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地域循環共生圏の創生のための施策

持続可能な脱炭素社会に向けての地域循環共生圏の創生(2)(2021.4.19 公開)

地域循環共生圏の実践のために環境省は再生可能エネルギーの導入等の施策を示し、補助金による支援や「プラットフォーム」による先進事例の情報発信を行っています。各府省の地域創生等の分野の施策との連携も重要であり、またESG金融の役割も期待されています。地域ではコミュニティから広域等のレベルで様々な主体が活動しており、行政と民間の連携による地域商社の設立等が事例集で紹介されています。

本稿では、以下の3回にわたって、地域循環共生圏の考え方や具体的な取組みを概観し、今後の課題について検討しています。

第1回 地域循環共生圏の考え方と持続可能な社会(2021.4.19 公開)
第2回 地域循環共生圏の創生のための施策(2021.4.19 公開)(本ページ)
第3回 地域循環共生圏の取組み例と今後の展開と要約(2021.4.19 公開)

 

3. 地域循環共生圏の創生のための施策

3.1 地域循環共生圏創生のための施策と相互の関係

地域循環共生圏は、Society 5.01への移行を背景に、地域から人と自然のポテンシャルを引き出す有機的なシステム(生命系システム)と捉えることができます。その展開のためには、①地域が「自立・分散的」であって、住民等が「オーナーシップ」を持てること、②地域内、地域間でステークホルダーが「相互に連携」して取組むこと(パートナーシップ)、そして③循環、共生型の社会を目指して取組むこと(サステナブル)が必要です。

このような持続可能な脱炭素社会を創生していくために、環境省では、「曼荼羅」と呼ばれる、5分野の政策を柱とした地域循環共生圏の展開の概念図を示しています。すなわち、①ライフスタイルの変化、②ビジネス(金融を含む)の創出、③エネルギーシステム、④防災、および⑤交通・移動システムで、これらについての具体的な施策を例示しています(環境省「地域循環共生圏の構想」外部サイト)。

たとえば、②多様なビジネスの創出のための施策としては、地域金融・ESG金融(環境(Environment)・ 社会(Social)・企業統治(Governance)といった要素を考慮する投融資)等による支援を活用して、地域経営型のエネルギービジネス、地域資源活用型の観光ビジネスおよび地域課題解決型のビジネスを展開することが挙げられています。具体的にはバイオマス利用やソーラーシェアリング等の再生可能エネルギービジネス、既存の設備等の観光資源化、IoTの活用による低炭素化物流等があり、これらはさらに地域の廃プラスチックの再生、CLT2の製造等イノベーティブなものづくりにもつながるとされています。

これらを展開することによって、人々が健康で活き活きと暮らし、幸せを実感することで、地域が自立し誇りを持つことができます。そして、他の地域とも有機的につながることによって国土全体に豊かさがいきわたり、さらにそれを世界に展開することができるのです。

このような取組みを進めるために、環境省では様々な支援策を実施していますが3、たとえば、脱炭素イノベーションによる地域循環共生圏構築事業では、地域の再生可能エネルギー自給率最大化の実現と、防災性の高い自立・分散型エネルギーシステム構築や自動車CACE4等を活用した、地域の脱炭素交通モデル構築に向けた事業の支援を行っています。具体的には、地域における再生可能エネルギー設備の導入補助等に加えて、取組みの評価、改善に向けた助言をしたり、地域のネットワーク構築事業で、地域循環共生圏プラットフォーム5を立上げ先進的な取組みの情報発信や、地域に潜在するニーズと企業等のシーズのマッチング等を行っています(4.参照)。また、地域再エネ事業の持続性向上のための地域人材育成事業により、専門人材の育成や、ノウハウを蓄積するための地域人材のネットワークの構築を行っています。

 

3.2 持続可能な社会達成に向けた関連する施策との連携

地域循環共生圏の創生に当たっては、政府の「SDGs実施指針」6の下で行われている環境モデル都市7、環境未来都市8、SDGs未来都市9等の地方創生に関する施策や、コンパクトシティやスマートシティ等のまちづくり・地域づくり施策等との有機的な連携が重要です。

第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(2019年12月)10においては、地方創生SDGsの実現などの持続可能なまちづくりの主要な柱として、地域循環共生圏の創造が位置付けられています。また、同年12月の政府のSDGs推進本部で決定された「SDGsアクションプラン2020」11おいても、SDGsを原動力とした地方創生、強靱かつ環境にやさしい魅力的なまちづくりとして、「地域循環共生圏」が位置付けられています。

内閣府では、「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」12を発足させ、地方自治体および地域経済に新たな付加価値を生み出す企業、専門性を持ったNGO・NPO、大学・研究機関等の広範なステークホルダーとのパートナーシップの深化、官民連携の推進を図っています。

高齢化や社会資本の老朽化等を背景に都市全体の構造を見直し、コンパクトなまちづくりとこれと連携した公共交通のネットワークの形成(コンパクト・プラス・ネットワーク13)も国土交通省によって進められています。さらに、スマートシティづくりとしてICT等の新技術を活用したマネジメント(計画、整備、管理・運営等)によって全体最適化を図り、持続可能な都市を構築することも重要です。

一方、中山間地域等で必要な生活サービスを受け続けられる環境を維持していくために、地域住民が、自治体や事業者、各種団体と協力・役割分担しながら、各種生活支援機能を集約・確保し、地域の資源を活用して仕事・収入を確保する取組みである「小さな拠点」づくりも国土交通省が進めており14、地域循環共生圏の構築に貢献するものと考えられます。

また、農山漁村地域の様々な自然資源、循環資源を活用したSDGsへの取組み等も進められています15

地域における人と人とのつながりに焦点を当てた「地域共生社会」は、「ニッポン一億総活躍プラン」(2016年)16に基づき子供・高齢者・障害者など全ての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り、高め合うことができる社会であり、地域循環共生圏、SDGsの達成とも密接に関係しています。以上のような様々な取組みとも連携をしながら、地域循環共生圏の具体化を図っていくことが重要です。


3.3 ESG金融の役割

地域循環共生圏を構築するためには具体的な取組みが経済的にも持続可能であること、すなわち収益性のある自立的な事業であることが重要です。このためには、補助金等の公的資金だけでなく、民間資金も導入し、地域循環共生圏の創造に向けた取組みを広めていくことが不可欠です。

近年、脱炭素社会への移行や持続可能な経済社会づくりに向けて、ESG金融の拡大・普及が、前述のとおり欧米を中心に世界的に進んでいます。日本でもESG融資の推進17、特に、地域の多様な事業者等とネットワークを有する地域金融機関において、地域の特性に応じた知見の提供やファイナンス等の実施を促すことが重要だと指摘されています(「ESG金融大国を目指して」18)。地域金融機関が、地域循環共生圏のビジョンや事業化の検討段階から参画し、地域の関係者のつなぎ手となるとともに、事業化に向けた助言、投融資を行うことで、地域の環境・社会事業を発掘、発展させることができます。

「事例から学ぶESG地域金融のあり方」(2019年3月)19や「ESG地域金融実践ガイド」(2020年4月)20を環境省が作成しています。地域においても、たとえば静岡県内の金融機関など25団体が「静岡県SDGs×ESG 金融連絡協議会」を発足(2019年8月)させ環境を重視した融資・事業を推進している他、財務省は環境省と連携して企業と、地域金融機関、地方自治体、支援機関等との「つなぎ役」を果たす地域経済エコシステム形成に向けた取組みを行っています。環境省による表彰制度「ESGファイナンス・アワード・ジャパン」21も行われています。

 

4. 地域循環共生圏の具体例

高齢化や人口減少が進む中で、地域の活性化、まちおこしが大きな課題となっていますが、政府では従来から地方創生推進施策を実施しています。たとえば、前述のとおり環境モデル都市やSDGs未来都市を指定し、持続可能な都市の形成に向けての支援等を行ってきました。

地域循環共生圏については、都市のみならず農山漁村等との連携・共生を目指して取組みが進められています。前述のとおり(第1回 1.4参照)、各地域において地域循環共生圏の創造に向けて、自治体、事業者、NPOや市民、金融機関など地域の関係者が連携、協働して地域循環共生圏のビジョンづくりを行い、そのビジョンを踏まえて、再生可能エネルギーや自然、廃棄物等の地域資源を活用しながら、地域の課題解決を促すソーシャルビジネスの事業化等の支援を行うことが重要です。全国各地で作られた地域循環共生圏のビジョンを実現するため、様々な機能を持った地域循環共生圏づくりプラットフォーム22を環境省は運用しています(3.1参照)。このプラットフォームには、地域の構想づくりやローカルSDGs(地域循環共生圏)ビジネスの実現に向けた知見や技術の提供、実践地域との交流、企業同士の学びあいやネットワークづくり、関係府省との意見交換などの機会を提供するために、企業がソリューションを提供できる地域や内容を登録する仕組みを作成しており、HP上でパートナーとなる地域や企業を探すことができます23。また、再エネ利用ガイドブックが公表され、支援施策活用事例集、固定価格買取制度の基本的な仕組み、関連許認可手続ガイド、再生可能エネルギー事業支援メニューを掲載し、事業者が事業を円滑に開始できるための手引となっています。

プラットフォームで紹介されている地域循環共生圏の取組みはその視点(主要な取組分野)、市町村、広域等の規模等様々です。このため、ここでは便宜的に以下の項目・区分で整理します(表2 参照)。

① 視点(主要な取組み分野)別:交通・移動システム、ライフスタイル、地域課題解決型等のビジネスの創出、自立分散型のエネルギーシステム・地域資源(循環資源・自然資源等)の活用、「災害」に強いまち
② 規模:集落・街区(コミュニティ)、市町村・都道府県、広域 の区分と地域間のつながり
③ 主体別:地域コミュニティ、自治体、NGO・非営利団体、企業
④ 政府、各府省の取組みとの連携:環境未来都市・環境モデル都市・SDG未来都市(内閣府)、コンパクト&ネットワーク、小さな拠点(国交省)、地域共生社会(厚労省)
⑤ 関連分野:ESG金融、グッドライフアワード

表2 地域循環共生圏の取組事例(概要)

地域循環共生圏の取組事例(概要)
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表2に示した取組み事例は、環境白書や環境省の地域循環共生圏事例集24、プラットフォームHP(環境ビジネスの先進事例集25等)で先進事例として紹介されている約50の事例から抽出したものです。全事例でみても必ずしも、網羅的、代表的ではありませんが、地域の再生可能エネルギー資源や、自然資源、循環資源を市町村が中心となって活用する取組みが多くなっています。

これらで特徴ある取組みとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • 地域の再生可能エネルギーの活用や、市町村が民間企業と連携しながら再生可能エネルギー(電力)の普及を行う、日本版シュタットベルケ26の普及への取組み(北海道鹿追町、静岡県浜松市、滋賀県県湖南市等)
  • 横浜市と東北12市町村の連携協定による再生可能エネルギーへの転換促進のような広域の取組み
  • 食とエネルギーといった自然資源や、紙おむつ等廃棄物を循環資源として活用する取組み(岩手県南三陸町、岡山県真庭等)
  • 防災のための企業と連携した地域エネルギーの活用や防災設備の監視等の取組み(熊本県熊本市等)
  • LRTの見直し等による都市のコンパクトシティ化、地域の需要に応じたEVやAIを活用した移動サービスの提供(北海道厚沢部町、神奈川県小田原市等)
  • 地元農産品等の活用による雇用創出とライフスタイルの変更、 環境と福祉、芸術の組み合わせ等によるライフスタイルの変化(千葉県香取市、京都府亀岡市等)

また、環境ビジネス先進事例によると、非営利団体の設立による地域新電力の支援のためのプラットフォームの提供や日本版シュタットベルケの創設((一社)ローカルグッド創生支援機構、(一社)日本シュタットベルケネットワーク等)があります。

さらに民間企業主体のものは、交通・移動システムや、ライフスタイルに関係して地域課題解決型等のビジネスを通じて、広域に展開できるビジネスモデルやシステムを提供、開発していこうというものが多くみられます。逆に、地域課題のリソリューションに焦点を当てているものは、行政と民間が出資した地域会社や地域商社のようなものが多いという状況になっています(高知県四万十市等)。

なお、環境ビジネスの先進事例集には、地域課題とその解決のために目指す姿、それを達成するための行政や企業によるそのリソリューションについてまとめており、都市から地域への資金流入・交流促進等の4区分で上記の事例で有効であった手法が提示されています(図4参照)

図4 地域課題とビジネスから見たソリューション
出典:環境ビジネスの先進事例集25

地域課題とビジネスから見たソリューション
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1. Society 5.0 : IoTやAIの発展により、サイバー空間と現実空間(フィジカル空間)との融合によってもたらされる超スマート社会であって、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として提唱された。
2. Cross Laminated Timberの略称。木の板(ラミナ)を繊維方向が直交するように積層接着した材料
3. 例えば2021年度の関係予算については、以下のHP参照
  http://www.env.go.jp/guide/budget/r03/r03juten-sesakushu2.html
4. 「Connected(コネクテッド、通信機能)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Services(シェアリングとサービス)」「Electric(電動化)」、元はメルセデス・ベンツが発表した、自動車の将来の機能等に関する概念。
5. http://chiikijunkan.env.go.jp/
6. https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sdgs/pdf/jisshi_shishin_r011220.pdf
7. 政府が地域資源を最大限に活用し、低炭素化と持続的発展を両立することを目指して高い目標を掲げて先駆的な取組にチャレンジしている都市。政府が、平成20~25年度に合計23都市を選定。
  https://future-city.go.jp/torikumi/#tab02
8. 「環境」「社会」「経済」の三つの価値創造と実現を目指し、取組む地域・都市として、政府が平成23年度に11の都市・地域を選定。
9. 地方創生につながる「自治体SDGs」として、地域のステークホルダーと連携し、SDGs達成に向けて戦略的に取組んでいる地域・都市。政府が平成30~令和2年度に61都市、地域を選定。
10. https://www.chisou.go.jp/sousei/index.html
11. 2020年12月に改訂され、SDGsアクションプラン2021が策定されている。
  https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/SDGs_Action_Plan_2021.pdf
12. https://future-city.go.jp/platform/
13. https://www.mlit.go.jp/toshi/toshi_ccpn_000016.html
14. https://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/kokudoseisaku_tk3_guidebook.html
15. 農林水産省環境政策の基本方針 参照
 https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/kankyo/200316.html
16. ⼀億総活躍社会(⼥性も男性も、お年寄りも若者も、⼀度失敗を経験した⽅も、障害や難病のある⽅も、家庭で、職場で、地域で、あらゆる場で、誰もが活躍できる、いわば全員参加型の社会)の達成に向けての計画
  http://202.214.216.10/jp/singi/ichiokusoukatsuyaku/pdf/gaiyou1.pdf
17. 日本でもESG投資残高が2016年から2019年の直近3 年で約6倍に増加するなど急速に拡大している。
18. 環境省 ESG 金融懇談会 2018年7月  https://www.env.go.jp/policy/01ESG.pdf
19. https://www.env.go.jp/press/106663.html
20. https://www.env.go.jp/press/107936.html
21. https://www.env.go.jp/policy/award.kigyobumon.html
22. 機能として、①地域循環共生圏の概念の周知やイベント紹介を行う「しる」、②地域循環共生圏づくりの手引きの作成や環境ローカルビジネスの型作りを行い他地域へ展開していく「まなぶ」、③実践地域登録制度やメールマガジンの発信等を行う「つながる」、④企業と関係省庁、地域のマッチングの場を提供する「であう」、⑤新たな仕組み・ルールづくりのための「しかける」という5つがある。   http://chiikijunkan.env.go.jp/
23. 実践地域等の登録制度を2019年に開始し、多くの団体が登録している。
24. http://chiikijunkan.env.go.jp/shiru/localbusiness/
25. https://www.env.go.jp/policy/keizai_portal/B_industry/frontrunner/
26. ドイツの電気、ガス、水道、交通などの公共インフラを整備・運営する自治体所有の公益企業(公社)のこと。

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