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繊維・ファッション業界の指針となるSDGs 第11回 企業の競争力を高めるジェンダー平等

繊研新聞連載

近年世界的に認識が高まり、日本でも取り組む企業が増えている「SDGs(持続可能な開発目標)」。国際的な目標は、日本企業に課せられた「責任」であると当時に新たな「機会」と捉えることもできます。SDGsが繊維・ファッション業界にもたらす影響やビジネスチャンスについて解説します(全16回)

「人類の潜在力の開花と持続可能な開発の達成は、人類の半数である女性の権利と機会が否定されている間は達成することができない」。SDGs(持続可能な開発目標)の前文にはそう断言されており、目標5のジェンダー平等の実現は、すべての目標とターゲットにおいて重要な貢献をする「横断的な価値」と位置づけられています。世界的な不確実性の高まりに対峙し、過去の成功体験や前例にとらわれない画期的なアイデアを創造するには、人口の半分を占める女性が活躍できる社会環境がなくてはなりません。

企業が持続的な成長を実現するには、重要意思決定機関の機能を高めることが必須です。取締役会の多様性と企業のパフォーマンスには、正の相関関係があることを多くの調査が示しています。マッキンゼーによる17年の調査では、女性役員比率が最も高い四分位に属する企業は女性役員が0人の企業に比べて平均ROE(株主資本利益率)が47%高く、EBITマージンが55%高いという結果でした。意思決定機関の構成員のジェンダーの偏りが解消されれば、多面的な観点での議論が可能になります。そのことはガバナンス、リスク管理能力の向上と効果的な戦略立案につながっていると考えられます。

世界経済フォーラムが発表する「ジェンダー・ギャップ指数」で、20年の日本は前年から大きく順位を下げ121位でした。教育や健康の分野で高い項目がある一方、経済、政治の分野では著しく低いという結果です。日本の順位が下がり続ける理由は、他国よりも変化のスピードが遅いことです。変化を加速させるには企業トップが指揮を執り同等の実績であれば女性を積極的に登用するなど、一歩踏み込んだ施策を検討するべきです。

英国発のキャンペーン「30%クラブ」は、企業が多様性による恩恵を受けるには、重要意思決定機関の少なくとも30%を女性が占める必要があるとしています。日本の上場企業の平均女性役員比率は19年7月末の時点で5.0%と、これに遠く及んでいません。繊維業界においては4.5%であり、日本国内の水準としても劣位にあります。女性役員比率の高さは、組織全体の多様性促進にも寄与します。アメリカの金融サービス企業MSCIが16年に日本企業を対象に行った調査では、女性役員が多いほど組織全体、管理職、新規採用とも女性割合が高いという結果になりました。組織の多様性は企業の競争力の源とも言えるイノベーションの創造に大きく寄与します。日本政策投資銀行が15年に行った調査では、繊維業界をはじめ、ほぼすべての業界において、男女の発明者で構成されるチームの特許の経済価値は、男性のみで構成されるチームのそれよりも高いという結果でした。

これまで述べてきたような事業構造に関わる非連続な変革が求められる繊維業界にはより一層ジェンダー平等が求められます。

 

繊維・ファッション業界の指針となるSDGs 第11回 [PDF: 515KB]
「ジェンダー・ギャップ指数」順位の推移
※クリックまたはタップして拡大表示できます

繊研新聞(2020年5月11日付)
繊研プラス:https://senken.co.jp
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著者

只松美智子/Michiko Tadamatsu
デロイト トーマツコンサルティング Gender Strategy Leader
Social Impact

15年以上金融機関のコンサルタントとして従事したのち、Social Impactユニットに異動。社会課題、特にジェンダーに関わる様々な課題解決に向けたコンサルティングサービスを提供。30% Club Japan創設者。

繊維・ファッション業界の指針となるSDGs 
(繊研新聞連載 全16回)

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