ナレッジ

5Gの特徴を理解し、実例を基に活用を考える(前編)

5Gの電波はどのような機能を持ち、どのような活用が見込まれるのか

5Gの商用サービスが日本でも2020年より始まります。商用サービスの開始は東京オリンピック・パラリンピック開始前に予定されていますが、2019年のラグビーワールドカップ開催時にプレサービスとして前倒しする等、その展開は加速しています。

5Gのメリットは高速、大容量、低遅延、そして1つの基地局に多くの端末が接続できることから「モバイル通信の体験を変える」とされています。通信事業者に限らず、IoTやスマートファクトリーへの取組みなど、企業や自治体での5Gの活用例に関する報道が増えてきました。また、いわゆる「ローカル5G」のスキームも準備が進んでいます。

有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー新規事業推進をはじめ、デロイト トーマツ グループでは、5G活用のためのアドバイザリーを提供しています。本稿では、前編・後編の2回に分け、5Gの狙いを紐解き、今後5G活用によって見込まれる将来像を考えます。

国内のモバイルデータについて

総務省の「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データ」によると、携帯電話等の契約数は約1.8億に達しています(図1)。また、直近3年の移動通信トラヒックは約1.2倍/年のペースで推移しているとされています。

<図1>携帯電話及びBWA (Broadband Wireless Access) の契約数の推移

携帯電話及びBWA (Broadband Wireless Access) の契約数の推移
※クリックすると画像を拡大表示します

出所:
契約数:総務省報道発表資料「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表」 
人口総数:住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(平成30年1月1日現在) 

 

過去の歴史を振り返ると、音声、ネット閲覧、動画…と、扱うデータ量に比例して最大通信速度は向上しています(図2)。通信規格は過去約10年ごとに新しい規格が登場しています。この傾向から、5Gは2030年頃までの大量のトラヒックに対応していく必要がある規格であると想定されます。

<図2>移動通信システムの進化(第1世代~第5世代)

移動通信システムの進化(第1世代~第5世代)
※クリックすると画像を拡大表示します

出所:総務省「第5世代移動通信システム(5G)の今と将来展望」

 

総務省の資料には、5Gについて以下の記載があります。

総務省「第5世代移動通信システム(5G)の現在と将来展望」による5G規格の基本コンセプト

  • 5Gは、有無線が一体となって、超高速、多数接続、超低遅延といった様々な要求条件に対応すること が可能な優れた柔軟性を持つ
  • あらゆる利用シナリオでユーザが満足できるエンド・ツー・エンドの品質を提供 
  • 全ての要求条件に対応するネットワークを整備する必要はなく、ユースケース、利用シナリオ等に応じて、 超高速、多数接続などの必要な機能、品質等を提供

出所:総務省「新世代モバイル通信システム委員会における5G技術的条件に関する検討状況」

 

5Gに関する基本コンセプトについて理解を深めるため、次項では電波や周波数の特性を概観し、5Gがどのような特徴を持った技術であるのか説明します。

 

電波、周波数とは

今や生活に欠かせなくなった通信ですが、通信を支える「電波」について本項で説明します。(通信の考え方について詳細を割愛して記載をいたします。通信に詳しい方は5G(第5世代移動通信システム)とは に進んでください。)

電波は、媒体がなくても伝わる性質を持ち、自由空間(物質のない理想的な空間)での速度は、1秒間に約30万kmと光と同じ速度です。通り道に物質がある場合は、通り抜けたり、反射したり、回折する性質を持ちます。電波の通りにくいものは日常生活にも多くあり、代表例として金属、コンクリート(反射)、水(散乱、吸収)があります。回折とは障害物を回り込んで伝わっていくことですが、電波は波長が短くなるほど光の性質に近づき直線性を増すので、周波数の低い電波の方が回折性は高い回折性を有し 、障害物が多い環境でも届きやすい性質をもっています。(周波数については後述します)

電波は、振動方向が進行方向と直行する横波です。また、電解と磁界の振動方向も直行します(図3)。

<図3>電波(振動方向が進行方向と直行する横波)

電波(振動方向が進行方向と直行する横波)

電波が伝わる仕組みは、電界と磁界が連鎖反応を起こし、この反応が続いて受け側に到達します。この点について、図を使って説明します。左の送信側のアンテナに高周波電流が流れると、周囲に磁界が発生します。これは、「右ネジの法則」に該当します。そして、この磁界の変化を妨げる方向に電界が発生し、その電界の変化を妨げる方向に磁界が発生するといった繰り返しが起こります(図4)。

<図4>電波が伝わる仕組み

上記を踏まえ、周波数とは、電波が1秒間に進む間に何回の波があるかを示したもので、Hz(ヘルツ)という単位で表わされます。速度が一定であるため、低い周波数では波長が長く、高い周波数では波長が短くなります。(図5)

電波が伝わる仕組み
※画像をクリックすると拡大表示します

上記を踏まえ、周波数とは、電波が1秒間に進む間に何回の波があるかを示したもので、Hz(ヘルツ)という単位で表わされます。速度が一定であるため、低い周波数では波長が長く、高い周波数では波長が短くなります。(図5)

<図5>周波数とは

周波数とは
※画像をクリックすると拡大表示します

今回、5Gで使用する周波数帯は4G(メガヘルツ)に比べて高いギガヘルツを使用する事が決まっており、4Gより5Gの周波数は直進性の強い性質を持っています。そのため、障害物に対して回り込むことができません。また、反射する特性を持っています。一方で、5Gの方が通信出来るデータ量が多いという長所があります、この特徴により、例えば、ネットワークを仮想的に分割することで、帯域中のある部分は高速大容量に適した形で用い、別の部分は高信頼・低遅延に向いた形にするネットワークスライシング(図6)も実現可能となり、結果的により多くの端末のデータ授受を高速に実現する事が期待されています。

<図6>ネットワークスライシング概念

ネットワークスライシング概念
※画像をクリックすると拡大表示します

実際には5Gによる通信を体験した結果、異なるメリットや課題も生じるかもしれません。しかし、今後予想される大量のトラヒックに対応する電波の特性を理解する事は重要だと考えられます。

5G(第5世代移動通信システム)とは

5Gは、ITU(国際電気通信連合)や3GPP(Third Generation Partnership Project)により国際的な標準化が策定された通信規格です。ITUの動向に合わせて、日本国内でも2015年から研究開発が進められています。直近でも5Gを活用した実証実験が進むなど、通信事業者への5G周波数帯の免許の割当を見据えて、商用化に向けた準備が着々と進められています。4Gを発展させた位置づけである5Gは、前述した電波や周波数の特性を活かした「超高速」だけでなく、「多数接続」、「超低遅延」といった 新たな特徴を持ちます。

国内の5G周波数は3.6~6GHz帯や28GHz帯が割り当てられると予想されています、また、基地局は、LTE基地局と連携するNSA (Non-Standalone) 構成で運用されます。 ネットワークスライシング等に対応した5Gコアネットワークが導入されるとともに、SA (Standalone) 構成の基地局 の運用が開始されれば、既存周波数帯域への導入が進み、超高速、多数同時接続、高信頼・低遅延などの要求条件 に対応した5Gサービスの提供が開始されると予想されます。

5Gでは、高速・大容量の実現のために、3.6~6GHz帯や、28GHz帯の利用が予想されています。3.6~6GHz帯や28GHz帯の電波は、これまで利用されてきた周波数帯とは異なる為、利用には工夫が必要となってきます。

これらの特徴を踏まえて、5Gでは異業種とコラボレーションし、産業構造を変革していくことが求められています。次回は、具体的にどのように5Gの活用が想定されているか、実証事例を紹介いたします。

(後編は以下のページで公開中です)
5Gの特徴を理解し、実例を基に活用を考える(後編)
5Gのテクノロジーによって世界はどのように変わるか

リスクアドバイザリー 新規事業推進の関連情報

最新のナレッジやサービス事例を探す

リスクアドバイザリー 新規事業推進に関するお問い合わせ

サービス内容等に関するお問い合わせは、下記のお問い合わせフォームにて受付いたします。お気軽にお問い合わせください。

オンラインフォームより問い合わせを行う

※お問合せにつきましては、担当者よりメールにて順次回答しておりますのでお待ちくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。

お役に立ちましたか?