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台湾の地政学危機対応におけるレジリエンス強化のポイント

APリスクアドバイザリー ニュースレター(2024年9月30日)

#台湾地域のサーベイ公開版は下記のリンクを参照ください
アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査 2023年版 結果総括 台湾編

#台湾における地政学危機の動向については下記のリンクをご参照ください
台湾における危機管理の動向と地政学危機対応のポイント

2023年のアジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査において、台湾地域の調査結果では日系企業の「優先して着手が必要なリスク」の質問への回答として、「中国・ロシアにおけるテロ、政治情勢」が2位に挙げられています。また「今後1年程度を見越して必要な上位3つのリスク対策」の質問への回答として「危機管理体制強化」が2位に挙げられています。台湾では地政学や自然災害のリスクの高い地域であることから、日系企業の経営者の危機管理への関心が高くなっていると推察されます。本ニュースレターでは、日系企業だけでなく実際の台湾企業の取り組みを踏まえて台湾の専門家が寄稿した記事に基づいて、「地政学危機対応におけるレジリエンス強化のポイント」をご紹介いたします。

 

1. レジリエンス強化における4つの重要リソース

現在のビジネス環境において不確実性は避けることのできないものとなっています。地政学的に不安定な状況、減速する経済と長期的な人材の不足、高インフレと高金利、気候変動対応、AIと人工知能の発展など、現在のビジネス環境は多くの不確実性と課題に直面しています。このような困難なビジネス環境において企業が安定した成長を遂げるには、リスク管理の仕組みを確立し、今後発生しうる危機に対応するためのリソースを段階的に準備する必要があります。特に地政学危機に関して、次の4つの種類のリソースから準備することをお勧めしております。

人員面:事業継続計画の最優先項目として人員配置と緊急対応手順を整備します。主要な人員の大幅減少、人の移動やコミュニケーションに制限をもたらす地域封鎖の発生、通信障害に備えて、重要な業務遂行のための最小限の人員を確保し、地政学的事象発生前に緊急対応手順を準備することが必要です。加えて、従業員は自社の避難計画を理解することが重要です。地政学的事象が実際に発生した場合は、企業は危機管理に留意し、従業員に経営方針を周知し、政府の対応方針を正確に把握しなければなりません。

資金面:現状の資本構成、売掛金・買掛金の比率を再検討し、緊急事態用資金の必要量を優先的に計画する必要があります。地政学リスクや当該地域の金融環境の変化は運転資本に影響を与えます。例えば、金融引き締め政策に起因した投資・融資環境の見直しなどが挙げられます。多国籍企業は、危機に起因する為替レート変動、運営コスト上昇、人員縮小に直面することから、企業の最低限の運営コストと資金ニーズを再評価し、紛争発生時における事業継続計画に基づき緊急事態の予備資金を準備する必要があります。

サプライチェーン面:まず流通量の多い商品を特定し、主要商品の安全在庫の調整とバックアップの仕組みを明確化します。ロシアによるウクライナ侵攻により、米国・EUはロシアに対する厳しい経済制裁を課し、世界的なサプライチェーン危機を引き起こしました。短期的には、原材料・部品の不足、物流の混乱に対する対応策を計画する必要があります。長期的には、地政学リスクに対してサプライチェーンのバックアップ計画を策定する必要があり、例えば海外のバックアップ倉庫・バックアップ輸送ルートの確保、貨物輸送手順の整備、安全在庫水準の検討などが具体的なタスクにとして挙げられます。

情報と通信の側面:まず緊急時の通信手段を確保し、その後に情報セキュリティガバナンスを段階的に強化します。フェイクニュース、サイバー攻撃、情報通信インフラへの被害等の地政学危機の影響を受けると、企業の基幹業務を担うITシステムに重大な被害が発生します。短期的には紛争時の通信手段として、衛星電話・緊急警報設備などの臨時通信機器を事前に購入することが推奨されます。長期的には、マルウェアの検出・防止、リモートオフィスのセキュリティ管理、重要データのバックアップと移行計画、情報システムの海外バックアップなど情報セキュリティガバナンスを段階的に強化することが推奨されます。

【地政学リスク対応におけるレジリエンス強化の観点】

 

2. 不安定な地政学が市場に与える影響と企業の対応

企業の事業継続の取組においてリソース準備計画を検討する際に、主要市場で発生しうる需給の変化を予測し、分析することをお勧めしています。不安定な地政学的状況は市場環境の混乱を招きやすく、経済環境や政策変更は企業経営に大きな影響を与えることになります。企業は商品の輸出入の比率や在庫量を即時に調整し、各販売チャネルの比率を再配分する等、企業が事業を行っている市場の分析と市場変動に対応する仕組みを構築することが推奨されます。

上記は、デロイト台湾が推奨している不安定な地政学的状況が与える長期的な影響に対する企業のリソース準備の重要な観点です。しかしながら、企業の事業特性によってリソースの受ける影響は異なるため一律に論じることは難しいと考えられます。従って、企業は現状を把握し、重要な事業の継続に必須のリソースを特定し、ビジネス影響評価を行い、地政学的危機に対するレジリエンス強化方針を計画することが求められます。もしご関心がある場合は、デロイト台湾の日系企業サービスグループまでお問い合わせください。

 

本稿に関連するデロイト台湾のサービス紹介

  • 危機管理マネジメント・アドバイザリーサービス
  • 事業継続マネジメント・アドバイザリーサービス
  • サードパーティリスクマネジメント・アドバイザリーサービス

著者:
(日本語)デロイト台湾 日系企業サービス 淡路 武志
(中国語)デロイト台湾 クライシスマネジメント 樊昊明(Frances H. Fan)

※本ニュースレターは、2024年9月30日に投稿された内容です。

アジアパシフィック領域でのリスクアドバイザリーに関するお問い合わせは、以下のメールアドレスまでご連絡ください。

ap_risk@tohmatsu.co.jp

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