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アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査 2023年版 結果総括 台湾編

APリスクアドバイザリー ニュースレター(2024年4月26日)

#サーベイ公開版は下記のリンクを参照ください
アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査 2023年版

台湾には世界各国の企業の開発・製造拠点が集積していることから、製造業のサプライチェーンにおける重要な役割を果たす地域として認知されています。台湾の主要産業としては、電子部品をはじめ化学品・鉄鋼金属・機械が挙げられており、特に半導体受託製造分野では世界の約60%以上のシェアを占めています。

近年は台湾全体で気候変動対応やデジタルイノベーションが推進されており、製造業を中心とした主要産業にグリーンテクノロジーやデジタルソリューションが導入されています。並行して、台湾の官公庁は規制強化にも取り組んでおり、気候変動対応法やAI基本法などの重要な法制度の整備も行われています。

上記の背景から、台湾に拠点を構えている多くのグローバル企業にとってリスクマネジメントの重要性は高まっています。本稿では、デロイト トーマツがアジアに進出する日系企業向けに実施したリスクマネジメントと不正に関するアンケート結果から、台湾拠点における①リスク管理の状況、②不正の発生状況の2つについて紹介します。

なお、この調査結果は、2023年11月から12月にかけてアジア地域で835社(台湾は35社)の日系企業の経営層や現場社員にご回答いただいた結果を基にしています。

 

1. 台湾におけるリスク管理の状況

優先して着手が必要な上位3つのリスク – 台湾(年度別)

台湾の調査結果によると、直近3年において「人材流出、人材獲得困難における人材不足」が上位のリスクとなっており、特に2023年は45.7%と第1位のリスクとなっています。2022年の行政院のデータによると、台湾の離職率は約28%とかなり高く、平均月収も約5万4千台湾元と前年から約3%も増加しています。半導体などの業績好調な業界を中心に台湾企業の賃金上昇が進んでおり、高い技術を持った人材が台湾企業に転職するといった事例も増えています。また、前年度1位だった「中国・ロシアにおけるテロ、政治情勢」について、2023年も42.9%と第2位のリスクとなっており、台湾の日系企業にとって重要なリスクだと認識されています。

優先して着手が必要な上位3つのリスク – 台湾(業種別)

業種別の調査結果によると、前述の結果と同様に全業種において人材リスクと地政学リスクが1位と2位を占めていますが、卸・商社と金融ではサイバー攻撃に関するリスクも関心事項となっています。実際に企業を狙ったランサムウェア攻撃や流出したID・パスワードの不正利用(なりすまし)による被害が拡大しており、個人情報保護法や金融資安行動方針等の厳しいセキュリティ規制も施行されており、在台湾企業が考慮すべき点も増えています。

今後1年程度を見越して必要な上位3つのリスク対策 – 台湾(年度別)

次に、今後1年を見越して必要なリスク対策ですが、前年度と同じく「給与・処遇の見直し」「危機管理体制強化」が1位・2位に挙げられます。人材リスクについて、他社への人材流出を防止するため報酬制度や労働環境の見直しにより人材の維持・確保を図っていることが示唆されます。地政学リスクについて、政治情勢変化などに伴う事業への影響を最小限に抑えるため、事業継続に係る管理態勢強化を行う事例も増加しています。また、直近の台湾の南東部での地震発生に伴い、工場停止などのサプライチェーンへの影響が出ていることを踏まえて、今後は台湾拠点における事業継続計画の見直しが増加していくと予想されます。

現在不足し改善に取り組んでいる上位3つの機能– 台湾(年度別)

 

現在不足し改善に取り組んでいる機能について、1位は「デジタル推進機能」、2位は「新規事業開発機能」、3位は「地域戦略立案機能」「セキュリティ推進機能」となっており、前年度とほぼ同じ順位となっています。

第1位の「デジタル推進機能」について、台湾拠点を含むグループ全体のERPシステムのアップグレード、拠点独自業務へのRPA導入による自動化などの事例が見られます。最近はAIを活用した業務改善のニーズも高まっており、積極的に情報収集を行う台湾拠点の経営者も増えています。

第2位の「新規事業開発機能」について、製品開発を担うことの多い台湾拠点としての課題意識が反映されていると考えられます。台湾における特許出願件数(国別)においても日本企業の出願件数は上位となっており、台湾拠点における知財データの適切な管理及び競合他社への漏洩防止や生産拠点へのある国への製造データの越境移転などの対応の必要性が増しています。

また第3位の「地域戦略立案機能」「セキュリティ推進機能」について、日本本社やシンガポールなどの他国の地域統括会社の方針を踏まえた台湾拠点の運営が求められる状況を反映していると示唆されます。

 

2. 台湾における不正の発生状況

過去3年間の不正の顕在化またはその懸念の有無(地域別・年度別)

台湾において、顕在化した不正(もしくは顕在化の懸念ありの不正)が徐々に増加しており、2021年の12.5%と比べて、2023年は20.6%となっており約60%も増加しています。新型コロナウイルス感染症のパンデミックの状況下において表面化していなかった問題が、オフィスワークへの回帰や昨今の内部統制の強化などにより徐々に発覚してきたと考えられます。

不正の種類(地域別・年度別)

不正の種類(台湾)

 

他の地域と比較すると、台湾の特徴として「情報の不正利用」と「在庫・資産・購買・経費に関する不正」でそれぞれ過半数を占めていることが挙げられます。「情報の不正利用」について、台湾は製造業が主要産業であることから、退職時の製品データの他社への持ち出し等が発生していると考えられます。実際に転職時のデータ窃取に起因する知的財産紛争が発生し、損害賠償による数億台湾元の罰金や実刑判決を受けるといった事例が出てきています。社内システムからデータを抜き出し、転職先での活用する事態を予防するには、退職時の誓約書などの法的・人的対策だけでなく、退職前のアクセス権削除やアクセスログのレビューといったシステム対策を行うことが必要となります。また「在庫・資産・購買・経費に関する不正」について、特定の取引先・ベンダーとの癒着等についての相談が寄せられています。このような不正は申請書類・承認記録・証跡の突合チェックだけでは検出することが難しく、データ分析による異常値の検出や取引先・価格の妥当性検証といった手続きが必要となります。

 

最後に

デロイト トーマツでは台湾の日系企業に対して、様々なリスク管理やガバナンス強化の活動を支援しています。特に台湾では半導体などの製造業のサプライチェーンに組み込まれている日系企業が多いことから、台湾特有のグリーンテック・AI/IoT等のデジタル技術やネットゼロに向けたサステナビリティ規制の動向などのリスク情報を把握することが重要となります。本調査ではこのような企業に対して最新のリスク・課題に関する情報と得られた示唆を提供しています。皆様の今後の取組みの一助になれば幸いです。

著者:淡路 武志

※本ニュースレターは、2024年4月26日に投稿された内容です。

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