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地域循環共生圏の取組み例と今後の展開と要約

持続可能な脱炭素社会に向けての地域循環共生圏の創生(3)(2021.4.19 公開)

COVID-19からの「グリーン復興」が求められる中で、「分散化」を進めて「ゼロカーボンシティ」のような地域からの取組みが推奨されています。このため、地域循環共生圏の実践に加え普及・啓発、調査・研究も重要です。また、日本全体として、2050年の脱炭素で持続可能な社会の達成を目指して、地域循環共生圏を位置付けて達成の道筋を示すことも重要であり、日本の経験を海外で展開することも有用です。

本稿では、以下の3回にわたって、地域循環共生圏の考え方や具体的な取組みを概観し、今後の課題について検討しています。

第1回 地域循環共生圏の考え方と持続可能な社会(2021.4.19 公開)
第2回 地域循環共生圏の創生のための施策(2021.4.19 公開)
第3回 地域循環共生圏の取組み例と今後の展開と要約(2021.4.19 公開)(本ページ)

 

5. 今後の展開の方向

持続可能な脱炭素社会の達成が、国際的・国内的に喫緊の課題となっている中で、最近のコロナウイルス感染症(COVID-19)から取組みを進めていく上で多くの示唆が得られました1。特に、深刻な経済・社会への影響とそれによる貧困の撲滅、飢餓の解消等SDGsの達成に対する脅威と、パンデミックによる移動、貿易制限によるグローバル化に対するリスクが明確になりました。そして、都市等への集中による感染リスクが顕在化した結果、「新たな日常」下でのデジタル化に伴うテレワークや移住・移転等「分散化」への関心、必要性が増加しました。

今後のCOVID-19からの復興に当たっては、これを持続可能な社会への移行(トランジッション)への良い機会と捉えて、従来の化石燃料に基づく大量生産・大量廃棄の経済・社会への復帰ではなく、より良い回復を目指してのグリーン復興、すなわち脱炭素化、デジタル化に加えて循環経済による経済復興が必要です。これは、脱炭素社会、循環経済および分散型社会への移行によって、従来の経済・社会を再設計(リデザイン)2するとも言えます。トランジッションに当たっては、誰一人取り残さない、公正な移行(just transition)3が求められていることにも注意する必要があります。

これを地域の観点から見ると、グローバル化へのレジリエンスを強化するための、地域の再生可能エネルギーや一次産業産品等の地産地消と廃棄物の3R4等の循環経済を促進すること、一方で情報の流通を含めて生産性の向上のために他地域との交易、交流を進めること、また、セーフティ―ネットとして地域の自然資本や社会資本を含む資本ストックの健全性・多様性を確保していくことが必要であると言えます。

このような移行を進めていくために、前述のとおり、環境省や自治体等が様々な施策を行っていますが、今後もゼロカーボンシティの支援や脱炭素イノベーションの加速化、プラスチック資源循環戦略5の推進、地域循環共生圏によって地域のイニシアチブによる取組みを支援していくことが重要です。

同時に、経済社会のリデザインのために企業が果たす役割も重要です。特に、地域における主要なステークホルダーの一員として、地域資源を活用した観光等のビジネスや地域課題の解決型のビジネスの振興に関わる地元の企業や、地域ファンドや地域プロジェクトに資金を提供する地域金融機関の役割は大きく、環境ビジネスの先進事例集等でも紹介されています。

また、研究機関、大学等の教育機関の役割も重要です。これらは、地域の知の源泉となって、地域価値の再発見やイノベーションを生じさせることや科学技術の研究等によって、地域の活動をリードする役割を果たすことができると考えられます。地域循環共生圏を研究対象として捉え、「地域循環共生学」6を確立することによって、普遍的な知識体系を形成して、その展開を促進することも期待されています。具体的には、地域の現在の課題とニーズを関係者が共有して地域の将来目標を設定し、それを実現するためのモデル事業等を設計するためのガイドラインやシステムの開発、ICTを活用して評価指標や方法について関係者と専門家の協議による社会対話を通じて策定する手法、地域の交通や健康の状況および関係者の行動やニーズをモニタリングする観測ネットワークの構築手法の開発等が想定されます。

このような国内における地域循環共生圏の経験に基づき、海外、特にアジア地域の途上国における持続可能な開発のための国際協力の方途として、展開していくことが期待されます。地球環境戦略研究機関(IGES)が中心となって2018年から国際会議での地域循環共生圏のコンセプトの提示、START7、APN8等の国際機関と連携したアジアでの地域循環共生圏に関する研究活動が展開されています9。たとえば、フィリピンのラグナ湖周辺地域おける、気候変動へのレジリエンス強化のための参加型の流域土地管理モデルの研究、インド、ナーグプル市における水資源等の持続可能な資源管理の推進の研究プロジェクトが実施されています。これらの地域では、地域循環共生圏がSDGsの地域レベルでの実践の手段として、パートナーシップや自然との共生を進めるために有効と考えられます。今後、研究で得られた成果を基に、地域循環共生圏の展開のための情報交換等を行う国際的なプラットフォームを創設し、知識・経験の普及、能力開発、地域のステークホルダーの参画の場づくりを行っていくことが期待されています。

 

6. おわりに

地域循環共生圏は、脱炭素で持続可能な社会を達成していくための日本発の新たなアプローチとして、行政が支援を行い住民や企業、NGO等のステークホルダーの連携・協働の下で、進展していくことが期待されます。

しかし一方で、その考え方がまだ社会や、一般市民に広く普及しているわけではないことや、地域循環共生圏の概念、内容についても、必ずしも統一的な理解があるわけではないことから、今後、支援策の充実による実践例の展開やステークホルダーへの普及啓発に加え、体系的な調査・研究によって概念の明確化を図ることが長期的な視点で取組むに当たって有用です。また、地域循環共生圏の取組みについての有効な評価手法の開発と、シミュレーションによる将来目標の設定手法等も調査研究の分野として重要です。

さらに、地域循環共生圏は、ボトムアップ型のアプローチを特徴としているものですが、将来の日本全体として脱炭素で持続可能な社会に向けて、広域的、全国的な展開を見据えて地域循環共生圏を位置付けた未来像を設定し、そこへ向かう転換の道筋をバックキャスティングで描いていくことも重要です。

これらにより、国内のみならず、日本の世界への貢献策の一つとして海外展開していくことが望まれます。

要約

  1. 第5次環境基本計画で提示された地域循環共生圏は、各地域がそれぞれの地域資源を持続的、循環型に利用して、IT等の先端技術も活用して自立分散型の社会を形成するもので、各地域が相互に補完、連携、共生することによって、脱炭素で持続的な社会の形成を目指します。これは、ローカルSDGsによる地域での持続可能な社会づくりと趣旨、目的から同じものであるといえます。
  2. 地域循環共生圏を実現するためには、脱炭素、資源循環、自然共生の統合的なアプローチに基づき、ボトムアップによる幅広いパートナーシップの展開によって、地域の関係者が活動するチーム(地域プラットフォーム)を立上げ、ビジョンの展開とそれを実現するためのプロセスを明確化し、実行することが重要です。その際には、企業、特に地元の中小企業や、ESG投資を背景とした地域金融機関の支援が重要です。
  3. 環境省では、ライフスタイルの変化等の5分野の政策を柱とした「曼陀羅」と呼ばれる、地域循環共生圏の展開の概念図によって方向を示す他、「脱炭素イノベーションによる地域循環共生圏構築事業」等による財政的な補助や、「地域循環共生圏プラットフォーム」による情報交換や支援チームの派遣、企業等のシーズのマッチング等の支援活動を行っています。政府のSDGs未来都市の指定や、各省庁の「地域創生SDGs官民連携プラットフォーム」、「小さな拠点づくり」、地域共生社会の展開等との連携も重要です。
  4. 現在、市町村が民間企業と連携しながら再生可能エネルギーによる電力を供給する日本版シュタットベルケのようなエネルギー、LRTの導入によるコンパクトシティ化の交通等様々な取組分野で、地域コミュニティ、市町村・都道府県・流域、広域等の規模で様々な主体が活動しています。また、環境ビジネスの先進事例では、企業の地域課題解決型のビジネスを通じて、広域に展開できるビジネスモデルを作ることを目指したものが見られます。
  5. COVID-19の経済面等での影響に対して、「グリーン復興」が強調されていますが、その中で、分散化が注目され、「ゼロカーボンシティ」のような地域からの取組みが推奨されています。このため、地域循環共生圏の形成が重要ですが、地域循環共生圏は新しい概念であり、地域住民が十分に理解していないという面もあります。したがって、今後とも実践例の展開や普及・啓発に加えて、体系的な調査・研究による概念の明確化等を行い、2050年の脱炭素で持続可能な社会の達成を目指していくことが重要です。また、日本全体として、脱炭素で持続可能な社会を達成するため、地域循環共生圏を位置付けた全国的な将来像を設定し、そこに向かう転換の道筋をバックキャスティングで示すことも重要です。さらに、日本の経験を海外での展開に活用することも期待されます。

1. COVID-19とその影響 参照
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/risk/articles/or/green-renaissance-1.html
2. 世界経済フォーラムでは、「グレートリセット」と呼び、従来の資本主義の在り方を見直すべきとしている。いわゆるパラダイムシフトが必要という点では同じことを意味している。なお、第1回 1.参照。
3. パリ協定前文等を参照。当初は、気候変動対策の進展に伴い生じる、参加と対策が伴った円滑な雇用移動を指していたが、現在はより広い意味で社会全体の移行として用いられる。
4.リデュース、リユース、リサイクル
5. https://www.env.go.jp/press/files/jp/111747.pdf
6. 現在のところ確立したものではないが、たとえば、「地域における循環、共生の推進のための実態の解析、地域循環共生圈を作り上げていくための手法や評価方法の開発、地域への実装事例の検討等により、地域循環共生圈の形成のための課題や手法、筋道を明らかにすることによって、その形成を通じた持続可能で脱炭素な社会を実現することを目指した学問体系」を示す。
7. 地球変動の解析・研究・研修システム (Global Change System for Analysis, Research and Training )
8. アジア太平洋地球変動研究ネットワーク (Asia- Pacific Network for Global Change Research)
9. 出典:地域循環共生圏の国際展開 アジアの事例から, IGES 2020.12.18 地域循環共生圏シンポジウム 資料

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