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繊維・ファッション業界の指針となるSDGs 第15回 NPO/NGOとの連携のすすめ

繊研新聞連載

近年世界的に認識が高まり、日本でも取り組む企業が増えている「SDGs(持続可能な開発目標)」。国際的な目標は、日本企業に課せられた「責任」であると当時に新たな「機会」と捉えることもできます。SDGsが繊維・ファッション業界にもたらす影響やビジネスチャンスについて解説します(全16回)

SDGs(持続可能な開発目標)を軸にした事業開発に取り組む日本企業は増えてきましたが、イノベーションの実現や増益などの成果を出せている例は一握りです。社会課題に関する知識・経験ともに十分でない中、顧客や株主の声だけを頼りに推進しても、成果は限られます。結果として、日本のESG(環境・社会・ガバナンス)投資比率は全体の18%と、欧州の49%には遠く届いていません。「社会課題に取り組んでも成長や利益にはつながりにくい」との認識が投資家の中でもまだ主流なのです。そこで、今注目されているのがNPO(非営利組織)/NGO(非政府組織)との連携です。一昔前までは、NPO/NGOと言えば企業にとって「自社の問題を告発し、改善を促す存在」でした。しかし、現在では企業の戦略策定や新規事業開発のパートナーとして再認識されつつあります。

欧米では既に、NPO/NGOからの学びを業績向上に役立てている企業が多数存在します。化学メーカー大手のデュポンは、90年代の自社事業の転換期に、経営陣と約10団体のNPO/NGO代表者が経営戦略に関して対話する取り組みを開始しました。対話を通じて環境変化に伴う化学素材のトレンドをいち早く見極め、事業成長の加速に成功しました。現在ではNPO/NGOによるアドバイザリーパネルを設置し、恒常的に彼らの声を聴く仕組みを確立しています。

また、アディダスは海洋環境保護に取り組むNPOと連携し、海洋廃棄物由来の素材を使用したスニーカーを共同開発しました。100万足以上の売り上げを記録し、サステイナブル(持続可能な)・フットウェアという新市場の創造に寄与しました。

NPO/NGOならではの価値として、近年注目されているのは「接続性」です。未成熟なSDGs市場では、新商材を開発しただけでは大幅な拡販は難しく、官民への働きかけなどを通じたルール形成の取り組みが必要になります。NPO/NGOは、小規模な団体でも政府高官・国際機関などのルールメーカーや広範な消費者とつながる力を持っており、連携を通じて彼らのネットワークを活用できる可能性があるのです。

また、NPO/NGOは企業がSDGs事業に取り組む際の「正統性」をも補完しうる存在です。今後、企業が社会課題解決型の事業を開始すると「なぜ、貴社がこの課題に取り組むのか」「本当にこの課題を解決できるのか」という問いへの答えが重要になります。同じ社会課題に非営利で長く取り組んできたNPO/NGOと連携することで、自社の正統性を強化し、消費者の信頼を獲得しやすくなります。例えば、オーガニックコットンのブランドを立ち上げる際に、児童労働解決に取り組むNPO/NGOと協働して信頼を高め、ブランド価値を向上させることが考えられます。

ただし、連携を加速するにはNPO/NGO側の組織基盤の強化も必要です。非営利団体とはいえ、活動に対する定量評価の実施や経済合理性を踏まえた議論など、ビジネスセクターの志向を理解したコミュニケーションが求められます。今後、企業がSDGsをてこに持続的な成長を遂げるためには、NPO/NGOとの連携が必要不可欠と言えるでしょう。

繊維・ファッション業界の指針となるSDGs 第15回 [PDF: 602KB]
NPO/NGOの価値の本質
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繊研新聞(2020年6月8日付)
繊研プラス:https://senken.co.jp
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著者

田邊 すず/Tanabe Suzu
デロイト トーマツ コンサルティング コンサルタント
ソーシャルインパクト/レギュラトリストラテジー

官公庁の政策・ルール調査事業や社会課題を起点とした民間企業に対するルール形成戦略立案、民間企業-NPO/NGO間の連携創出・強化、NPO/NGO支援プロジェクト等に従事。

繊維・ファッション業界の指針となるSDGs 
(繊研新聞連載 全16回)

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