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繊維・ファッション業界の指針となるSDGs 第14回 コレクティブインパクトによる課題解決

繊研新聞連載

近年世界的に認識が高まり、日本でも取り組む企業が増えている「SDGs(持続可能な開発目標)」。国際的な目標は、日本企業に課せられた「責任」であると当時に新たな「機会」と捉えることもできます。SDGsが繊維・ファッション業界にもたらす影響やビジネスチャンスについて解説します(全16回)

社会課題の解決には組織や業態の垣根を超えた連携が重要となり、SDGs(持続可能な開発目標)の最終17番目の目標には「パートナーシップで目標を達成しよう」が掲げられています。日本で「産官学連携」という枠組みは浸透してきましたが、国際社会や地域コミュニティーを結ぶソーシャルセクター(NPO=非営利組織やNGO=非政府組織など)の巻き込みは不足しています。そこで市民社会を含む広範な機関をよりオープンに巻き込み課題を解決する手法として「コレクティブインパクト」が注目されています。これを提唱した非営利セクター向けコンサルティングを行う米FSGによると五つの要諦が存在します。

世界的な感染症流行に対してもコレクティブインパクトは重要で、ダボス会議で設立された「GAVI」(ワクチンと予防接種のための世界同盟)はその実例となります。WHO(世界保健機関)などの国際機関や政府、製薬業界、NGOが参画するGAVIは、共通のアジェンダとして途上国の子供へのワクチン普及を掲げます(要諦①)。ワクチン普及の課題を可視化する指標を整備し(要諦②)、製薬業界への安価なワクチン生産や現地NGOとのワクチン提供、政府への資金提供等の働きかけを通じ相乗効果を創出します(要諦③)。またボード会議やサミットを催し(要諦④)、ジェネーブとワシントンDCにある事務局が5カ年計画の策定や実行を行います(要諦⑤)。

企業でもコレクティブインパクトは重要となり、例えばウォルマートは政府や企業、大学、NGOを巻き込みコンソーシアムを設立しました。サプライチェーン上の製品や物流のあらゆる環境負荷を測定する「サステナビリティインデックス」を開発し、調達や店舗展開における優位性を獲得しました。ファッション業界でも国連とWTO(世界貿易機関)の共同運営機関であるITC(国際貿易センター)が、EU(欧州連合)やアパレル業界を巻き込み、エシカル・ファッション・イニシアチブを展開しています。これにはアディダスなども参加し、途上国の服職人の教育やエスニックな服飾品のデザインを行い先進国市場での販売につなげます。また同イニシアチブも参画する2019年4月に始動した「持続可能なファッションのための国連アライアンス」では、より大きな連帯が生まれ始めています。世界銀行の気候変動対策プログラム「コネクト・フォー・クライメイト」やILO(国際労働機関)も参加し、環境や人権問題への取り組みが議論されています。

コレクティブインパクトは企業のイノベーション加速や事業拡大の機会につながります。日本でのマルチセクター連携の強化にはソーシャルセクターの巻き込みが重要ですが、規模が小さいNPOやNGOが大きな連帯をリードすることは容易ではありません。財務基盤があり既存の財団や官民連携などの枠組みを持つ企業にとって、コレクティブインパクトをけん引することは市場を永く拡大させるチャンスとなります。

繊維・ファッション業界の指針となるSDGs 第14回 [PDF: 740KB]
コレクティブインパクトの要諦
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繊研新聞(2020年6月1日付)
繊研プラス:https://senken.co.jp
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著者

金 辰泰/Kim Jintae
デロイト トーマツ コンサルティング マネジャー
ソーシャルインパクト/プロダクト&ソリューション

SDGsを起点としたCSV戦略やコレクティブインパクトによるオープンイノベーション強化、NPO/NGOとのアライアンス強化等を専門とし、「ソーシャル×デジタル」の掛け合わせによる事業開発も担当。Social Impact委員会のコアメンバーとしても活動。

繊維・ファッション業界の指針となるSDGs 
(繊研新聞連載 全16回)

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