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台湾における危機管理の動向と地政学危機対応のポイント

APリスクアドバイザリー ニュースレター(2024年8月5日)

#台湾地域のサーベイ公開版は下記のリンクを参照ください。
アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査 2023年版 結果総括 台湾編

2023年のアジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査において、台湾地域の調査結果では日系企業の「優先して着手が必要なリスク」の質問への回答として、「中国・ロシアにおけるテロ、政治情勢」が2位に挙げられています。また「今後1年程度を見越して必要な上位3つのリスク対策」の質問への回答として「危機管理体制強化」が2位に挙げられています。台湾では地政学や自然災害のリスクの高い地域であることから、日系企業の経営者の危機管理への関心が高くなっていると推察されます。本ニュースレターでは、台湾における事業継続のポイントをご紹介いたします。

 

1. 台湾地域で想定されるクライシスと企業への影響

毎年、World Economic Forumから発行されている「グローバルリスク報告書」においてグローバルリスクの短期・長期的な重要度ランキングが発表されています。2024年の報告書によると、現在から10年後において重要なリスクの一つとして「社会の二極化」が挙げられており、東欧・中東・アジアなど世界各地における国家間の紛争が拡大し、世界経済や安全保障に影響を与える可能性に言及しています。また「異常気象」といった環境リスクも上位に挙げられており、熱帯太平洋におけるエルニーニョ現象と地球温暖化による極端な熱波・干ばつ・山火事・洪水が予想されています。

前述の世界のリスク動向について台湾でも同様の傾向を示しており、台湾を取り巻く国々の経済的・政治的対立や海外からのサイバー攻撃、異常気象・地震などの自然災害といったリスクがあると考えられます。これらの事象の発生頻度は高くないものの、ひとたび発生すれば企業のビジネスに大きな影響を与えることから、危機発生に備えて事業継続計画等の対策を検討する台湾拠点の経営者も増加しています。

 

2. 地政学リスクに対する事業継続計画策定のポイント

地政学リスクとは、特定の地域の政治的・社会的な緊張の高まりが周辺地域や経済の先行きを不透明にするリスクを指します。具体的には偵察などの軍事的行動、貿易摩擦のような経済的対立、地域の資源獲得から派生する宗教的対立などの性質の異なるリスクが存在します。また紛争危機について二国間で発生することもあれば第三国を巻き込み幅広い地域の経済活動やサプライチェーンに影響を及ぼすケースもあります。

地政学危機対応のBCPは自然災害系のBCPと異なる3つの特徴が挙げられます。

  1. 多種多様なリスクイベントが発生し、複雑に事態が進展することからリスクシナリオの特定が困難
  2. 危機に繋がるリスクイベントの発生状況を適時に情報収集し、事業継続計画の発動を判断するのが困難
  3. 危機終息までの期間が長く、広範囲に被害が発生した場合は事前の状態へのビジネス復旧が困難

地政学危機に対応する事業継続計画の策定にあたり前述の特徴を踏まえたアプローチが求められます。まず、リスクシナリオを特定するには、リスクイベントの情報収集と自社ビジネスへの影響・発生可能性の分析を行う必要があります。リスクイベントの情報収集には、世界各国の政府機関の発行している防災計画や調査機関のレポートなどを利用し、最新のトレンドを分析します。

次に、事業継続計画の実施タイミングを適切に判断するには、地政学危機のフェーズに応じた発動基準と意思決定プロセスの整理を行う必要があります。紛争の兆候発生のフェーズ、紛争に直結する活動発生のフェーズ、紛争発生フェーズのような複数のフェーズがありますが、各フェーズで自社のビジネスに影響のあるリスクイベントを特定し、具体的な情報収集手段(政府の命令等)と自社の発動基準を検討します。事業継続計画の発動にあたり、本社・海外拠点を含む多方面の社内コンセンサスの形成が必要となることから、本社と現地のマネジメントの関与は必須となります。

最後に、地政学リスクが顕在化すると事態終息まで相当な時間がかかり、被害が広範囲に及ぶことから事前の状態まで完全に復旧することは難しいと想定されます。従って紛争が発生した地域での事業の維持・縮小・撤退といったビジネス戦略を踏まえた事業継続計画の立案が求められます。現地での事業の維持にあたって、代替サプライヤー・キャッシュフロー・現地人材・バックアップシステムの確保などは最低限検討すべき事項として挙げられます。

 

3. 台湾拠点における事業継続マネジメントの効率化

台湾地域では様々な危機が想定されることから、台湾拠点では地政学リスクだけでなく自然災害リスクも考慮して事業継続計画を策定するケースがあります。危機の種類に応じてリスクシナリオと事業継続計画を策定するシナリオベースアプローチを採用すると1つの台湾拠点で複数の事業継続計画を策定することになり、管理負荷が増加することになります。一方で、重要な事業を継続するためのリソースに着目して事業継続計画を策定し、重複部分を減らすことができるリソースベースアプローチという考え方も存在します。デロイト台湾では、日系企業の台湾拠点が直面する危機に応じて柔軟なアプローチを採用し、実効性と効率性を両立する事業継続マネジメントを実現するノウハウを保有しています。もし台湾拠点においてどのように事業継続計画を策定すればよいかお悩みの際は是非ともお気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。

 

本稿に関連するデロイト台湾のサービスのご紹介

  • 危機管理マネジメント・アドバイザリーサービス
  • 事業継続マネジメント・アドバイザリーサービス
  • サードパーティリスクマネジメント・アドバイザリーサービス

著者:淡路 武志

※本ニュースレターは、2024年8月5日に投稿された内容です。

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ap_risk@tohmatsu.co.jp

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