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繊維・ファッション業界の指針となるSDGs 第10回 児童労働に対する繊維業界の責任

繊研新聞連載

近年世界的に認識が高まり、日本でも取り組む企業が増えている「SDGs(持続可能な開発目標)」。国際的な目標は、日本企業に課せられた「責任」であると当時に新たな「機会」と捉えることもできます。SDGsが繊維・ファッション業界にもたらす影響やビジネスチャンスについて解説します(全16回)

SDGs(持続可能な開発目標)のターゲット8.7は、2030年までに強制労働、現代奴隷、人身取引に終止符を打ち、2025年までにあらゆる形態の児童労働を終結させることをうたっています。児童労働とは義務教育を妨げる労働や危険労働です。国際条約で禁じられているにもかかわらず、世界の子どもの10人に1人(1億5200万人:ILO=2016年)が従事しています。9割はアフリカやアジアの途上国におけるものですが、日本でも建設現場の危険労働や広告業界での深夜労働の例が報告されています。教育を受ける機会のない子どもは将来の職業選択肢が限定され貧困に陥り、彼らの子も児童労働をする負の連鎖となります。

児童労働の7割はコットン、カカオやエビなどの農林水産業に集中しています。米国労働省は2018年にインドなどの17カ国で綿花生産プロセスに児童労働または強制労働が存在すると報告しています。ただ、農場での綿花の受粉作業や収穫に加え、紡績、染色、刺繍等のアパレル製造工程における労働実態を最終財メーカーは把握しにくいのが実状です。

児童労働が無くならない要因の一つは、企業間の熾烈なコスト競争です。低賃金な地域での児童労働を伴う下請工場が収益を支えてきました。しかし、ひとたび児童労働が発覚すれば、ブランドの不買運動を招きます。米国大手アパレル企業では1兆円超の売り上げ減少となった試算もあります。事業継続の面からも人権対応の重要性を認識し、「人権デューデリジェンス」でリスク診断を実施する企業が増えています。これを更に後押しするには、児童労働や強制労働のない製品への消費者ニーズ喚起が必要です。人権への配慮がされている「フェアトレード製品」の日本の市場規模は英国の30分の1程度。小売業の店頭では消費者の意識変革を促すマーケティングの工夫が求められます。

児童労働の背景には、家庭の貧困、教育の重要性の認識不足、政策の不備などの様々な問題があります。政府・企業・市民社会が一体となって取り組まなければ解決されません。日本でもNGO(非政府組織)のACEをはじめとする団体がコットン産地での児童労働撤廃に向けた活動をしていますが、企業の関与がまだ足りていません。WWF(世界自然保護基金)とアディダス、ギャップなどが設立した「ベター・コットン・イニシアチブ」が、クラウドシステムによりデータ化された収穫量や労働環境などを基に農家を支援している取り組みは参考になるでしょう。

今から5年弱で児童労働を撤廃するには、政府にもこれまでにない発想での取り組みが必要です。現在カカオ業界で議論されている、児童労働をせずに生産された商品への国際的な関税撤廃のアイデアなどは、アパレル業界にもヒントになるかもしれません。

新型コロナウイルスの感染拡大は、消費者や企業に人命や人権の重要性を再認識させています。児童労働の問題にも注目が集まるでしょう。

繊維・ファッション業界の指針となるSDGs 第10回 [PDF: 524KB]
世界の児童労働者数:1億5200万人(2016年)
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繊研新聞(2020年4月27日付)
繊研プラス:https://senken.co.jp
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著者

小野 美和/Ono Miwa
デロイト トーマツ コーポレートソリューション マネジャー
ソーシャルインパクト

コンサルティングファーム、投資ファンドを経て現職。企業のサステナビリティ戦略立案や経済産業省の受託調査、NPO/NGOの事業計画策定などのプロジェクトに従事。 直近は日本のNGO ACEと協働で、ガーナにおける児童労働の撤廃と予防に関するガイドライン策定に従事。

繊維・ファッション業界の指針となるSDGs 
(繊研新聞連載 全16回)

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