否のモニタリングを集中的に管理するのに用いられている。研究計画の立案は主任研究者およびその所属学部・学科職員を中心として実施され、ファンディング・エージェンシーとの金銭面でのやり取りや提出前のコンプライアンスチェック、形式チェック等は全学分を取りまとめて、研究資金管理機能群の職掌にて管理しており、米国の他大学でも類似の事例が見られている。

この背景には、大学の収入額に占める競争的資金の割合が大きい(バージニア大学では病院収入を除く収入の約30%強を占める(2017年))こと、また競争的資金の直接経費に対する間接経費(Facilities and administrative cost,「F&A cost」)の比率が比較的大きく(バージニア大学では近年60%前後)、大学経営上、対応事務の集約による効率化、獲得金額のモニタリング等が日本以上に重要となっていることが考えられる。

さらにバージニア大学の取り組みとして特徴的であるのは、その研究資金の獲得~予算執行に係るデータについて、現場の教職員向けにダッシュボード機能群で開示を行っている点であろう。ダッシュボード構築以前も、同様のデータの参照は可能であったとのことだが、ごく一部の経営管理部門の職員や特に意識の高い教員を除き、十分関心が払われてこなかった。そこで、教職員の心理的なハードルを下げ、研究資金獲得に係る個人レベルでの意識づけを狙いとして構築されたのが、本機能群であった。ユーザーはWebブラウザ上で他の学内システムと同様にアクセス出来、分析対象となる期間、対象となる研究資金のデータ種別(申請・獲得・消費)、ランク付けの切り口(スポンサー、学部、学科、Principal Investigator(PI)等)を選択していくことで、研究資金の申請、獲得及び消費状況を様々な切り口でモニタリング可能となっている。

研究資金の管理を集約的に実施しつつ、実際に研究活動を遂行する研究者や現場職員も資金状況を分かりやすい形で確認できる仕組みが組織・システム両面から整備されており、研究資金管理の高度化の一事例と言えるだろう。
 

(3)BIツール全学活用に向けた取り組み

第1回のシンガポール国立大学の事例でも、BIツールを活用するためのITシステム担当ユニットの存在について取り上げたが、バージニア大学ではサービス対象を全学に広げ、データ活用度の底上げを積極的に推進している。

バージニア大学 では2013年より、経営計画としてUniversity’s Organizational Excellence (OE) プログラムを掲げ、①教員、職員が大学のミッション(教育、研究、医療)に直結する活動により集中すること、②情報に基づいた意思決定ができるようにすることを目的とした施策に取り組んでいる。その目玉となる施策のひとつがUBIと呼ばれるBIプラットフォームの構築・拡張であった。

データウェアハウスに学内システムのデータを集約し、分析・集計結果のレポーティングを可能とするという点ではごく一般的な施策であるが、バージニア大学の取り組みの特徴は、全学での活用を目指し、学部学科や管理部門ユーザーからの追加開発ニーズに対応できるよう、“UBI Engage”と呼ばれるBI専門チームによる個別のコンサルティングサービスを提供している点である。予め定型的なプロセスがある業務のシステム化と異なり、BIツールの導入にあたっては、導入時点では何が見たいのか、ユーザー自身も分かっておらず、収集すべきデータの見極めも困難となることが多い。その点、バージニア大学では、段階的に収集データの範囲を拡張しており、利用できるレポート等のコンテンツ類も、基本的な品揃えから運用を開始した上で、個別の要望に対応しながら追加リリースを続けている。スモールスタートによりムリ・ムダを防ぎつつ、全学規模でニーズに応えながら活用定着を図っているという点で、BIツール導入の好事例と言えるだろう。
 

 

おわりに

以上、ごく端的ではあるが、バージニア大学の競争力向上に資する特徴的な取り組みを紹介した。どの取り組みにも共通しているのは、現場レベルの経営意識向上を意図されている点である。この点については、国公立・私学を問わず多くの日本の大学で課題感の強い領域ではないだろうか。トップマネジメントによる声掛けだけで現場の意欲が付いてこなければ、優れた経営計画であってもその遂行は難しい。また、いくら現場のモチベーションが高くともシステム等による基本的なインフラが揃っていないことには、なかなか戦略を適切に遂行・管理し続けることは難しい。バージニア大学における取り組みは、大学経営においてこの課題に積極的に取り組んだ事例として捉えることが出来ると考えられ、日本の大学にとっても学びの多いものとなるだろう。

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