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繊維・ファッション業界の指針となるSDGs 第13回 SDGsの相互関係「イシューリンケージ」

繊研新聞連載

近年世界的に認識が高まり、日本でも取り組む企業が増えている「SDGs(持続可能な開発目標)」。国際的な目標は、日本企業に課せられた「責任」であると当時に新たな「機会」と捉えることもできます。SDGsが繊維・ファッション業界にもたらす影響やビジネスチャンスについて解説します(全16回)

SDGs(持続可能な開発目標)の17の目標と169のターゲットはそれぞれ異なる課題を捉えていますが、相互の因果関係をひも解くと複雑に絡まり合い、互いに影響を与え合っています。社会課題の相互関係は「イシューリンケージ」と呼ばれます。SDGsの達成に向けた個々の課題解決が、他の課題を助長してしまう可能性もあるのです。

新型コロナウイルス感染拡大という課題に対応する外出自粛要請が、深刻な経済停滞という別の課題に直結してしまったことを、我々はまさにいま経験している最中です。 SDGsでは「環境」と「人権」の両立が大きなチャレンジです。 環境課題への意識向上に伴い電気自動車が普及すると、リチウム電池に使用されるコバルトの採掘の過程で途上国の児童労働が発生します。アムネスティ・インターナショナルの17年の児童労働に関する報告書では、日本企業も含むコバルト関連企業29社がサプライチェーン管理の実態について名指しで指摘されました。 狭い視野で環境対応だけ目指していては、形ばかりのアピールを意味する「SDGsウォッシング」として批判されるおそれがあるのです。

ファッション業界でも広がりつつある生分解可能な包装材にも、イシューリンケージは内在します。 生分解性バイオプラスチックはリサイクルに適さず、従来型のリサイクル工程に入り込むと再生素材の品質を低下させます。 バイオマスプラスチックが不適切な処分をするとメタンガスを発生させ、その地球温暖化係数はCO2(二酸化炭素)の28~36倍に上るとIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)が14年に試算しています。

普及しつつあるエコバッグも、消費者シーンにおける環境課題への対応にはなれど、製造過程での環境課題を生み出す可能性があります。 エコバッグ製造は使い捨ての買い物袋より多くの資源を要し、英国環境庁のリポートによるとコットン製エコバッグは327回使用されないと地球温暖化の削減効果が出ません。

善行が悪行として非難されるリスクをはらむイシューリンケージですが、その解決の道はイノベーションの宝庫です。 リサイクルにも適する新たな生分解性素材が量産できれば、その用途は極めて広い分野になるでしょう。 イノベーションは科学技術だけにとどまりません。 マーケティングの工夫によって、エコバッグを正しい頻度で使うように消費者の行動様式を変革できたら、「捨てない」製品への置き換えを次々と模索する市場が立ち上がるはずです。

イシューリンケージには課題間の背反関係だけでなく、相互に好影響をもたらす関係も含まれます。 サプライチェーンにおける途上国の労働環境が改善すれば、企業へ投資が集まり貧困の削減につながります。 ジェンダーの課題解決は、より持続可能な街づくりにも直結します。 ビジネスの拡大と社会貢献の好循環が設計できれば、消費者や社会にますま
す求められる企業ができるでしょう。

繊維・ファッション業界の指針となるSDGs 第13回 [PDF: 749KB]
イシューリンケージの例
※クリックまたはタップして拡大表示できます

繊研新聞(2020年5月25日付)
繊研プラス:https://senken.co.jp
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著者

金 辰泰/Kim Jintae
デロイト トーマツ コンサルティング マネジャー
ソーシャルインパクト/プロダクト&ソリューション

SDGsを起点としたCSV戦略やコレクティブインパクトによるオープンイノベーション強化、NPO/NGOとのアライアンス強化等を専門とし、「ソーシャル×デジタル」の掛け合わせによる事業開発も担当。Social Impact委員会のコアメンバーとしても活動。

繊維・ファッション業界の指針となるSDGs 
(繊研新聞連載 全16回)

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